第八話 まさかの○●戦!?
エヴァ(亡霊)「皆様、覚えていますか?私はエヴァ・ブラウン。
今回のメインキャラ中唯一の死者であり、クリスチャンでもあります。
何処かの独裁者の愛人と名前が被っているとの話もありますが…まぁ良いでしょう。
それでは『白い巨像第五部』是非お楽しみ下さい」
―前回より・空母内部・総統室―
「何?一体何が起こっているの!?
どういう訳なのよコレ!?何?制裁?制裁なの?制裁だって言うの?
てか博士何処行ったのよー!?」
不二子の混乱は、暫く収まりそうにない。
―同時刻・東京都―
松葉は遂に「新技」という奴を発動した。
彼の頭部は禿げ狗のそれであり、右肩からは怪鳥の頭が、左肩からは怪魚の頭が生え、胸では蟲の大群が、背中では蛭の大群がそれぞれ魔獣の頭を作り出し、左脚はヒトデの様に、右脚は蛸の足を思わせる外見へと姿を変えていた。
この内、禿げ狗・怪鳥・怪魚・蟲・蛭はそれぞれ大気や土や瓦礫など周囲のあらゆるものを吸い込み続けており、残るヒトデと蛸の足も、地面から様々な物体を吸収しているようだった。
周囲に居た松葉の仲間達は、それをただただ遠目に見守ることしかできなかった。
巨像は松葉を殴りつけようとするが、周囲に吹き荒れる強風の所為で腕が流されてしまい上手く攻撃を当てることが出来ず、結局手も足も出ないまま放置する事しか出来ないでいる。
そして次の瞬間、仲間の一部―即ち、共に空母へ突撃した面々―の身体に、異変が起こった。
「何…?何が起こってるの…?」
「手~?」
「オイオイ…こりゃあヤバくねぇか?」
「田宮様…」
「私達は…一体…?」
その場に居合わせていた雅子、恋歌、鉄治、千歳、千晴の身体が、まるで砂のように崩壊を始め、風で何処かへ流されていく。
更にそれは、アメリカで今後の動きについて話し合っていた薫と直美や、ヨーロッパにて休憩中だった健一と大志にも起こっていた。
そして一分もしない内に、これら九名の異形は、突如忽然と姿を消した。
「…どういうことなの…」
一人残された逆夜は、ひとまず落ち着こうと、来るはずもないピザの出前を取ることにした。
―同時刻・瓦礫の那覇市―
“計画”実行の為、ひとまず那覇にて休憩を取っていた玄白とサヴラの元に現れたリージョンは、何やら色々と変だった。
「元々から変だろ」等と野暮な突っ込みをされては元も子もないが、今の彼は言うなれば何時も以上に変だった。
「ヒギィィィィィィィ…其之スメェェル…古藤様にサヴラですナァァァ?」
「あぁ、そうだ。リージョン。僕だ。古藤だ」
「そうだよリージョン。安心して。サヴラだから」
「アギィィィィィィィ…沿いツァ良克tter……古藤様ァ…サヴラァ…尾願ェでス…私を…ワタクシをォォ……」
胸を隠し、息切れを起こしながらリージョンが言った言葉は、衝撃的なものであった。
「…私を殺しチマッテ下セェェェ!!」
「そんなッ!?」
「………どういう事だ?リージョン」
「家ネぇ…明地のガキが計画にHANTAIシやガッたモんDEATH唐ァ…喰って殺ッタんデスワぁァ……ソシタラねェ……このザマです世ォォォ…」
そう言ってリージョンが自らの胸をさらけ出すと、其処には例の巨大な赤い眼球が現れる。
「…私が……自分が……徐々に消えテク様なんdeath和ァ……私が言うノモ何でスがネェ……コリャぁ、ハッキングされてる様なンデスよおおぉぉォォォォォooooooo!!」
暫く痙攣した後、リージョンは今にも途切れそうな言葉で言った。
「コ・ト・ウ・サ・マ……コ…コ……オ……
オ
ト
ウ
サ
マぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァaaaaaaaaaa!!」
悲痛な叫びを最後に、益獣部隊のリージョンという存在は完全にこの世から消え失せた。
残ったのは、様々な遺伝情報と単純な一つの命令だけを持った異様な肉体のみ。
「リージョン!」
「止せ、サヴラ…」
「でも古藤様…リージョンが…」
「無駄だ…彼はもう死んだ…明地長閑に殺されたんだ…」
「そんな…」
「…あの女め、現実逃避から来るくだらん思想への忠誠心とちっぽけな自殺願望の為に僕の家族を奪いやがって…」
「…」
「サヴラ…これから僕は彼に殺されるか、彼を殺すか、どちらかの道を選ばなければならないようだ…明地の『心臓支配』は、発動中奴を殺してしまったが最後、体内に発生した巨大な目玉によって自我を完全に抹消され、予め設定されていた単純な命令を遂行するか死亡するまで、永遠に支配され続けてしまう…。
まぁ発動中は異形としての能力を失ってしまうが、それこそが奴の狙いでもあるという事だろうね。
自殺してでも油断に漬け込んで相手を操り、自らの代理として行動を起こさせる…何とも酷い技だ…。
そしてまぁ、奴の命令と言えば大方『古藤玄白を抹殺せよ』とか、そういう旨のものなんだろうよ。
大方、僕が只の平和呆けし過ぎた理系だとでも思っていたらしいね。
…彼女は確かに知的で聡明だった…陸軍総司令としても申し分なかった…。
だがしかし彼女には、一つ大きな過失があった…それは即ち」
玄白は、操られた嘗ての部下を睨み付けながら、静かに言った。
「僕の能力を知らなかったと言うことだ」
玄白はサヴラに逃亡及びある作戦の遂行を促し、彼女が地面に染み込んでいったのを確認するや否や、その全身に力を込め、能力を発動した。
「ォヮアア!」
リージョンの一撃を避け、その場に落ちていたペットボトルと鉄筋とを拾い上げた玄白は、その二つを何と手の中で|捏ね繰り(こ く )回し始めた。
粘土のように混ざり合う二つの全く異なる物質は、玄白の指先で次々と形を変え、針の部分に"返し"を持ったダーツへと変形。
玄白はそれを投げつける。
投げつけられた4本の返し付きダーツは、全て狙い通りにリージョンの胴体中央にある赤い目玉へと突き刺さった。
苦痛故に絶叫するリージョンは、それを一気に全て引き抜いた。
嫌な音を立てて、リージョンの肉が大幅に引きちぎられる。
「僕の能力が一つ、『融合』で試しに作ったダーツ…中々の威力らしいが、やはりそこはリージョン。
相当な生命力だ」
玄白は続いて動作を起こそうとするが、リージョンの追撃が襲い来る。
「ぶふっ!?」
玄白の顔面から腹にかけて、長径3m程に巨大化したリージョンの拳が叩き込まれ、腰から上が無数の黒豆のような物体になって完全に吹き飛ぶ。
しかし拳が引っ込んだ直後、地面に散らばった黒豆が一成に動き出し、それらが玄白の身体へ終結し、寄り集まって玄白の身体を再構築していく。
よく目を凝らせば、それは黒豆ではない。
小さな甲虫である。
どういうわけか、玄白はリージョンの拳が直撃する寸前で無数の甲虫に化けて攻撃を回避したのである。
「第二の能力、『細胞』でゴミムシに化けてみたんだが…どうかな?」
玄白はリージョンに問いかけるが、当然自我の消失したリージョンが問いに答えるわけもない。
「…長引くな、これは。
だが逃げても居られないぞ…子供の面倒を最後まで見るのは親の務めだからな」
―同時刻・何れかの意識空間―
消滅した9名の異形達は、何者かの意識空間らしき場所で目を覚ました。
「…?」
「…ん?」
「…ぁぁ…?」
何が起こったのか判らない9名は、殆ど言葉を発さないまま暫く周囲を見回した。
―どうやらあの作戦で空母に突撃し、生存したメンバーが集められているようだ。
意識がはっきりとしないので、そんな事ぐらいしか理解できないで居る。
その中に松葉が居ない事すら、認識できていない。
そして、もう聞くことの出来るはずの無いある人物の声を耳にし、ようやく意識がはっきりした。
「皆様、集まってくださったのですね」
更にその声のする方を見て、9名は驚愕した。
「「「「「「「「「!!??」」」」」」」」」
そこに居たのは、第三部で死亡し本人の意思により松葉に食われた筈のエヴァ・ブラウンだったのである。
「ブラウン殿…何故此処に?」
「そうですよ。エヴァ姉さんは確か…あの消二カルト教祖野郎に殺されて、その後手塚さんに喰われた筈―――!!」
雅子の頭の中に、ある仮説が浮かんだ。
―考えたくないことだが、絶対にありえないとは言い切れない…だがしかし、まさかそんな事が?
そんな風に雅子が悩む一方、安堵するエヴァと無表情な健一を除く他7名は悩む雅子に首をかしげている。
そしてそのまま沈黙が続くかと思われた時、最初から表情を変えていなかった健一が口を開いた。
「楠木様、貴女の推測は判りますし、そして恐らくそれは正解でしょう」
「―!?そんな、黒沢さん…じゃあやっぱり此処は…」
「えぇ。恐らく、というか確実に―手塚様の意識空間でしょう」
その一言に、エヴァと雅子を除く七名が驚きの声を上げた。
更にその直後、何処からか一匹の痩せ細った体つきで眼鏡をかけた赤い猫が現れて集団の視線が集中する場所に腰を下ろすと、低い女の声でこう言った。
「よく悟ったな。楠木雅子、黒沢健一」
「…テメェ、何者だ?」
鉄治の問いに、猫はにやけてから答えた。
「私か?この私の事か?
…良いだろう、勿体つけずに名乗ろうじゃないか。
私の名はチダマリ。
時に貴様等を率い、時に混乱させる男・手塚松葉の持つ能力『禽獣』を象徴する、奴の化身だ」
一同は驚きの余り言葉を失った。
手塚松葉という男は、存在そのものが恐ろしげで近寄りがたく、謎も多く実質途轍もなく恐ろしい男だ。
そしてその能力『禽獣』もまた、暴力的でおぞましいものである。
だからこの場の10名(エヴァ含む)は皆、松葉の化身もまた恐ろしげな姿をしているのだろうと思い込んでいた。
実質、能力が松葉と若干似通っている直美の化身・詠永は肉食獣の姿をしているし、薫の化身・ケイジや、健一の化身・インジャステイクなど、性質は兎も角外見等は能力を表しているし、雅子に関してもその猟奇性・奇抜さはまさに蜘蛛と言い表せる。
だから、普段から松葉と関係が深い面々は、彼の化身もどうせ凶暴な獣の姿をしているのだろうと、そう考えていた。
だがしかし、今現在彼等の眼前に居るチダマリは、そんな予想を見事に裏切っていた。
辛うじて共通しているのは、動物型であるという事くらいであろう。
そして遂にチダマリから、この謎の事態についての説明がなされる。
「まず基本的なことを言おう。
貴様等の中には、我が主手塚の変身後の姿が変わったのを目の当たりにした者も居ると思う。
その件の真相についてだが、我が主手塚は対象の同意下に於いて他の異形を捕食し、その能力或いは化身の特性の一部を獲得するに至ったのだ。
つまり、あの姿は―」
『奴が俺の性質を頂いてくれたというわけだ』
何時の間にやら現れていたエヴァの化身がそう言う。
「有難う、白熊。
ちなみに言っておくと、今貴様等の眼前に居るエヴァ・ブラウンとその化身とは、あくまで手塚の意思により擬似的な生命を譲渡し、どうにか意識空間に留めているに過ぎん。
よって、あまりもの長時間この場に存在し続けることは残念ながら不可能である事を言っておく」
「じゃあ、アタシ達は?」
「貴様等の肉体は現在生きたまま手塚に吸収され、奴の肉体と融合している状態だ。意識だけは此方に持ってきているがな。
心配するな、死にはせん。ただ一時的に合体しているだけだ」
「つまりアレかよ?俺達ァロボみてぇに旦那と合体してる状態だって事か?」
「そういう事だ」
「…なんで?理由は?」
「巨像に対抗するため、奴が編み出した新技を発動するためだ」
「新技ァ?またあの武装作戦みてぇな奴かよ?
だったら俺は話によっちゃ降りるぜ?」
「あー…田宮君、確かにあの作戦は酷かったけどそれは無いんじゃない?」
「似ているが、あんなものとは比べ様が無いほど強大に結ばれている。
それに、融合参加者数が多い分、力も強力だ。
何せあの作戦はあくまで『変形した異形二名での武装』だったが、此方は『異形十一名の融合』だからな。
一個体の意思により、全十一通りの能力を使いこなすことが出来る」
「…凄まじい数ですね…」
「だろう?私も最初は驚いたよ。しかし現に奴は今、異なる性質の肉体同士を融合させ一個体に纏め上げた上で、更に巨像に対抗する為必死の巨大化を試みているのだからな」
【「巨大化ァ!?」】
「左様。霧散化した後、周囲に散らばっている死骸等の有機質で身体をどうにか補い、更に部位によっては瓦礫や岩石で補うそうだ」
【「はぁーっ!?」】
「故に手塚の奴、あと一分半は会話等諸々の作業が出来んそうだ。
だが心配するな。奴は融合と巨大化の最中、防御壁として周囲に大型台風レベルの強風を巻き起こしている。巨像の拳も受け流す程のな」
「…何やってんだろあの人…確かに巨像はおっかないけどさ…」
「発想が既にヤバイだろ…なんだよ巨大化って…何だよ合体って…」
「っていうかもう何か…」
「強風起こすって時点で被害考えてないよね…」
「その発想は無かったわ…」
「つーか要らんかったろJK…」
「まっちゃん…」
松葉の案を不安がる面々。
しかし、薫と健一は違った。
「いやいや、エヴァ殿を含め我々十一名の心を一つにするという意味でも、合体とは中々素晴らしい案ではと思いますよ?」
「なってしまったものは仕方ありません…というより、あの巨体を倒す為なら、この程度の事は仕方ないでしょう」
薫は兎も角、普段から指揮者として動くことの多い健一の言葉があっては同意せざるおえず、チダマリの指示に従う事となった。
チダマリの指示により、白い床に立たされる十人。
そして一分後、自分達を此処へ呼び込んだ張本人が、十人の眼前へと現れた。
「オウ、よくまぁ拒否しねぇで来てくれたな手前等。おっさん嬉しいぞ」
突然現れた松葉に驚きながらも、口々に思ったことを言い出そうとする雅子達の発言を遮りながら、松葉は話し続ける。
「とりあえず俺が起こしてる防御用竜巻の効果があと三十秒もしない内に途切れちまう。
よってこれより、合体っつーか融合は最終段階に入る。だがまぁ、何がどうなろうが手前等がやることなんぞ特にありはしねぇ。
あるとすれば精々、必死の自己アピールを続ける自分の姿を妄想しとくって事ぐれぇだ。
こんな無計画な奴に言いたい事なんぞ山ほどあるだろうが、これも巨像撃破の為だ。全力を尽くしてくれ!」
そう言い捨てて松葉が消滅するのと時を同じくして、残る十名もその場から消滅した。
そして三十秒後、防御用竜巻は消滅した。
―一方その頃・東京都―
苛立ちに苛立った巨像の振り下ろした拳は、巨大な銀色の右手によって止められた。
巨像の顔に初めて驚きの表情が産まれる。
銀色の右手は拳を投げ返し棍棒に変形。そのまま横に巨像を殴りつけた。
更に腕を起点として、その巨体が徐々に姿を露わにしていく。
まず銀の右腕から、白い毛に覆われた胴体、続いて青い鱗や甲殻に覆われた獣とも蟲とも取れる頭部と、そこから生える湾曲した角や鶏冠に、刃物で構成された左腕。
背中には鳥のような白い大きな翼が生え、左脚は蛍光風黄色の樹脂を固めたような角張って透き通った形で、右脚は獣のようでありながら虎模様の毛皮を纏いそれぞれ現れる。
最後に現れた尾は黒い鞭が何本も束ねられたように見えており、様々な力を秘めていそうだった。
これぞ、手塚松葉が自らの同士十名の異形を取り込み融合、更に巨大化した姿である。
生物というより建造物と考えるしかないような巨体は巨像と同程度。
全身の各部位にそれぞれ取り込んだ同士の性質を出すことで、より効率的な戦闘が可能となっている。
まず頭部には、雅子と恋歌と千歳と千晴。
頭部全体を形作るは雅子であり、状況に応じた変形によって様々な形式での攻撃を行う。
角は千晴と千歳、鶏冠は恋歌。これら三つは何れも感覚器官を強化する働きをする。
銀色の右腕は鉄治、刃物で構成された左腕は薫で、こちらも攻防を両立させる武器としての役割を持つ。
翼はエヴァのそれであり、飛行以外にも防護壁展開や回復力促進などの効果を発揮する。
右脚は直美、左脚は大志であり、どちらも高い筋力と運動神経を見込まれて脚力の担当として起用された。
黒くしなやかな尾には健一の性質が現れており、伸ばしたり分離させたりすることで拘束や打撃に用いる他、健一が持つ『線分』の能力を行使することも可能なため、様々な使い方がある。
初手を止められるどころか投げ返された挙げ句に殴られた巨像は、集合体の異様極まりないデザインに大して若干の恐怖心を覚えた。
しかしその恐怖心はいつの間にか消えており、次の瞬間には既に集合体へと殴りかかっている。
首都に現れた二匹の巨大生物による戦いは、正直どうなるのか全く予想が付かない。
―同時刻・空母内―
「ま、良いわ。
とりあえずあそこは巨像に任せる方向で」
そう言って不二子は、再びのんびりとくつろぎ始めた。
裏で何者かが蠢いて居るとも知らずに。
次回予告
エヴァ(亡霊)「そういう事なのです…それでは皆様、今後とも蠱毒成長中を宜しくお願い致しますわ…」
次回「巨像、絶命」




