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ファンタジーレコード  作者: 夜桜日々哉
物語の火蓋は切られた
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第九頁 はじめの一歩

本日三話更新予定です。これは一話目です。

 数日後、僕は幾つかの書類を持って第一イルミナ魔法学校の事務課へと顔を出していた。


「えーっと、テトラ・ハイドルド十三歳、うん、確かに書類は揃っているね。間違いもないみたい」


「じゃあこれで……!」


 淡々と書類の確認作業をこなしていく事務員さんとは反対に、僕は心を躍らせていることを隠そうともしない顔で応えた。


「そうだね、仮ではあるけど、とりあえず卒業おめでとう」


 心做しか、事務員の人も微笑んでいるように思えた。そう、僕は仮卒業して冒険者となる道を選んだのだ。元々ペイン&マジックに憧れていた身として冒険者を目指すつもりだったし、ヴェルベッドに身バレしているのなら仮卒業するのは一石二鳥だ。


 この選択をするのにさほど時間は必要としなかった。


「ありがとうございます」


 すると事務員の人は、手元の引き出しから白い小さな箱を取り出した。開けると、中には赤いクッションと、その上に転移ペンダントと呼ばれる、小粒な紫色の結晶が先に付いたペンダントが置かれている。


そのペンダントと、後ろの方に山積みにされていた手帳を手にして、僕の方に差し出してきた。見ると、冒険手帳の方には八桁の数字が下の方に薄く彫られている。


「じゃあこれ、卒業祝いの冒険手帳と転移ペンダントね」


「ああ、どうも」


「この手帳は、イルミナ出身の冒険者であることを示す証です。絶対に無くさないでくださいね。それと、冒険には死が付き物です。危機に陥った時や学校(ここ)が恋しくなった時、ふとした時でも構いません。何かあった時はこのペンダントに祈れば、()()()()()だけ、このイルミナにワープすることができます」


 早速冒険手帳をポケットの中に入れ、転移ペンダントを首にかける。冒険者として仮卒業した人達の死亡や行方不明情報が絶えないために施された案がこのペンダントだ。


 実際、これはありがたい。特に一人で旅立つ僕にとっては一級品の品物だ。


「ご丁寧にありがとうございます。じゃあこれでいつでも冒険に出ていいんですよね?」


「ええ、()()()の方にはこちらから今テトラさんに渡した冒険手帳のナンバーを登録しておくので、お好きな時にお好きなように冒険に出てもらって構いませんよ」


「わかりました、ありがとうございます」


 僕は事務員さんとの会話を一通り終えると、学校を後にし、自分の家へと戻った。冒険者として仮卒業する場合、卒業式のようなものはない。あくまで、偉業を達成して戻ってきた時に卒業となるのだ。


 まぁ、実際その卒業の手続きを面倒くさがらずにきちんとやった人達は少ないのだけれど。


 別に卒業の手続きをしなくても特にこれといった支障は無い。ただ形として仮卒業、卒業という方式になっているだけだ。僕は……どっちになるだろうな。


「ただいまー」


「お、おかえりー、どうだった?」


 玄関をくぐると、分かっていたかのようにトキメラがヌルりと顔を出してきた。今日は休館日らしい。


 それに続いて、パラメラもトキメラの足元から顔を出した。ふわふわとした毛並みを宿すしっぽをぶんぶんと振っているのが分かる。


「無事に終わったよ」


「ならよかった。それで? もう出ちゃうのかい?」


「うん、そのつもり。早いに越したことはないしね」


 僕は家に足を上げることなく、玄関に置いていたバックパックを背負ってそう言った。そう、昨日の内に準備は終わらせておいたのだ。


 もちろん! 中には一冊のみだけどペイン&マジックが入っているぞ!


 トキメラは少し寂しそうな顔をしてこちらを見た。だがそれ以上に、パラメラは振っていたしっぽを床に落とし、落ち着きの無い様子を見せながらより一層寂しそうな表情をしていた。


「そうか、わかった。ペンダントは貰っているんだろう? 何かあったらすぐに帰ってくるんだよ」


「わかってる。……それじゃ」


 戸を開ける前、一呼吸置いて振り返り、別れの言葉を呟いた。


「いってらっしゃい」


 トキメラの言葉を背に受けながら、僕は外の青空を視界に入れる。しかしその瞬間、右足が引っ張られる感触がした。見ると、パラメラが右足の裾を口で引っ張っている。


「あこらこらパラメラ、引っ張るんじゃないの」


「あはは、パラメラは寂しがるだろうね」


 何度か足を前後に振るも、パラメラは一向に離す気配を見せなかった。それどころかより一層しがみついてくるようにも思える。


「あーそうだテトラ、いっそのことだ。パラメラも連れて行ってみてはどうだい」


「えっ!?」


 トキメラの提案を聞いて僕とパラメラは硬直した。そして徐々に動き出す。僕はすっと足を下ろしトキメラを見つめるように、パラメラは言葉を理解しているかの如くぴょんぴょんと跳ね回るように。


「え、しょ、正気?」


 僕はトキメラに再度確認した。


「正気さ」


 その目を見る限り、どうやら本気らしい。


「考えてもみれば、ヴェルベッドにパラメラのことは知られている訳だろ。それに僕だって図書館の仕事があるからパラメラをずっと見ていられる訳じゃない。図書館にパラメラは連れて行ってあげられないしね」


「まぁ確かに」


 僕が少し納得した感じを見せると、トキメラは、真剣に閃いた、そんな説明の似合う表情を魅せる。壁に肘をつき、人差し指を僕に向けて次の言葉を得意げに言い始めた。


「となれば、君の冒険にパラメラを連れて行ってあげた方が、お互いのためじゃないか? テトラだって、正直一人は寂しいだろう?」


「……っ、それは……まぁ」


 少しだけ顔を背けて、恥ずかしがるようにぼそっと呟いた。


 けれどそれは事実だし、実際みんな同じ状況なら寂しいことだろう。憧れた冒険者になれるとはいえ、慣れ親しんだ仲間や故郷から離れるというのは。


「なら決まりだ。よしテトラ、パラメラ、二人とも行ってらっしゃい」


「ちょ、まだ決まったわけじゃばばばふぁ」


 強引なトキメラの後押しのおかげか否か、僕が言葉を言い終える前にパラメラが僕の顔面に飛びついてきた。口の中鼻の中をパラメラの毛がくすぐってくる、こしょばい……。


 僕は急いでパラメラを顔面から引き離し、そしてその顔を見つめてしまった。見つめてしまったのだ。うるうるとした瞳、連れて行ってくれと言わんばかりの眼差しを僕に向けられている。


「ほら、パラメラはもうその気みたいだよ。どうする?」


「ぐっ、う、うーん」


 少しだけ考えてみる。


 確かに、パラメラをこのままイルミナの家に残しておくのは少し不安があった。ヴェルベッドの件に、トキメラが不在の間の面倒、そしてごく稀だが逃げ出した経歴もある。


 ……確かに、僕が冒険に連れて行って面倒を見てあげた方がいいかもしれない。ご飯がモンスターの肉になることもあるだろうから、そこが心配だが、自分で面倒を見る分不安は解消される。


 ……もう一度だけ、パラメラの目を見た。


 きら……きら、きらきら。ぱちぱちぱち。


 だめだ、可愛すぎる。可愛すぎて、放ってはおけない! そういうことにしておく!


「わかった、仕方ないから連れて行くよ」


「はは、素直じゃないなー。そんなにがっつり抱きしめちゃって」


 無意識か故意か、その真相は何故か僕自身にも分からないが、僕の腕はがっしりとパラメラをホールドしていた。その様子を見て、トキメラは親のような微笑みを見せる。


「いいでしょ別に。それじゃ、今度こそ本当に」


「うん、またいつかね」


 僕は赤子を乗せるように片腕でパラメラを抱えながら、先程と同じように手を振った。徐々にトキメラの方に背中を向け、青空へ向かって前進するように、振り返っていた顔を前へと向ける。


 敢えて、「行ってきます」とは言葉に出さなかった。心の中で思うだけで留めておいた。その言葉を発してしまったら、戻って来れないような気がしたからだ。


 ただその代わり、パラメラがトキメラに合図を送った。僕と同じように手を上げ、僕と違いトキメラに「行ってきます」と合図を送る。


 その合図は、とても可愛らしい合図だった。


「きゅっ」

ここまで読んでくださりありがとうございます!


今回のお話はお楽しみいただけましたかね?

読者の方々が「ひゃっほーい!!!!!!!」と声を大にして叫べるような作品を志してどんどん投稿していくので、楽しんでいただけたのであれば幸いです。


まだまだ字書きとして未熟な者ですが、レビューやコメント、ブックマークをしてくださると、活動をしていく際に大変励みになります。

是非よろしくお願い致します!



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