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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第2話:魔法のプリンと、初めての現状分析

レイ:セナを慕う人間の少年。テイマーの素質あり。

ハル(ドラゴン):最強の龍の幼体。

 異世界の朝は、見たこともない色彩の小鳥たちのさえずりで始まった。

 樹々の隙間から差し込む陽光は、前世の都会のそれよりもずっと濃く、それでいて柔らかい。


「……ん、……ふわぁ」


 セナは、木の根元で目を覚ました。

 背中が少し痛い。けれど、不思議と心は軽かった。

 隣を見れば、泥だらけの服を着た少年・レイが、紅い小さなドラゴンのハルを抱きしめるようにして眠っている。二人の寝顔は、昨日の怯えが嘘のように穏やかだった。


(……さて。まずは『朝礼』の前に、現状の在庫確認ね)


 セナは立ち上がり、ブラウスの汚れを軽く払うと、足元に置いてあった自分のリュックを引き寄せた。

 中身を確認する。

 事故の直前にコンビニで買い込んだ、自分へのご褒美たち。


・カスタードプリン(賞味期限:今日まで)

・ハムとレタスのシャキシャキサンドイッチ

・果汁百パーセントのオレンジジュース

・五百ミリリットルの天然水

・あと、仕事用の予備の付箋と多機能ボールペン、救急セット。


「……在庫、これだけ。大人一人と子供一人、それから小動物一匹の一日分にも満たないわね」


 セナは、事務職特有の冷静さで数字を弾き出す。

 物流の基本は、供給が止まる前に次の一手を打つこと。消費するだけでは、在庫はゼロになり、事業(生活)は破綻する。


「……う、……セナ、さん?」


 レイが目をこすりながら起き上がった。ハルも、短い鼻をひくつかせて目を覚ます。

 二人の瞳には、すぐに「空腹」という切実なサインが浮かび上がった。レイのお腹が、可愛らしい音を立てて鳴る。


「おはよう、レイ君、ハル君。ちょうどよかった、今から『朝食会議』を始めるわよ」


 セナは努めて明るく笑い、リュックからサンドイッチとプリンを取り出した。

 レイは見たこともない白いパンと、透明な容器に入った黄色い食べ物を、不思議そうに見つめている。


「これ……食べ物、なの?」

「ええ。私の故郷で一番人気の『即効性エネルギー補給食』よ。まずは食べてみて。毒見は私が済ませてあるから大丈夫」


 セナはサンドイッチを二つに分け、一つをレイに手渡した。もう一つは小さくちぎって、ハルの前に置く。

 レイは恐る恐る、一口かじった。


「っ……! なに、これ……! 柔らかくて、甘くて、しょっぱくて……おいしい……!」

「グルゥッ! グルルッ!」


 ハルも、翼をパタパタと震わせながら夢中で食べている。

 セナはそれを見守りながら、真打ちであるプリンの蓋を開けた。


「はい、これがデザート。疲れた脳には糖分が一番なの」


 スプーンですくって、レイの口に運んであげる。

 プルンとした感触が舌の上で踊り、濃厚なカスタードの甘みとカラメルのほろ苦さが広がる。

 レイの大きな瞳から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。


「どうしたの!? お口に合わなかった?」

「ちがう……ちがうの。僕、お母さんとお父さんがいなくなってから、ずっと木の実とか、腐りかけのパンしか食べてなくて……。こんなに甘くて、優しい味がするものがあるなんて、知らなかったから……」


 レイは、嗚咽を漏らしながらプリンを口に運んだ。

 ハルも、空になったプリンの容器を名残惜しそうに舐めている。


 セナの胸の奥が、ちりりと痛んだ。

 前世の物流センターでは、毎日何万トンという食料が行き交っていた。賞味期限が数日切れただけで廃棄される、飽和した豊かさ。

 それが、この世界では一人の子供を泣かせるほどの「奇跡」になる。


(……決めたわ。この子たちの食卓インフラは、私が絶対に守り抜く)


 セナは、レイの頭を優しく撫でた。


「いい、レイ君。これは奇跡なんかじゃないわ。正当な報酬よ。昨日、あなたはハル君を必死に守り抜いたでしょ? その頑張りに対する、神様からの『特別手当』。だから、泣かずに笑って食べなさい。美味しいものを食べると、人間は強くなれるのよ」


「……うん。……うん、セナさん!」


 レイが顔を上げ、満面の笑みを見せた。

 それだけで、セナの「やる気スイッチ」は全開になった。


 朝食を終え、セナは立ち上がった。

 ここからは、プロの事務員の仕事だ。


「さて、レイ君。これから私、この森の『棚卸し』を始めるわ」

「タナオロシ……?」

「そう。どこに何があって、どれくらい使えるものがあるのか。それを把握しないと、次の予定が立てられないでしょ?」


 セナは、意識を集中させた。

 すると、視界が変化した。

 木々の輪郭が強調され、その一本一本にラベルが貼られたように詳細なデータが浮かび上がる。


『種別:エルダーナッツの木……収穫可能時期:今。栄養価:高。食用可』

『種別:クリアウォーターの湧き水……成分:飲用適合。水温:十二度。流量:安定』

『種別:シビレダケ……状態:猛毒。接触注意』


「……なるほど。前世の在庫管理ソフトより優秀じゃない、これ。検索機能も付いてるのね」


 セナは、見えない画面を操作するように指先を動かした。

 頭の中で、森の地図ロードマップが構築されていく。

 ここから徒歩十分の場所に安定した水源がある。その周辺には燃料となる枯れ枝が豊富。さらに、防風に適した大きな岩陰もある。


(拠点はあそこに決定。動線を考えると、水場に近いのは必須ね。運搬のコスト(労力)を最小限に抑えないと、レイ君の体力が持たないわ)


「レイ君、ハル君。出発するわよ。私たちの新しい『事務所兼、自宅』を探しに行くわ!」


 セナのテキパキとした指示に、レイは驚きながらも「はいっ!」と元気に返事をした。

 ハルは、すっかりセナに懐いたようで、彼女の足元をクルクルと回りながら歩き出す。


 森を進む道中も、セナの「鑑定」と「分析」は止まらない。


「あ、そこの草は避けて。痒くなる成分が入ってるわ。……レイ君、その右側にある青い実はカゴに入れて。ビタミンが豊富だから、夜のサラダにするわよ。ハル君、そこの枯れ木を少しだけ炙ってくれる? 乾燥させて持ち運びやすくしたいの」


 セナは、まるで長年この森で暮らしていたかのような的確な判断を下していく。

 レイは、セナが何を言っているのか完全には理解できなかったが、彼女の言葉に従うと、面白いように「役立つもの」が集まっていくのが楽しくて仕方なかった。


「セナさん、すごいね! 魔法使いなの?」

「いいえ、ただの『事務員』よ。数字と段取りを味方につければ、魔法より確実なの」


 セナは笑いながら、レイの背負った小さな袋(セナが即席で作ったもの)に、収穫した実を入れてあげた。


 やがて、セナが目星をつけていた岩陰にたどり着いた。

 そこは、大きな古木が天然の屋根を作り、周囲を柔らかな苔が覆う、まるで隠れ家のような場所だった。


「よし、本日の目標地点に到着。……ハル君、周辺の安全確認をお願い。レイ君、私たちは居住スペースのレイアウトを考えましょう」


 セナは、落ちていた枝を使って、地面に図面を引き始めた。


「ここが寝室。こっちがキッチン。……ハル君の火を使うから、排気ルートも確保しなきゃね。火災予防は事務の基本よ」


 未開の森。本来なら絶望するような状況。

 けれど、セナの目には、ここが「これから繁盛する予定の、最高のオフィス」に見えていた。


 彼女には、前世で培った「どんな混乱も整理してみせる」という自負がある。

 そして今、守るべき「家族」という、最高の守るべき資産がある。


「さあ、まずは三日分の食料と薪の備蓄(在庫)を完了させるわよ。二人とも、残業なしで頑張りましょう!」


 セナの明るい声が、静かな森に響き渡る。

 不安を吹き飛ばすような、力強い生活の音が、辺境の地に刻まれ始めた。


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