第十一話 姫森満月1
「そんなことがあったとは・・・」
大五郎さんが腕を組み眉間にしわを寄せながら唸る。
「火災の通報はあったけど・・・」
死傷者がでたことはどの新聞でもニュースでも報じられていなかった。
一般に攻性遺伝子が休眠状態の能力者を判別する方法は存在しないといわれている。つまり力さえ行使しなければウチも一般人として平穏に過ごせたわけだ。そう、昨日あの男に会うまでは。
アイツが個人なのかそれともいずこかの団体に所属しているのかはわからないが、顔を覚えられてしまった以上これまでと同じに、とはいかないだろう。
「あの男のこと、見つけられそうですか?」
「どうだろう。まあ、こっちとしてもできるだけのことはやってみるよ。職権を濫用してね」
おどける彼の言葉にそういえばとなる。
「警察の中には能力者を専門に取り扱う部署があるって聞きましたけど?」
「えー・・・いやー、その・・・あるにはあるけど・・・」
なぜだか妙に歯切れが悪い。
「もしかして守秘義務に抵触するようなことだったり?」
「あー・・・そういうわけでは・・・」
このあたりでピンとくる。
なぜ彼がその部署ではなく普通の刑事課に配属されているのか。もしその理由が、いわゆるキャリア組とノンキャリア組のようなものであったとしたら。そう考えれば彼のばつが悪そうな態度も推して知るべしと・・・
「オッホン!」
大きな咳払いから皆まで言うなという強い圧を感じたので、それ以上の詮索はよすことにした。
「と、とにかくだ。これからしばらくは、その白上という人たちとなるべく一緒に行動するように。それと・・・」
「霧の出てる日は出歩かない。それと立ち入り禁止区域には近づかない、ですよね?」
いう事が無くなった彼は、また咳払いをすると少しだけ真面目な顔をのぞかせた。
「それで、今日の予定は?」
「今日ですか? 今日はこれから──
* * * * *
「特訓なのら~」
隣に座る少女が電車の揺れに合わせて体を左右に動かしていた。
この子の名前は姫森満月。
事務所に行くと白上さんをはじめ満月ちゃん以外の全員が出払っていたので、今日は彼女にウチのお守りをお願いすることとなった。
「もうすぐなのらよ~」
舌ったらずな彼女の言葉に視線を窓の外へ向けると、眼下にはかつて人々が暮らしていた街並みが広がっていた。
ウチが生まれた翌年に施行された空家等対策特別措置法の特別措置法。失踪による人口の減少の予防を目的としたそれは、人々に半強制的な移住を促すことで、都市部に再構築された人口集中地区と立ち入り禁止区域という名の空洞をいくつも作り出した。
そんなことを考えていたら流れゆく景色がゆっくりとなっていた。
他に乗客のいない車内には、足をパタパタとさせながら放歌する満月ちゃんの声だけが響いていた。




