第三話 在日米軍抹殺計画
千歳「読者の皆さん、今日は!妹尾千歳です!」
千晴「同じく、妹尾千晴です!」
姉妹「「二人合わせて、日異連のオ○セン姉妹です!それを言うならマ○カナだろという突っ込みはやめてね!」」
千晴「そんなわけで、白い巨像第五部」
千歳「このあと直ぐ、始まります」
姉妹「「張り切って、どうぞ!」」
―前回より・世界各国―
各国首脳が軍隊を起動してから、まだそんなに時間が経ったかというと、別にそういうわけではなかった。
しかし侵攻する異形達の勢いは、未だに兵士の人数で戦力が決まると考えている韓国軍は勿論、百戦錬磨のヨーロッパ諸国軍、そして『自らの意志で牙を剥く事』が出来ず『その力を守る為にしか使ってはならない』という事を除けば一騎当千の破壊力を誇る我が国の自衛隊をも、壊滅寸前にまで追い込んでいた。
しかし、何処の世の中にも例外は存在するものである。
多くの国の軍隊が壊滅寸前となり撤退を余儀なくされる中、未だ衰えを知らぬままに突き進む軍隊があった。
米軍である。
アメリカという国は歴史が浅く、元々白人の基本がそうであるように傍若無人で凶暴だが、その分やる気と単純な規模や勢いでなら負ける事などありはしない。
まぁ、規模の面では中国に負けるかも知れないし、技術の面では日本に負けるかも知れないが、総合的にはアメリカが勝っている事だろう。
どちらもそれぞれの国に劣ってはいるが、その両方を両立しているのだから凄まじい国である事に間違いはない。
しかし、そんな異形達に奮闘を見せる米兵達の内、日本に駐留している者達を、影で狙う者が居た。
四部終盤にて登場した益獣部隊五死頭分隊が最後の一人・竜一である。
個室の中、竜一は一人何やら表のようなものを几帳面に書いていた。
「(種族は…人類…形式は…)」
17分ほどかけて書き上がった表には、何やら解読できそうにない奇妙な文字が書かれている。
次に竜一は、その表をこれまた奇妙な折り方で素早く折っていく。
紙を折り終わると、今度は何処からともなく硯・木炭・筆・水の入った小瓶を取り出し、それらを組み合わせて折った紙に筆で『実行』と書いた。かなりの達筆である。
そして、墨が乾いたのを確認してから、竜一は折った紙を右手で思い切り叩く。
『死』の称号を持つ竜一の、能力使用の瞬間だった。
―同時刻・日本―
盛と再会した斑は、妹から今までにあった事を聞かされていた。
「…そうか…そんな事が……すまなかったな…盛…」
「良いのよ、兄さん…もう過ぎた事でしょ?」
兄妹水入らずの会話の最中、ドアを叩く音がする。
「副長!木伏副長!」
「どうした?」
「それがッ…各地の米軍基地からの緊急報告が!」
「米軍基地だと?
まぁ良い、行こう。
すまない盛…あとで戻るからな」
「うぅん…そんなに気にしなくても良いのよ…」
「そう言うな。それじゃあ!」
斑は慌てて廊下へ飛び出し、やって来た社員に事情を聞いた。
「で、米軍基地から何だって?」
「それが、俄には信じ難いのですが…日本全国135箇所の米軍基地全てに配属されていた米兵全員が……一瞬にして変死したと……」
「何だって?そんな馬鹿な話が…」
「私どもも信じられませんでした…しかしこれは事実なのです…」
「認めたくないな…。
日本全国に米軍基地が135もあるなんて」
「そっちですか!?」
「そっちに決まってるだろう。
核爆弾を落とされてからというものアメリカの奴隷になった腰抜け日本とはいえ、全国に米軍基地が135だなんて…」
「いや、米兵変死の件は…」
「どうせ異形の仕業だろう?報告によれば人禍には弾丸無尽蔵の機関銃を操る女や、幽霊と会話する男、更にはホムンクルスや地球外生命体まで居たと言うじゃないか。
それに比べれば、在日米兵を傷付けずに一瞬で皆殺しにするなんて、奴らならやってのけるだろうよ」
「し、しかしですね木伏副長、死神が居るわけでもあるまいしそんな漫画のような話が―「あるのだよ」―っひぃぃっ!?」
突然現れた不気味な人影に、驚いて飛び退く若手社員。
不気味な人影は言った。
「おっと、驚かせてすまなかったな」
「や、薬師寺課長!
これはとんだご無礼を」
「いや構わんよ。私の姿を見れば誰もが気持ち悪がってしまうのは仕方のないことだ」
このガスマスクを装着し、ボロボロの白衣を着こなす怪しげな人物の名は、工学科科長・薬師寺美津彦。
シンバラが誇る化学者兼好学者であり、医薬品製造や機械関係の精密作業に於いてトップクラスの実力を持つ人物の一人であり、逆夜の親友でもある。
「それで、薬師寺博士。
一度に別々の場所に居る大人数の人間を一瞬で皆殺しにする方法が存在すると仰いましたが…」
「方法というよりもだな、生物を一瞬で無傷の侭殺死ぬという現象を引き起こす原理が存在するのだよ」
「原理ですか?」
「そうだ。私は生物系はあまり詳しくないが、プログラム細胞死或いはアポトーシスと呼ばれているらしくてな、言うなれば細胞の自殺だよ」
「細胞の…自殺?」
「そう。詳しくは知らないんだが、生物の身体というのは、脳等から発せられる命令で動いている。
つまり脳が『死』を命じてしまえばその生物は死ぬと言うことだ。
使い古された細胞を死滅させたり、外傷や感染症によってダメージを負った箇所を部分的に死滅させることで体細胞の全滅を防いだりするのが目的だ。
そして自然界には、神経系統に作用することによってこの『死の命令』を脳に出させることによって生物を死に追い遣る毒素が存在する。詳しくは後で逆夜にでも聞いてくれ」
「つまり、米兵暗殺を起こした異形はそのアポトーシスやプログラム細胞死という現象を同時に起こす事の出来る能力の持ち主と言うことですか?」
「そういう事だろうな…しかも恐らく相手は自分の拠点らしき場所から暗殺を成功させた。
だとすれば絶望的な相手だ…敵の居場所も、正体も、能力に関する詳細も判らないとは…。
敵の狙いが在日米軍だけなら良いが、そうでないとすれば我々も危ないぞ――ドゴァン!
「「「!!??」」」
突如通路の壁を突き破り現れたのは、黒と銀の塗装のされた大型オートバイであった。
更に驚くべき事に、そのオートバイはエンジンが掛かっているにも関わらず、何とドライバーが不在だった。
「…なんだコイツは…?」
「判らなんが…どうも味方ではないらしい…」
突如現れた謎のオートバイの正体とは一体何なのか?
―同時刻・サウジアラビアの首都リヤド―
未だ絶対君主制の続く石油大国・サウジアラビアの首都・リヤド。
王族・サウード家の本拠地として活躍する此処にもまた当然、人禍の魔の手が迫っていた。
但し、現在サウジアラビアを攻めている人禍機関員はたった一人である。
その機関員とは…
「イんやァ~石油大国だッテ言ウカらドンナモンかと思ってタら、中々にオッサレなトコジャナーイ!
何かベガスみタイネェン!マ、私ァベガス旅行経験無いんだけどサ!」
この喋り、もうお判りだろう。
そう、単身リヤドを訪れた人禍機関員とは、あろう事かあの益獣部隊隊員・リージョンだったのだ。
彼は玄白から、石油産出国の代名詞とも言えるサウジアラビアの国王籠絡を命じられて来たのである。
彼は高い鉄塔の上から、崩壊したリヤドを眺めつつ言った。
「イヤア、リヤドは今も美しイ!ダガこれが普段のママならもっと美しいンだろウねェ!
美しインだろうサァ!美しいデショウ?美しいンダろう?美シイに決まっテルサ!
ットォ!」
リージョンは頭上を掠めていく戦闘機・トーネードに触手を絡ませ上手くへばり付く。サウジアラビア空軍のものだ。
飛行機のバランスが崩れ慌てるパイロットを余所に、リージョンは楽しげに隣の戦闘機へと飛び移った。
当然踏み台にされたトーネードのパイロットが助かるはずもなく、バランスを崩した戦闘機は街に墜落していく。
続いて飛び移られた戦闘機のパイロットは、必死の応戦でリージョンを振り落とそうとするが、当然落ちるはずがない。
賺さずもう一機のトーネードがリージョンを射殺しようとするが、リージョンは触手によってトーネードの向きを変えて盾代わりにして間接的に破壊。
更にマントの中から十数本の蛸の触手を繰り出し、最後の戦闘機に飛び移ると、甲殻に覆われた腕二本でコクピットの窓硝子を破壊。
中からパイロットを引きずり出すと、地面に飛び降りる。
暴走する無人のトーネードを尻目に、リージョンはパイロットにこう聞いた。
「こノ国でイッチバァン偉い御方にお会いシタイんだどサ!
何処ニ居るかなァァァ!?」
しかし、恐怖の余り動けないパイロットに会話など当然無理である。
しかしリージョンは、そんな事など当然とばかりにセト型マスクの上顎を手動で開き、口から気色の悪い触手のような物体を繰り出す。
それはミミズのように脈打ち、節足のような細長い牙を五本持つ器官であった。
リージョンはその器官でパイロットの頭に食らい付かせ、その内部に仕込まれた細い管を頭蓋骨に突き刺すと、音も立てずにその脳を吸い取り始めた。
完全に吸い取った後、リージョンはパイロットの死体を投げ捨て、脳を丸飲みにした。
「……国王一家親戚イチドー、いっず、トルァァヴェリンング、か!
本日の現在イチはァァァ…メッカ!大型デッパァァトメンツで家族揃っテショピィング!
…クソ王族のI☆KA☆REリア充共MEGA!
余計な苦労をカケサセヤガル!」
口汚く罵ると、リージョンは背中から正体不明の翼を展開しメッカの方角へと飛び立っていった。
―同時刻・アメリカ都市部―
「あの磁気鼠群が十分もせずに全滅か…。どうりで連盟め、遠国の事だろうが知り尽くしてる筈だぜ…」
「デジタル取り払ったらかなり混乱してたのに、案外呆気ないよね」
アメリカ主要都市で強力な電磁波を放っていた磁気鼠群であったが、あの集団があれからそんなに長持ちする事はなく、ものの十分足らずで一人の異形によって全滅させられてしまった。
「……規格外なのね、貴方達は」
北北西から声がしたので目をやると、其処には中年と思しき外見の女が立っていた。
中年とは言え、老いたが故の美しさという奴であろうか、そういった雰囲気を醸し出しており、只の中年女とは思えなかった。
更に、その眼鏡を掛けた親しげな丸顔は、逆に裏で何を考えているのか判らず、二人を不安にさせた。
「……ネズミを殺したのはアンタか?」
アトスの問いに、女は答える。
「ご名答。確かにあの鼠を殺したのは私、ケイ・プラムフィールド」
「…エビの弱体化も貴方の仕業?」
「確かに。あのロブスター達も死にはしなかったけれど、私の所為で鈍りはした筈」
「…アンタ、所属は?」
「人禍。あの組織の失敗は、夕暮れから夜にかけて戦争を始めたこと」
「何?」
「私の息子に渡ることの出来ない暗闇はない。私の息子は決して傷付かない」
「はぁ?」
「この世で一番してはならない事、それは神に逆らうこと。どんな犯罪よりも重いから。
この世で最も辛いこと、それは神に見捨てられること。絶望や死よりも辛いことなの。」
「…神?おいアンタ、何を言ってるんだ?」
「盲信や狂信は愚行。不寛容や不誠実は大罪。酔ってはいけない。何故なら、それは神から遠ざかることだから」
「……何なのこの人…」
「さぁな。兎に角、殺るっきゃねぇだろ」
「ですよねー」
「っつーわけでだ、姉さん。
チト痛ェ目ェ診て貰うが―「ジョン、手伝って」
すると、ケイの足下から赤い影のようなものが伸び、それは玄翁を持った魔神の影絵となった。
影絵は言った。
『オクラ?それとも炒め物?』
「とりあえずトロロ」
『了解。手ェヌルつくな』
影絵・ジョンはそう言うと、自らの身体を伸ばして、アトスの足首を掴んだ。
そしてジョンはそのまま動かず、アトスも動けなかったが、暫くしてジョンがケイに言った。
『駄目だ母さん、やっぱりコイツ亀だからか寿命が有り余ってやがる。
送ろうが戻そうが、まるでお構いなしだ!』
「…仕方ないわね、頭上の小さいのを潰しなさい」
そう言ってケイは何処からともなく釘抜き付き玄翁を取り出した。
すると、ジョンの手元にも釘抜き付き玄翁が現れる。
ハーカーは熟考の末に結論を出し、アトスに耳打ちした。
「…成る程、そういう事…。
アトス、あのジョンっていう赤い影は、基本ケイって女の命令や動作と連動して動くの」
「あぁ、そんなのは観てりゃ判るが…どうする気だ?」
「まぁ良いから。とりあえずアタシをあの女の顔面目掛けて投げて」
「…あぁ、良いけどよ。死ぬなよ?」
「判ってるって」
そんな会話の直後に、アトスは小さな小さな相方をケイの顔面へ思い切り投げつけた。
避ける動作をしようとしたケイであったが、ハーカーはどうにか彼女の身体に貼り付き、その背中を刺す事に成功する。
その後振り落とされてしまったが、当然それは計算の内。
ケイがジョンに命令を下す。
しかしその内容は、思わぬものだった。
「ジョン、私を殺しなさい」
『!?』
ジョンは一瞬自らの感覚を疑ったが、化身である自分は支持を受けた以上それを遂行しなければならない。
例えそれがどんな命令であれ、主の口から出たそれは絶対でなければならないのである。
そしてジョンは、主であるケイの首へ玄翁の釘抜き部分を向けて振り回し、彼女の首が引き裂かれ絶命するのと同時に、ケイの影であるジョンもまた、崩れて消滅した。
ちなみに説明しておくと、ケイの能力は『寿命』という。
即ち、物体全ての寿命を掌握、まるで時間を早めたり巻き戻すように操作することで、強制的に若返らせたり老化させたり出来るというものである。
そしてその媒介の役割を勤めるのが、化身のジョン。
彼は主の影を伝って現れ、相手に接触。相手の寿命を改竄する。
そしてジョンは基本的に、主であるケイの指示無くして行動を起こすことは一切出来ず、逆らうことも不可能である。
しかし今回は、それを逆手に取られてしまった。
ハーカーの能力『虚実』によって指示内容を改竄された彼女は、息子同然の化身に対し「敵を殺せ」というつもりが「自分を殺せ」という指示を出してしまった。
そしてそれを疑う事は出来ても逆らうことは出来ないジョンは、見事に主を殺害。
結果的に自滅してしまったという訳である。
結果を報告し、再び歩き出す二人。
しかしまた、そんな二人を睨み付ける者が居た。
「…ケイ、ジョン…神に背いてでも、リベンジは果たすからな……行くぞ。オータム、ゼロ」
物陰にいたのは穏やかながらも厳つい目つきの男。
彼は傍らに佇んでいた縞模様の猫と足の短い小柄な犬とを連れて、姿を消した。
その後アラミスと合流したアトスとハーカーは、まだ知らない。
自分達が、とんでもない能力を持った異形に喧嘩を売ってしまったということに。
彼の名は、シズル・アングラス。
ケイの親友であり、また恋人同然だった男である。
熟考の末決意を固めた静流は、何処からか海釣り用の釣り竿を取り出した。
しかし、釣り好きの彼は何時も釣り具を携行する癖があったので、ここで持ち合わせていたこと自体は不可解ではない。
だが、問題はそれからだった。
彼は水辺でもないのに釣り糸を垂らし、地面にその針と糸とを沈めたのである。
次回予告
千歳「ねぇ、千晴…」
千晴「何、千歳?」
千歳「何か凄い奴が出てきたね…」
千晴「うん…全自動バイクだもんね…」
千歳「…って、しみったれてても仕方ないから、そろそろタイトルコール、行っちゃう?」
千晴「行っちゃおう」
姉妹「「次回、白い巨像第五部!『遂に揃う、脅威の五死頭分隊』!」」