第五話 巨像の力
鉄治「よう!金属男の田宮鉄治だぜ!
今回は俺がこの前書きと後書きを担当するぜ!
と、言っては見たが大したネタ用意できなかったんだけどな!
それじゃあ読んでいけよ!『白い巨像第五部』!」
―東京都上空―
壮絶さを増す戦いは、巨像が松葉を圧倒していた。
武装によって破壊力を上げた松葉であったが、巨像と違い遠隔攻撃用の装備を持ち合わせていなかった。
この事から、松葉の肌は威力を増すレーザー光線によって焼かれ続けた。
しかしそれだけならば、底無しの生命力と常軌を逸した再生力によってカバー出来たであろうし、そもそも遠距離攻撃など松葉にとってはハンデにならない筈であった。
しかし、それを立派なハンデにしてしまう要素が、このレーザー光線には含まれていた。
レーザー光線によって作られた傷は、一切回復しないのである。
また、レーザーに焼かれた松葉は、原因不明の凄まじい疲労感に襲われていた。
そして遂に、肥大化した左腕の拳が松葉の腹に叩き込まれてしまった。
松葉は両の手に握り締めた武器―基、恋人みたいな奴と舎弟みたいな奴―を手放し、勢い良く巨大なビルへと激突。数本の建造物を突き破り、7本目のビルへ食い込んだところで漸く落ち着いた。
地面へと落ちた二人も、武器状態を強制解除され、地面に打ち付けられてしまった。
巨像はそれを見て、満足げな顔をした。
それは巨像が、初めてまともに表情を変えた瞬間であった。
地面に降り立った巨像は、ゆっくりと、静かに歩き出す。
その視線は、地に伏した雅子へと向かっている。
「…野郎………させっかァ!」
鉄治はエネルギーの尽きかけた体細胞を無理矢理起動し、巨像へと斬り掛かる。
しかしその努力を蔑ろにするかのように、巨像は鉄治を腕一振りで突き飛ばす。
「「田宮様ッ!」」
体力が限界に達しながらも、千晴と千歳は主の元へ駆け寄る。
死骸のように動かない鉄治だが、まだ死んではいないらしい。
他にも巨像に立ち向かう異形は大勢居たが、何れもその圧倒的な力の前には全く歯が立たず、多くの者が重傷を負い、死者も少なくはなかった。
そして巨像は遂に、自らの目的である地に倒れ伏した雅子の元へ歩き付く。
そして巨像は静かにしゃがみ込むと、雅子の身体へてを伸ばし、
彼女を抱き抱えた。
「(……あいつの目的は……一体何なんだ…?)」
重傷を負った一人・逆夜は、余りにも不可解な巨像の行動を心の底から疑っていた。
殺すか、喰らう。
逆夜の予想していた巨像の行動とは、精々こんなものだった。
雅子が巨像の眷属だから、同族嫌悪で相手を殺すか、力を吸収し統合するために喰らうか。
その程度の予想しか、彼には出来ていなかった。
しかし現在の巨像の行動に、殺意や欲望といった感情は一切見られない。
それどころか、巨像は雅子を愛しているようにすら見えた。
「(……どういう事だ…?……何故、自我を奪還した巨像が、あんな行動に……?)」
少し考えた逆夜は、ある結論に至った。
しかし逆夜は、自ら導き出した結論を、心底疑ってもいた。
目覚めた当初、何者にも操られていない状態―即ち、自我を保った状態―で、長期間に渡る無差別な破壊活動を繰り返した筈の巨像の行動を、そんな結論で片づけてしまっても良いのか?
そんな疑問を抱えながらも、逆夜は思う。
「(………家族愛……なのかね…)」
―同時刻・インド―
「ふぅ……これでこの辺りはそこそこに制圧したし、暫くは休憩と葬式に専念出来るな…」
そう言って、元々金持ちの花壇だった場所に、四本の腕と日本のスコップを器用に使って穴を掘る司馬。
あれから後、司馬専属の特殊部隊・天竺隊は部隊長である彼を残し全滅。
周辺の敵戦力をある程度削りきった司馬は、死んでいった部下達を弔う為の墓穴を掘っていた。
「すまなかったな、哀。
幾ら酒の勢いだからって、BA○○RAは腐受けを狙っただけの厨二作品だなんて言ってしまって…あの後実際にノベライズを読んでみたらとても面白かったよ……薦めてくれて有り難う…。
申し訳ないよ、泰蔵。
油圧ショベルはVOLVO社製こそ正義。テレックスRH4000なんて邪道だなんて言ってしまって…よく見てみたらあのボディは最高だったよ…一生懸命語ってくれた君に謝れなかった…。
悪かったよ、ヨシエにジョンソン。
天竺隊全員がそうなんだが、君らは特に僕にとって部下以上の存在だった…それなのに護ってあげられなかった事が悔しくて堪らない……」
司馬の葬式は三時間に及び、その所要時間の九割は祈りと追悼の言葉に費やされた。
それ程に、彼の中でこの四名の部下は大切だったのである。
そして、司馬はその場を立ち去ろうと立ち上がり、携帯電話を見た。
人禍機関員の携帯電話は特別な品で、登録されている機関員に関するある程度の情報をリアルタイムで知る事が出来る。
また、総統と幹部についてのデータはデフォルトで入っており、現在位置と生死の確認が瞬時に行えるようになっていた。
そして携帯電話を確認した司馬は、何処か遠い目で呟く。
「…曽呂野嬢が反逆者となった今、残っている正規幹部は総統を除けば、僕と古藤博士に、ジョーンズ司令官と明地さんか……。
…上位二名が正規人員として存命の上、各軍令官も二人生存しているが…さて、どうしたものか…」
目を閉じて考え込む司馬。
しかし、良い考えなど浮かばない。
だが、最高の決心だけはついたようだ。
「仕方ない。一度乗ってしまった船だ。
途中で居りようものなら海に真っ逆様で落ちていく。
そうなれば溺れ、飢え、凍え、喰われ死ぬは当然!」
司馬は一歩を踏み出しながら夜空へと言い放つ。
「ならば岸に着くまで、船が沈むまで、己が死ぬまで乗り続けよう。
それが船員の使命なのだ!それが船員の宿命なのだ!」
そう言って踏み出した司馬の左胸に、一本の白い矢が突き刺さった。
「畜生め、言ってる側からこれだよ。全く、僕だなぁ。
あぁ、これから死んでいくというのに苦しくないよ。
あぁ、敵の攻撃を受けたというのに悔しくないよ。
あぁ、それどころか嬉しいよ!
あぁ、畜生!何もかもが素晴らしすぎていて、生きてゆくのが辛い!」
腹の底から叫んだ司馬は、口から血を吐きながら両膝を地面についた。
そして遠のく意識の中、彼はある者の姿を見る。
「あぁ……貴方は……まさか…?
しかし…何故…貴方…が……」
ドサリ、という鈍い音と共に、司馬はその一生を全うした。
結局、自らを殺したのが何者なのかを読者に知らせる間もなく。
―同時刻・アメリカ―
アトス、ハーカー、アラミスの三人は、道中出会した三人の連盟関係者と激戦を繰り広げていた。
その三人とはそれぞれ、スク水の少女、長身長髪のメイド、小柄な魔法使いであり、何れも各国連盟の中堅であった。
まず一人目、アトスとハーカーを相手にしているスクール水着姿の少女・蒼子。
頭髪は少々癖のあるスカイブルーのショートカットで、魚の胸鰭を思わせる風変わりな耳を持ったこの異形は本来かなり大人しく温厚で臆病な筈なのだが、今回はどういう風の吹き回しか積極的に殺し合いに参加していた。
『流水』の能力により水を操り、また自らも自ら水へ瞬間移動を繰り返す。
見渡せば辺りには河川や水路等がぽつぽつ存在し、これにより彼女はアトスの鉄球を軽々と交わしながら必殺の水鉄砲で二人を狙撃する。
次に二人目、蒼子に協力している小柄な魔法使い・智夏。体格・顔つき・服装からして少女のような外見だが、男性である。
陽気で活発。負けず嫌いで自分が男である事に誇りを持ち、女扱いされる事を極端に嫌う彼は、親友であり良き理解者でもある蒼子に積極的に協力していた。
『魔砲』の能力により連射される強烈な光弾は、アトスの強固な甲羅をも砕く勢いを持っていた。
更に三人目、アラミスと対峙する長身のメイド・ルヴィナスは白銀のクレイモアを優雅に振り回す。
整いながらも冷たい顔立ちの彼女は、尻まで届く紫のポニーテールを棚引かせながら、相手を嘲笑うかのような低空飛行を続けるアラミスを、的確に追い回す。
『凶刃』の能力によって射出され、飛翔・浮遊・分裂を繰り返す刃は彼女の意志によって精密に操作され、全ての角度からアラミスを追い詰める。
苦戦気味のアトス&ハーカーはさておいて、ここはひとまずアラミスに視点を絞ってみた。
ザガガガガガガガガガン!
細く美しい白銀の刃は、統制の取れた動きで空中を動き回り、一斉に地面へと突き刺さる。
それは当然、ルヴィナスによって操られたものであり、狙いは全てアラミスに定まっている筈であった。
しかしアラミスはまるで相手を嘲笑い、愚弄し、手中に収めたかのような立ち回りでそれらを避け続ける。
考え込まれた愚弄と挑発とを繰り返すアラミスに、ルヴィナスは冷酷な表情のまま剣を放ち続ける。
そして激戦が続くこと十五分後、驚くべき事が起こった。
それまで空中を飛び回っていた無数の刃が運動をやめ、一斉に地面に落下したのである。
無言のまま驚きを隠せないでいるルヴィナスに、アラミスは言った。
「表情を変えたな?驚いているな?動揺しているな?
無理もない。お前は私の罠にはまってしまったのだからな」
「罠……能力…!?」
「おいおい、バカな事を言うのは止してくれないか?
私の能力はそんな器用で強いものではないよ。潜在的才能という正解も無しだ」
「…何?」
「答えを言ってやろうか?簡単だよ。
能力制御により視神経を中心としてお前の頭に集中する諸神経が疲弊し、肉体がこれ以上の能力行使は危険だと判断、自動的に能力の制御を放棄したんだ。
お前のような未熟な癖に生真面目な後天性の間ではよくある事さ」
「…そんな…」
崩れるルヴィナス。
「まぁ…そういう事だ…」
アラミスは地面に落ちた刃を一本、片足と口と翼で器用に持ち上げると、それを崩れたまま動けないでいるルヴィナスの胸元へと投げた。
刃は一直線に飛んでいき、その心臓と背骨とを差し貫いた。
その一瞬を以てして、冷酷なるメイド・ルヴィナスは絶命した。
更に立て続けとばかりに千夏も殺害され、残るは蒼子だけとなった、その時。
突如地面から釣り針の付いた釣り糸が飛び出したかと思うと、彼女の肩辺りに引っ掛かり、蒼子はそのまま地面の中へと引きずり込まれてしまった。
残された三名は、当然何が起こったのか見当も付かず、ただただ立ち尽くすだけであった。
―同時刻・空母内―
「はぁ…どうしようかしら……機械兵は頼りないし、幹部も残り三人だし…後が無いじゃない…ねぇ、博士?」
軽く鬱状態の不二子は話題を玄白に振ろうとする。
しかし、その場に玄白の姿は見えなかった。
「…また私に黙ってどっか行っちゃってる…まぁ、良いわよね別に。
猫だって最後には飼い主の元に返ってくるし、ス○スクっていうよりは寧ろ○波だし」
そう言ってゆったりしながら、不二子は再びマイクを手に取る。
―再びアメリカ―
蒼子は、突然起こった出来事に戸惑うばかりであったが、自分を「釣った」張本人と名乗る男・シズルから事情を聞いていた。
「と、いう訳でだ。俺は親友である母子の仇を取らなくちゃならん。
悪いがここでお別れだ」
「はい…頑張って下さいね」
「言われるまでもない」
そう行って蒼子は水路へと消え、シズルもまた釣り竿を構え、二匹のペット達に命ずる。
「オータム、ゼロ……行け」
命じられた猫と犬は、物陰から飛び出してアラミスへと飛び掛かる。
「ぬぉっ!何だコイツ等は!?」
「アラミス!待ってろ、今助けてやる!
糞、この!退きやがれ畜生共が!」
アトスはアラミスの身体から、オータムとゼロを引っぺがして投げ捨てる。
無事着地するオータムと、背中を強打しつつも立ち上がるゼロ。
アラミスには傷一つ付いていないが、既に彼の作戦は成功していた。
その様子を影で見ていたシズルは、釣り竿のリールを力一杯巻き上げた。
そしてシズルのリールが釣り糸をある程度の所まで巻き上げた瞬間、
「グガラァ!」
アラミスの胸が内側から張り裂け、口から血液が噴き出し、傷口からは大きな釣り針に引っかかった鳥の心臓が飛び出した。
「「アラミス!」」
アトスとハーカーは仲間の身を案じるがしかし、時既に遅し。アラミスは絶命していた。
更に、心臓を引っかけたまま地面に潜った釣り針は地中を潜行し続ける。
「糞…何が起こってやがッ――!?
アトスが考え込もうとした瞬間、犬のゼロが彼の左脚に噛み付き、猫のオータムが彼の頭へと飛び移った。
ゼロの牙はアトスの硬い外皮をも突き破っており、それを振り払うのに夢中になっている最中、オータムはアトスの頭上に居たハーカーを喰い殺してしまった。
「あ、アトs――
「ッ!ハーカー!ッこの糞猫がァ!」
アトスは尚もしつこくへばり付く二匹の畜生を振り払おうと躍起になる。
しかし二匹の力は凄まじく、中々離れようとしない。
7分に及ぶ格闘の末、どうにか二匹を振り払ったアトスは、地面の石や土を能力で鉄球に加工して投げようとする。
しかしそれより前に、それはやって来た。
―ゥゥゥゥゥゥゥン―
「!?」
アトスが振り返ると、彼の眼前には何と折れ曲がった巨大な鉄骨が在った。
「何ッ!?畜ショ―ベガゴギュ!!
咄嗟に対応しようとするアトスであったが、時既に遅し。
折れ曲がった鉄骨は的確にアトスの顔面へ猛スピードで叩き込まれ、彼の頭蓋骨とその中に収まっていたあらゆる臓器とを粉砕した。
こうして、そこそこの犠牲者を出したアメリカの片田舎での虐殺劇は、あらゆる物体を水面同然に通過し全てを釣り上げる能力『釣人』の能力を持つ中堅異形のシズル・アングラスによって終わりを告げた。
―同時刻・東京都・連盟拠点―
フィールドを縦横無尽に駆け巡る六名の戦いは、熾烈さを極めていた。
あらゆる化学物質を産み出し、合成する『薬壷』の能力を持つ薬師寺は次々と即席の火炎瓶を作り出し、ウイルス故に熱に弱い竜一を追い詰める。
盛は、ウィナグと激闘を繰り広げる曽呂野と斑とを射撃で補助する。組織に入った時自ら志願して訓練を受けていた甲斐があったというものだ。
「最高だ。これなら何時死んでも悔いはない」
笑顔でそう言う竜一の身体は、既に三分の二以上が失われていた。
「凄まじいな君は。私特製の油脂分解性発泡光線で表面を覆う脂の膜を分解し、超高温酸素過剰アセチレン炎で焼き払おうとしたというのに、まだ三分の一も残っているとは」
「あぁ…何とか逃げ切った…だがこの身体ももう持つまい…今も全身が次々に死につつある…」
「そうか?それはある意味に於いて残念だな。天下のエボラウイルスがこの程度でへたって欲しくはなかったんだがな」
「そうか?だったら…」
竜一は残り少ない肉体を自ら細かなウイルスへと霧散させつつ、声高らかに言った。
「俺が完全に死ぬ前に、お前を完全に殺す!」
しかし、その企みは見事に崩れ去る事となる。
突如、竜一の残る体組織が驚くべき速度で、それも目に見えるような規模で死滅を始めたのである。
「な…何だコレは!?
俺が……俺が消える!」
理由もわからず自らが消滅するという恐怖に戸惑う竜一は、攻撃所ではなくなってしまっている。
更に其処へ追い打ちとばかりに、薬師寺が試薬とライターで発生させた炎を放つ。
「ぐぉぉぉぉぁぁぁ!糞ッ!消える!焼き消えてしまう!切り離そうと思っても、切り離れんッ!」
燃え盛る自らの肉体をどうする事も出来ないまま死に行く竜一は、最期に一言、こう叫んだ。
「だがしかし、悪い気はしないぞ―
こうして、五死頭分隊隊員「死」の竜一は絶命し、また消滅した。
そして、仲間の死を眼にしたウィナグは呟く。
「…竜一様…いずれ地獄で」
次回予告
鉄治「いやぁ、あの時はマジで辛かった…思い出すのもヤバイくらいにな……。
あんま喋りたくねぇから、さっさと行くぞー。
次回『巨像の真意』!ぜってー読めよ!」