お狐様、埼玉第3ダンジョンに挑む4
最初はイナリよりもずっと背の低い……精々50センチほどの玩具のような大きさだった積み木ゴーレム。しかしそれが36倍でおよそ18メートル。このダンジョンの天井が高いのはこの為だったのかと思ってしまうような、そんな大きさである。
「お、おお……なんという」
賽の目で大きさが変わるゴーレム。しかも先程の放送からして、出た目の数を掛け算している。つまり6が2つ出るのは「一番悪い目」ということになる。1が2つなら蹴っただけで壊れそうなモンスターだったというのに、なんということなのか。
(いや、しかし考え方を変えれば強くなった分魔石も……)
「ビーム」
「うおっとお⁉」
積み木ゴーレムの胸元から放たれた極太光線をイナリは避けきれずに結界で防ぐ。結界の正面をジュワッと音を立てて焼いていくビームは、ハッキリ言って何の準備もなく受けたくはない。流石に痛そうだ。
「うーむ……強さも36倍ということかのう。賭けなんぞが成立しとる理由はコレか……」
1倍積み木ゴーレムであれば余程油断しない限りは誰でも倒せるだろう。他の倍数は覚醒者次第だろうが……36倍は多少強い程度の覚醒者であればアッサリ殺されて終わるのは間違いない。今も36倍積み木ゴーレムはイナリを蹴り飛ばすべくベルトコンベアごと蹴り砕く……が、イナリは即座に回避して弓形態の狐月を構える。狙いを絞られないように側面へと、そして背後へと回って。弓の弦を。
「ビーム」
「なんとお!」
背面から発射されたビームをイナリはすっ飛んで回避する。今、確かに背面に回った。回ったはずなのに、そこに目があるかのように正確に背面からビームを放ってきた。イナリが目に見えない速度で回転したとか、そういうのでは断じてない。そんな動きをイナリに見えずに出来るとしたら、ちょっとばかりお手上げだが……今回は見逃していないと断言できる。
(つまり……こやつ、表とか裏とかそういう概念が存在しないってことじゃな?)
「なんと面倒な……」
しかしそうであれば、側面から攻撃すればいいだけのこと。だからこそイナリは側面に回り込んで……しかし36倍積み木ゴーレムの上半身だけがグルリと回転してイナリの方向へと向く。
「ず、ずるくないかえ!?」
「ビーム」
「ひょえっ」
発射されたビームをイナリは回避し、弓での攻撃を諦め狐火を放つ。36倍積み木ゴーレムの表面で爆発する狐火は確かにその表面を破壊していくが、相手が大きすぎて倒し切るには時間がかかる。だが、それでも削り殺すことはできる。そうイナリが確信した、その瞬間。
「パーツチェンジ」
「は?」
何処かから飛んできた積み木が巨大化していき、壊れたパーツを取り換えて綺麗にしてしまう。今までのダメージは全部ゼロになった36倍積み木ゴーレムの登場だ。
「ず、ずるいのじゃー! なんじゃそれ! お主……お主! それはダメじゃろう!」
「ビーム」
「ぬおおおおお!?」
ルール無用の如きことをする36倍積み木ゴーレムだが、ルール無用に見えて何かしらのルールには従っているはずだ。まさか永遠に不死身などというはずもない……たとえ強さが36倍になっていようと、新しい能力が生えてくることは……まあ、あるかもしれないが今回は無いと信じたい。とにかく、相手が自分の身体を取り換えられるというのであれば、それを許さぬ、あるいはされても問題のない倒し方をすればいいまでのこと。となれば……倒し方は、もう決まった。
「ビーム」
「とりゃああああ!」
再度のビームを転がり避けながら、イナリは弓を構える。
「見えたぞ、お主の倒し方……!」
「ビーム」
「ええい! 情緒のない!」
避け転がりながらも、イナリは狐火を乱射する。36倍積み木ゴーレムの表面にダメージを与えていくソレは、当然のように完全回復されてしまうだろう。しかし、それで問題はない。正確には、完全回復を狙おうと全く問題はない。むしろ、やってくれても構わない。そしてイナリの狙い通りに36倍積み木ゴーレムは僅かに動きを止める。
「パーツチェンジ」
そして、また何処からか積み木が巨大化しながら飛んできて、壊れたパーツを取り換えて。その時には、もうイナリは弓に輝ける光の矢を番えて引き絞っている。
「これで仕舞いじゃ、玩具の巨人よ」
放つ。放たれた光の矢は更なる輝きを纏い、一条の閃光と化して……そのまま36倍積み木ゴーレムに突き刺さり、やがて全身から溢れ出す光が36倍積み木ゴーレムの巨体をボロボロに崩れさせていく。やがて鈴のような音と共に光の中へと36倍積み木ゴーレムは消え去って。その場に綺麗にラッピングされてリボンまでついた箱がコトン、と落ちる。如何にもプレゼント箱といった風情だが、まあ少なくとも魔石ではないのは確かだった。
「むう、どう見ても箱じゃが……」
―【ボス】積み木ゴーレム討伐完了!―
―ダンジョンクリア完了!―
―報酬ボックスを手に入れました!―
―ダンジョンリセットの為、生存者を全員排出します―
「やはり今のがぼすじゃったか。しかし、今回は疲れたのう……」
そうしてダンジョンの外へと転送されていくイナリだったが……このプレゼント箱が騒動を引き起こすとは、イナリは当然のように気付いてはいなかった。
イナリ「今日はもう帰りたいのじゃ」





