第8話「真実の代償」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回は、レンたちの行動によって世界が少しずつ揺れ動き始める、大きな節目となる回です。
それと同時に、彼ら自身にも“代償”という形で現実の重さが押し寄せてきます。
正しさと向き合うことの難しさ。
それでも、声を上げることの意味を、少しでも感じていただけたら嬉しいです。
全世界に拡散されたデータは、一夜にして社会の空気を変えた。
「正義スコアは操作されていた」
「高スコア者の中に、汚職や犯罪を隠していた者がいた」
「数値が、真実を歪めていた」
ニュースは速報で埋まり、SNSは騒然とし、政府は記者会見で釈明に追われた。
それでも――肝心の“本当の変化”は、まだ起きていなかった。
「レン、スコア制度は停止されるかもしれない」
ユナが静かに言った。
「でも、それと引き換えに…君の存在が“処分対象”から外れる保証はない」
正義スコア99.999。
システムにとっては、あまりにも異常な値。
暴かれた真実とともに、僕自身の存在もまた、危険視されていた。
「スコアをリセットする方法は?」
「……ない。今のところは」
シンジが答える。彼の目も、どこか曇っていた。
それでも、僕は後悔していなかった。
スコアを下げるために誰かを傷つけなかったこと。
自分の正義を、誰かに譲らなかったこと。
――ただ、その代償は重かった。
僕たちが潜伏していた隠れ家が特定され、無人偵察機が近づいてくる。
「また逃げるのか?」
「いや、今度は“話す”」
僕は通信端末に向かい、全公開のライブストリームを起動した。
政府も見ている。市民も見ている。
目の前にある現実は、すぐに変えられなくても。
僕たちが歩いてきた過程を、言葉で残すことはできる。
「正義とは、都合よく使われるためにあるんじゃない」
「誰かの命を軽くするための、数字じゃない」
「僕たちは、考える権利があるはずだ」
少しずつ、コメントが流れ始める。
〈聞いてるぞ〉
〈正義スコアって、やっぱおかしかったよな〉
〈本当にそれが正しいのか、誰が決めてたんだ〉
言葉が連鎖し、人々の“沈黙”が、少しずつ“声”に変わっていく。
「……ありがとう。聞いてくれて」
その瞬間、隠れ家の屋根が爆音とともに崩れた。
僕の視界が、一瞬、白く染まった。
意識が遠のくなか、聞こえたのはユナの叫び声と、
「まだ終わらせない!」という、シンジの声だった。
これはまだ、終わりじゃない。
僕たちの“正義”は――これからだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
レンが自分の言葉で“正義”を問いかけ、社会に少しずつ波紋を広げる様子を描きました。
まだ何も終わっていない。でも、確かに始まりは生まれている――そんな感触を大事にしています。
次回は、さらに世界の反応や、仲間たちの動きも大きく変化していきます。
よろしければ、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。