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【2/15 書籍3巻発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第八章

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紫苑、東京湾に出撃す2

 ちなみにだが大抵の場合、スキルには何らかの条件や制限がある。たとえば月子のように戦闘開始から25分経過で使用可能というのは相当にキツい条件だが……紫苑のこのスキルの条件は「一定時間のチャージを要する」こと、そして制限は「一定以上の広さと深度を持つ水場でのみ使用可能」ということ。つまるところ、海や湖のような場所でしか使えないということである。しかも使用することが敵に丸分かりという弱点も抱えている。いるが……その分、発動すればとんでもないことになる。そう、今からのように。


「必殺」

『トーピドー! ファイアファイア、サルボー!』


 虚空から現れた魚雷の群れが……50、いや100を超えようという無数の魚雷たちが、空高く発射される。それらは天から落下し幽霊船たちを一斉に沈めていく。幽霊砲弾が一部を撃ち落としはするが、それでも海域を揺るがすような大爆発である。そして、それでは終わらない。

 紫苑の姿が海中へと消えていき、そこからもあのうるさい音声が響いてくる。


『ワンモア! サルボー!』


 それは文字通りの……本来の意味での魚雷攻撃。幽霊爆雷の投下も然程意味はない。先程の魚雷攻撃を何とかしのいでも、海中から船底への無数の魚雷攻撃をこの状況で受ければ勿論ただでは済まない。多少の再生力では、足りるはずもない。そうして今度こそトドメを刺された幽霊船が爆発していく中、紫苑が再び浮上する。その手でクルリと三叉の槍をクルリと回し大きく振り被る。


「……トドメ」

『オーシャンストライク』


 青い輝きを放ち投擲された三叉の槍がその輝きを強め、巨大な青い光の矢と変わる。同時に紫苑が海中へと潜航し、その姿が消えて。唯一残された最初の幽霊海賊船を光の矢がぶち抜き大爆発を起こす。

 そうしてクルクルと回転しながら落ちていく三叉の槍を浮上した紫苑がキャッチして振り返った先には……一隻の幽霊船も残ってはいない。


「ボクの、勝ち」


 そう満足そうな声をあげる紫苑だが、空中でアツアゲとやり合っているアマンダはそれどころではない。こんな無茶苦茶な奴が出てくるなんて、想定外に過ぎる。


「なんなんだ、あいつ……日本はワンマンアーミーで溢れてるのか⁉」


 いくら何でも船団を沈めるなどとは予想外だった。確かにある程度戦力を揃えてくることは予想はしていた。アツアゲが来ることも想定した上で、多少の増援があろうと数で叩き潰すつもりだったのだ。幽霊船団にはそれが出来るだけのスペックがあったはずだ。

 それなのに、これは何なのか。一体何故自分が追い込まれているのか? 奥の手まで使って、どうしてこんなことになっているのか?


「くっ、う……神よ……! 私にこの苦難を乗り越える力を……!」

―【魂の選定者】が失望しています―

―【魂の選定者】は苦難を自ら乗り越えぬ者は勇者ではないと言っています―

―【魂の選定者】は貴方の堕落を嘆いています―

―【魂の選定者】との使徒契約が破棄されます―


 瞬間、アマンダの身体から力が抜けて。アマンダを飛行させていた翼も消失する。


「う、あああああああ!?」


 そうなれば当然、アマンダは空を飛ぶことは出来ない。その身体は自由落下して海へと落ちるが、当然のようにアツアゲは助けない。助けないが……代わりに紫苑が引っ張り上げて浮上したヤマトモリへと引きずっていく。


「……何故助けた」

「人死にはそんなに好きじゃない」

「そうか。でもな……」


 言いながら、アマンダは警棒を取り出す。ただの警棒であろうとも覚醒者用の素材を使い覚醒者が使えば立派な武器だ。紫苑の腕を叩きその手から逃れると、アマンダはそのまま警棒を海中へと投げ捨てる。


「何を」

「贖罪だよ。正しい理由なく魂を弄ぶなら、それは選定者ではなくネクロマンサーだ。それでもこれが正しいと信じてはいたが……まあ、どうやら違ったみたいだ」


 紫苑は、気付く。アマンダに海中で黒い何かが無数に絡みついている。いや……呑み込んでいるのだろうか? 無数の黒い何かがアマンダを覆い尽くし、吞み込もうとしている。


「手を……!」

「やめときな。そして逃げるんだな。これは何かロクでもないもんだ……まあ、私が間違えた代償ではあるな」


 それはやがてアマンダの頭部まで覆い尽くして。その身体が、海に溶けるように消えていく。呪われて死んだ。それがアマンダの終わり。その事実に紫苑は少しだけ寂しいものを感じるが……唐突に、降下してきたアツアゲが紫苑を掴んで急速飛行する。


「え。あれ。アツアゲ? どうしたの?」


 アツアゲは答えない。まあ、アツアゲは「ビーム」か「ビームウイング」しか言わないけども。ちょっと語彙は増えてる。さておいて。

 疑問符を浮かべていた紫苑は、海面が不自然に揺れていることに気付く。いや、これは地響き……だろうか? 海中に何か巨大な影がある。

 それはそのまま何処かに移動して消えていくが……いったい何がそこにいたというのだろうか?

 潜航して確かめてもよかったが、それは少しばかり軽率に過ぎるだろう。

 紫苑はそのままアツアゲにヤマトモリまで運ばれていくが、そこには難しい顔をしたイナリと、疑問符を浮かべたキアラや護衛部隊の面々の姿があった。


「ただいま」

「うむ、お帰り。今回は助かったのじゃ」

「別にいい。友達の頼みだから。でも今度泊まりに行く」

「うむうむ。存分にもてなそう」


 本当は今日がいいが、イナリも護衛の仕事があるので紫苑も無理は言わない。それに、気になることも残っている。


「それで、さっきの」

「あれか……どうにも厄介ごとの匂いがするが……先程海底にこの船が潜ったときには何もいなかったはずなんじゃが」

「そのことですが」


 谷口が操縦室から出てきて、そう話しかけてくる。やはり先程の件はヤマトモリでも感知していたようで、わざわざ来るということはそれなりの問題であるということは間違いなさそうだ。


「何かがいたのは間違いありません。ですが、すぐ反応が消えたので……一応万全の注意を払って戻りますが、念のため護衛の方々もご注意願えますと助かります」

「うむ、そこは任せるとええ」


 けれど、そんな多数の心配が杞憂だったというかのように何も起こらず……ヤマトモリは新東京港のドックへと無事に帰港する。それは今回の暗殺事件の終わりであり、キアラとの別れでもあった。

 ……とはいえ、先程のこともある。念のため更に4日ほどキアラは日本に滞在していたのだが、驚くほど何も起こらなかった。この事件はこれで終わりだと、そう判断するに相応しい期間が経過したことでイナリによる護衛は終了となり、キアラは慌ただしくイタリアへと帰っていく。その道中にもやはり何もなく、数日後にはイタリアで会見するキアラがテレビで見られるようになっていた。


「忙しい事件だったね」

「そうじゃのう。ま、その後も何事もないようで何よりじゃが」


 イナリの家に遊びに……というか泊まりに来た紫苑がイナリの膝に頭を乗せているが、何をやっているかといえば耳かきである。普段そういうのを紫苑はやらないらしく、イナリが丁寧にやっている最中である。


「結局イタリアの覚醒者協会の権力争いだったんでしょ?」

「そうであると思われる……という感じらしいがのう」


 今回の事件はいわゆる「アマンダ派」がイタリアの覚醒者協会内に多くいたことに起因するものだ。モンスターに殺されてくれれば旧体制の不備を突きつつ権力移行がスムーズになる、といったようなものがあるらしいのだが、今キアラはその辺りをイタリアで色々やっているらしい。そう、色々である。


「ま、妙なものに巻き込んだのはすまなんだが……儂の知る限りでは、あの状況で一番上手く戦えそうなのは紫苑じゃったからの」

「ん、それは正解。ボクは海で戦うなら勇者より強い自信はある」


 事実、水中に適応している紫苑は陸上よりも水中で戦う方が何倍も強い。戦闘用スキルの数こそ少なめではあるが、ひとつひとつがそれを補うだけの性能を持っている。


「そういえば、あの必殺技も凄かったのう」

「ん、制限はあるけど超強い」

「アツアゲもあれは中々に刺激を受けたようでのう……」


 イナリの視線の先。紫苑の目の前にアツアゲがやってくるが、何やらハロウィンで見かけるようなフォークみたいな槍の玩具を持っている。そう、三叉の槍だ。


「……イナリが買ったの?」

「うむ。ほれ、ごっどきんぐだむの玩具は発送まで少しかかるらしくてのう……」


 モノがモノなので発送にも配送にも時間がかかるのだ。それまでの繋ぎのようなものだ。とはいえ、アツアゲは喜んでいるので問題はない。


「よかったね、アツアゲ」


 紫苑にアツアゲは槍を掲げてみせるが、どういう意味かは不明だ。というかアツアゲがどうやって槍を持っているのかも不明だ。あのとき海で自分をどうやって掴んだのかも不明だ。付き合いが深まれば深まるほど謎が増えるアツアゲだが、紫苑はひとまず考えないことにする。

 だから何か別のことを考えようとしたのだが……そうすると、紫苑は答えがすでに出ていそうな「とあること」に気付く。


「……そういえば、イナリは耳かきとか普段してるの?」

「いや、儂はそういうのはやらんのう」


 そもそもイナリの耳が何処かといえば頭の狐耳だが、そこで音を聞いているかといえばまた別の話だ。イナリは人の形をしていても人間ではない。それは各器官……耳においてもそうであり、一応存在するが、ただそれだけの話である。凄まじい爆音が響いても鼓膜がどうにかなったりするようなことはないし、当然耳垢が溜まったりもしない。だから、耳かきを買う意味はない。当然、イナリの近くに置いてある小道具入れに入っている幾つかの種類の耳かきは、イナリが購入したものではない。


「一応聞くけど。誰が買ったの、その耳かき」

「基本はエリじゃが」

「基本」

「月子専用のとヒカル専用のと……恵瑠専用のもあるのう。やはり耳に入れるものじゃしのう。自分専用のものが欲しくなるのは当然なのかもしれん」


 まずそういうのを持ってくる辺りにツッコミを入れるべきかもしれないとは紫苑は思うのだが、まあめんどくさいので黙っていることにした。というか、まず月子が此処に来ていることに驚きではあった。そんな話はグループメッセージでも一切聞いたことがない。


「……月子、結構来てるの?」

「たまに、かのう。ほれ、月子は色々と忙しいからの」


 まあ、実際月子は研究で物凄く忙しい。普段イナリ以外が誘ってもほぼ確実に来ないのが月子である。その辺りの隙間時間で来ているんだろうな、などと紫苑は納得してしまう。まあ、交友関係というものがゼロと言われている月子が自分から誰かの家に行っているなどという話、世間の人は信じないだろうけども。


「ほれ、反対側じゃ」


 いつの間にか終わっていたらしく、イナリにポンポンと肩を叩かれて紫苑はその場でひっくり返る。正直紫苑は誰かに耳かきをされた記憶などないが、イナリのこれはクセになりそうだ。自分専用の耳かきを持ってきた面々の気持ちも、正直分かるのだ。


「……そういえばエリ専用のはあるの?」

「それがのう。『私はする方なので』とか言うとった」

「ああ、メイドだもんね」

「そういうことらしいのう……」


 さておき、耳かきで耳が幸せになった紫苑がぐってり倒れていると、テレビでは鬼怒川温泉のニュースをやっていた。鬼怒川のダンジョンが拡張ダンジョンになったおかげで宿泊客が急増とかいう話であるらしい。


―はい。向こう半年ほどまで予約で一杯でして。Webページでもご案内しておりますが、やむなくお断りしている状況が続いております―

―このように鬼怒川では例年を大幅に超えるダンジョンバブルといえる状況が始まっており、この状況は少なくとも1年以上は続くと予測されています―


「エリと行ったんだっけ」

「うむ、そうじゃのう。儂とエリが拡張だんじょんの最初の客じゃよ」

「そっか」


 拡張ダンジョン。しかも鬼怒川のダンジョンともなれば人気になるのは当然だろうと紫苑も思う。あそこはまさに現代の鉱山なのだから。その可能性が更に拓けたとなれば、まあ今の状況も納得だ。

 1年どころか2年先も3年先も、鬼怒川の旅館やホテルは人気であり続けるだろう。もしかしたら新しいホテルだって出来るかもしれない。安泰とは、まさにそういう状況のことだろう。


「ボクともまた行こうね、旅行」

「そうじゃの。何処か行きたいところでもあるのかえ?」

「ん、これから考える」


 紫苑も何か具体的な案があって言ったわけではないのでそんなものである。台所からイナリがお煎餅とお茶を持ってきたのを見て起き上がると、2人でお煎餅をパリパリと齧り始める。

 テレビではすでに鬼怒川の話は終わっていて、最近のトレンドの話になっている。


「デカ盛りランチ特集……」

「おお、何やらどっさり盛っておるのう。飽食の時代とはよくいったものじゃ」

「でも生産系の覚醒者がいなければ危険だったらしい。色々足りなかったから」

「そうじゃろうのう」


 今の時代、生産系の覚醒者のおかげで色々と成り立っている。米や麦、航空機や建築物だってそうだ。かつての時代の常識をぶち破る生産系スキルの存在が急速な復興の原動力であった。たとえランキング入りしていなくとも、彼等は今の時代を支える英雄たちだ。


「ちなみに月子も能力的には生産系」

「都市伝説や恵瑠の件でも大活躍じゃったしのう」


 生産系が英雄であるなら月子は大英雄か英雄王かというレベルで貢献しているのだが、それで戦闘も出来るのだからまさにトップランカーと呼ぶに相応しい。


「ん? 噂をすれば影とはいうが……」


 イナリの覚醒フォンに月子からの着信が入って、通話状態になるなり聞こえてきた声は、少しばかり不機嫌そうだった。


『私だけど』

「おお、儂じゃよ。どうしたかの?」

『つかぬことを聞くんだけど、アツアゲを放し飼いにしてる?』

「ん?」


 言われてイナリは振り返る。そこではアツアゲが槍の玩具を放り出してテレビを見ていたが……まあ、あれを放し飼いと言われればそうなのかもしれない。しかしまあ、そういう意味ではないだろう。


「基本的に儂の近くにおるが。何かあったかの?」

『……いや、気になっただけ。まだたいした話でもないわ。忘れて』

「うむ、そうしよう」


 その後、すぐに電話は切れるが……どうにも気になる話ではあった。まるでアツアゲに関わる何かがあったと言いたげだが……忘れろと言われた以上、この話を深掘りするのは信義的に問題がある。


(……ま、何かあれば連絡してくるじゃろ)

「何の電話だった?」

「うむ。まあ、秘密の話じゃな」

「そっか」


 紫苑も気にはなるが、それ以上突っ込んだ話はしない。イナリが秘密と言ったなら秘密。それ以上探ろうとは紫苑は微塵も思わない。それが友人としての信頼関係だと、紫苑はそう思っているからだ。

 そしてアツアゲはちょっと槍の玩具に飽きていた。武器系の玩具は遊び方が結構限定されるので、玩具の中の玩具たる積み木ゴーレムとしてはもっと知的好奇心が満たされる完全合体ゴッドキングダムの到着を待ちわびていたのだ。

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― 新着の感想 ―
専用耳かきwww 魂の選定者って人間社会的な善悪とは違うだけで明確な敵ではない感じかな?
[良い点] >どうやって紫苑を掴んだか 多分ドラえも○の丸い手=ピタリハンドの磁力みたいな謎パワーみたく、良く解らんパワーで吸着してるんじゃないかな? [一言] >アツアゲ放し飼い ま、まさか別個体が…
[一言] 獣王みたいに人間や自分の契約者に好意的な神のごときモノだった感じかな
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