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アナザーフェーズ  作者: 陽田城寺
マーグ大陸統一記
16/38

神は死んだ

 倉庫はすっかり風通しがよくなっていた。

 シル三号がぽっかり半分綺麗になくなっている。

「馬鹿な、鉄の塊すら貫くのか」

 ゴラプスが驚愕している横を、ワンベルは歩いた。

 そして、地面に落ちているそれを見つけた。

「こ、これ、は、これはっ、そんなっ、そんなっ、嘘だ、嘘だ嘘だ……」

 何度も呟いた。

「ワンベル様?」

 ワンベルは跪き、地面から何かを両手で拾った。

 靴を脱がせ、靴下も取った。

「これが、これが、シル、シルなのか!? 嘘だっ!! 嘘だ!!」

「ワンベル様、落ち着いてください!」

「ゴラプス、これが落ち着いていられるか!! 見ろこれを!! この足が、この足しかシルテファシス砲元帥は残っていないのだ! あの無邪気な少女はもうこれしか残っていないのだぞ!?」

 言いながら、ぽろぽろとワンベルは涙を流した。

「こんな馬鹿げた話があるか? こんなの、私が知っているどんな殺し方より残酷だ」

「それが戦争というものです。彼女も覚悟はできていたはずです」

「覚悟だと!? 私にはその覚悟がなかった!!」

 ワンベルのそれは過ちであるが、しかし理性が残っているだけマシといえる。

「私は、いつも通りみんなで帰れると思っていた。いつものように上手くいくと思っていた」

「世の中何が起こるかわからないものです。それだけでも持って、ルサングルに帰りましょう」

 はっきりとゴラプスは、「それはあなたの考えが誤っていました」と言ってやりたい。だが部下の立場から言えず、またワンベルを実の子のように可愛がっていた彼にはどうしてもできないことだ。

「帰る? 帰るだと?」

 泣きながら、ワンベルは怒った。

「帰れるか!! こんな状況で帰れるか!!」

「そうは言ってもシルテファシスはその大砲を見事に操り敵に撃ちました。それでも敵わなかったのです! ここは敗北を認めるべきです!!」

 ゴードなら、最後の一兵が散るまで敗北は認めぬべきだ、というだろう。だがゴラプスはワンベル達同様リアリストで、現実的な手段に訴える。

 けれど、今のワンベルは感情に流された。

「帰るというのなら一人で帰れ! 私は、私はやってやるぞ……!」

 直後、後ろからワンベルの首が絞められた。

 一瞬で気絶したワンベルを抱えたのは、ベルモンドだ。

「ベルモンド、無事だったのか!」

 しかし、彼の表情は複雑そうだ。

「ダグラスの旦那は死んだ。ケイネもゴードも……そんでシルテも、か」

 うっすらとベルモンドの目には涙が浮かんでいる。ケイネは死んでいなかったのだが、彼はそれを確認する前にここまで到達してしまっている

「そうか……帝国の誇る元帥も、いまやお主とわしだけか」

「そんで俺は元犯罪者の卑しい元帥で、あんたは一線を退いた隠居寸前。この帝国は絶体絶命だな」

「その通りだ、だが」

「だけどまた、ワンベル様がいる」

 二人は顔を合わせて、小さく笑った。

「俺が連れていくよ。まだ死にたくないもんでな」

「ああ、憎まれ役は任せたぞ」

 死ぬと分かっていて兵を先導するのも、ワンベルにどんな言葉を受ける以上に仲間を死地に残すことは、どちらも辛い。

「ゴラプスのおっさんも、逃げれそうだったら逃げろよ?」

「ふっふ、この老いぼれは生き延びる知恵だけは働かせてきたつもりだ」

 そして、ベルモンドはクレムルームより北へ、ワンベルをつれて逃げ延びた。

 ついに彼は、忌み嫌われるリドック半島を脱した。

 ゴラプスはこの部屋に来て、シルテファシスと共に殺された帝国兵の落とした剣を拾った。

「さて、この老いぼれに何ができるか……」



 中部まで吹っ飛ばされたアグジスとエクシェルの二人を、たまたまアークスが見つけた。

「あっ、アグジス!」

 水色のオーラを急遽伸ばし、二人の体を包むとそのまま地面に引っ張った。

「アグジスにエクシェル!? 一体どういう状況なんだ?」

 二人とも無傷であるのがエクシェルの能力に守られていたからである、しかしアグジスは疲労が祟り気を失っているようだ。

「アークスさん、生きていたのね……」

 命からがらという状況に、かつて敬い何度も助けてくれた先輩が現れ、ついエクシェルは頬が緩んだ。

「エクシェル、全く何がどういうことか、一から説明してくれ」

「あの巨大な化け物が誰彼構わず殺しまくっている、それだけよ」

 現状を思い出しすぐエクシェルは顔を引き締めるが、アークスがそれをさせない。

「なるほど、あれを止めればいいわけだ」

 現在において複雑な事情を必要なかった。ただ事実をいくつか確認できればよい。

「プライムリザルツの他のみんながどうなったか知らないか?」

「私は誰も見ていないわ」

「……ならいい。で、問題はあの巨人をどうやって倒すか、だな。それにしてもデカイ」

 リドック半島の北にいる巨人の頭が余裕を持って見える。身長は百メートルを超えているかもしれない。

「やれやれ、あんな化け物と戦うハメになるとは」

「アークスさん、何か手段はないですか?」

「ある」

「オーラは生半可なものじゃ使えませんよ? 私とアグジスのオーラが効きませんでした」

「なら俺のオーラも使えばいい」

「……言うと思いましたけど、使えますか?」

 アークスのオーラは二人のオーラと決定的に違う。

 三人の能力は、色のついたオーラを作る能力といえば全く共通しているようだが、エクシェルとアグジスのそれは浸透してから『侵食』するか『補填』するかであり、アークスのそれは触れる前に反発するのだ。

 前者二つは浸透することができるが、アークスのオーラはそれらを弾く。

 よって合わさることができない、単純なプラスに働かない可能性が高いのだ。

「使えるか使えないかは問題じゃない、使わなきゃならない、そうだろ?」

「……まあ、そうですけど」

 エクシェルは少し不満を持った。けれど昔からアークスとはこういう人物であったと思い出し、小さく笑った。

「ほら、アグジス、おきなさい」

 思い切り顔を殴ると、彼は起きた。

「いってーなこら! って、アークスさん……」

「久しぶり。ずっと君を探していたんだけど、もうそれどころでもなくなったな。少しばかり力を貸せ、あの巨人をぶっ飛ばすぞ」

「無理だ! 間近に見た俺だからわか……」

「坊主が調子に乗るなっての」

 そうは言うものの、年齢は誰もそう離れていない。少しだけアークスが年上であるが。

「いいか、アグジス、エクシェル、昔はお前らは俺の部下で、今はそれぞれ巨大組織の首領をしている! 立場は対等に見えて実は俺の方がちょっと偉い、いいな!?」

「は、はい!」

「何が対等だ! 今五人しかいねー組織のくせに!!」

「黙れ!」

 組織の規模から見てアークスが格下であるのは尤もだが、実力で見るとアークスが一番といっていい。

「三人で力を合わせれば倒せる。それだけ分かれば十分だろ?」

 アークスが不適に笑い、二人は、それで闘志が燃えた。

「行くぞ、二人とも、息を合わせるんだ」

 アークスから水色の、アグジスから黒の、エクシェルからピンクのオーラが噴き出る。

「侵食と補填が一つになったのなら、俺の斥力だって一つになれるはずだ」

 まず、黒とピンクが一つになった。しかし水色はどうも弾かれる。

「もう一度……」とエクシェル。

 弾かれる。

「もう一度」とアークス。

 弾かれる

「もう一回!」とアグジス。

 弾かれた。

「出来ねえじゃねえか!」

「うるせっ!」

 アグジスの当然の怒りを、アークスは逆切れした。

「一つにならなくたっていいさこの際! お前らのオーラが俺のサポートをすればいい」

「と、言いますと?」

「実は俺には一つ夢がある。このオーラを最大限に使ってものを吹き飛ばし続けた時、物質はどこまで行くのか? 空を越えた向こうの向こうまで行くのかどうか、だ」

「はん、馬鹿じゃねえの」

「アグジスのオーラで敵のレーザーを消し、俺のオーラで巨人を空の向こうに飛ばす。その間エクシェルのオーラで俺とアグジスのオーラを補填する。完璧だろう?」

「間違ってはないけど」

「上手くそれができるかどうかが問題だな。アークス」

「なんで呼び捨てにした?」

「え、あの、それは……」

 アグジスは一発拳骨を貰うと、今度は三人のオーラを回転させるように混ぜた。

 黒とピンクが一体になったオーラと水色のオーラが対照的な色となり、一つの芸術のように回り螺旋を描く。

「出来た……のか?」

「出来たに決まっている、アグジス、俺を誰だと思っている?」

「アークスさん、さすがです!」

 そして、三人は息を合わせ、それを巨人に向けて放った。

「いっけええええええええええええええええ!!」

「異なる三の性質を持ちし旋竜よ、邪悪の巨人を彼方まで吹き飛ばせ!!」

「いっちゃえええ! ってアグジス、何それ?」

 オーラは木を削り取りながら、突き進んだ。


 クレアトは猛烈な勢いで迫るそれにレーザーを照射したが、なぜか破壊できない。

 あらゆる破壊行動をそれに集中したがそれでも止まらない。

『一体、これはなんですか?』

 呑気に言葉を発したが、それはついにクレアトの腹にぶち当たり、ふわりと体を押し上げた。

『馬鹿な、私の体が持ち上がるなど……』

 レーザーはどれほど太くなってもそれを壊すことはできない。

『や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 そして神はいなくなった。

 わずか三人の力で、しかし神は宇宙の果ての果てまで吹っ飛んでいったのだ。


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