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フィーカスのショートショートストーリー

言い当てる少年

作者: フィーカス

 この世の中は、いろいろと腐っている。

 人のためにだとか、絆だとか友情だとか、戦争反対だとか、そんな善言を言いながら、犯罪なんて一向に減りやしない。

 本当に誰もがそんな善言を実行しているなら、こんな犯罪なんて起こらないだろう。どうせ、口ではいろんなことを言いながら、みんな自分のことしか考えていない。

 昨日も強盗と強姦事件、そして誘拐事件が二件。今日なんて、公園で白骨死体の一部が発見されたらしい。まったく、毎日ろくなことが起こらない。

 黒いフード付きのコートを着た青年は、お気に入りの骨付き肉にかぶりつきながら、そんなことを考えていた。

 真昼間の駅前は、昼食時間のためか、たくさんの人でざわざわと賑わっている。

 気持ちがいい快晴、真上に太陽が燦々(さんさん)と輝いているというのに、一つ風が吹けば肌にその寒さが伝わってくる。

 何か面白いものはないかと青年が駅の近くをうろうろしていると、出口から少し離れた場所にある花壇に人だかりが出来ているのを発見した。

「ん、なんだありゃ?」

 花壇に座った少年が、人を指差しながら、何かを言っている。そのたびに、「おおっ」と、周りの人が驚いているようだ。

 もっと近くで聞いてると、「肉」とか「魚」とか言っている。一体何だろう。

 さらに近づくと、一人の男性が指差され、少年が「肉」と言っていたところだった。

 男性は、「おお、その通り」と言うと、周りの人が「おお、また当たった」と声を上げた。

 もう少し近くで見ようとすると、周りの人の一人が青年の手を引き、少年の前まで誘導した。

「この子はね、昨日食べた夕食を言い当てることが出来るんですよ」

 ああ、そういうことか。どこかで聞いたことがある話だな。ネットか何かの話だったか。フィクションだと思っていたが、実際そんなことが出来るやつもいるんだな。

 等と骨付き肉を加えたまま少年を見ると、すっと青年に人差し指を立てた。

「……に……」

 言いかけると、とたんにがたがたと震えだす。一体何があったのかは知らないが、何か青年に恐怖しているようだ。

 少し体を近寄せると、さらにその少年は怯え始めた。

 別に青年の顔つきはそこらにいる高校生くらいの容姿と大して変わらないし、ことさら怖い顔をしているわけではない。が、少年はどうも別のことで怯えているようにも見える。

 仕方ないので一旦少年と距離を置く。すると、少し落ち着いたのか、少年は一度深呼吸し、青年に向かって言葉を発する。

「……肉」

 言い終わると、少年は手を下ろし、青年から目を背けた。

「いかがですか?」

 一瞬何がだ、と思ったが、そうか、そういえば昨日の夕食の話だったなと思い、骨付き肉片手に、青年は答える。

「ん、まあ、そうだな、確かに昨日の夕飯は肉だな」

 青年がそういうと、観客からはまたもや歓声が起こった。

「どうですか、すごいでしょ?」

「ん、あぁ、すごいな」

 先ほどから話しかけてくる観客に聞かれるが、ひとまず無関心に回答しておく。

 そうしてそっと人ごみに紛れてその場を後にしようとする。

 人ごみへと消える間際、再び少年のほうを見た。目を合わせると、少年はびくりとして目を反らした。未だに震えているように見える。その様子を見ながら、青年は人ごみから姿を消した。


 夕食を言い当てる少年、か。まったく、たしかにすごいとは思うが、そんなことでしか楽しみを見つけられない奴らって、何なんだろうな。もっと楽しく生きればいいのに。

 まあ、他の奴らを心配してもしょうがない。青年は駅を後にし、近くの公園に向かう。

「……それにしても、なんでわかっちまったんだろうねぇ……」

 青年は、食べ終わった骨付き肉の骨を、公園の花壇の土の中に埋めた。

 世の中はいろいろと腐っている。くだらないことで時間を潰し、夢という名の幻想しか見ない。

 どうせ明日のニュースの事件といったら、公園から白骨死体が出たとかいう程度だろう。

 どこかの書き込みであった話を、少しアレンジしたものです。実際の話は、途中に「人間」という言葉が出てきて、それに気が付くと「うわぁぁぁ!」ってなる話なんですけどね。

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