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異世界で「ママ」になりました。 ~最強ドラゴンと息子に懐かれすぎて、魔獣の楽園が完成しそうです~  作者: 寝不足魔王


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第9話(後編):広がる楽園と、新しい風

メルディ:キリッとした「しっかり者の長女」

ロレッタ:ふわふわした「愛されキャラの次女」

 パンケーキの甘い香りは、森の風に乗って、セナの想像以上に遠くまで届いていたらしい。

 翌朝、拠点の広場は、かつてないほどの大盛況を見せていた。


「はい、そこのコボルトさん! 列を乱さないで。順番に並んでね。割り込みはダメよ!」


 セナは、明るい声で集まってきた魔獣たちを誘導していた。

 彼女の目の前には、ハルが絶妙な火加減で焼き上げたパンケーキが、ほかほかと湯気を立てて積み上げられている。


「レイくん、受付をお願い! ハルくん、次は少しだけ火を弱めてみて。その方がもっとふっくら焼けるわよ」

「了解、ママ! ……はい、次の方! 交換する木の実を出してください!」

「キュイッ!」


 レイはセナが作った「受領証」を器用に捌き、ハルは鼻先から出す熱風の温度を丁寧に調整している。

 それは、魔獣と人間が言葉を超えて笑い合い、美味しいものを分け合う、温かなマーケットの光景だった。


 そんな賑やかさの中に、森の入り口から一台の銀色の馬車が静かに現れた。

 隣国の王家の紋章を掲げた馬車から降り立ったのは、二人の女性だった。


 一人は、銀縁の眼鏡をかけ、知的な雰囲気を纏ったメルディ。

 もう一人は、ふわふわとした桃色の髪を揺らし、大きな鞄を抱えたロレッタ。


 彼女たちは、王子ジルヴェールから「ドラゴンの健康管理をしてほしい」と頼まれ、決死の覚悟でこの森へやってきたのだ。


「……メルディ。私、夢を見ているのかしら。……それとも、ここは天国?」

 ロレッタが、ポカンと口を開けて呟いた。

 彼女たちの視線の先では、恐ろしいはずの魔獣たちが、お母さんの焼いたパンケーキを尻尾を振りながら美味しそうに頬張っている。


「……落ち着きなさい、ロレッタ。……ですが、これはあまりに予想外な光景ですね。……『危険な拠点』と聞いていましたが……」


 メルディは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、鋭い視線で広場を観察した。

 彼女たちが驚いたのは、魔獣の大人しさだけではない。

 ゴミ一つ落ちていない広場、品目ごとに整理された資材。そして何より、あの中心で笑いながら指揮を執っている女性――セナの、淀みのない立ち振る舞いだ。


「あら、お客様? 遠路はるばる、ご苦労様です!」


 セナは、二人の姿を見つけると、親しみやすい笑顔で駆け寄ってきた。


「あなたがメルディさんとロレッタさんね? 待っていたわ。喉が渇いたでしょう? まずはこれ、冷たいハーブティーよ。……それから、焼きたてのパンケーキもどうぞ」

「あ、ありがとうございますぅ〜! わぁ、すっごく美味しそうな匂い……!」


 ロレッタは、セナから手渡されたパンケーキの誘惑に抗えず、一口食べて「はわわ〜、幸せですぅ……」と蕩けるような笑みを浮かべた。

 一方、リーダー格のメルディは、出されたお茶を一口飲んで礼を言うと、プロの顔に戻った。


「セナ殿。……私たちはドラゴンの健康管理を任された看護師です。……ですが、その前に、私たちの持ち込んだ医薬品や器具の保管場所を確認させていただけますか? 非常に繊細なものですので……」

「ええ、もちろんよ! こちらへどうぞ」


 セナは二人をシェルターの奥、新しく拡張した「医療エリア」へと案内した。

 そこには、セナがレイやコボルトたちと協力して作った、清潔な木製の棚が整然と並んでいた。


「わあ……! この棚、私たちの薬草のサイズにぴったりです!」

 ロレッタが感嘆の声を上げる。メルディも、その棚の「使い勝手の良さそうな配置」に驚きを隠せなかった。


 セナは、メルディたちが持ってきた箱を一つ開けると、中身を優しく確認し始めた。


「……なるほど。これは湿気に弱そうね。こっちは直射日光を避けて、こっちの影の棚に置きましょうか。……あ、この器具は大事なものね。一番上の、ガタガタ揺れない場所に収めましょう」


 セナの指先が、迷いなく薬品や器具を仕分け、場所を決めていく。

 メルディは、その様子をじっと見つめ、絶句した。

 自分たちが数日かけて整理するつもりだった大量の物資が、セナの「お節介」なほど完璧な手際で、わずか数分で「あるべき場所」に収まっていくのだ。


「……セナ殿。……あなた、以前はどのようなお仕事を?」

 メルディの問いに、セナは照れくさそうに笑いながら答えた。


「ただの事務員よ。……でも、物は正しく置いてあげないと、いざという時に困るでしょ? 命を預かるお仕事なら、なおさらよ」


 メルディは、その言葉に深い感銘を受けた。

 この女性は、魔法使いではない。けれど、彼女が持つ「整える力」は、どんな魔法よりも、この場所を「楽園」に近づけているのだ。


「……ロレッタ。私たち、とんでもなく素晴らしい『お母さん』の下に来てしまったようね」

「はひ? よくわかりませんけど、セナさんのパンケーキが美味しいので、私、一生ここにいたいですぅ!」


 ロレッタの呑気な返事に、メルディは苦笑いしながらも、自分の中に湧き上がる「この場所を共に守りたい」という情熱を抑えきれなかった。


 やがて、セナはノートに新しい項目を書き加えた。

『新規雇用:メルディ、ロレッタ。本日より、楽園の「保健室」を開設。……これで、ハルくんの健康も、レイくんの怪我の予防も、万全ね!』


 専門職が加わったことで、拠点は「家」という枠組みを超え、一つの「大きな家族」へと進化した。

 夕闇が迫る中、セナは新しく仲間になった二人を囲み、特製の夕食を振る舞った。


 ハルは新しいお姉さんたちに興味津々で、ロレッタの膝の上で丸くなっている。レイは、少しだけ照れながら、メルディに森の案内をしていた。


 セナは、その賑やかな光景を眺めながら、心の中で自分に言い聞かせた。

(家族が増えれば、それだけ守るべき『笑顔』も増える。……お母さん、もっと頑張らなきゃね!)


 魔獣の楽園は、新しい風を受け、さらに大きく、さらに温かく、その翼を広げようとしていた。


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