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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第二章

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おともだちが家に来た

 実際、それから数日の間は何も起こらなかった……ように見えた。

 相変わらず何処のダンジョンの予約も一杯であり、しかし『パートナー』が出たという話も聞かず。新しいダンジョンが出現したという話もない。ある意味では覚醒者が本来の仕事に立ち返った、とても平和な時間であるようにも思えた。まあ実際には無茶をした覚醒者が重傷を負ったり死んでいたりもするのだが、その辺りは元々そういう仕事なのでどうしようもない。

 そして……その数日の間に、1つの変化もあった。たとえば、今鳴ったインターホンのチャイムだ。画面に映ったその人物を見て、イナリは「今行くのじゃー」と玄関へ走っていく。ちなみに大抵の場合はそうであると思われるのだが、イナリの家に設置されているものは通話ボタンを押さないと声は向こうに聞こえない。しかしまあ、すぐに行くのであれば特に問題もない。走って玄関を開けると、つい数日前に知り合ったばかりの少女……ヒカルの姿があった。


「おす。お招きありがとな」

「よう来たのう。ま、上がるとええ」


 帽子を被ってサングラスをかけているヒカルだが、単純に身バレ対策だ。アイドルのような売り方をしている以上はそういうものも大事になってくる。ちなみにイナリの売り方というか売られ方も似たようなものなのだが、イナリはそういうのをあんまり気にしていない。まあ、赤井もその辺をどうこう言うつもりもないので全く問題は無いのだが。ともかくヒカルを家にあげると、イナリは上機嫌に居間へと案内していき……ヒカルは「うわっ」と呆れたような声をあげる。


「アタシもあんまり気にしない方だけど……ひでえな。最低限の家具しかねえ」

「別にええじゃろ。赤井も美顔器がどうのと勧めてきよるが、儂全く興味ないしの」

「赤井ってそっちの代表だっけ? どっちも似たようなもんだなあ」


 そう、秋葉原でアドレスを交換した後。覚醒者用のメッセージアプリ「Dメッセンジャー」でヒカルからなんとなくメッセージを送ったのがきっかけで、すぐに仲良くなってしまったのだ。というよりも、ヒカルのほうが一方的にイナリに懐いたと言ってもいい。懐いた理由が「祖母ちゃんみてえ……」なのはイナリは納得してはいないのだが。まあそんなわけですでにヒカルはイナリの前では取り繕ってはいない。勿論、人目のないところに限ってはいる。


「あ、これお土産。好きそうだと思って鈴々堂のヨウカン買ってきた」

「おお、ありがとうの。どれどれ、早速切ってくるとしようかのう」

「手伝うよ」


 パタパタと台所へ向かっていくイナリをヒカルも追いかけ、お茶とヨウカンの準備をすぐに終わらせ……元々2人も必要な作業ではないが、ともかくそうして美味しそうなヨウカンと普通のお茶が机に並ぶ。一口食べれば理解できる繊細な餡の風味が口の中に広がれば、次の一口を楽しむためにお茶で軽く口の中を洗う。そうすることで次の一口も更に美味しくなる。お茶請けとはかくあるべし、という優等生のようなお菓子がヨウカンであるのだと。そう知らしめるような完璧さだ。


「はー……ヨウカンは美味いのう」

「だよな。でもマネージャーがもっとケーキとかフワフワしたもん食えって煩いんだよな」

「いめーじ作り、というやつじゃな」

「そうそう、それ。ったく、面倒にも程があるぜ」

「ほっほっほ。その様子じゃと普段の食事も洋食にしろとか言われてそうじゃのう」

「……ちなみに洋食といえば?」

「かれえとおむれつ?」

「だろうと思った」

 

 満足そうに頷いているヒカルにイナリは首を傾げるが、まあその辺はイナリがふりかけご飯で満足している現状では知識の更新予定は遠そうである。ちなみにコロッケも赤羽で食べたはずなのだが、洋食のワードで出てこないのは「おかず」で分類しているからである。


「ま、確かに言われてるんだけどな。サンドイッチがどうとかサラダがどうとか。しゃらくせえっての。もっと魚とかの方が好きなんだけどなあ。高いけどさ」

「ああ、そういえば速報をやっとったのう。海の魚もしばらくは品薄になりそうじゃが」

「すでに結構値上がりしてるって話だけどな……あ、それで思い出した」

「む?」

「漁業連盟の方から要請が出てるんだよ。実力のある覚醒者向けの依頼がさ」


 漁業連盟。モンスター災害後に結成された「安全な漁業と安定した魚介類の流通」をモットーにした組織だが、要はかつてあった組織が新しい時代向けに再編された組織であるとも言える。そして漁業連盟は今回の事態を非常に重く見ていたし、覚醒者協会の遅い対応に任せていてはどうにもならないとも感じていた。そこで覚醒者協会に掛け合い「漁業連盟が独自に覚醒者を雇う場合は止めはしない」といった言質をももぎ取っていた。そう……漁業連盟は、マーマンに屈する気は一切なかったのだ。

 当然各地で緊急出動契約を結んだクランはいるが、それとは別に大量の覚醒者を臨時で雇うことに決めていた。巡視艇への同乗、緊急対応補佐、警備など……結構良い条件で集めるようで応募もかなりあったらしい。そして、どうもそれで集まったメンバーの顔合わせが今日……であるらしい。


「だからさ、見に行こうぜ!」


 きっと楽しいぞ、と笑うヒカルは……イナリの分のサングラスをもすでに用意済であった。

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― 新着の感想 ―
祖母宅に遊びに来た孫みたいで好いぞ! サングラスがあってもイナリちゃんの場合耳と尻尾でバレバレなwwww
[一言] てえてえなあ
[一言] 完全に実家に帰省した孫と祖母の会話
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