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第二話 明地長閑、本領発揮










恋歌「みんないきてるぅ?影薄くなっちゃった香山恋歌だよー。


ところでみんな、動物好き?

恋歌は大好き。動物大好き。特に好きなの、犬とか猫とか、あとイタチやキツネも良いよー。


今回は人禍幹部で、疑似霊長が出るみたい。


どんな奴かな?


それじゃー『白い巨像第四部』はっじまるよー」

―アメリカ・ホワイトハウス周辺―


リューカとニードのコンビネーションにより、如月はかなり追い詰められていた。


「く…この私が…只の中堅如きに…」

「認めれば?ニードの針に加えて私の二硫化炭素がかなり効いて来てる頃だと思うのよ。

私の『硫黄』は、そのまんまに硫黄の生成・操作と物質を自在に硫化させてその性質を変化させるっていうかなり微妙な能力なんだけど、こと毒物作りに関してはかなり強いよ。有名所では水素とかね。

んでもって今アンタの周囲にぶちまけたのは二硫化炭素。酸化じゃないよ。

純度高けりゃ良い香りのする無色透明な液体だけどさ、これがまた保存中に分解しやすくってね。

分解すると一気に黄色くなっちゃってしかも匂いが臭いのなんのってもう耐えられないくらいの奴なんだよね。

しかも揮発性の高さと引火のしやすさはガソリン並みでね、引火点は-30度で発火点は90度。

だから今からでも火の気があればアンタの身体は周囲を巻き込んで盛大に燃え上がる。

硫黄とかリンなんかを溶かす溶媒に使われるんだけど、その毒性を飼われて殺虫剤にもなるよ」

「……」

黙り込む如月。

「おいおいリューカ、そりゃお前やりすぎだろ。

あんまりにも説明文が長いモンでコイツ放心しちまったよ」

「え?嘘っ!?本当に放心しちゃっ―「失礼ね!誰が放心なんてするもんですか!」

「あ、生きてやがった。しぶてーなコイツ」

「だねぇ。しぶといねぇ」

「何よ!私を馬鹿にする気?良いわよ、貴方達も私の聖水を浴びて聖者になるが良いわ!」

「うっわオイやめてくれよ!他のどんな方法でだって殺されてやるけどよぉ」

「その聖水ってのだけは勘弁してよ!だってそれ、貴方のオシッコでしょ?」

「あら、良く気付いたわね。ちなみに甘い匂いの正体は私が糖尿病だったから。

人禍に入る前はある金持ちに飼われてたんだけど、そこでケーキの味覚えちゃって」


食肉目アライグマ科キンカジュー属に属する哺乳類、キンカジュー。

ある動物系特番にてスタジオに子供が連れてこられ、抱き抱えた芸人に放尿した事で有名なこの動物は、人間に害をもたらす事は無い(放尿については偶然その場に居た個体が変態趣味の持ち主であったというだけである)。

しかし、当然ながら人間の方からは盛大に被害を受けている。

その毛皮は商取引の対象となり、肉も食肉用に加工される(放尿の被害にあった芸人をそこそこ尊敬していた作者はこれを知らない状態で「無礼な奴め、食肉加工してやろうか」と言った事がある)他、愛らしさと珍しさ故にペット目的でも利用されている。

有名所では2006年8月にパリス・ヒルトンが、自ら飼育していた「ベイビー・ラヴ」と名付けられた個体と遊んでいる最中腕を噛まれ、病院で破傷風の注射を受けたらしいが、この女は飼っていたチワワが成長して愛着が無くなったので母親に飼育を任せ別の犬を購入。動物愛護団体から非難され、犬専門誌は彼女を『世界最悪の飼い主2005』に認定したという逸話も残っているため、当然の報いと言えばそう言いきれる。(というか、何故破傷風で死ななかった。)

一応日本にも輸入されているが、ホンジュラス産の個体がワシントン条約で規制の対象になっている。

また、南米の方では毎年多数のキンカジューがペットや毛皮目的で輸出されており、正直言って好ましいとは言い難い状況である。



「つかさ、リューカ」

「何?」

「コイツ放尿趣味のある変態とはいえ曲がりなりにも幹部だろ?」

そう言ってニードは腕から針を放ち、地面に倒れたままの如月の手足と尻尾を地面に打ち付ける。

「まぁね」

「んじゃ、今の内に焼き殺しとく?」

「お、良いねェ。俺ライター持ってんだ」

そう言って、ニードは炎の付いたライターを投げつける。

しかし、ライターの炎が消える事はなかった。


「あり?何で引火しねぇんだ?」

「変だね。引火点-30度なのにね」

「つか、肌寒くね?」

「同感ー。っていうかさ…あの変態イタチザル凍り付いてない?」

「だな。つか、あの向こうに立ってる奴は誰だろうな?」

「……敵じゃない?それも私達じゃ到底歯の立たないようなレベルの」

「……大統領…」

「何だね、ニード君」

「逃げましょう。歩けますか?」

「…君らが敵わないような相手から逃げるんだったら、正直自分の脚は使いたくないね」

「そうですか。でしたらご安心を。おい、リュー―

「お車用意致しましたっ♪鍵もご用意しておりまっす♪」

「…ニード君、君の友達は仕事が速いね…」

「…いや、俺達って只単に『確実に勝てる勝負しかしない』って主義なんで…」

「見上げた精神だね…」


謎の脅威を目の前にして、三人は拾ったワゴン車で勢い良く逃亡した。


そして、如月を氷らせた張本人はと言うと。


「……逃げるが良い、雑魚め…。

冬は悪魔が作った季節……一度その罠に掛かれば、生きて帰ることなど出来はしない…」


この台詞から想定してもうお判りであろうが、この女こそは益獣部隊が史霊分隊最後の一名にして最強の存在であり、「冬」の称号を持つ古代食肉目ユースミルスの疑似霊長・ティルダである。

誰に対しても(主であり義父である玄白にすら)上辺だけの笑顔と敬意で接し、他者との交流を殆ど持とうとしない彼女は、一見只冷酷で感情に乏しいように見える。

しかし、実際の彼女は怪奇現象や霊的概念を尊重する神秘主義者であり、玄白に忠誠心以上の感情を抱かないことと併せて益獣部隊隊員の中では異質な存在であると言える。

また、そういった異質な存在は大抵集団の中でトラブルの原因となるのだが(作者がそうであるように)、彼女はまた厄介事を極端に嫌うため、集団の中にあってもトラブルを起こさないように、またなるべく他者と関わり合いにならないように華麗に立ち回っている。

複線を張って後々回収という作業が面倒なので先に言わせて頂くと、体毛を珪素によって補われた彼女の能力は、フェイの真逆を行く「極北」というもので、周囲の気温を下げて超低温の世界を作り出す能力である。

この能力は大変強大な力を持っているが、そんな彼女もまた…いや、この話は後程としよう。


―同時刻・アメリカ―


「(猫さん…良かった…心の底から楽しんでいるのね…)」

幹部・明地長閑は、目を閉じたまま(・・・・・・・)そう言った。

更に彼女は、まるで思い出し笑いをするかのように微笑んだり、悲しげな表情をしたりしている。

一見只の妄想か何かにしか見えない彼女の姿だが、実はこれ、彼女が自らの能力を使っている証拠なのであるが、その話はまた後程。


一方その頃、長閑の居座るトレーラーの外部では。


木陰に隠れた一人の女が、携帯電話越しに誰かと喋っている。

「ねぇ、ジュダス。本当にあの基地みたいな車に人禍幹部が居るんでしょうね?」

『あぁ、間違いねぇよ。しかも相手は序列四位のアケチって女だ。陸軍総司令官なんて肩書きの癖にヒョロい奴でよ、その上能力も地味で破壊力ゼロの奴だそうだ。

真面目にやりゃあ人間のテメェだろうが敵じゃねぇよ。

だが油断はすんなよ。どこまで腐ろうが相手は異形、お前は人間で――

「判ってるわよ。気を付けるってば」

『本当か?抜かりは無いんだろ――ピッ!

「…しつこい男ね…情報から何から要らないところまでグチグチと…。

用は引き籠もってばっかりのガキなんでしょ?

だったら余裕じゃない。世界各地のありとあらゆる秘密組織・諜報機関を裏切り続けてきたこのイスカ・アサギリ様にかかれば人禍幹部だろうが怖くないわ」


そう言ってトレーラートラックへと走り出したグラビアアイドルかモデルの様な女の名は、イスカ・アサギリ。

本名・年齢・国籍等、その一切の個人情報が謎に包まれた人間の女である。


「セキュリティは…何よ、ザルじゃない。

あんな小さな監視カメラだけで見張れるなんて甘い考えも良いところだわ。

侵入(はい)って下さいと言ってるようなもんじゃない」


そう言ってイスカは、余裕綽々とトレーラートラックへ近付いていった。


―トレーラー内部―


「…表の監視カメラがダミーである事にも気付かず私に姿を見られるだなんて…こう言うのも何だけど、彼女は口ほどにもない人間のようね…」

そう言って、彼女は目を閉じる。


彼女の能力『読心』は、読んで字の如く(生きている姿・肉声・体臭等を)認知・記憶した相手の心を読むというもので、第一部から第二部にかけて登場したホロビの潜在的才能とは若干異なり、記憶を含む精神状態をリアルタイムで読みとることが出来る。

と、これだけならば相手の行動を先読み出来る理想的な能力という一言で片づけられるかもしれない。

しかし、この能力には一つ弱点があった。

それは能力が常時発動しており、解除は持ち主である長閑にすら不可能であるという事。つまり、近くに心のある者が居ればその精神状態は音声と映像によって彼女の中に自動的に届いてしまうのである。

よって彼女は今も尚日常生活の中で様々な人間の汚れた側面や悲惨な過去を強制的に見せつけられており、それ故に「人を何処までも醜悪にしてしまう人類文明は滅ぼされた方が人の為」という考えから人禍に荷担。飛び級で幹部に就任したという過去を持つ。


「…さてと、彼女の心は私の掌上……。

彼女には悪いけれど、ちょっとお楽しみと行こうかしら」


そう言って彼女は再び目を閉じ、両手を奇妙な形に組み合わせる。


一方その頃、イスカは未だ外部に居た。


「何なのよこの車は…本当に子供のオモチャとかでよくある秘密基地じゃないの…。

違いと言ったら、精々大きさくらいかしら」

そう言ってイスカが長閑の拠点に近付いた瞬間だった。


ガチャリ!


一成に鳴り響く金属音と共にトラックの各所から現れたのは、大型機関銃を構えた黒装束の兵士達。

「んなっ……どういう―ズィガガガガガガガガガガガガガガがガガガッ!


喋る隙すら与えずに繰り出される機関銃の弾丸達。

イスカはそれを素早く避けながら、初めての裏切り行為が組織にバレてしまった時に受けた、四方八方からの機関銃掃射を思い出していた。


「(くぅっ…こんな時に…最悪の事思い出しちゃったじゃないのよ!)」


恐怖と苛立ちに追い詰められかけたイスカは、思わず偶然見付けた枝切れを手に取ると、「消えろ!」という念を込めてそれを兵士の一人へと投げつけた。

するとどうだろうか、空中で回転する枝切れは弾丸をモノともせず、兵士の顔面をもまるでそこに何も存在しないかのように―まるで立体映像を相手にしているかのように―突き抜けて行き、鉄の壁に当たって地面に落ちた。

そしてその瞬間、テレビの電源が切れるようにして、機関銃や兵士達の姿が消えた。


「……え?」


突然の出来事に、只呆然として立ち尽くすしかないイスカ。

そう、これは全て幻覚のようなものだったのである。

これを起こしていたのは、無論屋内の明地長閑であった。


―屋内―

「…偶然とはいえ、私の第二の能力を破った彼女はそれだけで評価に値するわ…」


明地長閑は、現在能力が判明している人禍幹部の中では唯一複数の能力を持っている。

彼女が持つ第二の能力―それは『映写』と言い、主に『読心』で読みとった情報を特定の『スクリーン』に図面・映像として映し出すというものである。

これを応用し他者(自身と同程度のサイズの人型)に化けたり、その場の風景を変えたりすることも可能。

スクリーンはこの世の物質の殆どがそれに該当するため幻術のように扱うことも出来るため、第一部から第二部にかけて登場した『幻覚』の能力と似ているようにも思えるが、この能力はあくまで「鑑賞」を目的としているため、『幻覚』ほど高度な使い方は出来ない。

言うなればホロビや雅子のそれとは違う、安定した性質の確定された物質的なものではなく、あくまで相手の『認識』に全てを委ねる大変不安定なものであり、それ故に相手がこの能力によって映し出された映像を現実と信じずに(または強く否定し続け)「消えろ」と強く命じたり思ったりすれば、時間は要するものの消えてしまう。

但し、消耗した者はこれを消すのに時間が掛かる。

また、『幻覚』の能力と違い相手の映像そのものが脳に深く作用する訳では無いので、相手に痛みを与えることも出来ない。


しかし、長閑はそんな事など気にしていない。

寧ろ、相手に痛みや肉体的ダメージを与えてしまうのは彼女にとって好ましくない。

何故なら彼女の現在の目的は、記憶に基づいたホラーハウス―所謂「お化け屋敷」―の中に敵を誘い込み、相手が驚き慌てて泣き叫ぶ姿を見て楽しむ事なのだから。


「さてと…次はどんな姿を見せてくれるのかしら…」


人禍幹部序列第四位兼陸軍総司令官・明地長閑は、その整った顔に何処か歪んだ笑みを浮かべていた。

次回予告

恋歌「次回『在日米軍抹殺計画』ぅ!


それ以上は言わないよ…言わないったら言わないよ…」

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