『炭焼きの男と速記者』
炭焼きの男が、速記者に出会いました。炭焼きの男は、速記者が、大層いい人なのを知って、一緒に住まないかと提案しました。まあ、速記者に悪い人なんかいませんけど、一緒に住もうと提案するのは、なかなか勇気が要ります。理由は、主に、経済的なものでした。二人で済めば、光熱費は半分ずつの負担で済みますし、食事だって、二人分をつくるのは、一人分の二倍はかかりません。信用できない人とは一緒に住めませんが、速記者に悪い人なんか以下同文。
しかし、速記者は、この提案を断りました。炭焼きの男が嫌いだったわけではありません。速記者は言いました。御提案はありがたいが、私たちの仕事は、原文帳に速記文字を書いて、それを原稿用紙に起こしていくんだ。君のようにすすを出して白いものを黒くする仕事の人とは、一緒に暮らせない宿命なんだよ、と。
教訓:仕方ないことです。