1:転生&追放された俺と絶望のスキル
ブラック企業で働く毎日は地獄だった。
始発で出社し、終電で帰る。休憩なんてものは存在せず、昼食はパソコンの前で流し込むだけ。上司の罵声は毎日浴びるし、終わらないノルマが山積みで、寝る時間さえ惜しい。
そして、ある日のことだった。
――ガクンッ。
視界が暗転し、俺はそのまま意識を失った。
目が覚めると、そこは見知らぬ場所だった。
「……え?」
俺は草原に寝転がっていた。見上げると、澄み渡る青空。風が心地よく頬を撫でる。
だが、それよりも驚いたのは目の前に浮かぶ青白い文字。
【転生しました!】
【授かったスキル:キャベツ探知】
「……は?」
転生と聞き、チートスキルを期待した俺だったが、スキルの説明を読んで絶望する。
【キャベツ探知】
効果:キャベツの位置がわかる。
「……いや、何でキャベツ限定なんだよ!!」
諦めて草原を、とぼとぼと歩く。
俺を発見したのは王国の魔法騎士団だった。
「異世界転生者だと?」
「本当なら、お前のスキルを使って見せてみろ!」
期待の眼差しを向けられ、俺は仕方なくスキルを発動した。
ピキーン!
――ポコンッ
「……あ、あの丘の向こうにキャベツ畑があります」
沈黙が流れる。
「……で?」
「え?」
「それだけか?」
「はい?」
「くだらん!」
騎士団長の怒号が響いた。
「そんなスキル、何の役に立つ?」
「いや、キャベツ探しには役立ちます……」
「必要ない!」
騎士たちが嘲笑する。
「キャベツ探知(笑)」
「異世界転生者のくせに、なんという無能スキル!」
「そんな奴、追放してやろう!」
すると、その場にいた金髪の少女が一歩前に出た。
「ちょっと待って!」
目の前の少女は、美しい金色の髪をなびかせ、鋭い眼光を俺に向けていた。王族特有の気品を感じさせる鎧をまとい、腰には緑色の光を帯びた剣を携えている。
「王女リーファ様……」
騎士たちが恭しく頭を下げた。
この王国「キャベージ王国」の王女らしい。
リーファは俺をじっと見つめた後、ため息をついた。
「異世界転生者だというから期待したのに……キャベツ探知?」
「そうです……」
「ふざけてるの?」
「俺が一番そう思ってます……」
リーファは呆れ顔をしたが、騎士団長に視線を向けると、冷静な声で言った。
「戦闘で役に立たないなら、農業に回せばいいじゃない」
「ですが、王女様!」
「キャベツは貴重な資源よ。探知できるなら、無駄にすることも減るかもしれないわ」
俺は驚いた。まさか、俺のスキルを必要としてくれる人がいるとは。
だが、騎士団長は鼻で笑った。
「なら、辺境の農家で十分でしょう。王国には必要ありません」
「……そうね。彼を、近くに置いておく理由はないわね」
「なっ……!?」
リーファは俺を一瞥し言った。
「追放するのはかわいそうだけど……まぁ、あなたには別の道があるわよね?」
「……そう、ですね」
俺は拳を握りしめた。
王女は俺のスキルを無下にしなかったが、結局、戦力外通告には変わりない。
こうして俺は、異世界に転生して最初の一歩を踏み出す前に、あっさりと騎士団から追放されたのだった。
その後、俺は辺境の村に流れ着いた。
「……キャベツか」
途方に暮れていた俺は、たまたまキャベツ畑で困っている農夫を見つけた。
「はぁ……キャベツが枯れちまった……今年の収穫はダメだな」
「キャベツが枯れた?」
俺はスキルを発動してみた。
ピキーン!
「そのキャベツ、まだ生きてますよ」
「……は?」
農夫が疑いの目で俺を見るが、試しに掘ってみると、そこには根が!
「な、なんでわかったんだ!?」
「俺、キャベツ探知ができて、キャベツの状態も解るんです」
「キャベツ探知……?」
農夫は怪訝な顔をしたが、結果は事実だ。こうして俺は村のキャベツ農家として雇われることになった。
こうして異世界転生した俺の新たな生活が始まった。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
この世界では キャベツこそが魔力の源 であり、やがて俺の「キャベツ探知」スキルが 世界を救う鍵 になることを――。