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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第十章

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お狐様、青森に行く

 翌日。駒込近くに用意された臨時の発着場では、結構な人数の人々が動いていた。

 早朝から用意された臨時の発着場に近づこうとする人々を近づけないための警備に、その群衆によって発生した混雑の整理。そういった諸々をサンラインのメンバーが地元警察と協力して行っていたが……結局立ち入り禁止区域を広げることで対応することになり、午前7時頃にはイナリたちを迎える体制が整っていた。


「おはようございます!」

「お待ちしておりました!」

「おお、朝からすまんのう」


 イナリたちを迎えたサンラインのメンバーたちは笑顔だが、これはきっちり言い聞かされた結果である。

 いわゆるVIP扱いということだが……まあ、そんな扱いをされる理由もない……と思っているイナリにしてみれば恐縮してしまうわけである。

 まあ、そんなすれ違いはさておいて。イナリたちを乗せた覚醒者用の高速ヘリコプターが向かった先は青森に新しく出来ているホテル「メルデンホテル青森」の屋上のヘリポートである。

 およそ40分で到着するという、まさに文字通りの高速だが……更に案内された先は、VIP用に用意された応接室である。しかし……そこに居たのはミチルではなかった。


「ようこそお出でくださいました。私はサンラインのサブマスター、照井です」

「狐神じゃ。よろしくのう」

「敷島です。どうぞよろしくお願いいたします」

「ダールです。どうぞよろしく」


 そんな一通りの挨拶を終えると、照井は用意されたスクリーンに何かの映像を映し出す。


「詳しいお話をする前に、まずは此方の映像をご覧ください」


 それはどうやら、何処かの風景らしいが……真っ暗で何も分からない。

 映像の隅に記録時間が映しだされていなければ、何かのエラーではないかと勘違いしそうなくらいだ。


「……何も見えんのう」

「ですね」

「何ですか、これ?」


 予想通りのその反応を受けて、照井はイナリたちの顔をゆっくりと見回す。


「これはドローンで撮影した青函トンネル内の映像です。ちなみにこれでライトを点けている状態です。モンスター素材を使用した最大6万ルーメンの明るさを誇る超強力ライトですが……御覧の通りです。全く機能していないかのように見えます」


 真っ暗の映像はおよそ2分ほどが経過した時点で突然途切れる。何かあったのだろうことは確実だが、何があったのかはこの映像では不明だ。


「御覧の通り、130秒時点でドローンの映像が途切れました。しかし原因は不明……モニタリングしていた側でも各種の信号が途切れ、どれだけ調べても何も分かりませんでした。このドローン調査が、およそ10年前。同じく5年前にも更に進化したドローンで調査を行いましたが、結果は同様……トンネル調査の危険性を強く裏付ける結果となっています」


 いきなり人間で調査するようなことは当時もしなかった。しかし、それが逆にトンネルの危険性を人的被害が出る前に伝える結果となったということだが、ドローンより強靭な覚醒者を送り込もうかという話には当然ならない。

 元々モンスターが出てくることから青函トンネル内部にダンジョンゲートがあることは確実。

 そこに謎の現象まで起こっているのであればダンジョンクリアと消滅の影響による崩落の危険性を無視してまでダンジョンをどうにかする理由はないし、その危険性が無かったとしても同様のことが起こり得る以上は青函トンネルを使うことは出来ない。

 

「とまあ、現在はこのような状況となっていますが……ダンジョンを放置すれば当然青函トンネル内からモンスターが出てきます。それを退治するのが青函トンネル迎撃作戦の骨子となっています」


 続けて表示されていくのは青函トンネルから出てくるモンスターたちの写真だ。

 どのモンスターも、生物には見えない……というよりも、人形のようなモンスターばかりだった。

 問題は、どれも大きさが人間サイズか、もっと大きなものばかりということだ。

 そして……いろんな種類の人形が集まっているということだ。

 可愛らしい動物やカッコいいヒーロー、アンティークを思わせるものに、なんだかよく分からない宇宙人風のもの、怪獣にデッサン人形のようなものまである。

 デザインこそバラバラだが「人形」という点で統一されていて、しかしそれが襲ってくるというのは何処となくホラーでありソフィーが「うへえ」と嫌そうな声をあげていた。


「人形……埼玉第3だんじょんのような場所かのう?」

「アレは文明型に属していますが、これがそうであるとは限りません。埼玉第4ダンジョンのような都市型の可能性もあります」

 そう、イナリが積み木ゴーレムと初めて出会った埼玉第3ダンジョンは「文明型」と呼ばれる、特殊なタイプのダンジョンだ。なんらかの知的生命体の文明を模したようにも見えるし、そうではないようにも見える機械群を有するのが特徴だが、他のタイプのダンジョンでは手に入らないアイテムが見つかったりすることでも有名であった。

 ただし、その分「文明型」は他のダンジョンとはタイプの違う厄介さを秘めていることが多い。具体的にはモンスター以外のトラップや、ダンジョン自体が牙をむく可能性などだ。

 そして「都市型」とは何らかの文明を感じさせる構造のダンジョンであり、それは地球外の……あるいはもっと別の何かを想起させるものであることが多い。今のところ実際にそうした「文明」が何であるかは解明されていないが……かつての時代からのブレイクスルーは都市型ダンジョンの内部研究の成果によるものだとされている。

 つまり、大抵の都市型ダンジョンは地球文明の更なる進歩のための重要な場所であるはず、なのだが。そうではない都市ダンジョンも実は結構多かったりする。

 たとえば今話に出た埼玉第4ダンジョンは昔の日本の光景を想起させる場所であり、しかもモンスターは都市伝説の怪異を再現したようなモンスターである。


「ふうむ……まあ入ってみんことには確定できんし、下手に攻略するわけにもいかん。おまけに入ろうとするのにも危険があると。手詰まりじゃのう」

「はい。ですが定期的な討伐でどうにかなるのであれば、それで良いと。こういった現状であるということ、そして青函トンネルに入るのは危険であるということを最初にお伝えする決まりになっております。では、今回の作戦についてです。まず本作戦は青森側からのみの作戦となっております。これは北海道側からはモンスターが出現しないからであり、それでも最低限の人員は監視のために置かれています」


 ダンジョンゲートに表裏が存在するという説の補強となっている事実だが……恐らくは青函トンネル内がゲートで完全に塞がれているという予想の根拠でもある。

 とにかく、イナリたちは何かあったときの即応要員としての投入であるが、基本的にはそんな事態はないので本当にサンラインの新人たちの頑張りをゆっくりと観戦する……という形になる予定であるようだ。


「こう言ってしまうとなんですが、気楽に見学していってください。私たちがどんなクランであるかを実戦の場を通じて見ていただくことが目的ですので」

「うむうむ、そうさせてもらうかのう」


 ミチルがこの話を持ち掛けてきたときから、それなり以上に自信があるのは分かっていた。今の説明も自分たちがどれだけ今回の話に精通し、真摯かつ真剣に対応しているかというアピールなのだろうと、頷くイナリを横目にソフィーは考えていた。

 そしてソフィーは、たぶんエリも同じことを考えているだろうことにも気付いていた。


(狐神さんは気付いてるのかどうなのか分かんないですけど、あっちの敷島さんはその辺の深いところに気付いてるっぽいんですよね。ほんとなんで、こんな人が無名なんでしょう……)


 ちなみにイナリは悪意が無ければ大抵のことは「ほー、そうなんじゃのう」で済ませてしまうタイプなので……まあ、この辺りは性格の問題という他ない。

 そんな感じのサンラインとしての事前アピールの時間が終われば、車での移動が開始になるが……青森の風景は、イナリが今まで見た街並みとは大分違っていた。

 それはエリもソフィーも同じなのか、車外の光景から目を離せず……それを目敏く照井は見つけていた。


「街並みが気になりますか?」

「ええ。なんというか……要塞みたいですね」


 そう、ソフィーのその言葉がまさに青森の様子を現していると言えただろう。

 確かに街中であるはずだ。それだというのに、どの建物も恐らくは鉄筋コンクリートであるだけではなく、金属板で補強を加えているような建物ばかりであった。

 扉も頑丈そうな金属扉であり、窓も小さく分厚いガラスをはめ込んだものが多かった。

 それだけではなく、街のあちこちに高い塔のようなものが設置されているのはもはや普通ではないとしか言えない。


「要塞都市……」


 ぼそっと呟かれたエリの言葉にイナリが「要塞、のう……」と反応する。


「確かにそのような雰囲気じゃの。硬く、重苦しい……見よ、行き交う車も何やら四角いものばかりじゃ」

「あ、本当ですね」

「言われてみると装甲車ですよね。しかもあれ、覚醒者用ばかりじゃないですか?」


 そう、行き交う車も覚醒者用のものであり具体的にはモンスターの襲撃があってもある程度対応できるものばかりだ。そんなものを非覚醒者の一般人が持っているはずもないが、そうなると先程からすれ違う車の全てに覚醒者が乗っているということになる。

 そして何よりも、人口の集中している東京ほどではないとしても……走る車の数が、妙に少ない気がするのだ。


「それに、こんびにも無いのう。おかしな話じゃ」

「え、ああ……気付きませんでした……」


 イナリは稼ぎと知名度の割にコンビニに頻繁に出入りしているので例外だが、ソフィーもエリも有名になればなるほど、そういう店からは有名人が来たとき特有の騒ぎが起こるのを防ぐために近寄らないようになってくる。

 だから自然と「そういうもの」が目に入らないようになってくるのだが、確かにイナリの言う通りであった。そして目に入るようになれば、この街の正体が見えてくる。


「もしや、この街には覚醒者以外の者たちが住んでいないのではないかのう?」

「その通りです」


 照井はイナリへとそう頷く。青森県東津軽郡今別町。この街は今イナリの言った通り、高度に要塞化され覚醒者のみが暮らす、そんな街と化しているのだ。

 そしてその理由は……青函トンネル内部のダンジョンもそうだが、地理的な理由によるものでもあった。


「言わずと知れた太平洋第1ダンジョン、陸奥湾第1ダンジョン、日本海第1ダンジョン……そして青函トンネルのダンジョン。世界的に見て難所は幾つもありますが、対処不能のダンジョン4つの影響を同時に受ける可能性のある場所は、そう多くは存在しません」


 対処可能なダンジョンは定期的な探索をすれば、それで安全は確保できる。対処不能なダンジョンがあったとして、青函トンネルのダンジョンのように定期的、あるいは不定期での対処を行えば問題のない……と判断される場所もある。そもそも太平洋第1ダンジョンの影響は海に面した国家であれば逃れることの出来ない運命であるとも言える。

 しかし、此処まで難しい場所はそう多くはない。だからこそ今別町には日本政府と覚醒者協会日本本部の協力で、かなり特別な配慮がされることになった。それがこの街全体の要塞化であり、覚醒者専用都市のような扱いであった。


「そんなの聞いたこともないですけど……」

「広めても周囲の地価を下げるだけです……今後永遠に付き合っていかなければいけない問題でもあるんです。ですので、不安を煽らないように積極的には広報していないそうです。もっとも、隠しているわけでもありませんが」


 調べようと思えば調べられるし、調べるのに特殊な手段が必要なわけでもない。ただ、広める努力をしていないだけ……というわけだ。

 全てのことを余さず知り尽くすことだけが幸せではない。知ることで不幸になることもある。そうしたいつものスタイルの固持ともいえるが……まあ、そんな感じだ。


「ですが、最新の技術を投入し続ける日本最高レベルの防衛力を誇る都市でもあります。ですから、事情を知る人々はこう呼びます」


 最終防衛都市今別。日本に何かあった際でも此処だけはあるいは残るのではないか。そんな多少の皮肉も込めた呼び名である。

 ……もっとも、実際にどうであるかは勿論分からない。


「最終防衛都市、のう」

「事実だけを列挙するなら最初に滅びる可能性も高いんですけどね。ただ、そうさせないためにこんな光景が出来上がっているわけです」


 そして今のところ、今別町は滅びていない。だからそれが答えであるだろうと……まあ、そんな話だ。


「さあ、そろそろ着きますよ。青函トンネル前防衛線です」


 そんな照井の言葉通り、大きな壁のようなものがそこには出来ていた。さながらダムの壁の如き高い壁だが……何か不測の事態が起こった際に街中にモンスターを逃がさないようにするための備えであるのは間違いないだろう。

 正面の大きな門は開かれ、内側にも外側にも覚醒者輸送用の大型車両が止まっているのが見える。

 幾つかの建物も併設されており、壁の上も下も色んな人間が行き交っている。覚醒者協会のものらしき身分証を下げた人間もいるため、定期的な迎撃作戦の他にも細々とした対応があるのだろうことを想像させる。


「あ、イナリさん。あっち食堂なんだそうですよ。宿舎の看板もある……此処に赴任すると大変そうですねえ」

「休日の楽しみはあるんかのう。色々と心配になってくるのじゃ」

「心配の内容が呑気ですねえ……」


 ソフィーが呆れたように言うが、これが日常であるというのであればエリもイナリもそれにわざわざどうこう言ったりはしない。それでどうにかなる類の話でないというのは分かり切っているし、こういうものがあることにより発生する雇用もある。不満そうな顔がこの場にない、というのは最大の理由だろう。


「まあ、空気がの。疲れ切り倦んだものではない。己の置かれた環境に満足しているか……はともかく、納得はしておるのじゃろ。ならば外野が何ぞ言うものでもあるまいて」

「はい、その通りだと思います」

「あー、なるほど……」


 ソフィーからしてみればご免被る状況ではあるのだが、そこは個人の感覚というものなのかもしれない。


(仲良くするには私もこういう感覚に合わせないといけないんでしょうけどねえ)


 勿論、そんなことはない。そんなことはないが……まあ、ソフィーの根が真面目であるという、そんな感じではあるのだろう。


「ああ、いらっしゃいましたか。ようこそ防衛線へ……色々と驚かれたのではないですか?」


 ミチルの声が響いたのは、丁度そんな時であった。

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― 新着の感想 ―
対処不可能なダンジョン複数の影響を受ける立地って相当だなぁ
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