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アナザーフェーズ  作者: 陽田城寺
マーグ大陸統一記
13/38

侵略者の逆襲

 南に進み続けた、アークスはなんと再びドロルと出会った。

「あれ、また君?」

「こら猿山大将っ! テメェ絶対に許さねえぞ!!」

 半島の南端にも近い地点、まだずぶ濡れのドロルに対しアークスはけろりとしている。

「それよりアグジスはどこだ? 彼を探してるんだけど」

「へっ、アグジス様は今頃クレムルームをすっかり落としているだろうよ」

「そうか、それだけ聞けたら十分だ」

 再び水色のオーラが噴き出るとドロルは身構えた。

 が、身構えたところで押し出す能力にはどうしようもない。

 その姿勢のままドロルはすっかり包まれると、今度は半島の西の方へ吹き飛ばされた。

「今度は北か。うーん、あの軍と遭遇するのは嫌だな」

 呟きつつも、彼は北へ飛んだ。


 一方、クレムルームでタイミング悪く、あるものが届いた。

「来た来た来たぁーっ!! 我が最強にして至高にて無上の武器、六連大砲『シル三号』!!」

 自分の身長より少し大きいほどの武器に、シルテファシスは狂喜乱舞である。

「シルテファシス、本当にそれを使うのか?」

「まさかぁ! けどけど、これを見てるだけでテンションは上がるし、興奮するし、ぞくぞくするぅ……」

 すっかり年老い思慮深くなったゴラプスといえど、それを見ては怪訝な顔つきをせざるを得ない。

 ワンベルが秘密兵器としているリボルバー式の銃というものは、現在軍に持たせているものと違いコンパクトで、何よりリロードなしに六連発が可能。

 いずれは全軍に普及させようと思っているものの、ワンベルは独占欲が強くそれを自分だけのものにしている。

 だがその秘密はシルテファシスだけに漏れ、そのシルテファシスがリボルバーを参考に作ったのがこのシル三号である。

 はっきり言って狂気の沙汰としか思えない。三十五センチ弾の大砲六つ分、それを繋ぎ合わせ、回すためにより多くの鉄と火を使った、実用性は皆無の兵器。

 後ろからワンベルが瞳をきらきら輝かせ、エヅは吐き気すらあるような顔でそれを見た。

「馬十頭で引いてきたこの最強の兵器、使いどころがないのが惜しい。このクレムルームが敵にまわるとか、外海から敵が攻めてくるとか、ともかく、ああ~、使いたいよう!」

 シルテファシスはそれに頬ずりしながらうっとりとした表情をしている。

「経費の無駄使いだ」

「そういうなゴラプス。この国が平和だからこういう娯楽も出来るんだ」

 どこが平和なものか、ゴラプスは溜息をついた。

 エヅは注意深くその兵器を見たが、回る砲身と聞いたのに、回す肝心の部分が見当たらなかった。

「これは、どのように使うのですか?」

 と耐えかねたエヅが訊ねると、ワンベルが示した。

「まず撃つ、次にこれを手で回す」

 とワンベルが手をかけたところ、ビクともしなかった。

「私には扱えん。ゴードかダグラスがいれば話は別だが、砲身も熱くなるし、正直使い物にはならなそうだ」

 エヅはますます顔をしかめた。そもそもこんな巨大な物を移動させること自体おかしい。こういうものは拠点の防衛のため固定するのが定石。一発撃っただけで後ろにぶっ倒れるか、数メートルのけぞり後ろのものを踏み潰してしまう。

「……いざとなったらこれを溶かしなおして弾でも作るさ」

 ワンベルが心無いことを言い出すが、シルテファシスはそれすら気付かない。

 が、要塞内の異常には気がついたらしい。

「ワンベル、何か揺れてない?」

「確かに先ほどから揺れている。外の軍が大砲でも撃っているのかと思ったが、近すぎるな」

 ゴラプスまでもが言い出して、ようやくワンベルは危機感を持った。

「なんかヤバイのか?」

 その頃クレムルーム内部ではアグジスと集まったインヴェーダが数人暴れ、実際ヤバイのだ。

 ここまで敵が来るのも時間の問題である。


 だが、冷静なナールは森の中一人大声で叫んだ。

「なんだこれは!! 知らない、僕は知らないぞ!!」

 気配を消す能力とは大嘘で、彼は未来を読むことが出来る。

 たとえ早く死ぬことになってもナールは楽しく生きるためインヴェーダに加入し、この戦乱で命を落とすはずだった。

 アグジスはミスを犯したドロルを殺し、エクシェルと相打ち。デッドマンはアークスにより宇宙にまで放り投げられる、ナール自身はどれだけ逃げても帝国の者に殺される、というのが当初の未来であった。

 しかし彼の読む未来が次々と変わっていく。アークスが帝国を統べる平和で豊かな、けれどどこか退屈な世界はもう過去のものになった。

 今見える未来は、邪悪な神の出現。

 ともかく自分の未来を見た。もしかしたら生存の可能性があるかもしれない。

 しかし見たものは絶望である。

 デッドマンが、出現した最初の神を殺した時、新たな神が出現する。

 そしてその後の未来は何も見えない。だが不吉な予感しかしない。

 彼は北へ進み続けるコヌトル軍を尾行するデッドマンを止めるべく、急ぎに急いだ。


 ダグラス率いる騎兵団はまるごとクレムルームに撤退、もとい進軍し始めた。

 インヴェーダは既にクレムルームの半分を占拠、皇帝の命に危険が迫っている。

「ダグラス様、こいつはどうしましょう」

 と部下が連れてきたのはドレイブである。

 捕虜として捕えたドレイブはどういうわけかダグラスとしばし談笑することになり、そしてその間にクレムルームの危機が知らされたのだ。

「ドレイブさん、我々はアナザーを正式に味方にすることにしましたので、争うことはないんです。今は邪魔なので」

 と縛っていたロープをバッサリ切ると、ダグラスは二の足も踏まず北へ走った。

 曲がりなりにも敵の関係であるのに見逃してもらえたのは幸運であるというに相応しい。

「……穴倉に戻るか」

 けれどドレイブは少し寂しそうに呟いた。



 帝国軍は皆、北に撤退を始めた。

 彼らは皆、アナザーの実力というものを見誤っていたのかもしれない。

 最初の作戦が成功したために油断も慢心もあった、誤った自信がついてしまった。

 クレムルームのろくな能力を持っていないアナザーは無残に殺され、インヴェーダに属するわずか数名の精鋭によりそこは占拠されつつあった。

 ワンベルは、退避しようにもシルテファシスがそこから離れたがらず、仕方なく四人そこに留まっている。

 大砲を動かすのに時間がかかるため仕方なくここで待つ、という状況である。

 待つ、というのも漠然とした言葉である。

 一体何を待つのか、騎兵のダグラス、インヴェーダと戦っている攻撃しているエクシェル達か。ただ敵に見つかり殺されるのを待つだけなのかもしれない。

「ああ、ついに死ぬ、ついに死んじゃうのかぁ」

 エヅがすっかり正気を失ったように呟く。それをワンベルが殴った。

「縁起でもないことを言うな! このワンベル様がこんなところで死ぬわけあるか!!」

 幸いゴラプスが護衛としてついている。尤も、軍全体としてみれば要塞の司令官たるゴラプスがこんなところで時間を食っているのは不幸でしかないが、皇帝の命を守ることは跡継ぎのないワンベルにとって帝国の全てを守ることに繋がる。

 しかし、正直なことを言えばワンベルは、今すぐにでもここを出たい。

 ゴラプスは正式な執務の場で部下に指示を出さねばならない、ワンベルは皇帝として威厳を持ち部下の指揮を執りたい。

 そこで彼女は、自分がシルテファシスに振り回されていると気付いた。

 そして、その事に悲憤した。

「シルテファシス、やはり私は行くよ」

「ええっ! でも、私はこのシル三号を置いていくわけには……」

「なら、その鉄の塊と心中でもするのか!?」

 冷たい言葉に、エヅも静かに驚いた。

 シルテファシスは何も言わず、暗い顔をした。

 そこらをインヴェーダのアナザーが攻めている状況、一人残ればどれほど危険か、知らないワンベルではない。

 シルテファシスは一人でも戦えるには戦えるが、今攻め込んでいる化け物のようなアナザー相手では恐らくどうしようもない。

 こんな窮地で、旧知の仲の友人を切り捨てるような行為を行うのは非情としかいえない。

 だがワンベルは、こんな窮地だからこそこうした。皇帝として民を啓蒙する立場として、彼女は誰よりも非情に、無私に生きねばならない。

「ゴラプスも前線に戻るぞ! 今敵兵にアナザーを認める話をしても信用しないだろう。彼らを歴史の犠牲にする。聖戦が始まるのだ」

「ま、待ってよワンちゃん」

「シルテファシス、君も元帥ならするべきことが分かるはずだ」

 それだけ言うと、ワンベルはエヅをつれそこを出た。

「や、やだーっ! 死にたくない、やっぱりまだ死にたくないよーっ!」

 ワンベルはエヅをもう一度殴った。

 ゴラプスは名残押し走二シルテファシスを一瞥し、その場を後にした。

 一人残されたシルテファシスは、シル三号を見つめ、そこに留まった。


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