表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄に憧れて  作者: 九四山井耐排夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/27

8.怪文書

 唯にとって聞き込みは不本意なまま終了してしまったが、特にそれを悔やむ様子もない。探偵の相棒よろしく、牧野の根城、パソコンルームまで同行してきた。


 ドアには鍵がかかっていた。上靴も置かれていない。ぴったりと閉じられた教室は明かりもなく、無人である証拠を突き付けてくる。



 結局、牧野の目論見通り、俺たちは振り回されているというわけだ。



「牧野さんは、事件を期待しているんじゃないの?」



 俺の考えを見透かしたように、唯が言った。



「今日が木曜で、土曜は二日後。止めるにしては、手掛かりが少なすぎるもの」

「じゃあ牧野の目的は何だと思う?」



 唯は肩をすくめる。



「『止められなかった』っていう、罪悪感を植え付けること、とか?」

「悪趣味だ」



 そうこうしているうちに、下駄箱の前までやってきていた。これ以上学校に残っていても得るものはない。


 上靴を脱ごうとして、ふと、布津の顔が脳裏をよぎった。


 先日俺が事務所を飛び出した後、あいつは何を考え、何をしようとしているのか。



 散々拒絶するような真似をしておいて何をいまさら、と言われてもおかしくはない。だが、あいつのことが心配なのも確かだ。



 たとえ、それを偽善と言われようと。




「……ん?」



 学校指定のスニーカーに、見慣れぬ封筒が載っていた。よくある茶封筒で、中には折り畳まれたA4の紙が押し込まれていた。



 2、3枚からなるそれは、黒地に白文字という、アングラ系サイトを印刷したものだった。



奇しくも恵麻さんと事務所で見た、事件をまとめたサイトのものだった。



『沼江町連続殺人事件の分布』と書かれた地図には犯行現場が点々と記されている。二枚目には『匿名の情報』と銘打たれた、管理人による意見のようなものが書かれている。



『絶対に発覚しない驚異の連続殺人と呼べるこの事件は、まさしく神憑り的なものだと言えるだろう。それは、丑三つ時に神社で行う藁人形での呪詛よりも遥かに確実なものである。

 本ページでは長きにわたってマスコミからの情報を整理し、同時に一般人からの情報提供を呼び掛けてきた。そこに、管理人あてに興味深い匿名のメールが届いたので全文を掲載する』



 印刷されているのは、怪文書としか言いようのない代物だ。



「沼江町の殺人事件は、聡明な管理人さんのご推察通り殺人対象が学校関係者であることは明らかなのですが、これにはある秘密が隠されているのです。



 十年近く前にこの沼江町の学校を卒業したAというOBがいました。彼は成績優秀で、県下有数の進学校へ入学したのですが、そこで勉強に追いつけない、挫折というものを味わうことになりました。



 結局彼は高校を中退したのですが、彼はどうしてもそのコンプレックスから脱却することができませんでした。彼にとって耐えがたい現実、屈辱にまみれた日々が、どれだけ彼を追いつめたことでしょう。彼はやがて、彼にとっては正当なる理由を以て、学校という場所に復讐心を抱くようになりました。



 管理人さんがまとめた情報の通り、沼江町はかなりの田舎であり、マスコミも多くの情報を口の軽い近所の住民から仕入れています。この、田舎特有の情報伝播の速さ、彼の進学と挫折を噂し合った地元、田舎に、彼は憎悪を抱きました。そして彼の出した結論は、こういうものでした。



彼は自分が1984年を生きていて、学校こそがビッグ・ブラザーであることを悟ったのです。もちろんそれは、監視社会を批判する際にマスコミが用いる方のビッグ・ブラザーであり、彼の保護者ではありませんでした。



殺人を計画し、実行する彼の頭には、そのことがこびりついていたと思います。


ビッグ・ブラザーをやっつけろ。

彼は何度もそう唱えたに違いありません。

だからこそ、学校に関わる人間、教師や生徒を殺していったのです。

 

しかしそんな彼にも、最近変化が訪れてきました。



というのは、元来聡明な彼は、死体を発見されても、犯人として追及されないところに、殺人者としての己の才覚を自覚したのです。



 今彼は、請負殺人を行っていると聞きます。詳しい連絡方法はまだ明らかになっていませんが、何らかのアプローチの後、彼に接触することができるようです。


 妙なところで親切と言うべきか、彼はあくまでも子供が払えるだけの報酬額で殺人を請け負っていると聞きます。

これが真実であるならば、恐るべきことです。一刻も早く、彼を逮捕しなければなりません。


私は今後も彼の行方を追いますが、ほとんどが伝聞で、なかなか彼自身に辿り着くことができません。家族さえも、彼の行方を特定できていないのです。普段は離れた地に住んでいて、特定の季節に限って帰郷するという噂すらあります。


もし私の捜査に協力してくださる方がいるならば、ぜひご一報願います」



「なにこれ」

 ごもっとも。



「ストーリーとしてはあまりに陳腐だし、その犯人が発覚しない理由は『巧妙』『聡明』だから、の一言。なんでこんな文章を長々掲載したのかしら?」



読み物としてはせいぜいが、暇潰しの噂話、まとめサイトの読み物程度だろう。

だとすれば、要点はそれ以外の場所にある。



「ストーリーそのものには、何の意味もないんだ」

「どういうこと?」

「注目すべきは管理人の前置きと、地図だ」

「前置き?」


「『神憑り的』とか『丑三つ時の呪詛』という、神社を連想させる単語を管理人の言葉として配置する。情報の裏どりを行っている『信頼できる語り手』である管理人の後に、匿名の『信憑性のない物語』が配置されている」


「……どういうこと」

「メッセージだ」



 封筒をポケットに仕舞い、言った。



「『神社』を訪れれば『殺人を委託できる』あるいは『殺人を容易に実行できる』というわけだ。しかも、絶対にばれることなく、な」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ