お狐様、旅行の準備をする
あけましておめでとうございます。
「お狐様にお願い!」3巻は2026年2月15日発売です。
よろしくお願いいたします!
イナリの屋敷は完全に純和風であり、いわゆる無駄とされがちな「余裕」をもった設計で作られている。
回り廊下の採用もそうだが、広く取られた窓も含め防犯性という点では少々頼りない作りではある。
まあ、覚醒者協会日本本部と九大クランが目を光らせているこの場所に侵入できる者がいるならやってみろという話ではあるのだがさておいて。
広い応接間には印を結んでいる完全合体ゴッドキングダムが佇んでいて、山中が何度もチラチラ見ている。
「おー、あれが気になるのかえ」
「え、あ、いえ。話題になった玩具でしたから……」
「うむ。届いたときには何の苦行かと思うたが」
完全合体ゴッドキングダムは変形合体パーツが500ある「メーカーの本気が詰め込まれ過ぎた」玩具だ。
それをユーザーが自分で組み立てろというのだから上級者向けのパズルそのものだが……実はアツアゲは組み立てに0.03秒しかかかっていない。
これがアニメで実際に設定されている変形時間と同じだというのだから凄まじいが……まあ、そんな玩具が忍者の如きポーズで鎮座しているのだから気にするなというほうが無理だろう。
「お茶です」
「おお、ありがとうのう」
エリではない和風メイドが人数分のお茶を置いて下がっていくが……当然のように使用人被服工房のメイドである。
というか、先程から廊下を何人かのメイドが行き交っている。
「あの、先輩……」
「慣れてください」
イキイキと仕事する使用人被服工房の面々だが、こういうところにイナリの溜め込んだ資産も使われている事情がある。
こういうのは自分で払う、とイナリが主張した結果だが……経済を回すという意味では非常に正しい。
「それで、最近はお変わりありませんか?」
「うむ。何も変わらんよ。平穏そのものじゃ」
「平穏……平穏……いえ、そうですね」
奈良の件だけでも平穏とは程遠いのだが、それ以降もイナリは臨時ダンジョンを3つほど攻略している。
固定ダンジョンと違い、いつ何処に現れるか分からない臨時ダンジョンは1度クリアすれば消え去るものの、難易度が高いことも多い。
電車が世界から消え去った要因でもある臨時ダンジョンはまさに社会の敵であるわけだが、ここ最近は「イナリに任せれば安心」のような風潮が出来ていることも事実だ。
まあ、本来はそんな風潮ではなく他の覚醒者でもなんとか出来るようでなければならないのだが……ひとまず、そこはさておこう。ちゃんと他の覚醒者が全国各地で頑張っている。
「ああ、そうそう。明日にでも旅行でも行ってみようかと思うて準備をしとるんじゃよ」
「えっ。ど、何処ですか?」
「新潟じゃよ。日本でも有数の米生産地……聞いただけで舞い上がりそうじゃ」
「あー」
凄く納得してしまうというか、イナリらしいというか。
お米大好きなイナリらしいセレクトだと安野も思うのだが……ふと気になった安野は「あのー……」と声をあげる。
「む?」
「もしかして、何処かに招待されたりとかしました?」
イナリには全国各地……いや、世界各地の各勢力からの誘いが絶えない。
かなりの割合で日本本部が遮断しているのだが、そんな中でもすり抜けるものはある。
そういう類かと思ったのだけれども。
「あら、お客さんが来てたの?」
「ひえっ、黒の魔女……!」
襖を開けて現れた声の主に山中が驚いたような声をあげるが、仕方ないだろう。
日本ランキング4位、『黒の魔女』千堂サリナ。
子どもに悪影響を与える覚醒者第2位。
子どもが憧れる覚醒者第4位。
中二病の権化、等々。
日本でもトップランクの「頼りになる問題児」とされている覚醒者だ。
イナリとは伊東の問題があった際に出会っていたが……いつの間に仲を深めたというのだろう?
「おお、サリナ。うむ、安野の後輩が挨拶に来てくれていてのう」
「ふーん。ま、いいけど。お邪魔したわね」
そう言いながらサリナは襖を閉めようとして。
「あ、それなら明日の予定も伝えたほうがいいんじゃないの?」
「おお、そうじゃのう」
「え? まさかですけど、狐神さんを誘ったのって」
「私よ? 丁度地元っていうのもあってね。もてなせる自信があるのよ」
サリナの地元。
そういえば確かに新潟だったな……と安野は思い出す。
しかし新潟の何処だったか?
イナリを釣れるなら米……いや、もう一つあった。しかし、どれだろう?
「……あの、具体的な場所をお伺い出来ますか?」
「新発田市の月岡よ。月岡温泉っていうと分かる?」
「泉質が凄いらしくてのう。今から楽しみじゃよ」
そう、新潟県新発田市月岡温泉。
それが今回、イナリとサリナで向かう温泉地の名前であった。





