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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第一章

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お狐様、初見殺しを回避する

 そうして水中を自由自在に泳ぐ魚男たちと、同様に自在に泳ぐイナリの激闘が始まった。

 まあ、激闘といっても魚男たちの攻撃をイナリが避けて「せいっ」とやるだけの一方的戦闘であることに変わりなく、ある程度やると魚男たちが現れなくなる。

 それでクリアであるのならばいいのだが、そうではないとなればイナリとしても困ってしまう。

 水の中で漂いながら、イナリは悩みながら海底の方角を見つめる。


「うーむ……困ったのう。今の魚男どもの中にぼすは居ない。新しく襲ってくる敵もなし。となれば探すしかないが」


 しかし、何の手がかりもない。海底に行けばいいのか、それとも水上に上がって何かを探せばいいのか。その2択のどちらが正解であるかも、今のイナリには分からないのだ。

 ただ、こんな何処まで続いているのかも分からない海底へと行くのが必須なダンジョンなど、人間にクリア可能であるなどとは、イナリには思えない。

 確か人間が深い海底に行くには相応の装備が必要だとテレビで言っていたような記憶もあるし、覚醒者になったからといって深海に生身で行けるようになるとも思えない。

 なら、ヒントは海上にあるはずだと。そう考えてイナリはスイスイと海上へ向けて泳いでいき……「ぷはっ」と海面から顔を出す。


「なんともまあ。なぁんにもないのう?」


 眩しい太陽と青空と、何処までも続く海。小島1つすらありはしない。となると、やはり海底なのだろうか? そんなことを考えていたイナリは、何やら霧が出てきたことに気付く。それは、怪しげで濃い力を含むもので……そういう出現の仕方をするモノを、イナリはよく知っている。


「ああ、なるほどのう……幽霊船、というわけじゃな」


 そう、そこに現れたのは巨大な帆船だ。妙にボロボロなその船が放つ怪しげな雰囲気は如何にも何かがありそうで、恐らくは先程の魚男をどうにかしつつ、この船に乗るのが正しいのだろう……とイナリは考えていた。実際、イナリに近づくと縄梯子が甲板から降りてくる。

 如何にも誘っているが、まあ別に問題はない。イナリは縄梯子をスルスルと登っていき、甲板に着地すると巫女服をトンと指で叩き一瞬で乾かしてしまう。


「うむ。これでよし、と」


 そうしてイナリが周囲を見回せば、とくになんということもない、ボロボロの帆船であるように見える。もっと死霊がたくさんいるのではないかと考えていたイナリだったが、これは結構意外であった。


「怪しげな気配は満ちとるのに死霊の姿1つないとは。うーむ。まさか船の中にぎゅうぎゅうに詰まっとるとか言わんよな……?」


 それはちょっと気持ち悪い。そんなことを思いながらイナリは甲板を歩く。

 居ないというなら、ひとまず探すしかない。だから奥の方に見える船長室に向けて歩いていくが……太いメインマストの横を通り過ぎようとした、その瞬間。どろりとマストから何かが溶けだしてイナリを包み込むように襲って。しかし、即座にイナリが飛び退いたせいでベチャリと甲板に落ちる。そのまま動こうとした「何か」は、イナリの狐火で綺麗に焼かれて。


「ほおー……? なるほどのう、そういう類の怪異かえ。とすると、先程の縄梯子も……」


 イナリに向かってムカデか何かのように走ってくる縄梯子を視界の隅に捉えながらイナリは「狐月」と呼びかける。


「シュウウウウウウウウウ!」

「良い偽装じゃったよ。儂相手でなければ、じゃがのう」


 切り裂いた縄梯子から不定形の何かが剥がれ、イナリを襲おうとして……しかしイナリの放った無数の狐火に悲鳴を上げながら焼き尽くされる。

 そして、それが合図になったのか船のあちこちから……いや、全ての場所から不定形のものが盛り上がるようにして現れ始める。


「おおっ!? こいつはなんとも……!」


 それは当然のようにイナリの足元からも湧き出て、凄まじい量の不定形生物が甲板へとイナリを飲み込みながら現れる。アメイヴァロード。そう呼ばれる類の超巨大な水棲スライムだが、何かに寄生することで操るタイプの厄介極まりないモンスターだ。

 今回は「大型船に寄生した」個体であり、本来であれば少しずつ被害者を取り込んでいくような、そんなスタイルであったのだろう。

 だが、イナリが強く勘も良かったせいで出て来ざるを得なかった。それでも、こうして飲み込んだからには、もう確実に乗っ取ることができる……アメイヴァロードの勝ちだ。

 ただし、イナリが普通の覚醒者であったならば、の話であるのだが。


「秘剣・村雨」

「シュ、シュアアアアアアアアア!?」


 アメイヴァロードが悲鳴をあげ、イナリを甲板へと吐き出す。一体何が起こったのか……それはイナリの手の中にある、冷たい冷気を吐きだす狐月が原因であるのは明らかだった。


「その水飴の如き身体には、身を凍らす冷気はよく効くじゃろ?」

「シュアアアアアアアアア!」

「おお、寒いか。ならば暖めてやらねばのう?」


 津波の如く覆いかぶさってこようとするアメイヴァロードを、イナリの放った巨大な狐火が連続で放たれ吹っ飛ばし続ける。

 火炎と爆音。それが収まった時には、アメイヴァロードの姿は欠片も残ってはいない。

 落ちてきた透明な珠のようなものをイナリがタイミングよくキャッチすると、ダンジョンクリアのメッセージが現れる。それは、このダンジョンが臨時ダンジョンであることをこれ以上なく明確に示すものだった。


―【ボス】アメイヴァロード討伐完了!―

―ダンジョンクリア完了!―

―報酬ボックスを手に入れました!―

―ダンジョン消滅に伴い、生存者を全員排出します―

イナリ「うむうむ。なんとかなったのじゃ」

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― 新着の感想 ―
不定形生物が本領を発揮しきる前に処された……だとぉ! ボスも初見殺し性能たっかいなぁ
[一言] これ準備万端に鎧ガチガチにして防御固めてたら即沈んで死ぬ即死トラップダンジョンじゃん…… しかもボスは水上にいる。 挙句に幽霊船で骸骨船長とか亡霊船長が出るのかと思いきや船そのものが敵。 最…
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