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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第十一章

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お狐様、奈良第2ダンジョンに挑む

 奈良第2ダンジョン。それは奈良に3つあるダンジョンのうちの1つであり、第1ダンジョンと比べると不人気であることでも知られていた。

 その理由の1つは簡単で……奈良第2ダンジョンが、非常に「やりにくい」場所だからであった。


「おお、これは……なんというか西川口を思い出すのう、紫苑」

「ん。全然違うのに雰囲気が似てる」

「これは……場所的に平城京とか、か?」


 そう、ダンジョンゲートを潜った先にあった光景は……町そのものだったのだ。

 長屋の並ぶその姿はどちらかというと現代というよりはタケルの言うように奈良時代のようで。しかしながら「奈良時代のものが完璧に再現されているのか」というと、少しばかり怪しいところがあった。


「え、でも待てよ。奈良時代ってこういうのでいいんだったか……?」

「どっちかというと平安京じゃないのこれ」


 そもそも長屋のようなものが建てられ始めたのは月子の言う通りに平安時代に入ってからだとされているし、そもそも現代のようにピシッとした建物が建てられているわけでもない。

 なのになんというか……まるで後世にある程度の想像を入れて再現したというか、時代劇のセットのようなというか……妙にピシッとした建物が並んでいるのだ。それでいてチープではないのが、なんとも不可思議な場所だ。


「データで見るのと実際来るのとでは大違いね」

「月子は知っとるのか?」

「当然よ」


 ミニイナリを白衣のポケットに入れている月子は、自信満々にそう答える。あまり現場には出ない月子ではあるが、それは情報収集を怠って世間から隔絶されているという意味ではない。覚醒者協会日本本部という、日本では最も純粋な情報が集まってくる場所にいる月子は、並の覚醒者よりも余程多くの情報を日々取り入れているのだから。


「此処は2つのパターンで構成されている都市型ダンジョンよ。今は安全な昼。本番は夜からだから、その間に色々と調べておくのが重要になるわね」


 月子の言う「都市型」とは何らかの文明を感じさせる構造のダンジョンであり、それは地球外の……あるいはもっと別の何かを想起させるものであることが多い。今のところ実際にそうした「文明」が何であるかは解明されていないが……かつての時代からのブレイクスルーは都市型ダンジョンの内部研究の成果によるものだとされている。

 つまり、大抵の都市型ダンジョンは地球文明の更なる進歩のための重要な場所であるはず、なのだが。そうではない都市ダンジョンも実は結構多かったりする。その1つがこの奈良第2ダンジョンであり、明らかに地球文明……それも奈良時代や平安時代の都市に相当近いものであった。

 出てくるモンスターは日本の伝説や逸話に語られる「妖怪」に酷似したものであり、ボスモンスターが何であるかは毎回変わるのだという。そういうところも含め、西川口の埼玉第4ダンジョンと似ているといえるだろう。いえるが……「昼」と「夜」という2つのパターンがあるというのは西川口にはないものだ。


「妖怪とかそういうのは夜に出てくるものじゃよな。となれば昼の間に、ぼすの正体を探るのが大切というわけじゃな」

「その通りよ。というわけで、早速探すわよ」

「えっと……家探し、ということでしょうか?」


 恵瑠が周囲の長屋に視線を向けるが、「人の家に見える」というだけで心理的な障壁は多少ある。ある、が……「えいっ」と引き戸を開ければ、土間と床のある場所の2部屋で構成された家の中はたいしたものも置いていない。

 火の消えた竈に置かれた鍋の蓋を紫苑が開ければ、当然のように何も入っていない。

 タケルも油断せずに部屋の中を調べるが、やはり何もない。

 イナリもアツアゲと共に周囲を調べるが、同じだ。

 そうして長屋一棟を全て調べ終わっても何も出てこない。その向かい側の長屋も、その先も同じだ。


「……ないわね」

「ないなあ」


 月子が溜息をつき、タケルが困ったように声をあげたのは、「太陽」が沈み始めた頃だった。

 町の中央にある立派なお屋敷に入ってみるしかないだろうかと全員がそう考え始めた頃……太陽が、フッと沈み夜が来る。それと同時に町のあちこちで人もいないのにかがり火に火が付き明るくなるが、何処かから笑い声が聞こえてきたのもまた同時だった。

 ケラケラケラ、と響く甲高い笑い声は何処から聞こえたものかも分からず、恵瑠がビクッと震える。


「いきなり雰囲気が変わったな。いつ何が起きてもおかしくないぞ」


 幻想草薙剣を顕現させたタケルは道の向こうから何かが飛んでくるのを見る。

 ヒュンヒュンヒュン、と音を立てて飛んでくるソレは、草刈り鎌のようだ……!


「ビーム」


 ジュオッと溶け消える鎌の代わりと言わんばかりに転がり落ちた魔石をアツアゲが拾ってくると、そのまま月子のポケットに入ったイナリにブンブンと振ってみせる。


「おお、くれるのかえ?」


 月子が受け取ってイナリに渡せば、イナリもポリポリと魔石を食べ始めるが、今のは恐らくは野鎌と呼ばれる類の妖怪だったのだろう。捨てられた鎌がなるという人斬り妖怪だが、まあ相手が悪すぎた。


「……始まったみたいね。ボスを倒せばダンジョンクリアになるけど、今回の目的は魔石よ。1体でも多くのモンスターを倒すわよ!」


 月子の号令に近くに出現した骸骨がカラカラと頷き、そのまま浮遊するドローンのレーザーの連射で消滅させられる。

 カラカラ、カラカラと音をたてながらあちこちに現れる骸骨たちの唐突さは如何にも妖怪といった感じではあるのだが、この場にそれに怯える者はほとんどいない。


「どーん」

『フライングトーピドー!』


 飛ぶ魚雷が骸骨たちを粉砕し、別方向から襲ってくる骸骨たちを迎え撃つべく恵瑠が走る。


「月法……三日月!」


 恵瑠の手に現れたのはまさに三日月といったような形の刃であり、振るえば黄金の軌跡を描いて骸骨たちを切り裂き消し去っていく。けれど数が多すぎるせいなのか、残った骸骨たちが恵瑠へと襲いかかる……その前にタケルの炎纏う蹴りが骸骨たちを纏めて吹き飛ばし燃やし、それでどうやら骸骨たちは打ち止めのようだった。


「あ、ありがとうございます」

「こういうのはお互い様だよ。しかし……」


 言いながらタケルは周囲に散らばった魔石を見回す。どれも小さな魔石ばかりだが、イナリが拾っては食べ、紫苑とアツアゲもせっせと拾い集めている。公園の鳩を見るような優しい目になりそうになって、タケルはサッと視線を逸らす。


「妖怪ってのはそういうもんだってのは知ってるけど……これは中々に面倒だな」

「魔石の大きさがそうでもないわね。まあ、ゴブリンみたいなものだから仕方ないのかもだけど……」


 そんなことを言っている月子たちの視線が、曲がり角からやってきて、そのまま何処かに行こうとする夜泣き蕎麦の屋台に向けられる。屋台を引いているのは壮年の男に見えるが、此処からでは顔は見えない。見えないが……こんなところに蕎麦の屋台を引く人間がいるはずもないし、そういうモノをやっている「妖怪」ともなれば限られてくる。


「やるのじゃ、アツアゲ!」

「ビーム」

「うおおおおお!? な、何するんですかお客さん⁉ あっしはただの」

「のっぺらぼうじゃろ、知っとるぞ!」

「な、なんでバレ」

「ビーム」

「ぐああああああ!」


 アツアゲのビームで屋台ごと粉砕されたのっぺらぼうが魔石に変わり、道を塞ぐぬりかべがタケルの幻想草薙剣で真っ二つにされる。しかしどれもボスではなかったようで、イナリのための魔石となってポリポリと食べられていたが……今のところイナリが元に戻る気配はない。


「どう、イナリ?」

「うーむ。今のところ戻れそうにはないのう」


 魔石を齧っていたイナリが困ったように言うが、まあ元々魔石から得られる魔力はイナリの魔力総量からいえばごく微量に過ぎない。それでも、これが一番良い手段だからやっているが……何もしないよりはずっと良いのは間違いない。


「もっと大物がいればいいんだけど、小物ばかりね」


 骸骨、のっぺらぼうにぬりかべ、そして今紫苑と恵瑠が頑張って倒している鬼火の群れ。どれも数はいるが魔石としてはそれほどの大きさでもない。


「大物、のう。まさかこんなところに酒呑童子がいるはずもあるまいが」

「まさか会ったことあるんじゃないでしょうね」

「無いのう」


 もしいれば魔石もかなりのものだろうが……日本最強の鬼とか呼ばれている存在がこんな場所に居るのであれば奈良第2ダンジョンは死地になっているはずだ。まあ、いないとも言い切れないのが恐ろしいところではあるが、少なくとも今回は違うだろうと断言できる。何故ならば。


「……凄い見られとるの」

「そうね。しびれを切らして襲ってくると思ってたけど」


 イナリと月子が言っているのは、近くの屋敷の塀に手をかけている巨大な骸骨だ。恐らくはがしゃどくろと呼ばれる類の妖怪モンスターなのだろうが、襲ってこずにこっちをじっと見ているのがなんとも不気味だ。


「まあ、アレがボスなんでしょうね」

「そうかのう」

「たぶんだけどね」

「なら、どうするんだ? 正直、此処の稼ぎはあんまり期待できないと思うけど」


 タケルの言う通り、小さな魔石ばかりで稼ぎとしてはそれほどでもない。それが、この奈良第2ダンジョンがあまり人気ではない理由の2つ目だ。

 出てくるモンスターの種類によっては違うのだろうが……今回はどうにもそうではない。


「うーむ。別のダンジョンのほうが良いのかもしれんの」

「そうね。あのがしゃどくろは私が片付けるわ。ひとまずはそれで……」


 月子がそう言いかけたその時。ゴゴゴ、と妙な音が聞こえ始める。


「む? なんじゃ、この奇妙な……」

【ダンジョンゲートが閉じられようとしています】

「ぬ!?」

【ダンジョンゲートが『封印』されました】

【安全のためダンジョンの機能を停止します】


 そのメッセージと同時に妖怪たちの姿が消え、がしゃどくろも消えていく。ぐるん、と変わった天気は「昼」だが……それどころではない。


「い、今のメッセージって……」

「うむ、急がねば。門を確認するのじゃ!」


 イナリを月子が掴み上げ、タケルを先頭に入り口のダンジョンゲートへと走っていけば、そこには何もない。ダンジョンゲートが消えてしまっていた。モンスターも消えた以上は、外へ帰る手段を喪失したということだが……その事実に紫苑も目に見えて不安そうな様子になる。


「封印……イナリのと、同じ?」

「さて、どうじゃろうのう……今はなんとも言えんが」


 まさかダンジョンそのものを「封印」しに来るとは思わなかったが、外には覚醒者協会奈良支部の職員たちがいたはずだ。まさか全員やられてしまったのか……それとも、別の問題があるのか。

 それは分からない。分からないが、確かなことは1つある。


「閉じ込められてしまった、ようじゃのう」


 ダンジョンに閉じ込められた。そんな恐らくは人類史上初めての事態にイナリは……あくまで冷静に、そう呟いていた。

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― 新着の感想 ―
封印に封印を重ねてきた!? ここからどうなるか続きが楽しみです!
今までに無い手際の良さ、神のごときニセモノだな!
こんにちは。 平安京みたいな所でモンスターと戦闘……まさに平安京エイリア○!(懐かしゲーム感 しかしこのタイミングでダンジョンに閉じ込めてくるとは…手札も手際も優れてるじゃないの、今回の敵は。やはり…
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