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アナザーフェーズ  作者: 陽田城寺
マーグ大陸統一記
15/38

死に打ち勝てる者絶えてなかりき?

「なんじゃあの化け物はぁ!?」

 と、たまたまアンリアルを見つけたインヴェーダ兵が叫んだ。

 創神クレアトが一定の間隔ごとに撃つレーザーは既にクレムルームの八割ほどを綺麗さっぱり吹き飛ばし、かつリドック半島のあちこちも焦土に変えている。

 そのインヴェーダ兵はちょうどクレアトの真正面に位置していた。

「血反吐曝せぇ!! 豪迅爆雷烈風破ァ!!」

 荒れ狂う竜巻がクレムルームの外壁を巻き込み、瓦礫のつぶてをも含んだ斬撃と打撃の混合技となる。

 が、レーザーを浴び必殺技も本人も跡も残さず消えた。

「なぁんだありゃ?」

 先ほどまで死ぬ直前だったというのに、アンリアルはまるで遠くから人が来るような軽い気持ちで言う。

 アンリアルの位置からでもかろうじてその姿が視認できる。光り輝く巨大な女性、巨人という他ない。彼女に神だ天使という概念はない。

「よくわかんねー。よくわかんねーが」

 その位置からでも、神の体から出た棒の先から、巨大な光球が出現し、レーザーとなり各地を焼いている状況は分かる。 

「やべーな、今まで生きてきた中で一番やばい」

 確信はないが自信はあった。

 まずあれはアナザーの能力によるものなのか、そもそも人間なのか、生物なのか、それすらわからないがともかく危ないということだけアンリアルは感じた。

 けれど、人型であるなら対抗策はいくらでもある。

「けひひっ、行くか」

 アンリアルは右手も両足もない。けれど斥力で動くことは出来た。今までその場から動かなかったのはアグジスに対する義であり、死んだフリした方が楽だからであるが、もうそれどころではない。

 彼女は今奇妙な昂揚感に包まれている。アグジスなど比較にならないほどの強者、いや、本能的な恐怖、絶対的な存在にすら刃向かう自らの強い意志に陶酔していた。

 ぶち壊された壁からクレムルームを出て、神の肢体を縛り付けるように飛行した。

 これほど体が損傷したことはないので飛行は慣れなかったが、胸の辺りに着くころにはむしろ速度が上がったと喜んでいる。

 そして顔の地点に辿り着いた。

「目と内側、これは基本だ」

 そう言ってアンリアルは最大限の斥力を自分の後ろに作り神の目に自分をつっこもうとした。

 が。

 神の目の前に、腕から創られる光球より小さいものが出現し、あっという間にアンリアルの体を貫いた。

「んぎぃっ!!」

 大きさは遥かに小さく指ほどのレーザーであるが、それは分裂し、動き、アンリアルの体をズタズタにした。

 腕は落ち、胴体など子供がクレヨンで滅茶苦茶に塗りたくったように血が、臓物が溢れている。

 もう能力どころではない、アンリアルは力なく落ちた。

(エヅ、エクシェル、すまん。何もできなかった)

 落ち行く間に走馬灯を見た。生まれてから退屈ながらも恵まれた貴族としての生活を、そしてアナザーになってから狂気的な殺人者としての生活を。

 けど本当は殺人などどうでもよかった、戦功を上げて仲間に褒めてもらえればよかった。結局アンリアルはただの子供なのだ。褒められるのが嬉しいだけの、無邪気な子供。

 数十メートルの高さから落ち、アンリアルは動かなくなった。



「助けてくれ!!」

 シルテファシスの元へ訪れたのはインヴェーダと帝国兵の組み合わせだった。

 普通ありえない組み合わせであるが、普通ではないこの状況なら当然とも言える。

 シルテファシスは自信満々の表情で言った。

「むぁかせなさい!! このシル六号、ふっふっふ、既に固定は済ませた!!」

 砲身は全て神に向けられ、後は発射を待つだけである。

 ワンベルに叱咤された彼女は、しかしシル六号を放置する事が出来ず、せめて六発撃ってやろうとしている間に神が現れたのだ。

 無駄なリボルバー式、夢とロマンによってしか成り立っていない最強の兵器が、これほど期待を持たれるとは、緊急事態というものの恐ろしい。

 シルテファシスのいる倉庫もすでに壁は半分以上抉られ、雨を防げる程度の建物となっている。だがそのおかげで、神にしっかり狙いを定めることが出来た。

「見ておきなさい。人間の作った最強の兵器の実力を」

 まず一発、凄まじい音にシルテファシスは心臓がぐっと掴まれる感じがした。

 しかしそれに驚いてはいけない。この兵器はすぐにリボルバーを手動で回して六発連続で撃つのが醍醐味なのだ。

 もうそれは戦況とか自分の延命ではない、ただのシルテファシスの、末期の娯楽である。

「ぬぅおりゃああああああ、熱ぃ!!」

 弾を撃ったばかりの砲身を掴み回したため、ジュウと焼く音とこげる悪臭がした。

「二発目!! いけいけドンドン!!」

 その衝撃に、全部撃ち終わる頃には難聴じゃ済まないと思った。

「三発目!! 風穴開けっ!!」

 手の平の皮が剥れた。

「四発目!! 爆発四散っ!!」

 もはや感覚などない。

「五発目!! 五臓六腑撒き散らせ!!」

 シルテファシスは一発ごとに満たされていった。

「六発目!! いやったぜええええええええええええええ!!」

 肉から血が滲み出、体中煙で燻られ黒ずみ、涙で顔はぐちゃぐちゃになり、しかし彼女は満面の笑顔である。

「おい女ぁ! あいつなんにもなってないじゃねえか!!」

 インヴェーダ兵がシルテファシスに食って掛かる。

 六発の三十五センチもある大砲は全て神に直撃し爆発したのに、まるで傷一つなかった。

 しかしシルテファシスは笑っている。神の光球がこちらに光った。

「あっはっはっは!! 君ぃ、この兵器で傷一つないなんていったら……」

 本当は知っていた。敵にまるで効いていないということも。

「人の力じゃ殺せないよ?」

 ただ彼女は満足だった。夢を叶えて死ねるのだから。

 彼女は、シル六号の左半分と、自身の右足首から下のみを残してこの世を去った。


 神の真下、ようやくナールがデッドマンと合流した。

「デッドマン! そこから退け!!」

 聞き慣れない冷静な青年の叫びに似た声を聞き、彼は自身の能力である、触れたものを肌に吸い付かせる能力を利用し地面を滑った。

 ものに触れるとその運動を停止し摩擦をなくすことができるので、敵の攻撃をぴたっと止めたり、地面や壁を滑るように移動できる。ただでさえ運動能力や戦闘能力の高いデッドマンの実力をますます高める能力である。

 かろうじてレーザーを避けると、デッドマンはそのままナールの元に辿り着いた。

「ナール、あれが何か分かるか? わしには分からん」

「俺だって知るものか! ただ、あいつは自分を神だといった」

「聞いていたのか!? ……だが、神を名乗る者など、馬鹿げている」

「馬鹿げていてもこれだけの力、アナザーでもない。それに……」

 自分の能力で観測できなかったというのは、人間の力を圧倒的に超えているという証明になる。

 だがその事は説明せず、ナールは必死に言う。

「ともかくあいつは強すぎる。まるで敵わない! 逃げよう!!」

「……しかし、アグジスは……」

「アグジスなら……クレムルームにいる。あいつに挑む気だ」

 未来を読んでの言葉だが、ギリギリ気配を消して斥候として動いた情報に聞こえるようにも説明する。こうしてナールは数年間皆を騙し続けたのだ。

「なんじゃと!? それなら、わしがここで止まるわけには……」

「無理だ。デッドマンの能力じゃあれには敵わないし一矢報いることもできない」

 先ほどから飛んでくる三十五センチの大砲の弾が何よりの証拠だ。いくらデッドマンの能力が強くとも彼もいい歳だし、人間の力しか出せない。

「……ちっ、仕方ない、南に戻るか」

 この異常事態、本拠地で集合するのが無難だろう。

「うん、さあ早く」

 しかし、光球が光り二人を照らす。

「デッドマン!!」

 叫んだナールは老体の彼を突き飛ばそうとした。しかしデッドマンがそれを抑え、逆にナールを投げた。

 そして、その存在の圧倒的な力をようやくよく理解した。

「西に逃げろナール!! 海に出るのだ!! 海にっ……」

 南など悠長なことを言っている場合じゃないのだ。一刻も早く外海に、この大陸から出なくては。

「デッドマン!」

 なおもナールは手を伸ばした、けれどその手はデッドマンと共に消された。

「うわあああああっ!!」

 ナールは右腕を失った。レーザーが通った跡、デッドマンの体の後ろ半分だけが残っていた。

「で、デッドマン……」

 最強と呼ばれた男が、自らの臓器を露出させ、前後真っ二つになり死んでいる。

「そんな……どうしたら……」

 ナールは静かに泣いた。



「今こそ皇帝の危機! 我々は帝国騎兵の誇りを持ちあの巨悪を葬らねばならん!!」

 まるでダグラスは別人だった。普段は弱気で頼りない、けれど彼は戦争になると誰よりも頼りになると好評だった。それが今遺憾なく発揮されている。

「諸君に一言、我々は今から死ににいくも同然である。皇帝のために命をなげうつこともしない臆病者は今すぐ馬から降りろ、私が切り捨ててやる。自らの誇りと武勇を持って悪神に立ち向かう勇気を振るい、永久に語り継がれる英雄となりたいものは、私とともについてこい!!」

 この言葉で燃える者は燃える。それにどの兵も真剣なダグラスの様子で心を動かされた。

「ベルナーク、勝ち鬨を鳴らせ」

 戦いに勝利すると、それを全軍に知らせるため大きな太鼓のような楽器を鳴らす習慣があった。

 それは背に人を乗せていない馬が背負っており、しかしベルナークは困惑した。

「だ、ダグラス様、我々は負けに行くのでは?」

「何を言うか、負けると思うまで我々は負けない。絶対に負けぬように、今勝ち鬨を鳴らすのだ」

 有無言わさぬダグラスの迫力に、数人の兵がかわるがわる勝ち鬨を鳴らした。

 半島中に響く、慣れ親しんだ大きな音が興奮を誘う。

 同時に、一瞬地が大きく揺れた。地震のようであるが、あまりに一瞬なので島の慟哭のようであった。

「今こそワンベル皇帝陛下に忠義を立てる時、全軍突撃ィ!!」

 そして騎兵は走った。

 次々とレーザーでなぎ払われ数が減っていく、しかしダグラスは残った。

 神が下に向けてレーザーを撃つも、ダグラスの速度が速く捕えることができないのだ。

 後ろの騎兵は次々と死んでいく。

(僕は、一人で突出したほうがよかったのかもしれませんね)

 不安も思う、恐怖もする。誰だって死ぬのは怖い。

 だけどダグラスの顔は鎧で誰にも見えない。そして、今の彼はもう弱音を吐かない。

 ついに、レーザーがダグラスを捉えた。ギリギリ彼の首だけをとらえた。

 首のなくなった騎兵は、それでも馬は走り続けた。大きな槍を空に掲げながら、神の元へ走り続けた。



 ゴードとケイネは死ぬ直前になんとか抜け出せた。

 だが、同じように洗脳されていた者達はその半数以上が小さなレーザーで命を落としていた。

「なんだあれは!?」

 とゴードが天を突く巨人を見て驚くが。

「その前に、あの奇妙な木の人形だろう。あれのせいで私達はなんだか変な気分に……」

 しかしゴードはまるで聞いていない。

「リドック半島が次々に焼かれていく!! クレムルームも!! なんということだ!!」

「全く何という事だ。お前は何も話を聞かない」

 ケイネは呆れた。洗脳されている間の記憶がないが、目前の神の奥にクレムルームが見えている。

 自分達はクレムルームから出てかなり進んだところでコヌトルに出会ったのだから位置が随分変わっている。

「ゴード、一端距離をとろう。武器も何もなくてはどうしようもない」

「何を言うかケイネ!! 我々の大陸の土地がこんなにも攻撃されているのに黙って見過ごせというのか!? もしこの巨人が北進し、我らが本土を攻撃したらどうする!? そうなる前に我々は止めなくてはならない!! 国を率いる貴族として、国を守る軍人として!!」

「貴族としての金も兵もなく、軍人としての武器もない! 我々はいまやただの一人の人間、貴様は一体どうやって止める気だ!?」

 ゴードは言葉を失った。それでも義憤まで失ったわけではない。

「貴様は……女だからそのような軟弱が言えるのだ」

「またそれか! こんな巨人相手にアナザーも人間も男も女も、何もないだろう!! 戦える者が戦い、傷ついたものや無力な者が退く、生物として当然の行為だ!」

「我々は生物である前に人間だ!! 人間は理性があり知恵があり、考えることができる。貴様は所詮生物でしかないから逃げるということが出来るのだ!! 人間なら死を恐れずに戦え!!」

「死ぬのが恐くない人間がいるのか!?」

 とケイネが言った時に闖入者が現れた。

「おーい、ゴードー、ケイネー!!」

 ベルモンドである。

 インヴェーダの襲撃を受け、皇帝に会うこともなくクレムルームを抜け出したら、突如神が出現し一人さまよっていたところであった。

「ベルモンド、貴様はどうなのだ!?」

 と、突然ゴードが言った。

「え、な、何が」

「あの巨人をどうするか、だ!!」

 とこちらはケイネだ。

「えっと、俺はとにかく皇帝を探そうと思って……」

 危険だと感じながら、やはり彼は皇帝に忠誠を誓うつもりらしい。

 その言葉にゴードがますます怒る折、あるものが通り過ぎた。

 首のないダグラスである。

 首がないものの、特別な武装を受けた馬と、彼のトレードマークともいえる黒い鎧で、その場の三人が言葉にせずとも悟った。

 その槍は彼の利き手だった左腕とともに雄雄しく振り上げられ、首からしたたる血が鎧を濡らそうとも体は一直線に伸びている。彼がいかに壮絶な戦死を遂げたか、誰の目にも分かった。

 三人とも言葉はなかった。ベルモンドは驚きから、ケイネとゴードは怒りと無念から無言だった。

「ダグラス、殿……」

 ゴードは怒りに噛み締め、しかし涙は溢れた。

「ゴード、私が間違っていたようだ……」

 ケイネは、拳を固めすぎて爪が食い込み血が出ている。

「人間は確かに、命をなげうってでも何かするものなのだな」

 それは、ダグラスの姿を見て言った言葉でもあり、自身がこれから行おうとしている行動に対するものである。

 ダグラスの後ろから、上半身ごと失われた騎兵なども現れ、ケイネはその馬を止めた。

「弓がないのは致命的だ。だが、この馬には投槍がある」

「おいケイネ、正気か!?」

「ベルモンド、お前はどうなんだ? 何を思っている?」

 ゴードの言葉に、ベルモンドは顔を青くした。

「ヤバすぎるだろ! あんなの相手にしても死ぬだけだって」

「そんなことは分かっている! 分かってはいるが、止まらんのだ!!」

 自分の力を全て声に使うように、ケイネは叫んだ。

 それを見て、ゴードはふっと笑った。

「うむ、我が嫁に相応しい」

「え? ……えええええええええええええええええええ!?」

 ベルモンドには何がなんだかわからない。

 次に三頭の馬が、それぞれ弓と剣を大砲を引いていた。

「これはちょうどいい」

「では、私は弓を頂く」

 ゴードは剣を、ケイネは弓を。

「ベルモンド、大砲を撃ってくれないか? それがダメなら、絶対にワンベル様は救ってくれ。あの方は強気を振舞うが本当はとても脆い方なのだ」

「あ、ああ。じゃあ援護してから助けに行くよ」

 そして一頭の馬にゴードとケイネは乗り、ベルモンドはむしろクレムルームから距離をとって大砲を引いた。

 光球は近づくものに狙いを定めるように放たれる。

「ケイネ」

「どうかしたか?」

 ケイネは弓を構え、ゴードは今のところ馬の操作に集中している。

「思えば喧嘩ばかりだったが……」

「よせ、そういう話をする奴は皆死んできた」

「なんだ、まだ生き残る気があったのか?」

「好きだぞ」

 突然の言葉はケイネからだった。

「そういうのは男から言わせろ」

「だから、その男とか女という概念がいけないのだ。言いたい者が言うに限る」

 ケイネは弓を放ち、ベルモンドの大砲も程なく飛んだ。同時にレーザーが矢と砲弾を消し飛ばした。

「ケイネ、君は生きろ。女は家庭を守るものだ」

「え?」

 ゴードは馬鹿力でケイネを突き飛ばした。

 絶妙なタイミングであったが直進する馬の動きとレーザーの太さのためにケイネの両足は失われた。

 だが、彼女はそれより大切なものを失った。

「ゴードおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 茫然とその様子を見た。

「どうして……くそ、あんな奴が、格好良いんだ……」

 ゴードは馬と共に、跡形もなく消えた。



 ソワルは絶望した。森のあちこちで火災がおき、そこら中の人間はほとんど五体揃っていない。

 それでも彼女は、人命救助に従事した。

 出血が止まらない部分を凍らせて止血、運ぶことは出来ずとも死者を減らすことに尽力した。

「一体どうしてこんな……あれはなんなの!?」

 ひどすぎて、涙が出た。かつてクレムの元で戦っていた時でもこれほどの戦場はなかった。

 もはやソワルはアークスを探すことなど忘れ、ただひたすら失われつつある命を救うことを続けた。

 そんな彼女もレーザーが狙った。

「絶対氷壁!」

 巨大な分厚い氷壁を作り出すも、氷はレーザーをあっさり貫通し、後にはソワルの下半身だけが残った。

 氷は大きく分厚いものだったが、その直線状のみぽっかりと穴が開いていた。



 ドレイブは北に向かう途中で、ナクサとアカミの存在に気がついた。

「おぬしら!! ソワルはどうした!?」

 慌てて二人は木の陰に隠れるも、もう手遅れ。

「どうして洞穴で待っておかない!?」

 まさしく鬼の剣幕でドレイブは叱るが、ナクサは平気そうに言う。

「だってソワルさんが一人で行っちゃったからさ」

「そうなの、ソワル、アークスが心配みたいで」

 迂闊なのは自身だったかもしれないと、ドレイブは少し反省したが、焦った。いつレーザーが襲いくるかも知れない状況、子供を連れていくわけにはいかない。

「仕方ない、三人で洞穴に戻ろう。後はソワルとアークスに任せよう」

「えー、おなか減った」

「それに、三人じゃ寂しいよ」

「駄目じゃ!!」

 我侭を言う子供に言葉を投げかけるが、二人は納得しない。

 元から二人はドレイブには生意気だった。アカミはアークスを、ナクサはソワルをそれぞれ好意を寄せているので忠実だが、老人であるドレイブは兵力として自分達に近しいと二人は考えているのだ。

 だが、考えはすぐに改められた。

 レーザーが三人の位置を狙った。

「いかん!!」

 ドレイブは二人をまとめて突き飛ばすと、大きく両手を広げて自分の体を盾のようにした。

「おっさん!」

「逃げろ!!」

 それが最後の言葉だった。

 ドレイブは消えかける最後の瞬間にその能力、一瞬だけ巨大な地震を起こす能力で彼らを割れた地の狭間に滑り込ませることで助けることが出来た。

 けれど光が過ぎ去った後、ドレイブ自身は、この世にその存在を証明することすらもうできない。

「おっさん?」

 レーザーの過ぎ去った後、ナクサは辺りを見回すが、誰もいないし、何もない。

「ど、ドレイブさんは?」

「わかんねぇ、どこにもいないんだ」

 二人は、既に消えてしまったドレイブを探し続けた。



「シル、シル、どこだー、シル」

「ワンベル様、落ち着いてください」

「おおゴラプスか、シルは?」

 先ほど、巨大な砲弾が飛んでいくのが見えた。そして、その方向にレーザーが通ったのも見た。

 だからこそ、エヅとゴラプスにシルテファシスを探させているのだ。だがそれを忠実に実行しているのはエヅだけで、ゴラプスはワンベルを見張っていた。

「陛下、既にシルテファシス元帥は、戦死なされたかと……」

 それを事実として受け止めているのは、ゴラプスだけである。

「……」

 ワンベルはゴラプスを見ているのではない。虚空を見つめているのだ。

 ダグラスやケイネも信頼できる人材であるが、ワンベルがもっと小さい頃から一緒にいたのは家庭教師のゴラプスと侍女であったシルテファシスだけであった。

 幼き自身を知っている者は大体殺されたか、自分で殺した。それすら二人は許容した。

「シル、シル……」

 もう、皇帝は限界だった。

 人数の少ないアナザーの被害より、要塞を構え軍隊を持っている帝国軍の被害が甚大になる。

 斥候も来なくなった。輸送部隊だけどんどん物資を置いていく。

 ワンベルはふとケイネとゴードのことを思い出した。こんな時に裏切り者である彼らを思い出すのは心が弱いことだと戒めたが、それでも何故か懐かしい。

「ゴラプス、さっきの倉庫に戻ろう」

「ワンベル様、お気を確かにしてください。あなたは何をなさるためにそこを出たのですか?」

 ゴラプスの叱責を受けても、ワンベルは耐えられない。

「頼む、覗かせてほしい。そうしないと集中がまるでできん」

 しかしゴラプスはそれすら許さなかった。

 その惨状を見れば、ワンベルが壊れると確信しているからだ。

「なんでかは分からないんだけど、とてもシルに会いたいんだ。今、とても会いたい……」

 避難すべきか戦うべきか、ゴラプスも悩みに悩んだが、やがて答えに辿り着いた。

「ワンベル様、一度本土に帰りましょう。そうしてそのついでに先ほどの倉庫に戻りましょう」

 シルテファシスのシル三号でも倒せなかった神を、現在の兵力で打倒するのは到底不可能。この際逃げ帰った方がまだマシと考えた。


 一方、アグジスもついに神と対面した。

「なんてひでぇ有様だ。こいつは本当に、ひでぇ」

 それ以外に言葉はなかった。近づく者は串刺し、遠くの者は極太レーザーで丸ごと抹消、アグジスよりも性質が悪い。

「ま、お前の光と俺の闇、どちらが強いかだ」

 そういいながらアグジスは神の真正面で闇を纏った。

「撃ってこい、試してやる!!」

『神に刃向かうとは、なんと愚かな……これも生き物の性でしょうか?』

「喋れるのか」

 腕が数本アグジスの前に現れ、今までよりも大きな光球が出現する。

「うおおおっ、こっ、これはっ!!」

 本能が危険を伝える。しかし避けることももう手遅れ。

「闇よ! 闇よ! 我が心を巣食う暗黒の焔よ!!」

 自らを高め次々と黒いオーラを噴出させるが、まだ足りないと悟る。

 光が、強くなる。

「俺の闇を照らすのか!?」

「アグジスっ!!」

 声は女性のものだった。

「エクシェル!?」

 レーザーの出る直前、エクシェルはアグジスにぴったりとくっついた。

「お前は何をしている!?」

「あなたのオーラと、私のオーラなら……」

 侵食する黒のオーラと補填するピンクのオーラが一つになる。

 レーザーが出た。

「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「きゃああああああああああああっ!!」

 黒のオーラでレーザーを削り、ピンクのオーラで防御分でなくなったオーラを補填する。しかしそれでもまだ足りない。

 防御だけはなんとか出来たらしく、二人は一気に半島の中心ほどまで吹き飛ばされた。



「シ、シルテファシスさーん」

 一人、インヴェーダがいるかもしれない、レーザーが当たるかもしれない、そんな状況でエヅはシルテファシスを探し続けた。

 神はすぐ傍で所構わずレーザーを放っている。

「死にたくなーい、死にたくないよー」

 呑気に、けれど真剣にエヅは言いながら皇帝のためにシルテファシスを探し続けた。

 周りは実際、死体と瓦礫ばかりだった。

 栄華を誇り、労働環境は最低ながらも鉄壁と謳われたクレムルームがもう崩壊の寸前である。

 光球が、エヅを狙っている。

「ひっ、死にたくない死にたくないっと」

 そそくさと移動し、その範囲外から逃れようと動く。

 しかし、ちょっと間に合わなかった。

 他の兵に比べれば、右頭部を抉られただけ、となくなった部分は少ない。

 けれど、頭が半分吹っ飛んで生きていられる人間もいるわけがない。

 クレアトはこのように、無情に命を奪い続けた。

 そしてエヅの死と同時に、クレムルームは完全に崩壊したといえる。

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