第一話 炎上
PM 24:34 都内某所──
普段なら静まり返っている倉庫街も今日はパトカーのサイレンで賑わしい。
多くの警察官が行き交う中、一点を見つめたまま微動だにしない男がいた。その視線は手にしたスマホに注がれていた。画面に映る位置情報アプリの指し示す場所──といっても彼の娘の現在地であるのだが──はまさにここであった。
およそ女子高生とは縁遠い、それでいて立ち入り禁止のこの場所になぜ? 男は浮かび上がるあまたの疑問に考えを巡らせいたが、それも突撃準備の合図によって打ち切られた。彼は小さくため息をつき頭の中を父親のものから刑事のそれへと切り替えると配置についた。
固く閉ざされた灰色のシャッターの前に蟻一匹通さぬ包囲網が敷かれ、あとは突入のかけ声を待つばかりであった。
──唐突にそれはやってきた。
爆発だ。
轟音、噴煙、熱波、それらに包まれ現場は大混乱に陥った。飛び交う怒号と右往左往する同僚たちの姿にもはや指揮系統は失われていたと判断した彼は、ひとりシャッターの吹き飛ばされた倉庫の中へと足を踏み入れた。
破壊のかぎりが尽くされた庫内の奥、陽炎の立つその先にいたのは──