お狐様、再びの奈良へ8
「正直、驚いたよ」
男のその言葉は、決してアツアゲを侮るようなものではない。
驚愕。それにより感じた新鮮さ。生の感情というものを久々に体験したが故の、そんな心の底からの称賛だった。
「積み木ゴーレム。まさかここまで無茶苦茶だとは思わなかった。システムめ、デウスエクスマキナに目を向けさせておいて、こんなものを仕込んでいたとはな」
デウスエクスマキナ。その言葉にアツアゲは軽く首を傾げてみせる。
なんだかそんな感じの名前のものを聞いたような記憶があったのだ。
だが、そんなアツアゲの適当感極まる行動を男は特に気にしていない。
当然だ、行動の一つ一つに意味を見出すべき相手とそうではない相手がいて、アツアゲは後者であるというだけの話だからだ。
だが、いや。だからこそ油断しない。
この狐神イナリを相手にするためのフィールドにアツアゲを呼び込むということ、それ自体がアツアゲを認めたということ。
だからこそ、男はアツアゲを見据え……「流星」と唱える。
ただそれだけの一言で飛来する流星がアツアゲに向かい、しかしアツアゲはビームで迎撃する。
「そう、一つなら防ぐだろう。しかし『流星群』であればどうかな?」
男には絶対に命中しない、無数の流星群。当然、アツアゲのビームでもドリルでも受けきれない。
何故なら、攻撃の手数が違い過ぎる。どうしようもないほどの数の暴力。
「誇りたまえ。これはコガミイナリを殺すための場所だ。どのような知識を顕現させようと、壊れることのない空間……! ああ、君もコガミイナリも同じだ。所詮は単体相手の強さに過ぎん! 故に!」
『銀河統一帝国クオリア。そう呼ばれる国が大帝ラーの命令を受けて宇宙中にその魔の手を広げ始めてから3年』
「そう、銀河統一……ん?」
『強大さを誇った星間国家アデルタの敗北と滅亡を皮切りに、クオリアの征服艦隊は様々な国を本格的に侵略し始めた』
「な、なんだ!?」
流星群が、無数のビーム砲で迎撃される。散っていく流星たちの、その理由は? 分からない。
男には、そもそもこのナレーションが理解できない。
『宇宙を旅する技術を持つ国も、未だ宇宙へと旅立つ技術が未熟な国も、全てだ。その勢力図はあっという間に拡大していき、もはやクオリアに抵抗できる国などないように思われた』
「何を言っている⁉ 誰だ! 私のこの空間に……!」
『しかし、そんな中で1つの国の噂が強く囁かれるようになってきていた。かつて星間国家アデルタも、銀河統一帝国クオリアも……その全てが建国されるよりも遥か古代にあったとされる伝説の国』
恐らくイナリがこの場にいたら、すぐに気付いて「ううむ……」と唸っただろう。
というか、今この瞬間も何か起こっていることに気付いているだろう。
これは、そのくらいには魔力を吸い上げる技だからだ。
『強大なる人造の守護神によって、あらゆる侵略者を退けたとされる……しかし、すでにその母星は恒星の滅びと共に消えて失せたというその国は、今では宇宙の何処かを漂流しているという。確たる証拠もない、そんな救世主伝説。居たとして、救ってくれるはずもないというのに』
「コガミイナリ……いや、貴様か積み木ゴーレム!」
何をしているかは男には分からない。だが、何かをされていることは分かる。
で、あれば。その全てを挫くのが一番の対処法だ!
「吸い込まれて消えるがいい……ブラックホール!」
光すら吸い込む宇宙最強の自然現象。それ故に現代でも未知を残す最強の力。
けれど、だからこそ男は知らないだろう。
そういうのは、世にいうSF作品でどういう扱いをされるかを。
ブラックホールを制したSF作品のなんと多いことか。そしてこの作品も例外ではない!
『けれど。それはある日突然現れた。500もの艦数を誇る大艦隊。最新最強のはずのクオリアの艦隊を薙ぎ払う、その強さ。そして、人々は目撃する。巨神王国ゴッドキングダム……その復活を告げる、王命を』
『王命発布! 合体開始!』
飛んできたのは、すでに36倍の大きさになっている「完全合体ゴッドキングダム」の500のパーツ、もとい戦艦たち……!
ビームでブラックホールを消し去りながらウイングとドリルをパージしたアツアゲに僅か0.3秒以下で合体完了し、そのナレーションを響かせる!
『完成……巨神王国、ゴッドツミキングダム!』
そう、今ここに完成したのだ……2メートル×36倍、すなわち全長72メートルのゴッドキングダムが! なお、アツアゲがどう収納されているのかは一切不明だし本物はもっとずっと大きいらしいぞ!
「……馬鹿な。意味が分からない」
『キングダムカノン・フルバースト!』
アニメそのものにも見える必殺の技。無数の砲門が開き放たれるビームはやはり物理法則を無視した歪曲をしながら男へ叩き込まれる。
あまりにも無茶苦茶なその攻撃に、男は吹き飛ばされて。同時に宇宙空間にもヒビが入り砕けていく。
元に戻ってきたのは、すでにゴッドキングダムの玩具と分離した上に元のサイズに戻ったアツアゲだけで。
―【書を持つ者】の顕現体を排除しました!―
―【書を持つ者】が怒り狂っています―
―【書を持つ者】が全ての積み木ゴーレムを排除してやると叫んでいます―
「それは困るのう」
―【書を持つ者】が慌てて影響力を引っ込めようとしています!―
「秘剣・鬼切」
その一刀が、ウインドウを切り裂いて。
―【書を持つ者】の干渉力を一時的に排除しました!―
―業績を達成しました! 【業績:干渉排除】―
―驚くべき業績が達成されました!―
―金の報酬箱を手に入れました!―
「ようやったのう、アツアゲ」
金の報酬箱を手にしたイナリが、アツアゲをねぎらう。
奈良を舞台とした一連の事件は、こうして「本当の終わり」を迎えて。
隠蔽するにはあまりにも大きすぎたこの事件は……覚醒者協会日本本部をも、おおいに悩ませたのだった。





