2:王国の崩壊と俺への依頼
キャベツ農家として平和に暮らしていた俺だったが、その日、世界が一変した。
王国の魔力の核――「竜王キャベツ」が盗まれたのだ。
この世界では、キャベツこそが魔力の源。キャベツが枯れれば魔法は使えず、文明すら崩壊する。
そして、今まさに世界は崩壊の危機に瀕していた。
「魔法が……使えない!?」
「王都の結界が崩壊した! 魔物が侵入してくるぞ!!」
「誰か、竜王キャベツを探せ!!」
王国中が大混乱に陥る中、辺境の村でキャベツを育てていた俺の元にも、その報せは届いた。
夜。俺が収穫したキャベツを確認していると、突然、村の入り口が騒がしくなった。
「お、おい! 王女様が来たぞ!!」
「はぁ!? なんでこんな田舎に!?」
まさかと思って外へ出ると、そこには青白い顔の王女リーファがいた。
鎧は傷だらけ、剣も鞘に収める余裕もなく抜き放ったままだ。周囲には数名の護衛騎士がいるが、彼らもボロボロで、まるで戦場をくぐり抜けてきたようだった。
「……よう、お偉いさんがこんなところに何の用だ?」
俺が腕を組んで皮肉っぽく言うと、リーファは苦い顔をしながら俺の前に立った。
「……一真、あなたの力が必要なの」
「今さら俺を頼る? 都合よすぎるだろ?」
「……わかってる。でも、キャベツを探知できるのは、あなただけなのよ!」
俺はリーファの必死の表情を見て、少しだけ考える。
……いや、ちょっと待て。
これ、俺の出番なのか?
「待てよ。お前ら、戦闘では最強なんじゃねえのか? なんでそんなに追い詰められてんだ?」
「……竜王キャベツが奪われたのよ」
リーファの言葉に、俺は眉をひそめる。
「……なんだと?」
「竜王キャベツが奪われたことで、王国の魔法が使えなくなり、結界も崩壊。騎士団の魔法も使えなくなった……」
「つまり、お前らはただの剣を持った兵士になったってわけか」
リーファは苦しそうに唇を噛んだ。
「私たちには、竜王キャベツのありかを探る術がない。でも、あなたなら……!」
俺は静かに目を閉じた。
騎士団に追放された俺を、今さら頼りに来るとはな。
だが――
「……まあ、別にいいけどな」
「え?」
リーファが驚いた顔をする。
「俺はお前らのために動くわけじゃねぇ。俺の畑のキャベツも弱っちまったし、このままじゃ困るのは俺も同じだ」
そう、俺は復讐したいわけじゃない。
ただ……この世界のキャベツがなくなるのは困る!
「やってやるよ。ただし、一つ条件がある」
「何?」
「……後で礼をしろよ?」
「っ……!」
リーファは一瞬、頬を赤め驚いたような顔をしたが、すぐに真剣な表情でうなずいた。
「ええ。必ず」
俺はスキルを発動した。
ピキーン!!
――ポコンッ!
視界の中に、無数のキャベツの位置が浮かび上がる。
だが、その中で異様な気配を放つ一つのキャベツがあった。
「……まだ、王都にあるぞ。ただ、場所が地下だ」
「地下!? なぜそんな場所に……?」
リーファは驚愕するが、俺は構わず進み出す。
「よし、行くぞ!」
俺たちは急いで王都へと向かった。
王都は地獄と化していた。
炎に包まれた街並み、暴走する魔法の残滓、倒れた騎士たち。
そして――
「な、なんだあれは……!?」
キャベツの魔物が街を蹂躙していた。
それはまるで、紫黒に染まったキャベツ――「紫キャベツ」のようだった。
「これは……闇キャベツ団の仕業ね……!」
「なんだそりゃ?」
「王国の魔力を独占しようとする闇の組織よ! 彼らが竜王キャベツを奪ったに違いない!」
「なるほどな……なら、ぶっ飛ばすしかねえな」
俺はリーファと共に、闇キャベツの魔物に向かって突っ込んだ。
「ポチ、行け!」
「ポチィィ!!」
俺の懐から飛び出したのは、小さなスライム――キャベツスライムのポチ。
こいつはキャベツを食べることで進化する特殊なスライムで、なぜかポチィ!と鳴く。
「ポチ、闇キャベツを食え!」
「ポチィィ!!」
パリッ!パリッ!
ポチは敵の闇キャベツに飛びつくと、そのままバクバクと食い始めた。
「う、嘘でしょ!? 闇キャベツを……食べてる!?」
「こいつはキャベツなら何でも食う。たとえそれが魔物でもな!」
ポチが闇キャベツを食い尽くすと、その体が一瞬光り――
「ポチィィィ!!」
次の瞬間、ポチは進化し、キャベツウルフへと変貌した!
「な、なんなのこのスライム……!」
「俺にもわからん。でも、行けるな?」
「……ええ、行くわよ!」
リーファと俺は、キャベツウルフ・ポチに乗り、王都の地下へと突入した。
そこには、王国最大の秘宝「竜王キャベツ」を奪い、闇キャベツ団のボスを名乗る男が待ち構えていた――。