お狐様、埼玉第3ダンジョンに挑む2
ガシャコンガシャコンと動くカラフルな機械と、やはりカラフルな箱が流れていくベルトコンベア。
工場員らしき者の姿は無く、全てが全自動であるようだった。
そう、工場……玩具工場。そんな風に見えるのは、このカラフルさのせいだろうけれども。実際には何がどうなっているのか、どんな生産ラインで何を作っているのかもどう作っているのかも全く分からない、不気味な場所であった。
埼玉第3ダンジョン。「文明型」と呼ばれる、特殊なタイプのダンジョンだ。なんらかの知的生命体の文明を模したようにも見えるし、そうではないようにも見える機械群を有するのが特徴だが、他のタイプのダンジョンでは手に入らないアイテムが見つかったりすることでも有名であった。
ただし、その分「文明型」は他のダンジョンとはタイプの違う厄介さを秘めていることが多い。具体的にはモンスター以外のトラップや、ダンジョン自体が牙をむく可能性などだ。そう、今も……工場の中にけたたましいアラームが響き渡る。
『侵入者警報、侵入者警報。警備担当は配置についてください』
「ぬう? これは……何やら嫌な予感がするのう」
そんなイナリの予感通りに、周囲に巨大なクマのぬいぐるみのようなものが現れ始める。それらはイナリを見つけると、見た目よりずっと重たげなドスドスという音を響かせながらイナリへ向かって走り寄ってくる。そのふんわりした見た目とは真逆のその重たげな様子は、まるで砂をたっぷり詰めたかの如くだ。恐らくは打撃力もその重たげな見た目に相応しいものだろう……!
それでもイナリは慌てずに弓を構えるかのような体勢になる。
「来い、狐月」
呼び声に答え現れたのは、一張の弓。凄まじい神気を放つ弓がその手に収まると、お狐様はキリキリと、その細腕からでは想像も出来ぬほどに弓を強く引いて。その手の中に、輝ける光の矢が出現する。そして、光の矢が先頭のクマぬいぐるみへと吸い込まれるように飛んで……大爆発を引き起こす。
「ブオオオオオオ……」
「おお、なんと野太い悲鳴じゃ……見た目と違って可愛くないのう」
言いながら「おっと」とイナリはその場から飛び退く。その直後、イナリがいた場所に別のクマぬいぐるみが飛び掛かり、地響きがするほどの重たいボディプレスを叩きつける。しかしイナリがいないことに気付いたのだろう、不思議そうに自分のお腹を見ていたが、そこに光の矢が突き刺さりクマぬいぐるみが爆散する。
そうすれば残りのクマぬいぐるみたちも一斉に襲ってきて、しかしイナリの放った光の矢で爆散していく。そうすればその場に残されたのは魔石だけだが……正直、図体の割には然程大きくはない。というかオークとたいして変わらない。
「うーむ……ま、ええか。魔石は魔石じゃ」
言いながらイナリが魔石を回収し神隠しの穴に放り込んでいくと、また工場内放送らしきものが流れ始める。
『侵入者警報、侵入者警報。警備担当は配置についてください』
「ぬっ、またクマを出そうというのかえ」
言いながらイナリが弓を構えると……次に出てきたのは玩具の兵士らしき連中。ただし、サイズは人間の大人サイズだ。
「……ぬ? お、おお!?」
玩具の兵士たちは銃を構えると、一斉に発射する。突き出したイナリの手から展開した結界が銃弾を防ぎきるが、即座に第2射、第3射と仕掛けてくる。洗練されたその射撃にどうしたものかとイナリが考えていると……響いたのは、勇ましいラッパの音だ。その音の響く方向にいたのは……やはり人間サイズの兵士の玩具たちが馬の玩具に乗っているのが見える。そう、騎兵だ。構えているのは……サーベルだろうか? 一斉に此方に向かってくる騎兵たちを見てイナリは「うーむ……」と本気で困ったような声をあげる。
どうにも銃の兵士たちは弾切れらしきものがなく、かといって騎兵たちに対応しないわけにもいかず。イナリは射撃と射撃の僅かな合間に結界を解除し、即座に光の矢を放つ。着弾を見極めることすらせずに振り向く先へ騎兵たち。
「狐月、刀じゃ!」
弓の狐月を刀形態へと変え、迎え撃つようにイナリは構えると刀身に指を這わせ滑らせる。
イナリの指の動きに合わせ青い輝きを纏っていく狐月はまるで滴るような水気へと変わって。
「秘剣・村雨ェ!」
掬い上げるように下から上へと斬り上げた一撃は津波のような大量の水を発生させ、騎兵たちを押し流していく。そうして押し流された騎兵たちは消滅し魔石をバラまいていくが、響く銃声と同時にイナリは転がって銃弾を避けていく。
「ええい、しつこい!」
即座に狐月を弓へと変えると、イナリは1体だけ残っていた銃の兵士を光の矢で吹っ飛ばす。残心、というわけではないがまた放送が流れるかとイナリは警戒し周囲を見回すが……今度は放送は流れない。「警備」とやらは品切れなのか次を出すために準備中なのかは分からないが、ようやくひと段落ということだろう。しかし……イナリはすでに疲れたような表情になっていた。
「うーむ……この調子でどんどん出て来られてはたまらん。ぼすを探さねばのう……」
此処もダンジョンであるならばボスがいるはずだ。それを探すべく、イナリは散らばった魔石やアイテムを無造作に放り込みながらヒントになりそうなものを探していた。
イナリ「ぼすは何処じゃろうのう」





