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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第61話:白銀の浄化と、お母さんの是正命令

 エルフの秘里「シルニオン」に朝の光が差し込む頃、セナは既に活動を開始していた。

 借り受けた客室の窓を開け、清々しい空気を取り込みながら、彼女は愛用のエプロンをきゅっと締め直した。事務職にとって、現場の混乱(不備)を放置したまま朝食を摂ることは、何よりも寝覚めが悪いことだった。


「……さて。長老さん、アルウェンさん。……昨日の続きをしましょうか。……里の未来のためにも、まずはその神木の足元、ピカピカに磨き上げさせてもらうわよ」


 セナが広場へ向かうと、そこには既に長老エルドランと、不安げな表情を浮かべたエルフの若者たちが集まっていた。

 彼らにとって、神木「白銀の苗」は数千年の信仰の対象だ。そこに人間が掃除道具を持って近づくという事態に、里全体が静かな困惑に包まれていた。


「……事務官セナ殿。……本当に、この神聖な場所を掃き清めるだけで、里の息苦しさが消えるというのか? ……我らには、不浄な塵など一粒も見えぬのだが……」


 エルドランが、銀色の髭を揺らしながら問いかけた。

 セナは、神木の根元に溜まった、一見すると美しい琥珀色に見える「魔力の澱み」を指差した。


「……長老さん。……お部屋の埃だって、積み重なれば病気の元になるわ。……これは信仰への不敬じゃなくて、この子が健やかに育つための『お手入れ』なの。……事務的に言わせてもらえば、メンテナンスを忘れたインフラは、いつか必ず壊れてしまうものよ」


 セナは、鑑定スキルで弾き出した「廃棄魔力の堆積データ」を、分かりやすい言葉に置き換えて説明した。

 彼女の指示は、軍隊のような命令ではない。後輩に仕事のコツを教えるような、あるいは子供に掃除の楽しさを伝えるような、根気強く温かな響きを持っていた。


「アルウェンさん、そこ。……あなたの指先の魔力を使って、こびりついた澱みを優しく浮かせてちょうだい。……そう、汚れを剥がすように。……無理に力を込めちゃだめ。……まるで、頑固な油汚れをふやかす時みたいにね」


「……あ、……はい。……汚れを、ふやかす……? ……こうでしょうか、セナさん」


 アルウェンが躊躇いがちに魔力を流すと、長年石のように固まっていた魔力の澱みが、ふわりと光の粉となって舞い上がった。

 それを見たエルフの若者たちから、驚嘆の溜息が漏れた。自分たちの魔力が「神秘」や「破壊」ではなく、「清掃」という誰かの心地よさのために使われ、目の前で世界が輝きを取り戻していく。その変化は、彼らにとってかつてない新鮮な喜びとなった。


「……素晴らしいわ! ……その調子よ。……さあ、みんなで分担しましょう。」


 セナの「お掃除大会」は、里全体を巻き込んで加速していった。

 エルフ独自の「浮遊する魔導具」を、セナは「あら、これ自動お掃除ロボットみたいで便利ね」と面白がり、効率的な動線を組み込んで里のあちこちへ派遣した。

 

 お母さんとしてのセナは、慣れない作業に疲れたエルフたちに、聖域から持ってきた乾燥果実を配り歩いた。

「甘いものは頭の回転(事務処理)を助けるわよ。……一口食べて、もう一踏ん張りしましょう?」


 夕暮れ時。

 数百年もの間、澱みに沈んでいた神木の根元は、本来の透き通るような白銀の輝きを取り戻していた。

 その瞬間、里全体に、滞っていた空気が一気に流れ出すような、清らかな風が吹き抜けた。


「……あぁ、……里が、……里が深呼吸をしている……」


 エルドランが、感極まったように神木を仰ぎ見た。

 セナがもたらしたのは、高度な魔法でも、強大な軍事力でもなかった。

 ただ、「そこに住む者が気持ちよく過ごせるように」という、お母さんの優しさが土台となった、当たり前の管理だったのだ。


「……事務官セナ。……いや、……親愛なる聖域の管理者よ。……貴殿の知恵は、我らエルフの古い殻を打ち破った。……我が里は、……いや、私は、貴殿の聖域と恒久的な友好条約を結ぶことを、ここに誓おう」


 エルドランは、セナの手を両手で包み込み、深く頭を下げた。

 セナは少し照れくさそうに笑い、事務的な是正完了の印を、頭の中の台帳に刻んだ。


「ふふ、条約は事務的に進めましょう。……でも、長老さん。……条約の前に、……レイくんとハルくん、それからグーくんとルナちゃん、リリちゃんに、……最高に美味しいお土産、用意しておいてちょうだいね。……お留守番のご褒美なんだから」


「……ははは! ……心得た! ……里で一番甘い蜜と、最高の果実を、馬車が沈むほどに用意させよう!」


 夜。セナは里の特等席で、温かなお茶を飲みながら、管理日誌を広げた。

 窓の外には、淀みが消えて、さらに美しく輝くエルフの里の夜景が広がっている。


『第六十一案件:エルフの里シルニオンの環境浄化、および友好条約の締結。

 特記事項:神木のメンテナンス、不備なしで完遂。……里のみんなの顔が、お部屋の掃除を終えた後のようにスッキリしていたのが、一番の収穫ね。

 ……レイくん、ハルくん、みんな。

 ……お母さん、もうすぐ帰るわよ。……最高のお土産と、新しいお友達の話をたくさん抱えてね。

 ……在庫:最高のハチミツ、および早くみんなに会いたい気持ち。

 ……不備:なし。……完璧な外回り(出張)だったわ。』


 セナのペン先は、愛する家族を想って、どこまでも優しく躍っていた。

 一方。その頃、聖域の境界線。

 レイたちが救った「影の精霊」の元へ、そのオリジナルを名乗る、人知を超えた巨大な影が、静かに、けれど圧倒的な威圧感を持って近づいていた。


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