第九話 村雨パターソン
あの後、しばしの間ガールズトークを楽しんだのち、お見送りの申し出を丁重にお断りしてから雑居ビルをあとにした。外に出ると太陽が西の空に沈みかけていた。
昨日の今日でまたオトンに心配をかけたくなかったので気が急くが、なにぶん体がついてこない。駆けたわけでもないのにあがった息にもどかしさを覚える。本調子とはいえない体で無理をして万が一があってはそれこそ事なので、渋々と近くのベンチに腰をおろした。
『力っていうのはね──』
呼吸を整えていると白上さんの声がよみがえってくる。
彼女がいうには、まず最初にそれが体の中のどこから湧き上がってくるのかを知る必要がある、とのことだった。で、それを見つけるための一番手っ取り早い方法が、意識を呼吸のリズムなり心臓の鼓動なりに同調させる、なんだそう。さいわい今ならそのどちらもハッキリとしている。
『集中させると──』
大きく激しかった拍動が少しずつゆっくりになっていく。すると──にわかに顔をあげた。
力を感じたのだ。体の外に!
驚いてそちらの方を見ると、そこには下卑た笑いを浮かべる男が立っていた。そいつはニタニタと乱杭歯をむき出しながらこちらに近づいてきた。ウチはその場を離れようとしたがあっさりと道をふさがれてしまった。男は腕を伸ばしてき──
「ちょっと待ったー!」
女性の声がそれをさえぎった。見るとそこには、燃えるような真っ赤な長い髪にMA-1を着た面識のない女性が立っていた。その人は切れ長の目をさらに細め男をにらんだ。ふたりの視線がぶつかり、それを合図に互いが一歩を踏み出すと、またあの感覚に襲われる。倉庫で白上さんと修道服の女性が対峙したときに感じたあれだ。
それを皮切りに両者が激突する。一瞬にして間合いを詰めた女のくり出した拳が男の体をとらえる。体格差をものともしない強烈な一撃に男が後退る。だが苦悶に顔をゆがませたのは女の方だった。
『能力者が自身の固有の能力を人目につく場所で使用することは通常ありえ──』
──あった。
男の全身を薄い透明な膜が覆っていた。それに気づいた女が吼えた。
それまでだった。
彼女の放った火球が男の全身を炎で包み込んだ。男はそれでも倒れなかったが、女はそれを放置したままこちらに駆け寄ってきた。
「こっちへ!」
あまりの急展開に困惑したが、人の集まる気配を感じたウチは大人しくその言葉に従った。