お狐様は属性過多
さて……駒込は巣鴨と連携した宿泊街……つまりは観光地だ。
当然、観光収入を財源としているわけなのだが、通常の宿泊街とは事情が大きく異なる。
それは、駒込は別に客が一人も来なくても構わないという事実である。
何故か?
それは簡単で、駒込は覚醒者協会日本本部が完全に買い上げ整備した場所だからである。
巣鴨との連携ということで宿泊街が出来てはいるが、此処にある店は一部を除けば本部直営であり、その一部もまた権利を貸しているだけの、そういう関係だ。
これには又貸し禁止であるとか、まあそういう類の規約もあってガチガチなのだが……どうして此処までしているのかといえば、その理由はイナリに集約する。
平たく言えばイナリが贅沢とかそういうのを性格的に全然やらないのに無茶苦茶稼ぐし功績も凄いので、日本本部がイナリを軽く扱っているみたいな国際圧力がかかるから……であったりする。
今の時代、何処の国の覚醒者協会も「より凄い」覚醒者を欲しがっている。
隙さえあれば、その国のランキング上位を上から順に引き抜いていきたいと思うのが常であり、それは何処の国も同じだ。
そんな中に「不遇」な覚醒者がいると噂になれば即座にスカウトが飛ぶわけだが、日本本部としてはイナリを引き抜かれたくはない。
何しろ、日本の覚醒者のトップ10……いわゆるトップランカーと呼ばれる連中は曲者揃いだ。
1位の「勇者」からして頼まれたら断らない男で、世界中を飛び回っている。
2位の「プロフェッサー」は魔科学の最先端であり、更には人嫌いでほとんど人前には出ない。
3位の「潜水艦」は人付き合いが嫌いだとメディアにもほとんど情報が出ない。
上から3人からして「こう」なのだ。皆、日本本部の言うことをあんまり聞かない。
一番素直なのは4位の「黒の魔女」という時点で、日本本部の苦労が窺える。
本当にひどい。ひどすぎる。
しかし、だ。この3人、なんと全員イナリと仲が良い。
正確には1位に関してはちょっと怪しいがさておいて。
「えー、そんなわけで、ですね。狐神さんはすーーーーっごいVIP扱いすることになってるんです。特に二位の真野さんに言うこと聞かせられるのは、もうオンリーワンのことなんですから!」
「プロフェッサー月子ですよね? そんなに凄いんですか?」
覚醒者協会駒込支部。
イナリの影響力の強さから、可能な限り権限を持たされたこの支部で話をしているのは、2人の職員だ。
1人は髪を短めに切り揃えた女性……覚醒者協会日本本部所属の、安野果歩だ。
いわゆるイナリ専属として抜擢された、今となっては幸運な女性と呼ばれている。
なお安野本人はイナリの担当をしていると大抵凄いことになるので、ちょっと常識が破壊され気味で日々お疲れではある。
そんな安野をサポートする……というか何らかの事情で安野が動けない時のためのバックアップ要員として今回抜擢されたのが、この駒込支部に配属された山中綾香である。
支部配属という時点でエリートルートから結構離れてはいるのだが、イナリをサポートするためにあるような、この駒込支部であれば一概にそうとは言えない……さておいて。
「凄いってものじゃありませんよ。基本あの人、自分の興味あることしか研究しないんですから。そんな人が狐神さんのことを他より優先してるって時点で、どれだけ凄いか分かるでしょう?」
「まあ、それは分かるんですけど……」
「3位の鈴野さんだってそうですよ。普段何処にいるか全然分かんないのに、狐神さんの家に行くと普通にいたりするんですから」
ついでにいえば月子もイナリの家に結構な頻度で入り浸っている。
日本のトップランカーの集まる家があるなんて話は、まあもう世界中に広まっているのだが……駒込ごと完全管理下において警備も配置して本当によかった、という話である。
「うーん……」
しかし、山中としてはどうにもいまいちピンと来ないらしい。
まあ、当然ではあるだろう……凄すぎて実感がわかないのだ。
今にも安野が「全部嘘ですよー」と言い出すんじゃないかという顔をしている。
「狐神さんが凄いっていうのは私も資料とか見ましたしテレビでもやってるんで分かるんですけど……」
「ええ」
「正直、本部ですんごいサポートして下駄はかせてるアイドルだとばかり……」
「アイドルになってほしい人が居るのは知ってますけど、狐神さんは全部独力ですよ」
「あの狐耳と尻尾も?」
「自前です」
「巫女服は」
「自前です」
「のじゃ口調は」
「本人、あんまり自覚ないらしいですけど素です」
「えっと」
「全部事実で真実です。ちゃんと受け入れてください」
安野にきっぱりと言われて、山中は眉間を揉む。
「……慈愛系狐耳のじゃ系美少女つよつよ巫女……」
「言葉にしないでくださいよ。実在するんですから」
さっさと挨拶しに行きますよ、と言う安野だが……「言葉にすると、とんでもないなあ……」などと思っていたのはまあ、仕方のないことだろう。
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