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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第十一章

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お狐様、平穏を怪しむ

「あれ? もう戻られたんですか?」


 ダンジョンゲートを管理している職員の言葉に紫苑が訝しげに「え……?」と呟く。

 当然だ。ダンジョンゲートの封印などという異常事態が発生したのに、職員はそれに言及するどころか平常通りの態度なのだ。明らかにおかしい……まさか此処で何も起こらなかったというわけでもないだろうに。


「あの……此処で何かありましたか?」

「何か、ですか?」


 恵瑠の問いに職員は首を傾げて……「いや……特に変わったことはなかったですね」と答える。その瞳は嘘をついている者のそれではないが、だとすると、あの「封印」は外から見た場合は何の影響もなかったということなのだろうか。そんなことを出来る程に高度なものであると、そういうことなのだろうか?


「……今日は帰るわ」

「はい。お気をつけて!」


 見送ってくれる職員をそのままに、奈良支部の管理区域を出て。そのまましばらく歩くと、月子たちはその足をピタリと止める。


「……おかしいな」

「おかしいわね」

「はい、おかしいです」

「変」

「む?」


 イナリだけが分かっていない顔をしているが、今のは明らかに異常な対応だった。何故ならば、戦利品に関する言及がなかったからだ。


「ルール上、協会は私たちの戦利品を確認して、売買の意志について聞く義務があるはずよ。それをやらなかったっていうのが……うっかりが理由ならいいんだけど」

「ダンジョンをクリアしたわけじゃないから、ロクなものを持ってないだろうと判断した可能性はある、けどな」

「ふむ。しかし封印の件を考えれば妙じゃの。妙なことが2つ重なれば、それを偶然と片付けることは出来ぬ」


 ダンジョンの封印に気付かなかったこと。普段からやっているはずの作業をしなかったこと。

 後者だけであれば偶然で済む。しかしこの2つが重なると「おかしい」としか思えない。


「……月子」

「そうね。最悪の事態も想定すべきだわ。とにかく、まずはホテルまで戻りましょ」


 そうしてホテルまで戻ると、月子はポケットから指揮棒のようなものを取り出し部屋の隅々へと向けていく。トイレや洗面所まで開けて棒を向けていくと、ようやく納得いったのか……いや、全く納得していない顔で戻ってくる。


「一応、盗聴器の類は確認できないわ。私の道具で確認できる範囲ではあるけども」

「月子さんは魔科学の権威だろ? それで検知できない盗聴器がある、と?」

「封印なんてものをやらかす連中がいるのよ。何があってもおかしくないと考えるべきよ」

「……確かに」


 タケルとしてもそれは非常に納得できる話ではあるのだが、そうなると1つの可能性が浮かび上がってくる。それはつまり、世界最高と言えるレベルの月子を超える魔科学者の存在だ。そんなものが存在するとして、この奈良で何をやっているのか?


「もしそうだとしたら、今すぐに奈良を離れる必要がある。イナリさんが無力化されて月子さんを超える魔科学者がいるのなら、圧倒的に不利だ」

「……それなんじゃが、どうもおかしくないかの?」


 そんなイナリの言葉に、全員が振り向く。先程から黙っていると思えば何かを考えていたようだが、月子ですらイナリのその思いつきに期待するような視線を向ける。それはこの場の面々のイナリへの多大なる信頼がなせるものだが、イナリは机に降り立つと月子へ視線を向ける。


「まず、月子を超える魔科学者がいるという意見には、儂はどちらかといえば否定的じゃの」

「でも、イナリは封印された」

「うむ。そしてだんじょんげーとも封印された」

「そうね」

「月子を超える割には、敵の打ってくる手は『封印』だけじゃ。儂らをどうにかするとして、他の手もあろうに……それだけを繰り返す理由は何処にあるのじゃ?」

「それ、は」


 確かにおかしい。「封印」だけでは足止めしか出来はしない。足止めするということはその間に為したい目的があるということだが、その目的が全く見えてこない。干渉してほしくないのであれば、いっそ何もしなければ気付かなかったはずだし、殺すつもりなら他の何かを使えばいい。それをしないというのは、つまり。


「……それ以外を開発できていない、のかしらね」


 少なくとも相手側はイナリを封印できたと思っているはずだ。それでも封印を仕掛けてくるというのは、それ以外が出来ないという証明に思える。

 では、そこまでする理由は何処にあるのか。此処に有名なイナリと月子、そしてタケルと紫苑まで揃った、事実上の日本の最高戦力を排除しようとする勢力の陰謀? そうだとすると奈良支部で聞いた地球防衛隊の話が現実味を帯びてくるが……それにもまた疑問がある。連中に封印なんていう技術を渡したのは誰なのかという話だ。

 月子は悩みながら机をトントンと指で叩き、やがて大きく溜息をつく。


「仮に相手が本当に地球防衛隊だったと仮定すると、面倒な話よ。連中を壊滅させられてないのは、一般人の中に完全に紛れ込んでるからだもの。しかもそうだとすると覚醒者協会の奈良支部にも協力者がいることが確定するわけだし」


 イナリが祢々切丸を使えれば一発で「犯人」の元まで辿り着けるのだが、この状態では……といったところだろうか?

 そう月子が考えていると、イナリが月子の前でパタパタと腕を振っているのが見えた。


「何よ」

「これ、つつくでない」


 なんかかわいいのでつついてみた月子だが、イナリが何か主張したいことくらいは分かっている。


「実はのう。ちょっとだけ魔力が戻ったからの。秘剣をちょっと使えそうじゃ」

「……へえ?」

「来い、狐月」


 だとすれば大分話が変わってくる。月子はイナリが刀形態の狐月を呼びだすのを見て……ちんまりとしたその狐月に「あー……」と妙に納得した声をあげる。


「それもそうなのね……」

「うむ。しかし使えればまあ問題はないからのう」


 とはいえ、祢々切丸を発動させれば何処かに向かって飛んでいってしまう。イナリが元の状態なら飛んでいくことで自動索敵機能付きホーミング最終兵器なので何の問題も無いのだが、このミニイナリの状態ではそれに不安しか残らない。


「ひとまず狐月を飛ばして何処に行くか確かめる方法がよいと思うがの」

「いや、それはちょっと遅すぎる」

「そうね。タケル、お願いできる?」

「ああ」

「ぬ?」


 ヒョイとイナリを掴んだ月子がイナリをタケルの胸ポケットに入れると、イナリも理解できたようで「まあ、ええがの……」と呟く。


「根源を示せ――秘剣・祢々切丸」


 唱えると同時にイナリの手を離れた狐月が空を飛び、紫苑が素早く窓を開けるとそのまま飛んでいき……一瞬遅れてイナリを胸ポケットに入れたタケルが窓からホテルを飛び出す。


「お、おお!? タケル、お主、空は」

「飛べない! でも、跳べる!」


 空を飛ぶ小さな狐月から目を逸らさないままにタケルは地面に着地し、そのままダッシュで走り出す。

 完全に戦闘系の能力者であるタケルの身体能力は常人を遥かに上回る文字通りの超人であり、建物があろうと何があろうとジャンプして飛び越え、あるいは飛び移り、空を行く狐月を追いかけていく。


「無茶をするのう……!」

「イナリさんほどじゃないさ!」

「ぬう」


 それを言われてしまうとイナリとしてはぐうの音も出ないのだが、タケルはイナリを落とさない安定した姿勢のまま狐月を追いかけ……そのまま、何処かの商社ビルが見えてくる。それはイナリにとっては、あまりにも記憶に新しいものだ。そう、紫苑の両親の会社のビルだったのだ。


「……紫苑の両親の会社じゃの」

「そうか。じゃあ、イナリさんは人形のフリよろしく」


 窓を割って飛び込んでいった狐月を追いかけて、タケルも近くの屋根から飛んで割れた窓から飛び込んでいく。


「なっ……は……? はああああ!?」

「えーと……紫苑さんの親御さん、でいいんだよな?」


 恐らくは取締役室であろう部屋には紫苑の父と……何人かの覚醒者がいた。その中にはイナリが見覚えのある顔もいる。


(……ふむ。犯人がいて、狐月も紫苑の父を指しておる)


 であれば、紫苑の父がイナリの封印を指示した犯人ということになる。そうすると、此処にいる覚醒者たちはお抱えか雇われか。いずれにせよ、タケルは迷わない。幻想草薙剣こそ顕現させないが、確かな敵意を紫苑の父へと向けていた。


「な、なんだお前! い、いきなりこんな……不法侵入だぞ!」

「覚醒者基本条約」

「は?」

「覚醒者基本条約では、悪意ある一般人に良識の範囲では解決できない被害を受けた際、反撃が許可されている」

「訳の分からんことを言うな! か、覚醒者が一般人に手を出すつもりか!?」

「そこに揃ってるのは覚醒者だろ?」


 床を蹴り短杖を構え襲ってくる覚醒者たちは、タケルの背後から音も声も無く杖を振り下ろそうとして。

 一瞬タケルの姿がブレた直後、その全員が何かに弾かれたように吹き飛び壁に叩きつけられる。


「ぐ、はっ……」

「邪魔するなよ」


 何をやったか、は簡単だ。超高速で全員に蹴りを叩き込んだだけに過ぎない。火を纏わせてもいない手加減どっさりの「優しい蹴り」は覚醒者たちが壁を突き破っていないことだけでも明らかだ。


「ふ、ふ、ふざけるなあああ!」


 紫苑の父が机から取り出していたのは拳銃。何処から入手したものかも分からないソレの銃声が響いて。胸元のイナリを守るように手をかざしていたタケルは、自分の肌で弾かれた銃弾が地面に落ちる音を聞いていた。


「ば、化け物……」

「なんで各国の軍隊がモンスター相手に全滅したのか……知らないってわけじゃないだろ?」


 覚醒者でなければ戦いの舞台にすら立てない。科学が進化をやめ魔科学が発生した理由。

 非覚醒者の扱う通常兵器はモンスターには通用せず、モンスターと渡り合う覚醒者にも通用しないという、たったそれだけの事実。たとえ人造アーティファクトを持ったとして非覚醒者であれば十全に使えず、だからこそ非覚醒者は覚醒者基本条約を結ばざるを得なかった。だからこそ地球防衛隊日本支部は非覚醒者による組織を名乗りながらこっそりと覚醒者を雇っていた。


「そんな銃なんか効かないよ」

「ち、近寄るな!」


 それでも銃を撃つ紫苑の父へと撃たれながら歩いていくタケルはその手から銃を取り上げ、マガジンを抜いて捨てると銃をグシャリと潰してしまう。


「で、貴方が犯人ってことでいいんだよな」

「う、ううう……!」

「どうしてイナリさんを狙った?」

「じゃ、邪魔だからだ! 家族の、家族の問題に首をヒイッ!」

「やめてくれよ」


 タケルに胸倉を掴まれた紫苑の父は悲鳴をあげる。それは胸倉を掴まれた恐怖というよりは、タケルのあまりにも冷たい視線に晒されていたからだ。


「家族っていうのは、もっと素晴らしいものだろ」


 タケルは家族というものに強い憧れと幻想を抱いている。それはタケルの中に未だ残る歪みであるのかもしれないが……だからこそタケルは目の前の男が許せなかった。だが……だからといって此処でタケルが裁くつもりもない。そのまま紫苑の父を床に落とすと、タケルはビルの外で聞こえ始めていたパトカーの音に溜息をつく。恐らくは社員が呼んだのだろうが、彼らがタケルたちをどうこうすることなど出来ない。いや、むしろ事情を知れば逮捕されるのは紫苑の父だ。


「法の裁きを受けるんだな。アンタが何処と関わって何をしたかはすぐに明らかになる」


 その言葉通り、やってきた警察はタケルの説明を聞いて紫苑の父を連行していく。

 地球防衛隊による犯行と発表されたこの事件は覚醒者協会日本本部の介入もあり、奈良支部も調べられたが特に何も見つからず……一週間もたったころには、他のニュースの中へと消えていったのだ。

事件、解決……?

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― 新着の感想 ―
快投乱麻を断つが如く解決していく作風だったのがモヤモヤが連続するようになってしまいましたね
犯人は両親でしたか、だけど黒幕が逃げる為のスケープゴーストでしょうね まだイナリの力も戻っていませんし、事件の大本は終わっていませんね
イナリちゃんの認識依存だし、祢々切丸での追跡の限界かぁ 胸ポケットに入っているミニイナリちゃん可愛い!
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