第二話 ASMR
「ぺ~こぺこぺこ~」
スピーカーから流れてくるCEOを名乗る男性のなんとも調子の外れたあいさつを聞きながら朝食の最後の一品を作り終えると、それを手にリビングへと向かった。
「いただきます」
いつもどおりの誰もいない食卓に向かって手を合わせ、これまたいつもどおりの食事を口に運ぶ。
うん、美味しい。と、ひとしきり心の中で自画自賛タイムを堪能しているとそこにテレビからのニュースが割って入ってきた。
内容は連続失踪事件について。15年前からはじまったそれは解決の糸口さえ見つからぬまま今なお続いていた。
そう、つまりこれもまたいつもどおりなのだ。
そんなことを考えていたらいい時間になっていたので、ウチは手早く残りを片付け高校に行く準備に取りかかった。するとスカートに片足を突っ込んだところで、机の上に置いてあったスマホからメールの通知音が流れてきた。
* * * * *
川岸にある公園のベンチに腰かけながら今朝のオトンからのメールを思い出す。そこには一言『今日は遅くなる』とだけ書かれていた。唯一の肉親であるオトンの晩ご飯の支度をしなくてもいいので、早く帰る理由がない。なので先ほどからこうしてひとり鴨長明ごっこをしているわけなのだが、いい加減それにも飽きてきた。しかし帰ろうという気分にはどうしてもなれなかったので、動画でも見て暇をつぶすことにした。すると、こんな時間には珍しいASMRのライブ配信がオススメにあがってきていた。普段ならスルーするところだが、この時はまるでなにかに誘われるようにそのライブストリーミングを開いていた。
イヤホンから白上スノウストームと名乗るVtuberの女性の甘い囁き声が聞こえてくる。それは耳をくすぐり、心を昂らせ、ついには意識をまどろみの中へと誘っていった。