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第十九話 湊・アンブレイカブル

 ウチが全員をのしたころには、スカーフェイスさんたちの方の趨勢すうせいも決していた。

 指示役の男はふたりに挟まれ身動きがとれなくなっていた。


「ゼェ・・・ハァ・・・お、お前ら・・・な、何者な・・・んだ?」


 息もたえだえな男のげんに妙なことを考えつく。


「力に目覚めたことで、お金をせしめる相手をおじさんから犯罪者に鞍替くらがえした元パパ活女子、ってどう思います?」

「いつか本当にそんな事件起こりそうだから止めてくれる」

「はぁ!? お前、馬鹿にしてんのか!」


 男にいったつもりはなかったのだが、スカーフェイスさん共々かんばしくない答えが返ってきた。さいわいパタさんには好評だったみたいなので、それで満足することにした。


「で、どうします?」

「ハッ、勝ったつもりか?」


 これもアンタにいったわけじゃない。と、それは心の中に押しとどめ、じゃあこの状況でなにができるのか、とややかな視線で催促する。


「こっちにはなあ、強力なすけがいるんだよ! 先生、やっちまってください!!」


 男が三下さんしたまる出しで声を張り上げると──なにも起こらなかった。


「あ、あれ? せ、先生ーっ!?」


 結果は同じ。二度、三度と繰り返すが猫の子一匹すら出てくる気配はなかった。しまいには半泣きになりながら叫んでいたが──ついにその人が姿をあらわした。

 前髪だけをカラフルに染めた銀髪に、暗い紫のアルマーニを着たハンドポケットの若い男性が、入場口からノソノソと歩いてきた。


みなと!?」


 最初に声をあげたのはスカーフェイスさんだった。それで彼女の存在に気づいた彼は、その端正たんせいな顔を驚きでゆがめた。


「げえっ、あねさん!」


 ズカズカと詰め寄ってくる彼女に、彼は両のてのひらを前に突き出しながら、および腰で後じさった。


「あんた、今の今までどこほっつき歩いてたのよ!」

「そ、それはですね、あのー、そのー・・・」


 助けを求めるようにらした彼の瞳がウチのことを捉えた。すると彼はこちらまで小走りでやってきて、ウチの両手を握り囁いてきた。


「自分、湊・アンブレイカブルっていいます。以後お見知りおきを」


 並みの女性ならその蠱惑的こわくてきな微笑みに卒倒していただろう。けどウチの趣味からすると、髪の量が多いし野性味も足りてなかった。だもんだから微妙は反応しかできないでいると、戻ってきたスカーフェイスさんが彼のことを引っぺがした。


「あんたには探題としての自覚ってもんがな・い・わ・け!?」

「チョ、マジかんべんッス!」


 猫のように首根っこをつかまれたイケメンの彼が平謝ひらあやまりするも、スカーフェイスさんの怒りは収まらない。

 敵ではなく彼女の同僚らしい味方の登場に残りの三者は困惑していたが、そこからいち早く立ち直った指示役が口を開いた。


「あ、あの・・・先生がたは・・・?」

「あぁん!? あいつらならあっちで寝てるぜ」


 スカーフェイスさんの手から逃れようと必死にもがく湊と名乗る男性は、そいつにはやけに強気で答える。それを聞いて彼女はようやっと湊さんのことを解放した。


「一応やることはやってたってわけね」

「そーなんすよ、姐さん」


 そういいながらヘラヘラしている彼に、彼女が鼻を鳴らす。


「そんな・・・5人もいたんだぞ・・・」


 膝をつき呆然とつぶやく指示役の男に、スカーフェイスさんが見下ろしながら声をかける。


「で、あんたはどうする?」


 その言葉にハッとなった男がとっさに立ち上がろうとした。だがそれは大きな破壊の音によって遮られた。


「動くな」


 湊さんから鋭い制止がかかる。その後に、彼によって藤井寺ふじいでら球場ならホームランな勢いで蹴り上げられたオリコンが落下し砕け散った。動けばどうなるか、そのことをその残骸が雄弁ゆうべんに物語っていた。それが伝わったのか、男はそれ以上なにかをするような素振りは見せなかった。


「一件落着~」


 ひりついた空気をぶち壊すようなスカーフェイスさんの能天気な声だけが響き渡った。



 * * * * *



 探題のふたりと別れ、人通りのある場所まで戻ってきたところでパタさんが足を止めた。


「今日は付き合ってくれてありがとね」


 ウチが半ば強引についていっただけなのに、彼女は優しいことをいってくれた。

 パタさんはこれから預かっていたお金を元の持ち主に返しにいくとのことだったので、ウチも乗りかかった船だとついていくことにした。すると彼女から嬉しい申し出があった。


「臨時の報酬アップもあったことだし、これからなにか美味しい物でも食べにいかない? もちろんワタシのおごりで」


 今まで見せたこともないような笑顔でそういってくる。もちろん断る理由がなかったので喜んで承知しょうちした。


「なにがいい? お寿司? 焼き肉? それとも甘い・・・」


 パタさんのお腹が鳴った。

 こちとらウキウキな彼女の姿でお腹いっぱいだったというのに。

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