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忘れ物は何?

作者: 久遠深奥
掲載日:2011/07/20

初投稿です。


20xx年、夏の某都。


都会にはありふれた形のマンションから、

これまたありふれたスーツを着た男が出てきた。

寂しい頭とは対照的な、くっきりしたあご髭が特徴である。


男は中年のサラリーマン。

妻もいなければ、もちろん子供もいない。

会社に行き、家に帰る。

そんな日々を繰り返して10年生きてきた。


今日も、男はそんな日常を過ごすはずだった。



「あの、失礼ですが、何か忘れ物をしていませんか?」


それは、蒸し暑い連休明け、会社への道のりでのこと。


向かいから歩いてきた老婦人が、

こちらを見た瞬間に言った言葉だ。


通勤時にいつも見かけるものの、男にはこの老婦人との面識はない。

やや驚きながらも、今の自分の服装を眺める。


クールビズのため半袖のワイシャツに、いつも通りのビジネスバッグ。

もちろん靴だって履いている。

どこか不備があるようには思えない。


「いえ、何も忘れてはいないと思いますが」


男はやや迷った末応えた。

老人に良くあるお節介だろうと判断したのだ。


「あらそう、ええ、そうかしらね。なら良いのだけれど…」


老婦人はそう言って、そのまま歩いていった。


男の胸に疑問を残したまま。



「ねえねえオジサン、忘れ物してない?」


それは、会社に程近い道路で信号待ちをしていた時のこと。

隣に来た小学生たちが、いきなり男へ向けた言葉だ。


二度目の質問に、男もやや不安になった。


「何か忘れ物をしてるように見えるかい?」


相手が子供ゆえの聞きやすさもあり、男はなるべく優しく尋ねた。


「うん! あのね、たりないよー!」


聞かれた子供が応ると、他の子も口々に足りない足りない、と騒ぐ。


もう一度自分の服装を見て、男は一つの結論に辿り着いた。


――――ネクタイが無いのだ。


季節は夏。クールビズのため、ネクタイは不要だ。


しかし、サラリーマンと言えばネクタイ。

その子供らしい固定観念からきた勘違いだったのだろう。


疑問が氷解しスッキリした彼は、優しく子供に話しかけた。


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」


そうして彼は、会社へと歩いていった。

今日も一日、頑張らなくては。



彼は自分の持ち場について、軽く息をつく。

会社の中は冷房が効き、とても快適だ。


「あの、課長、何か忘れ物はありませんか?」


――またか。

男がそう思いつつ目を向けると、新人の女社員が立っていた。

どことなく張り詰めたような表情だ。


まさか、新人とはいえクールビズを知らないわけが無い。

でないと会社員失格だ。

第一、他にもネクタイをしていないやつはごまんといる。

そこまで考え、男は再び疑問を感じた。


――では、彼女は何を忘れたと思っているのだろう?


ふと視線をずらすと、社員はみなこちらを見ていた。

そして、目を向けると一様に顔を背ける。

ワケが分からない。


分からないことは偉い人に判断を仰ぐ。


会社で教えられる基本中の基本

それを実践すべく、男は部長を見た。



そして、何かに気づく。



しかし、その何かが男には分からなかった。

この違和感を解消すべく、男は部長に話しかける。


「部長、どうかしたんですか?」


「いやあ、まあ、な…」


しかし、部長は頭を掻きながら、歯切れの悪い返事をするのみ。


手がぽりぽりと頭を掻き、薄い髪の毛が揺れる。


その仕草を男は見つめ、そして、





そして、気づいた。




――――俺、アレ忘れた?




「部長。一時帰宅させていただきます!」


言うが早いか、男は会社から家へと駆けた。

すれ違う人がみな、視線を向けてくるような意識に駆られる。

そして忘れ物をひっつかみ、所定の位置に置くとすぐさま家を出て、また会社への道を急ぐ。


そんな男の頭には――――

黒々とした、髪の毛が乗っていた。

作者は人生で、一日に最大五回忘れ物をしたことがあります。

教科書、宿題、定期、体育着、財布…

学生というものは、うっかり屋に残酷なようで。


では、読んでいただきありがとうございました。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変読みやすく、読後感も良い。 作品全体にどこかホノボノとした空気が感じられ、オチではクスリとさせられる。 特に会社のシーンでは周囲が主人公に対して気を使い、足りない物について言及するのを…
[良い点]  構想の勝利! と言わざるを得ません。不覚にもオチで爆笑してしまいました。 [気になる点]  悪い点といいますか、「、」で区切られすぎているかなぁという印象を受けます。  最近高校の授業…
2011/07/20 22:48 退会済み
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