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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第二章

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深き陰謀、霧を広げて

 夜。1人の男が多摩川の側にいた。府中港から然程離れていないこの場所だが、今はちょうど誰もいない時間帯だ……この、男以外は。


「……出てこい」


 男の指示に従うように多摩川から出てくるのは、無数のマーマン……いや、マーマンではない。もっと人に近く、しかし決して人ではない……半魚人から人になりかけたような、そんな不気味な何か。しかし、決して人ではない。その姿は明らかにモンスターだ。だが……指示しているのは人間であるように見える。


「ゲ、ゲゲゲ」

「ゲゲゲゲゲ」

「そのままでは人に見えないな。用意したものを纏え、マシになるはずだ」


 男の指示で用意されたローブを纏い、仮面をつけフードを被る。それだけでも覚醒者風になり、大分……怪しいが、マシに見える。世の中、すこぶる怪しい恰好をした覚醒者はいくらでもいるので「風体が怪しい」くらいではあまり言われない世の中になっている。事実、魚男たちがローブを着込んで仮面をつければ、怪しげな魔法系遠距離ディーラーの集団に見えなくもない。


「よし、行くぞディープワンども。今夜のうちに全ての仕込みを終えるんだ」

「ゲゲゲ」


 そうして男の指示に従い、ディープワンと呼ばれたモンスターたちは歩いていく。歩き、歩いて。目指すは府中の町中。夜になれば僅かな店しか開いていないこの場所では、彼等を見咎める者もいない。いや、実際見かけたとして覚醒者の集団が歩いていると思えば何の疑問にも思わない。何しろ、先頭を歩いているのは実に爽やかそうな、そして勇壮な恰好をした男だったからだ。

 たとえ誰かが声をかけたとして、男が何かを言えばすぐに納得しそうな……そんな他人を信用させる雰囲気を持っている。

 そうして……男は東京第8ダンジョンが見える場所まで辿り着くと、ディープワンの1人から黒いオーブのようなものを受け取る。明らかに何かのマジックアイテムであろうそれを掲げ、男は理解できない言語の呪文を唱え始める。


「■■、■■、■■■■■―■■■■■―――■■、■■」

 

 その言葉と同時に黒いオーブから溶け出すように霧状の何かが溢れ……深く、静かに府中の町中に広がっていく。広く、高く……府中の町を包み込むように発生した白い霧はけれど、町中のカメラの類には一切映らない。どのカメラにも、いつも通りの府中の町が映っているだけだ。しかし、しかし……これは。


「な、なんだ? 霧?」

「眠く……」

「状態異常攻撃か⁉ 連絡、を……」


 東京第8ダンジョンを警備していた職員たちがバタバタとその場に倒れ眠っていく。元から寝ている者は起きないまま、起きている者は抗おうとしても抗えないままに眠りに落ちていく。それは府中の町中でも同じだ。誰もが抗えないままに眠りに落ちて。やがて、男は「よし」と頷く。


「眠りの霧は満ちた。これでこの町で起きているのは僕たちだけだ」

「ギギギ!」

「ギーギギギギ!」

「始めるぞ。まずは第8ダンジョンを染め直す。僕はあの方の指示に従い奥へ進む。お前たちはあの方に生贄を捧げるんだ」


 男の指示に、ディープワンたちは近くに倒れている職員たちの武器を奪い、不気味な笑い声をあげながら刺していく。地獄。そう、なんとも地獄のような光景だ。抵抗すら出来ずに人が殺されていく。その光景を、ダンジョンゲートへと進んでいく男は気にすらしていない。いや、むしろ……喜んでいるのだろうか? その目の前に、ノイズまじりのウインドウが浮かんでいて……男は、喜色満面の笑みを浮かべている。


―【深き水底にありしもの】が満足そうに身じろぎしました―


「ご期待ください、僕の神よ。愚かな連中は東京湾のダンジョンが本命だと考えています。アレが囮などと、気付きもしないでしょう……明日の朝! そう、明日の朝には素晴らしい光景をお見せできるはずです! ああ、その時が楽しみだ……! 僕は、貴方の使徒として使命を必ずや果たしましょう!」


 そう、そうだ。ダンジョンをただの鉱山のようなものだと思っている連中は知るはずもない。ダンジョンは、ダンジョンこそは巨大な力の塊にして方向性を持った極小の世界。そしてその内容は、書き換えが可能なのだ。


「此処を起点に貴方の聖域を作りましょう! 他の神々を蹴散らし、貴方こそがこの世界を支配するお方だと知らしめましょう! この僕が……小林 誠一がやりとげてみせましょう!」


 そう、その男の顔は クラン『青龍』の物理ディーラーである『龍刀』小林 誠一そのものだ。だが……今の一連の発言は、まさしく神の如きものたちの「使徒」としての台詞に他ならない。【深き水底にありしもの】……それがこの一連の事件の首謀者だったというのだろうか? そして小林がその使徒であるとするならば……いったいいつからだったのか?

 分からない。分からないが……覚醒者たちの目が東京湾に向いている現在、この陰謀を止められる者はいないのかもしれない。

 計画の成功を確信した小林がダンジョンの中へ入っていった、その時……とあるホテルの高層階の客室で、狐耳の少女が目を覚ました。

小林「ハハハ……勝ったな!」

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― 新着の感想 ―
……この書き方だと完全に何かを察知して起きたイナリちゃんだけど、そんなこたぁない。ただ目を覚しただけww
あー丁度イナリちゃんがいる時に仕掛けるとは運のない……
[一言] 後書きで敵の負けフラグを立てるのは斬新
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