始まり編
初めての作品です。
あらすじに書いてある通り、作中で普通に「おなら」をします。
また、最後の方には若干の『残酷な描写』、『ガールズラブ』があります。
タグの程度が分からないので貼りませんが、少しでもダメな方は、お読みにならない方がいいかもしれません。
①
2xxx年になると、世界は全体的に不況だった。化石燃料は完全に使い切り、世界はエネルギー不足に陥っていた。21世紀が始まった頃、可採年数は約50年と言われていた石油も、100年くらいは持ったらしい。私はそのとき生きていないから分からない。教科書で習った程度だ。その後も様々な方法でエネルギーを確保しようとしてきたが、効率の良い方法が見つからず、人類は存続の危機に危ぶまれていた。人類の進歩には、エネルギーの存在が必要不可欠であった。
そんな中、救世の女神が訪れた。名前は忘れたが、あるえらーい博士が新しいエネルギーを発見した。それは、地球に少しの影響を与えるも、昔やっていた原子力に匹敵するほどのエネルギーを生産することができる。それほどのものだった。その博士はノーベル賞を受賞。20世紀に始まったノーベル賞のシステムは、今でもこうして残っていた。
そのエネルギーのおかげで、私たちは今日も、電気を使うことができるし、科学も発展している。私たちはそのエネルギーに感謝しなくてはならないのだ。
しかし、私はそのエネルギーに感謝出来ないししたくない立場にある。このエネルギーのせいで、私の人生は大きくガラリと変わった。とても不名誉である。
その新しく発見され、人類を救い発展させたエネルギーの名前―――――――「おならエネルギー」通称「OE」と呼ばれるものであった。
確かにOEは、私たちを救ってくれた。ただ、あくまでそれは救ってくれた部分もあるというだけの話だ。世の中には知らない方がいいことがたくさんある。私は知らなかったOEの秘密と真実を、知らされることになる。
なぜ私の人生が変わったのか―――――私はあの日を絶対に忘れないだろう。
②
秋のある寒い日のことである。私は早めに出したコタツで温まりながら、丸まって、
「あぁ…やっぱりコタツは幸せ…」
至福の時を過ごしていた。
私は、私立のお嬢様中学校とか呼ばれる場所の生徒であった。尤も、別に私が入学したかったわけではない。その原因はというと、
「全く…あなたはお嬢様学校に通っているんだから、もっと女の子らしくしなさい!」
と言ってきたこの母である。
「だって私が行きたかった訳じゃないもーん。それに、学校ではそれなりに生活してるんだから、別にいーでしょー。家でくらい…。あ、お母さん焼き芋お願いね。」
「まったく…」
と言って、母は台所へ向かった。
この通り、もう受け流しは慣れている。
日曜日のこんな至福の時間、誰にも邪魔されるわけにはいかないのだ。ただでさえ、つい最近テストが終わった身である。友達に『一緒にお茶会を致しませんか?』と誘いを受けたつい昨日だが、塾があるのでとか何とかてきとーに言って、辞退させてもらった。そもそも、こんな寒い日に外に出られるものか。私は今日家から出ず自堕落に幸せに生活するのだ。大好きな
「はい、焼き芋。」
「まってましたぁ!!!」
を食べながら。母はむすっとした顔をこちらに向けたが、私は気にせずに母から焼き芋を乗せられている皿と一緒に奪い取った。
「全く…品のない…。いつからこんな子になっちゃったのかしら」
母は何か呟いていたが、私には聞こえない。ということにしておく。テレビの音量をあげすぎたんだな、きっと。
早速皮を剥いてその金色に輝く黄金の実にかぶりつく。
「〜〜〜〜〜!!!!」
よく考えたらさつまいもは根っこを食べるもので、『その身』という表現は的確で無かったかもしれない。でもそんなことは今の私にはどうでも良かった。
口に広がる甘み!!!
ホクホクとした暖かさ!!!!
そして何より、口の中でとけてなくなってしまうこの何とも言えない気持ち!!!!!
なんて美味しいんだろう。この世のものとは思えない…。焼き芋を考えた人は、新エネルギーを発見した人並みに天才かもしれない。
いや、もはや神だ。それこそノーベル賞ものである。
しかしここまでくると、ある意味さつまいもの品質云々より、母の調理の腕前がすごいのかもしれない。
「お母さん、今日もナイスジョブ!!」
と、親指を立ててグットサインを母の方へ向ける。母は、はいはいと言ってテレビに目を移した。
私は幼い頃から焼き芋が好き。これは父の遺伝であるかもしれない。父も幼いころから焼き芋が好きで、焼き芋にはうるさかったらしい。そんな中、父はお母さんに作ってもらった焼き芋を食べて感動し、結婚を申し込んだと聞いている。純なのか不純なのかよくわからない理由だが、私は父と母の子であることを感謝している。お母さんも、自分で作ったものが美味しいと言われるのが嬉しいのか、要求すれば、一日一個まで作ってくれる。これで今日の分は終わりなので、味わって食べなくては。などと考えていると、手にあった焼き芋はなくなってしまっていた。はぅ…。
「ごちそうさまでした」
食事の時たまに忘れるこの言葉も、焼き芋を食べたあとだけは絶対に忘れない。因みに母もさっき言ったように、私の通う学校では、焼き芋などというものは品のない食べ物と認識されている。『女性』の食べるものではないそうだ。だから、好きな食べ物を聞かれる時は、毎回てきとーにごまかしている。もうごまかすのも慣れてしまった。そして聞かれるたびにいつも、
「全く…こんな美味しい味を知らないなんて、あの子たちは罪だね…。」
などと思う。いきなりの一人言に母が一瞬怪訝そうな顔をした。そして、
「あっ!」
思い出したかのように台所へと向かって行った。かと思うと、ちょっとしたらお買い物袋を二つ持って戻ってきた。二つというところが嫌な予感が
「ねぇ咲ちゃん、ちょっと『エックストアー』で牛乳と卵、買ってきてくれないかしら?」
する。って、やはりか…。エックストアーはここから自転車でも10分はかかる。もっとも、こんな寒い日に自転車なんて乗ったら多分私は死ぬだろう。友達に見つかった時もいろいろとまずい。そのことも考えると、歩いて往復40分也。
よって私は
「えー、外寒いよー。遠いよぉ〜。お母さんいきなよぉー。」
取り敢えず、拒否してみた。
「全く…お母さんは正反対方向にあるエキストアーで冬服の先取りセールがあるから、そっちをお願いするの。」
「うへぇ〜めんどくさぁ〜」
私はこれくらいではひかない。
残念だったなお母さん。私は今や無敵なのだ。
どんなことを言っても
「分かった、じゃあ行ってくれたら明日は焼き芋二つ作ってあげるから。」
「…分かった。行くよ。喜んで行かせて頂きましょう。」
前言撤回。私の無敵の壁は、食べ物というものに釣られて何処かへ消え去った。明日のためなら今日働ける。幸い明日はテスト休暇とか呼ばれるわけ分からん振替休日なので、存分に自堕落に生活できる。私が立ち上がろうとしたときだ。
「お…」
ぷぅ〜。
とどこからか可愛らしい音が聞こえた。というか、私のお尻から聞こえた。さつまいもを食べたからなぁ…。
母は鼻を抑えて
「まったくお下品な!!」
と言った。鼻を抑えているから鼻声だった。ちょっと面白い。さつまいもとおならには、しっかりとした因果関係があるのだ。別に母の前でおならをすることなど、少なくない。むしろ、さつまいもを食べるたびに、していると言っても過言ではないだろう。だから、
「お母さん、そんなことを言っちゃぁいけないよ〜。何たって今は、この『おなら』があるから私たちが幸せになれてるんだよ?お父さんだって、おならがなかったら『OE隊』として働けてないんだから。むしろ感謝しなきゃ。」
と、私はえへんと勝ち誇った顔で母にいった。
「まったく…こういう時ばっかり正論を使うんだから…。ほら、さっさと行きなさい。」
「はぁい、じゃぁちょっと着替えてから行くから」
と言って階段を登っていると背後から
「最近はこの近くいろいろと物騒なんだから、気をつけなさいよ」
と言う声が聞こえた。そういえば、さっきのニュースでもそんな事を言っていたような気がした。お母さんもね、と言って、私は部屋の中に入った。
③
「うわはぁ…」
外に出るなり、何とも力の抜ける声が出た。なぜかというと。
葉がない木。
太陽が出てるのに寒い。
日曜日に外に出るという、何とも言えない感。
そして、何と無く嫌な予感。
想像していたよりも寒くないことが唯一の救いであった。外の落ち葉は、朝のうちに誰かが片付けておいたらしい。
父だな。
そして、使ったのは母か。
父が集め、母が焼き芋に使った。
そういうことなのだろう。よく考えると、今日は焼き芋ができるのがやけに早かった気がする。というか、
「お父さん、帰ってきてたんだ…。」
なんとなくさびしく思いながら、私は歩き出した。
最近、父に会っていない。といっても、一週間程度だが。母の焼き芋の美味しさに共感できる人が隣に居ないというのは、さびしことだ。まぁ、
「仕事、忙しいらしいからね。」
父は、『OE隊』という職に就いている。『OE隊』というのは、OEを取り扱い、取り締まる、一種の警察みたいなものである。
OEは、おならをした瞬間に体内に莫大に発生。そして、時間を経ながら少しずつ体内から消えていく。その間に、発電機やらエネルギー砲やらを持つことによって、体外にエネルギーを取り出すことができるというわけだ。
身近にあり、基本的なことを覚えれば誰にでも扱えるエネルギーなので、悪用されることもよくある。
OEを使って、簡易爆弾や、エネルギー砲など、武器を作る人もいるのだ。もっとも、その威力は素質にもよる。それらを使ってテロ行為などをする人たちを鎮圧、予防するのが、OE隊の主な仕事だ。目には目を、歯には歯を。
そして、おならにはおならを、ということである。
らしい。全部父からの伝聞だから、詳しいことは知らない。別に、知らなくてもいいし。
とにかく、父にはOEを効率的に扱う素質があり、今や国家公務員となる『OE隊』に属しているというわけだ。
OEは、いまだによくわからない構造ではあるが、何らかの媒体を使用しなければ、体外に放出することができないという事だけは分かっている。
「おならってのは、奥が深いな…」
とT字路のところでつぶやいたところで、左側から
「あら?咲さんじゃありませんの。ご機嫌いかが?」
という声が降って来た。長い黒髪をたなびかせて、右手にバスケットをかけつつ、日傘をしている。整った顔立ちに、中学生としては少し大きめのその胸のふくらみも、『女性』を感じさせる。
……まぁ、私の方が大きいけどね(どやぁ)。
その女の子は、クラスメートで友達の亜里沙であった。
っていうか、まずい。今の独り言聞かれてないよね?
私は、驚き焦りを見せないように、
「ご…ご機嫌麗しゅうて!?亜里沙さん!よいお天気ですわね!」
私の反応を疑問に思ったのか、亜里沙は少し首をひねったが、
「そうですわね。」
と笑顔で答えてくれた。よ、よし、なんとかなった…。後はてきとーに会話をしてさっさとこの場を去ろう。しかし、相変わらずきれいな微笑みである。つい見とれてしまった。落ち着きを取り戻した私は、適当に話題を選んだ。
「亜里沙さんは、どちらへ?」
「私は、麗華さんのお宅のお茶会に呼ばれていますの。」
ん…?お茶会?なんかいやな予感がす
「そういえば、咲さんはお塾とお稽古があるとの事で、ご欠席なられると伺ったのですが…」
した。どうやら地雷を踏んだらしい。私は今日お塾とお稽古があったのか。初耳だ。
んなわけあるか。
私が昨日適当に言った言い訳なのだろう…。こんなところで返ってくるとは…。今日は厄日だ。
私が無言だったのを不審に思ったのか亜里沙はもう一度首をかしげて頭の上に『?』マークを浮かべているようだ。
「えぇ…と。その…。」
私は2秒で言い訳を考えた。
「今日は先生方が二人ともインフルエンザにかかってしまいまして…。今日は、どちらもお休みになってしまったんですの。まったく、厄日ですわ。」
最後のは違う意味で言ったわけだが。
「まぁ、そうなんですの!大変ですわね…。咲さんもお体にお気を付け下さい。ということでしたら、お散歩ですか?」
あぁ、私はここに居る理由を言ってなかったのか。
「いいえ、お母様にお買い物を頼まれてしまいまして。」
といって、私は右手の買い物袋をアピールした。お嬢様っぽい布袋である。まさかお母さん、こんなことまで予測していたのだろうか…。
「そうなのですか…。私でしたら、執事の者に行かせますのに…。あぁ、もうこんな時間!それでは私は失礼させて頂きます。有意義な休日を、どうぞお過ごしください。」
「えぇ、ありがとうございます。御機嫌よう。」
といって、亜里沙は優雅にお辞儀をし、私が通った道を歩いて行った。
ふぅ…。危なかった。まさかこんなことになろうとは…。学校の知り合いに見つかるのは、結構まずいな…。
私は学校では基本的に猫を被っている。最初の方でも言ったが、学校ではそれなりにお嬢様っぽく生活しているのだ。下品な言葉や言葉遣い、仕草には、最善の注意を払っている。
というのも、入学が決まってから、母にさんざんたたきこまれたのだが。私は率先してやらなかったが、ご褒美が焼き芋ということだったので、やっていた。まぁ、それが今は生かされているから、母に感謝している。
それにしても、
「有意義な休日…ね……。」
私の今の状態が有意義かどうかは知らないが、あの学校の生徒たちが何を持って有意義とするのか、凡人の私には分かりもしなかった。
私が有意義と思うのはやっぱり
「…コタツと焼き芋だよなぁ…。」
私は歩を進めた。
④
エックストアーは、ストアーという癖に、デパートである。
名称詐欺だな。
とか分け分からないことを考えてみたりした。亜里沙と話してから10分くらいでついた。
5階建ての、それなりに規模の大きい建物である。
ちなみに、食品売り場は地下1階である。私はさっさと用件を済ませることにした。
エスカレーターで降りながら、食品売り場の状況を確認する。
日曜日ということもあり、食品売り場はそれなりに込んでいた。なんとなく、パーカーを着ている人が多く、雨でもないのにフードをかぶっていた。うん、やっぱり室内とは言っても寒いからね。そして、私は目的の場所を確認して
「…はぁ。めっちゃ混み混みじゃん。」
溜め息をついた。牛乳売り場はまだいいが、卵売り場の方はとても混んでいた。正直、最悪な気分だ。なんだこれは。もしかして今日は特売か何かなのか?チラシを少しくらい確認しておけばよかった…。
売り切れで買えなかったと言って帰ってもいいのだが、何分母も情報通である。そんなの嘘だと簡単にばれるし、まして私の明日の生命線、焼き芋が無くなる可能性もある。それだけは勘弁願いたい。
「…あぁ、そうだ。」
せっかく来たんだから、焼き芋を買っていこう。自分の財布を確認。よし、焼き芋2つくらいは買える。母の味に勝るものは無いが、このデパートの焼き芋は、父も認めるくらいには美味しい。久しくこの店に来ておらず、店内はほんの少しだけ、改装されていた。お陰で、焼き芋の売っている場所が分からなかった。
「弱ったなぁ…。」
エスカレーターを降りて、つぶやいた。
総当たりはあまり好きではない。だって疲れるんだもん。
とりあえず、心当たりがあるところから行くか。
「……いや。」
焼き芋はあたたかい方がおいしい。『焼き』というくらいだから、当然だ。|(焼くという表現が正しいかどうかは、この際どうでもいい。)
多少疲れはするものの、まずは目的の物を買ってからにしよう。
私は行く方向を決めて、歩き出した。
ところで、思い出した。
何個買っていけばいいんだ?
うーん。
条件指定されてないし、重いから一個ずつでいいか。
私は、覚悟を決めて、卵争奪戦の中に出陣したのだった。
「ふ…ふふふ…はははは……!」
勝った。そして買った。
本当に危険な戦いだった。女の力は恐ろしい。卵を買うだけに犠牲者が出るとは思わなかった。私の前の人は、隣の人からの肘鉄を喰らい、その場で意気消沈した。もちろん私も前に出て食らったが、
甘いな。
私の意志の方が強かった。
私はその攻撃を受けながらも|(今思うと衝撃的な痛みだった。今も痛い。)、隣の人ににやりと顔を向け、卵を入手した。
いつからここは戦場になったのだ。
全く知らなかった。
お嬢様の来るところじゃない…。
一方で、牛乳の方は難なく買えた。牛乳売り場には人こそいたものの、その人たちは一向に牛乳を取る気配がなかったので、お先に頂戴した。パーカーを着た人たちだ。いくら寒いからって、室内で手袋までしなくてもいいだろうに。とか思っていた。
そして、ついに
「…焼き芋の捜索開始だぜぃ。ひゃっほう!」
と、小声で言ってみた。うん、一回言ってみたかったんだよね。『だぜ』って。恥ずかしけど、なかなか使い心地のいい言葉だった。
さてと、気合も入ったことだし片っ端から見て行きますか。
私は端の方から歩き出した。
「あった…!」
それは、歩き出して2分くらいで見つかった。エスカレーターからは死角になる位置に移動していた。遠くからそれを発見した時、つい嬉しくて
「やったぁ!」
とか、かわいい声をあげてしまった。自分でかわいいというのもなんだけど。
まるでお宝を発見した時のおうな気分だった。いや、私にとっては焼き芋は金塊みたいなものだから、大げさな表現ではないだろう。
自然と、足取りが速くなる。息遣いも少しあらくなり、恥ずかしくて少し頬も紅潮していることだろう。
……はたから見たら、相当いやらしいだろうな…。
そう思って、少し歩調を遅める。そうだ、何も焦ることは無い。相手はあの焼き芋だぞ?別にいきなり歩き出して逃げるとか、そんなことはしない。なら、ゆっくり行っても待っててくれるじゃないか。
急がば回れ。
果報は寝て待て。
うん。ゆっくり行こう。
しかし、私のこの決定が、幸か不幸か、めんどくさい展開へと流れを変えることになる。
やっと焼き芋にたどりつくと思った手前――――。
視界に、金髪の女の子が見えた。しかも、それが―――――。
「あ、あら?咲さんじゃありませんか。ど、どうなさいました?こんなところで。」
知り合いだった。しかも、クラスメートの
「瞳さん…。」
だった。瞳は平均より少し身長が低く、可愛らしい体躯をしている。金髪がとても目立つ。肌は、人の物とは思えないほどスベスベしており、全校生徒の中でも美肌ランキング1位に輝いたほどだ。
「ご…ご機嫌いかがかしら?」
私は笑顔でたずねた。うん。多分笑顔だろう。
「え…えぇ、咲さんも、元気そうでなによりですわ…。」
と、瞳も目を泳がせながら返してくれた。
焼き芋の前で、二人でぎこちない会話をする。
こんな極刑があるだろうか。
目の前に、念願の焼き芋が存在する。2つ。それはもう美味しそうに紙袋に入っている。
しかし、目の前にはお嬢様学校のクラスメートがいる。もし焼き芋なんて目の前で買ってみろ。「咲さん、そんなお下品なものを?まぁまぁ、冗談ですわよねぇ?」とかなんとか言われるに決まっている。
あぁ、犬が『待て』をくらってる時ってこんな気分なのかな…。
なんて事を歯を食いしばって考えていると。
「さ…咲さんも、お買い物、ですか?」
と瞳がぎこちなく聞いてきた。
「え…えぇ…。まぁ、買い物自体は終わったと言いますか、なんといいますか…。」
瞳が不思議そうに首をかしげる。
しまった。買い物が終わっていると言ってしまったら、なぜこんなところに居るのかと聞かれてしまう。
…いや、買い物というよりは、戦争だったけど…。
「そ…そういう瞳さんこそ、お買い物ですか!!」
と、とりあえず話題を変えてみた。
「えぇ、まぁ…。買い物というよりは、あれは戦争でしたけど…。」
どうやら、同じ修羅場を通っていたらしい。
……あの中に居たのかな?
まぁ、いいや。とりあえずここはいったん別れて、瞳が見えなくなったあたりで、もう一度ここに来よう。
果報は練って待つのだ。
「そ、それでは、お買い物のお邪魔をしてしまっては申し訳ないですから、私はこれで。」
とりあえず、一度離脱。
「え…えと、はい!それでは御機嫌よう!!」
といい、二人してお辞儀してその場を去った。
私は焼き芋売り場のすぐそこを左に曲がった。そして、時を待つ。
瞳がどこに行ったのかは分からないけど、10秒も待てば十分なはずだ。
3,2,1…。
よし!!!
と私は来た道を戻り、再び焼き芋売り場の前へ向かった。
そして、焼き芋売り場の前に着いた瞬間。
反対方向の人とばったり出くわした。
しかも、
「ひゃぁ!」「はぅ!!」
後者が私の声だ。反対方向に居たのは、
「あ…あら、咲さん。またまた奇遇ですね、こんなところで…。お…おほほほほ…。」
明らかに不自然な再開をした、瞳だった。
「あ…あはは、えっと、その、はい。こんにちは…。」
まずい、少し言葉が砕けてしまった。
とりあえず、
「そ、それでは…!」
「あ、はい…。」
といって、私はもう一度同じ場所に移動。
そうか、きっと秒数が少なかったのだ。今度は15秒にしよう!!
5,4,3,2,1…。
「GO!!」
なんか、今日のショッピングはミッションみたいだった。
でも、それでも、やっとでこの手に焼き芋が手にはい―――!!
「………。」「………。」
らなかった。まさかの3回目の邂逅だった。
「………。」
「………。」
今回はもう、どちらも無言である。瞳を見ると、歯をギリリと強く噛んでいる。よく見ると汗もかいてるし、息遣いも荒い。多分私もおんなじ状態なんだろうな…。
すると、私達は視線を合わせながら、二人とも、一つの場所に視線を移した。そこは、
焼き芋売り場である。
あぁ、美味しそうな焼き芋だ。
「…じゅるり。」
という音が聞こえた。私の音じゃない。はずだ。ということは、瞳からしたのだろうか。
と思って、瞳に目を移すと
「……(じーーー)。」
焼き芋を凝視していた。
って、
えぇ?
ま…まさか……!!
「ひ…瞳さん…?その…もしかして、なんですけど……。」
私は、思ったことを口に出した。
「や…炊き芋……好きなんですか?」
ストーレートすぎただろうか…。いや、でも、それ以外どうやって聞けばいいというのだ。
でもでも、瞳は私と違って、プライドが高いはずだ。立派なお嬢様だ。焼き芋が好きだなんて、気軽には言えないかもしれない…。あぁ、どうしたら!!
「…咲さんは…。」
と、か細くおびえたような声が聞こえた。私の事だと気付くのに、
「……え、えっと、はい?」
2秒くらいかかった。
瞳は、少し迷ってから…私に、
「……咲さんは、どうなんですの?」
と、聞いてきた。睨みつけるように。
『どう』というのは、多分、焼き芋が好きなのかということだろう。うぅ、改めて聞かれると、困るなこの質問…。『品のない食べ物』として扱われているわけだから、なおさらだ。自分で質問しておいて、なんだけど、答えるのが難しい。
でも。
でも!
「わたしゅ、は…」
噛んだ。
重要なところで噛んだ。恥ずかしい。なんて修羅場だ。まさか今日、私はこんなにもたくさんの修羅場をくぐらなくてはならないとは。家を出たときにした嫌な気配はこれか。
まったくもって、厄日だ…。
私は、一度咳払いをして、先ほどと同じく、覚悟をした。
私は、私は、私は、私は、私は、
「…私は、好きですわ。」
と、言った。
瞳が。
「……え?」
「あなたは!どうなんですの!?」
周りの人が、何事だと、こちらを見てきた。えぇっと。まずい。まずい。
瞳は周りの気配に気づいたのか、「おほん!」と咳払いをして、場の空気を少し緩くした。
その行為に。
その答えに。
私の頬も、少し緩くなった。
「……私も…。」
私はゆっくり、でも確実に、言葉をつないだ。
「好きだよ。焼き芋。」
それを聞いた瞬間、瞳は安心したような顔になり、そして笑った。
⑤
「焼き芋の神秘とは、ようは火加減にあると思いますの!」
瞳が嬉々として自分の意見を熱く語っていた。手に持っている焼き芋の熱さよりも熱く語っていた。どうやら、嬉しいらしい。
いや、見れば分かる。こんなの、嬉しい以外のなんという表現があるのだ。
私達はというと、互いに好きな食べ物をカミングアウトした後、二人仲良く焼き芋を購入し、焼き芋売り場近くの腰掛に座っていた。食べるなら外の方がいいんじゃないかと私が提案すると、
「問題ありませんわ!このデパートは最新システム、『即私物化」というものを使っておりまして、買ったものはその時点で自分の物だと判断して下さるんですの!だから、ここで食べても何の問題もありませんわ!」
とのことだった。
なんだそりゃ。
初めて聞いたぞそのシステム。私が来ていない間に導入でもしたのかな?
なんて、適当なことを考えてみてたりした。
「―――さん。咲さん!?大丈夫ですか?お顔色が優れておりませんよ?」
と、言う声で我に返る。
「えぇ、大丈夫です。いやぁ~しかし、まさか同じクラスに焼き芋が好きな友達がいるなんて、少し驚きですのよ。」
私もです、と言って瞳は笑った。クラスで見せるような上品な笑みではなく、普通の、大好物を手に入れた女の子みたいな笑みだった。
「あ…」
と、瞳がいきなり言いだして、体をもじもじさせ始めた。
……とてもいやらしいな。
恥ずかしいのか、頬まで紅潮している。ますますいやらしい。萌えそうだ。いや、正気を取り戻せ、自分。素数を数えろ。
2,3,5,7,11,…。
ぷぅ~~。
と、いきなり左側から音がしたので見てみると、
「あ…あの、申し訳ありません…。が…我慢できなくて……。」
と、もじもじしながら瞳が言った。なんか、ここまで来ると、もはやエロい……。
「気にしませんわ。だって、焼き芋を食べているんですもの。それに、今の時代『それ』が世界を救っているのですから」
そうだ。なにも恥じることは無い。これが今の地球を救っているということは変わらない。
「で…ですわよね。はぁ、もう、咲さんはいいお方ですわ。私が男だったら、惚れてしまいそう…。」
と、両手を頬に当てて恥ずかしいアピールをする。そして、どうやら自分だけの世界に入ってしまったらしい。
いや。
やめてくれ。そんなこと言われたらどうすればいいのかわからないではないか。
「あ…あはは…。」
と、苦笑だけして受け流すことにした。
うん、ちょっと危険な道を行ったり来たりしているような気がするけど、冷静になれば、意外となんとかなるな。
行きそうになったら引き返す。
これ重要。
あ、でも、ちょっとくらいなら……。
よくない。
ちょっとくらいでもよくない。
それにしても、見事な性格の変わりようである。教室では物静かな瞳がこんなにも熱血に話をするなんて…。
焼き芋、すごい…。
「ところで…あの…。咲さんは、ここでよくお買いになっておりますの?」
「あ、いや、私は母が作ってくれるので。ここではあまり買いません。家から遠いですし。」
「そうなのですか!?お母様が…。羨ましい限りです。」
と言って、少しだけ顔がしゅんとなった。
「どうしたのですか?」
「あぁ、いえ…。お母様の手料理を食べられるなんて…羨ましくて…。」
そりゃぁ、わたしは実際お嬢様でも何でもないですしね。いないよ、料理人とか。執事とか。私は本当のお嬢様であるあなたの方が羨まし
「私、お母様の手料理、食べたことが無いんですの…。塾や、お稽古で毎日がスケジュールに縛られてばかり…。自由という自由が無いんです。」
くもないな。うん。むしろ、私万歳。お母さんお父さん愛してる。
というか、冗談でも、私は塾とお稽古を言い訳にしたわけだが、まさかこんなに過酷なものだとは…。時間通りに生きるとか、私にはできないししたくもない。
うん、やっぱり今の状態が一番いいと思う自分であった。
「…ですから、今日もお屋敷を抜け出して、こうして焼き芋をお買いにいらしたのですよ。あぁ…お母様、怒っていらっしゃることでしょう……。」
「……頻繁に、御屋敷を抜け出していますの?」
私は少し気になったフレーズを聞き返した。
「えぇ、お恥ずかしながら…。小学生のころ、ここで召した焼き芋がおいしくて美味しくて……。ええと、なんていうのかしら。『ふぁん』?『愛好家』?語彙力があまりないので、よくわかりませんが、そういうのになってしまったんですの。」
安心して下さい。愛好家も、ファンも、同じ意味ですよ。しかも、意味的に丁度です。
もしほんとに意味が分かっていないのだとしたら、相当の奇跡が重なった瞬間だった。
「でも、お母様は許してい下さいませんでしたわ。それに、焼き芋を食べることを禁止したほどです。大好物を奪われた私は、生きる気力が半分ほど失われた気分でした。」
「OK,OK.分かりました。その母親をぶん殴ってきます。家はどちらですか?メリケンを買ってきますので。さぁ、行きましょう。」
「さ、咲さん!?言葉の意味は半分くらいしか分かりませんが、よからぬことを行っていると思いますので遠慮しておきます!!」
ついつい本音…いや、本性が出てしまったらしい。瞳さん、おびえていた。それにしても、人生から焼き芋を奪うだって?私の人生から焼き芋をとったら、何も残らないじゃないか。なんて最低な人なんだ。
私が「冗談ですよ」と笑いながら、もう一度腰を下ろすと、安心したのか話を続けた。
「そんな私でも、辛い時があるんです…。そんな時、無性に焼き芋が食べたくなって…。でも、食べられなくて…。ですから私、たまにこのようにして、焼き芋を食べているんです。」
なんとなくわかった。お嬢様は、どうやら大変らしい。瞳が有意義な時間を過ごしているのか私には全くもってわからない。しかし、悩んでいるというのが分かった。
私は、特に何とも思っていなかったが、
「来週の日曜日は、お屋敷から抜け出せますの?」
と聞いていた。ほとんど無意識だった。
瞳は一瞬怪訝そうな顔をしたが、
「え…えぇ。まぁ、抜け出せないこともないですわ。」
と答えた。
「ここの焼き芋、とても美味しいんですよ。」
「そ…そんなこと、私だって知ってますわ。何度も召しあがってますし…。」
「でもね」
私は言葉をつなげた。いつか焼き芋が好きな人が見つかったときに言おうと思っていた言葉。
「私のお母さんの作った焼き芋は、ここの1000倍は美味しいの。」
つい言葉が砕けてしまったが、ここはしょうがない。むしろ、ありのままで語りたい自分がそこにはいた。瞳は一瞬息をのみ、私の次の語を待っているようだった。
「来週の日曜日、光公園で、一緒に食べない?」
すると、瞳は嬉しそうな顔を顔一面に浮かべ、
「はい!喜んで!!」
と答えたのだった。
「じゃぁ、約束ね。それじゃ、そろそろ帰りましょうか。送っていく?」
終わりの方はもう完璧に言葉が砕けまくっていたが、瞳相手ならいいかなと思ってそのまましゃべった。
最悪の場合、こちらには焼き芋という口止めがある。
まぁ、そんな使い方をする気はさらさらないけど。
「結構ですわ。私、今日は心が軽くなりました!咲さん本当にありがとう。では、今日はここで――――――」
お別れしましょう。
という声は聞こえなかった。
せっかくいい雰囲気で、それなりにいいハッピーエンドになるはずだったのだが、残念なことに、現実はそんなに甘くないらしい。
突然のことだった。
何かが爆発する音が聞こえた。
それに巻き込まれ、何人かの人が怪我をしたのがここからでも見える。
そして、どこに居たのか分からなかったが、私達はパーカーの男たちに拘束されてしまっていた。
まさか、人生で一回、巻き込まれるかどうか分からない。
通称、『テロ』とか言うのに巻き込まれるなんて、その日は思いもしなかった。
そして同時に、これが、私の運命を変えることになった、きっかけである。
⑤
「我々『漆黒のヤギ』は、たった今、エックストアーの地下一階を占拠した。人質を無事に返してほしけりゃぁ、20分以内に5億円用意しろ。え?何、高すぎる?しゃーねーなー。無事とか言ったが確かにこっちにはすでに負傷者がいるからなぁ…。譲歩して3億で手を打ってやるよ。その代わり、10分だ。短い?アホ、10分以内にけが人救出しなきゃ、多分こいつら死ぬぞ?まぁ、20分以内なら、俺たちは文句言ねぇよ。3億なんて、宝くじ当てりゃ集まるだろ?んじゃ、そゆことで。」
と、テロのトップと思える人が携帯で警察と交渉したようである。正直、組織のネーミングセンスが訳分からない。なんでヤギ?しかも黒?お手紙食べるの?
まったく、こんなことに巻き込まれるなんて、なんて厄日なんだ、今日は。
………。
…なんて、冷静ぶって状況を説明してみたけれど、正直やばい。何がやばいって私達がほんとに殺されかねないというのがまずい。
私達『人質』(ざっと見て、25人くらいだろうか)は、手足の拘束、一部は口も拘束され、地下1階の真ん中に、円形に並べられていた。私と瞳と、他数名は、口までは押えられていない。
…心なしか、男性が口を押さえられていて、女性が押さえられていないようにも思えるが…。
そこ事態は、あまり問題ではない。はずだ。きっと。
問題なのは、円の中心に置かれた真っ黒の四角い物体である。
たぶん
「……OE式爆弾…。」
だろう。状況は最悪である。爆発物処理班も、多分『これ』は解けないだろう。
残念ながら、警察はあくまで警察。OEのような化学エネルギーを使用したものは、正直担当では無い。こういうのはOE隊の仕事である。
警察が物理なら。
OE隊は科学である。
しかし、OE隊が来たとしても、状況は最悪だ。
父が言っていたことが確かなら、OE爆弾の解体は、まだ国でも訓練途中のはずだ。もっといえば、この辺の地域には、そんな特殊部隊はいないのだという。
それだけじゃない。
今は長々と爆弾の話をしていたが、私達の周りには20人弱のテロリストが『エネルギー砲』を抱えてこちらを向けている。実際、OEに関係する職をしている人が身近にいなければ、そんなの分かりもしないことだ。あれは、充電式。おならをせずとも、使用できる。
というか多分、これがOE兵器だと気付いている人質も、私を含め、若干名だろう。
それほどに、OE兵器というのはまれなのである。作る人によって形状がよく変わるからだ。
「……くっそ…!」
地下1階ということもあり、上からの突入しか行えない。そこはもちろん、メンバーの奴が待機してるし。
どうしろというんだ。
この前見たホラー映画を思い出す。
今日は厄日じゃなくて、命日か?
「さ…咲さん!!わ…わ私達、だ、だっだだいじょうぶぶですよねねねね…?」
隣は隣でホラーだった。まぁ、お嬢様だからな…。緊張感があるのか無いのか、分からない様子だった。…いや、多分泣いているから怖いんだろうけど……。
私は瞳に、「大丈夫ですわ」と言って、打開策の考案を再開した
「3分経過~。なんだぁ、あいつらおせぇなぁ。」
ところでまた意識を現実に戻した。どうやら3分もたったらしい。私は最初の爆弾の被害に遭った人を見た。
「!!」
顔色はとても悪く、意識が無いように見える。い…生きているのだろうか…?
手からは血が流れており、若干の止血はされているものの、生きているのがやっとの状態である。もっとひどいのは、その隣の人だ。
もう。
足がなくなっていた。
「っ!!」
申し訳ないが、率直な感想を述べてもらえるのなら述べさせてもらう。
恐ろしかった。自分がああなるんじゃないかと、恐怖に震えていた。テロリストのトップが言っていたことは、間違いではない。
多分あと5分もしたら。
あの二人は死ぬ。
何が恐ろしいって、二人の様子も恐ろしいが、何より何より、目の前で人が死のうとしているのに何の罪悪感も感じていない顔をしているトップの奴が恐ろしい。
見るに堪えない光景から目をそらし、自分にできることを精一杯考えた。
トップの奴がいきなり
「さぁて、そんあじゃ暇になって来たから、そろそろ暇つぶしとするか」
とか言い出した。おいおい、こっちは潰すほどの暇がないほどに多忙なんだぞ?どうしてくれる。
いや、私情はさて置き、こいつら何するつもりだ?
紙でも食べ始めるのか?
「おい、『ドールシープ』。好きなの選べ。」
ドールシープって……。記憶が確かなら羊だったような気がするんだが…。
まぁ、ヤギとヒツジの違いも分からないような私ですが。
ドールシープと呼ばれた奴は、人質の事をしっかりと見始めた。そして、ぐるぐる回って、私からは見えないが、誰か一人を選んだらしい。「こいつで」という声が聞こえた。
「よし、じゃぁ好きにしろ」
とトップの奴が言った。その瞬間、
選ばれた女性の声と思われるものが地下1階に響き渡った。
私のところからは死角になって見えないが、
声と音を聞くだけで分かるように。
あいつ。
人間の風上にもおけない下種野郎だ。
ドールシープと呼ばれた男は選んだやつに、あんなことやこんなことをしやがった。
口を塞がなかったのはこのためか……!!!!!
「トムソンガゼル、ニホンカモシカ、選べ。」
もうこいつら、動物の名前でいいんじゃねぇのか?人間の名を名乗る方が間違いだ。たしかにこれならコードネームが正しい。相っ変わらず『ヤギ』関係ないけど。
すると、どっちかはしらないけど一人の男が私の前で立ち止まった。そして
「こいつにします。」
と言って指を刺した。
瞳を。
「ひっっ!!!」
「……なっ!?」
なぜか私まで驚いてしまった。
嘘でしょ。ウソでしょ。うそでしょ!!
くっそ!!!
私には何ができる!?今の状況で、私が瞳を守る方法は…!!
私はとっさに、
「瞳さん!こっち向いて!!」
と少し乱暴にも瞳を呼び、振り向いた瞳に
キスをした。
ファーストである。
グッバイ・マイ・ファーストキス。
どうやら私も、女性の風上におけないような人間だったらしい。
そして長く短いキスを終え、男の方を見て、
「私の後だけど、いいの?」
と、挑発的な笑みを見せてやった。
「っ!!こいつっ…!!!」
どうやらこれが一番の最善策だったようだ。正解したようでなにより。人としては、いろいろ間違えたような気がしなくもないけど。
男は、エネルギー砲を私に向け、チャージ完了までしたところで、高笑いが聞こえた。
「ははは!!!こいつぁおもしれぇ!!!おい、ガゼル、やめろやめろ。そいつは俺がもらう。」
どうやら、私の目の前に居たのは、トムソンガゼルのようだった。そして、トップの人がこっちに向かってきた。そして歩きながら
「はは!!こいつぁ傑作だなおい!俺は気の強い女がだーーーーい好きなんだ!はは!!よく見りゃこいつ、俺好みの顔してんじゃねぇか!!久々の逸品だ!!」
『!』を何連発する気なのかしらないが、ヤギがこっちに向かってきた。
「さぁて、お嬢さん。手合わせお願いしましょうか。」
生殺与奪をも思わせる不気味な笑顔をし、私の目の前に顔を持って来た。
なるほど、こうやって近くで見ると、やっぱりヤギである。
紙食って生きていそうなほど、貧相な顔をしていた。
隣で瞳がポカーンとしながら見ていた。
…いや、あんた、緊張感なさすぎでしょ………。
「残念ながら、それは辞退させていただきますわ。」
がしっと、胸を捕まれた。いや、別に比喩表現でも何でもなく、ほんとの意味で胸を捕まれた。いや、揉まれたっていう方が正しいのかな?
うーん。揉まれると大きくなるって、ほんとなのかな?
いやいやいや。
どーでもいい、知るか。
「お前さんは、そういう立場をとっている余裕があるのかなぁ?」
といって、ヤギが左側の倒れている二人を指差す。
あぁ、そういえば今、何分たったんだろう。
そろそろまずいのか…。
「今、爆発してから10分、止血、拘束してから8分たってる。さて、お前が取るべき行動は?」
ずいぶんと細かく区切って時間を計っているものだ。場の空気が緊張にのまれたのが分かった。いや、隣は相変わらず呆けているけど。
「私、強引な方はお嫌いなんですの。」
「おいおいおい!余裕だなぁ!!いいねぇ、実にいい。お前に選択の余地を与えているんだ。お前の選択一つで二人の命が変わる。」
「……」
二人の命か。一般の中学生にそんな選択をさせるなんて、こいつは大人としてなかなか最悪だな。いや、『人』と認識はしないけど。
だから私は、
「黙りなさい、このロリコン!!!」
と、言ってやった。
すると、
いきなり、
場違いな音が響き渡った。
プゥ~~~~~。
どうやら誰かがおならをしたらしい。
というか、私だった。
そういえば、さっき焼き芋を食べてから、私はまだおならをしていなかったか。
一瞬その場が静まり返り、そして
「「「ぎゃはははははは」」」
と、高笑いが広まった。
「ははは!!お嬢さん、お嬢さん。あんた最高だよ!!!!こんなシリアスな場面で、おならなんて!!!!最高以外の何物でもねぇ!ぎゃはははは!!」
ヤギはそういって腹を抱えて笑った。
そして、
その時、
私の中の、
何かが、
はじけた。
「あはははは!!!」
誰の笑い声だっただろう。今まで聞いたこともなかったような、女の人の笑い声だった。
というか、それも私だった。
私は怒りと羞恥に身をまかせ、思いに思っていたことを語り始める。
「あなた達が、『これ』を笑うなんて…。くく。ほんとに傑作ですわ。あなた方も、『これ』に頼っているというのに」
そして、ヤギが私の言葉から、意味を推測し
「な…こいつ、武器の事知ってやがる!」
たようだ。うん、だいたい正解。
その場の空気がまた一瞬で凍りつく。ほぼ全員のエネルギー砲が私の方へ向けられる。
「あなたがたみたいな屑は、消えてなくなるべきですわ。」
ぶちりと音がなった。心の底から力がみなぎってくる。
私は『ほどかれた』両手両足を使い、たちあがった。
周りの人たちは何が起こったのか分からないらしい。安心してください。私にもよくわかりません。なんですかこの状況は。
「今の世界『これ』が無くては生活できない。それを馬鹿にするような輩は、生きる資格など無い。思う存分…務所で生活してなさい!!!!!!!!」
と、私の体が光りだした。比喩でも何でもない。ほんとに光出した。
わぁ、なんだこれ。体が軽いぞ。
まさか、OEなのだろうか。
原理とか使い方とかは分からないが、なんとなく、ただなんとなく、体が知っているらしかった。
今なら目の前のくそ野郎を殴れる。
ということで、
「くたばれ。」
思いっきり殴ってやった。予想していたよも力が強かったらしく、一発でK.O.のようだった。まったく、軟弱な。でもどうやら、今の私は最強らしい。朝のような、薄っぺらい無敵ではないことは確かだ。
「う…うわぁぁぁぁぁ!!!」
と、よくわからない奴(誰だこいつ?)が私に向けてエネルギーを発砲してきた。やば、これ、どうすんだ。でもまぁ、『今の状態』なら、なんとかなりそうだから正面から受け止めた。すると、
「…きゅ、吸収した!?」
一番驚いたのは私だった。どうやら最強じゃなくて無敵になったようだ。こんなこと聞いたこともなかったけど、やろうと思えば可能なんだ。私は後で、父から詳しい話を聞こうと思った。
「ひ…ひぃぃ!!!」
と、メンバー達は、私から遠ざかっていく。いや、正直時間がないからさっさと全滅させて救急車呼ばないとだから。
「言い訳は、署で聞いてくれると思いますんで!!!」
と言って、エネルギーを『放出』してみた。うん、やっぱり放出もできるんだ。
それに当てられて、メンバーの皆様がたは、全員気絶だった。
……今頃だけど、死んでないよね?
何分、こんなこと初めてだから、力の調節とかできないんだけど…。
まぁ、生きていると願おう。そんなことより、
私は人質さん達の解放を最優先した。とりあえず、体つきのよい男性を先に開放して、手伝ってもらい、負傷した二人も運んでもらったりした。
「大丈夫?瞳さん。」
最後の一人になる瞳を解放した。瞳はあれ以来、ずっと呆けていた。
「おーい?瞳さん?だいじょーぶー?」
「……は!咲さん!」
と、そこで私をようやく視界にとりいれたのか、赤面して微笑んだ。
…………………かわいい。
じゃなくて!!!
「瞳さん、さっきいきなりいろいろごめん!ええっと…まぁ、いろいろごめん…。」
とりあえずさっきの事を思い出したので、今のうちに謝っておいた。時間がたつと、逆に気まずくなってまずいから…。なんて言われるかわからなかったけど、帰って来たのは意外にも
「えぇ!?あぁ!いあ、えと!大丈夫です!!はい!むしろ、ありがとうございました!!!」
という、優しい答えだった。ふぅ、とりあえずなんとかなったようで、よかった。なんか嫌な汗も感じるけど、多分気のせいだよね、うん。
後の残る問題は…。
「…こいつだよなぁ……」
OE式爆弾。これをどうするかが問題だ。まぁ、方法として考えはなくはない。今の私になら可能なはずだ。でも、初めてでそこまでやるのは、さすがに危険なような気がする。
どうしたものかと考えていると、
「あの…咲さ…、私、……んに…お話…あ……て…」
と、小さくてよく聞こえない、もぞもぞとした声が聞こえた。誰かと思って見てみると、瞳だった。
あぁ、そうだ。とりあえずこの子を家に帰した方がいいか。
「瞳さん、とりあえず今日は、もうお帰りになった方がよろしいですわ。」
「え…で……でも、咲さんはどうなさるんですか!?」
「あぁ、私でしたら、心配はいりませんわ。」
と言って、私は黒い四角形の箱を見つめる。うん。真四角だ。正方形の美を見いだすには、十分な大きさである。まぁ、私には見いだせないけど。
「これを、父となんとかしますので」
がしゃんと、背後で音がした。後ろにいたのは
「咲…」
お父さんだった。
「後は、私達にお任せ下さい。」
と、その部下らしき人たちだった。部下達は次々に『漆黒のヤギ』達を拘束していく。
素晴らし手さばきだ。一人の部下さんが、瞳を地上へと連れて行った。うん、これでなんとかなるかな。
「咲…お前、その体……」
私の体はまだ光った状態のままだった。うん、地下で電気も消えたのに、私の発生させてる光のおかげで全然見えるよ。
「よく分かんないけど、なんかこれのおかげでいろいろと助かったの。たぶん、OEだと思うんだけど、こんな使い方もあったなんて、知らなかった」
なんか、CMで栄養剤を飲んだ後、強くなるみたいな気分が味わえた。
「…くっそ……!」
と、後方から爆弾へ向けてエネルギー砲を撃ったやつがいた。
おい、それは、えっと、―――――やばくない?
気付いた時にはもう遅かった。エネルギーを受けた衝撃で爆弾は起爆装置でも入ったのか、徐々に大きくなり始めた。
そして、その発射した本人も拘束し、護送車に地上へと引き出された。この場には、父と私と、部下さん3名の計5人だけがいる。
「っ!!!まずい!!!咲、こうなってしまったらもうどうしようもない!ここら一体にバリアを貼って、少しでも被害を押さえる!だからお前はこの場からできるだけ遠くに離れろ!!!」
慌てふためく父が、私に逃げるよう促す。そして、部下さん達にバリアを貼るよう指示する。
いや、でも、
「でも、待ってお父さん!私に考えがあるの!この方法ならなんとかうまくいく!」
と言って、父の了承の有無を気にせず、爆弾の方へ駆けだす。OEが手助けをしているのか、足取りはいつもより軽く行けた。
「咲!!!!!」
お父さんの後ろで聞こえる。
「お父さんはとりあえずバリアとか呼ばれるもの、あるなら貼っといて!!!念のため!!!」
と言って、私は黒い塊の中に、
自分の右手を突っ込んだ。
「う!!」
まるで、こんにゃくに手を突っ込んだ気分だ。なんだこれ、ぷにぷにしてる。
「咲!?お前何をしている!?」
あわててお父さんが駆け寄ってくる。なんだ、結局バリアは貼らないのか。少しかっこいいのに。
「さっきね…私、エネルギーを吸収できたんだ。」
父は信じられないと思った顔で私をみた。
「し…信じられん!そんなこと…今までの資料の中で、一軒もなかった事なんだぞ!?」
というか、信じられないらしい。って、え?今までの資料の中で、一軒もなかった?どういうこと?
「いや、でも…実際吸収したし…」
私は今の状況でも吸収できるか試してみた。
右手からエネルギーであろう感覚が流れ込んでいる。体の光も、より一層増した。うん、やっぱり吸収できてるな…。
父はそれを見て、またも信じられないというような顔で私と爆弾を交互に見た。
「信じられん…。ほんとにエネルギーが吸収されている…。しかも、なんの媒体もなしに…。これは、いったい…。」
またも信じられないらしい。でも、実際私にも訳が分からないし、なってるものは、なってるわけであって…。
「まぁ、いいや。それで、このエネルギー、全部私が吸収すれば、万事解決ってことで、OK?」
父だけでないく、部下さん達も、目の前の異様な光景に目を奪われているようだった。返事が全くない。うん、ここまで来ると逆に悲しいね。せっかく私が正義のヒロインになろうってのに、周りがこんなじゃなんか、残念だ…。
「ほいっと。」
私はエネルギーの吸収を終え、爆弾は不発に終わった。あぁ、人助けをした後って、なんて気分がいいのだろう。エネルギーの基本構造は父にならっていたから、こんなアドリブ的なことにも対応できて、役に立ったわけだ。
「あぁ…やっぱり、OEってのはすごいなぁ…」
と私がつぶやいた時だった。
「咲…これは、まずいかもしれない…。」
父が、唐突に言ったその言葉の意味がその時はまだ分からなかった。
「え?何?どういうこと?」
と、私は聞くつもりだったのだが、私はそれを聞く事ができなかった。
私の体は、膝から折れて、地面に倒れ、そのまま意識がなくなってしまっていた。
私はその後、病院のベットで2日後に目を覚ましたらしい。
英雄様のお目覚めということだ。と思っていたわけだったのだが、私が眠っていた二日間の事を父から聞いたら、とんでもないことになっていた。
「…それで、私はなんで転校することになるわけ?」
「それはだな…。この前も言ったように、OEを媒体なしで吸収―――放出もしたんだよな?をしたのは、お前が初めての事例なんだ。それで、日本政府としては、お前の事を研究したいというやつがいてだな…。いや、私は反対したのだが、政府がな…。だから、お前には『OE管理学校』で基礎を学んでもらいたいという政府の決定……って、このくだり、もう10回目だろう。いい加減諦めてくれよ…。」
はぁ、と、父は溜め息をついた。
この二日間、私の影響で日本には多大な影響を与えたらしい。私の存在がOE研究界で、取り上げられるようになっていた。私を研究することによって、OEの新たな世界を切り開こうとの事らしい。
いや、違うな。
私を野放しにするのは危険と見たのだろうか。
だから監視下に置きたいと。
どちらかというと、後者の方が納得できる。
なるほどなるほど、目覚めたのは英雄様ではなく、危険因子だということだ。
自嘲ものだ。
ちなみに、あの二人はなんとか一命を取り留めたらしい。『漆黒のヤギ』達も、今は刑務所で大人しくしてるとかなんとか。人質さん達も今日から普通に生活し始めたそうだし、瞳に限れば、毎日私のお見舞いに来てくれたらしい。後で何か…お返しないと……。
はぁ…。いっぺんにいろんなことが起こりすぎて、私の未来は全く予想もつかない状態になっていた。あぁ、早く退院したい。早くコタツでゴロゴロしたい。早く
「焼き芋が食べたい…。」
私の人生は、あの日のあんな出来事のせいで、急変するのであった。
しかも最悪なことに、この日の私は、この先に待っている私の人生が、予想以上に曲がりくねってしまうことを、軽視していたのだった。
読んでいただき、ありがとうございました!
初めて書いてみた小説です。3連休を使って、書いてみました。
主人公の人格がめちゃくちゃになるところもあり、まだまだ未熟者です。
ご感想、ご意見をお待ちしております。




