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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第八章

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お狐様、新東京港に行く

 様々な思惑を含みながら、日にちは過ぎていく。そして予定上での最終日。

 水棲モンスターからの防衛を想定し覚醒者の待機施設などを含む要塞化を実施した新東京港にイナリたちはやってきていた。

 以前ヒカルとほとんど要塞化されていない晴海ふ頭に行ったことはあるが……今回は完全に要塞化された場所であり、安野の紹介もあり許可された形になる。


「へえ、此処が日本の水運の中心ですか……流石ですね」

「船舶の防衛、そしてドックとしての役目を充分に果たせるようにした結果です。世界標準を満たすだけでなく、日本の地理的な状況も鑑みて、想定できるあらゆるケースに対応することを目標としています」

「へえ、それはモンスターの襲撃も含めて?」

「はい。マーマン級のモンスターが1000体攻めてきたと仮定した場合でも余裕をもった防衛が可能との試算が出ています」


 勿論それは最悪の場合ですが、と案内してくれている職員は説明してくれる。全国に同様の要塞港はあるが、漁業連盟と港湾管理課などの幾つかの団体と覚醒者協会の共同管理となっている。つまるところ覚醒者しか扱えない特殊素材を使うための言い訳だが、そうした良い感じの妥協とか協力とか、そんな感じの上に成り立っているわけだ。

 まあ、そんな場所なので安全管理には細心の注意を払っており、一応モンスターであるアツアゲは入れない……という建前で、外で安野と共に待機していたりする。さておいて。


「その性質上、中で全てのことが済むようになっておりまして、コンビニやレストラン、工具や服などを取り扱う店、自動販売機なども各所に置いてあります。面白いところでいいますと、入浴施設もあるんです。ほら、あそこですね」

「……スーパー銭湯江戸の華……何処かのチェーンですか?」

「いえ、独自運営です。名前は公募で決まっています」


 何やら和風な看板のかかった銭湯がこの要塞港の中にあるのはなんともシュールには思えるが、よくよく見れば各所に設置された木々や昼間のように明るい照明など閉所と思わせない工夫があちこちにされているのが分かる。


「お、なんじゃこれ?」

「あ、それはハンバーガーの自販機です。あっちにはカップラーメンの自販機もありますよ」


 そう、イナリが見つけたものは食べ物系の自販機だ。かつての時代でもレトロ感のある自販機として一部存在していたが、此処にあるのはどれも最新鋭の機器ばかりだ。たとえばハンバーガーの自販機は普通のハンバーガーにチーズバーガー、ダブルバーガーの三種類だ。お金を入れてボタンを押せば、ほっかほかのハンバーガーが出てくるという……そういうタイプの自販機だ。カップラーメンの自販機は買うだけではなくお湯を入れる機能もついており、この1台でカップラーメンを完成させられるようなタイプだ。そして何故そんなものが存在しているのかといえば、何らかの理由で食事の時間を節約したいとかちょっと小腹が空いたときにとか、まあそんな場合の利用を想定している。


「ほう、なんだか凄いのう」

「実を言うと、こういうのを置くのもストレス軽減の一環でして。幸いにも此処は身体を普段から動かしている方も多いため、カロリー的にも問題ないわけですね」

「人の子は色々大変じゃな」


 ちなみにイナリは人間とは身体構造が根本から違うので太るとか痩せるとかお肌の問題がどうこうとか、そういうのは存在しない。たとえ1ポンドステーキと山盛りポテトのセットを1日3食食べたところで体重はほんの僅かですらも変わらないし毎日もちもち肌である。さておいて。


「ちなみに今回はご案内できませんが地下も存在しておりまして、そこにも様々な施設がございます」

「ああ、仮眠室などですか?」

「いえ、仮眠室は上階ですね。窓から外が見えるというのは精神の安定に寄与するとされておりますので」


 勿論、海側ではなく陸側になるのだが。そこは要塞化した港だから仕方がない。とにかくこの場所はそんな風にちょっとした町のような構造になっているわけだが……それでも本質は港である。イナリたちがそのまま案内されたのはこの新東京港の港たる所以……出航ターミナル付近である。中型から大型の船は基本的に新東京港の施設内部で厳重に管理されており、今回のイナリたちの目的とするものも此処にあった。


「こちらが今回皆様がご搭乗される魔動推進船ヤマトモリです」


 それは、非常に未来的な形状の船だった。前方が多少細めに、そして後部に行くほど広くなっていく細身の台形のような姿をしており、銀色を基調にして赤色を混ぜた船体は非常に美しく、まるでこれで宇宙にでも行くのかというような形であった。


「おお、何やら凄いのう。アツアゲが見たら喜びそうじゃ」

「なんですかこれ? 宇宙に打ち上げるんですか?」


 イナリとキアラだけでなく、護衛部隊の面々も「シャトルだ」とか「知ってるわ。波動砲を撃てるのよ」とか好き勝手なことを言っているが……宇宙に行く機能もないし波動砲も撃てない。


「いえ、これは日本の技術を詰め込んだ最新型の船です」


 そんなイナリたちに職員は自信満々に胸を張りそう説明する。

 魔動推進船ヤマトモリ。それは魔石という小さなサイズで高出力を約束する最新エネルギーの発見によって提唱され研究されてきた技術の産物だ。

 既存の船も魔石をエネルギーとする船に変わってきてはいるが、そこにあえて魔石からの更なる効率の良い、なおかつ高出力のエネルギー抽出を実現するべく……まあ、とにかくより燃費の良い凄いやつを開発しようとして出来た船なのである。

 新機軸のエネルギー理論により生まれた試製機関を多数搭載した機密の塊ではあるが……今、日本で一番すごい船でもある。


「本日はこの船での東京湾内に限りますが試験航行を体験していただくということになります」

「おおー」

「いいのでしょうか。そんなものに乗せて頂いて」

「はい、すでに何人かの方にもお乗りいただいておりまして……何より、この後には発表されるものですし」


 つまり、万が一スパイ行為をしても無駄だぞ、といったような牽制をされているが……まあ、覚醒者協会側から無理も言われてるだろうし嫌味の1つや2つ程度は甘んじて受けるべきものではある。


「何やら迷惑をかけたようですまんのう」

「いえいえ。どのみち発表のタイミングは近日中で調整してはいたものですので」


 イナリが申し訳なさそうに言えば、職員もそうニッコリと返す。まあ、彼らにもある程度のメリットはある話だったので、その辺は込みで話を受けている。さておき、案内されて船内に入ればスタッフが出迎えてくれるが……なんとも広い船内だ。機械室は何処かにあるのだろうが、少なくとも実用可能なレベルまで小型化されているのは間違いないようだった。

 だから、というわけではないだろうが内部のスペースには様々な計測機器の類や荷物などが置かれており、雑多な感じになっていた。とはいえ、両側面と最後部に小さめの窓があるため外の様子も常に確認できるようになっている。


「御覧の通り、此処は今は様々なことを行う多目的スペースとなっています。ですが、実際に実用船として運用されるときには様々な部屋が此処に出来上がることでしょう」

「おお、それは楽しみじゃのう」

「ちなみに救命用具も此方に積んであります」


 言いながら職員が示した先には救命胴衣や救命ボートなども積んであり、いざというときの用意もしっかりとしてあるようだった。

 そして、壁でしっかりと区切られた前方のスペースには頑丈な扉がついている。


「此処から先は操縦室になっておりまして、関係者以外の立ち入りは出来ないことになっています……が、今回は特別にサランドラ様と狐神様には許可が出ております」

「え。しかし、それでは……」

「アマンダ。それ以上は此方の我儘になってしまいます」

「……ですが」

「それに、狐神さんがいます。護衛には充分でしょう?」


 流石にそこに更に何かを言うのは憚られたのだろう、アマンダは「はい」と頷き、他の護衛の面々も何かを言いたそうな顔はしていたが黙り込む。護衛隊長であるアマンダが納得するのであれば……といった感じでもあるのだろう。

 ドアが開き、イナリとキアラが操縦室に入れば、そこに広がっていたのは前面に特殊なガラス窓を広く使用した、とても見晴らしの良い操縦室だった。


「おお、いらっしゃいませ。本日船長を務めます谷口です」

「覚醒者協会イタリア本部長のキアラ・サランドラです。今日はよろしくお願いします」

「狐神イナリじゃ。今日は付き添いで来とる。よろしくのう」

「はい。今日のお話については伺っております。どうぞよろしくお願いします」


 何かを含むように言う谷口だが……まあ、話は通っているということだ。敬礼を終えると、谷口は座席に座っているスタッフへと声をかける。


「では魔動機関始動! 出航準備!」

「魔動機関始動! 出港準備開始します!」

「ではお客様。空いている座席にお座りを」


 幾つかある座席にイナリとキアラが座ると、恐らく魔動機関とやらが動き出すヒュイイイイイン……という音が聞こえだす。


「出航ゲート、開きます!」

「ゲート最大まで開放!」


 今まで閉まっていた出航用の門が開いていき、要塞化された新東京港の出口が見えていく。

 ザザン……と響く海の音は、なんとも心地の良いものだ。しかし、今の人類にとってはただ優しいだけのものではないのが海だ。


「魔動機関、安定作動! 40から60です!」

「よし、では魔動推進船ヤマトモリ……出航!」

「出航開始!」


 ザア、と。驚くほど静かにヤマトモリは発進する。それは恐らくは既存のどの船よりも静かな出航であり、新型船としてはキアラに「なんと……」と驚きの声をあげさせたほどだった。


「これは……凄いですね。そういえばスクリューもなかったようですが」

「はい。詳しい説明は機密のため省かせていただきますが、魔石を利用した魔力による推進力を実現した船となっています。現在は10ノット程度にてドックからの出航をしておりますが、この後段階を経て24ノット程度までの加速を行ってまいります」

「限界値がその辺りということですか?」

「お答えできません」


 何やら笑顔でやり合っている谷口とキアラに「楽しそうじゃのう……」とイナリは呟くが、ノットとか言われてもイナリは分からないので聞き流している。しかし船の速度が少しずつ上がっていることだけは周りの風景からも気付いている。

 今は要塞化された箇所を抜け、ほんの少しだけ先に出ている。漁船でも護衛を乗せて普通に漁をする範囲だが、この辺りには漁船の姿は今はない。


「さて、ちなみにですが……御覧の通り、この操縦室から直接外に出るにはそこの屋根のハッチから行くしかありません。一応、いつでも使えるようにはしてありますが……」


 壁に設置された梯子と四角い出入口を指差す谷口に、イナリは悪戯っぽく微笑む。何を言いたいかは分かる、と。そんな顔だ。


「うむ。しかし、まあ……すぐには必要なかろう」

「ええ、そうでしょうね」


 イナリと谷口の分かり合っている感じの表情にキアラですら疑問符を浮かべる。というよりもキアラはイナリの打った手について全てを聞いているわけではない。しかしまあ、なんとなく想像はつくのだが……。


「さて、現在24ノットで航行中です。如何ですか?」

「ええ、素晴らしいです。加速を感じさせないのもそうですが、何よりこの静音性です。やはり水棲モンスターへの対応を前提にしているのですか?」

「勿論それも目的の1つです。どの程度効果があるかは実証試験の最中ですが」

「素晴らしい……ぜひ今後の交渉項目に入れたいですね」

「はっはっは……私からはなんとも」


 要は静かに海の上を進むことで水棲モンスターを刺激しないようにする……みたいな話であるが、まあ谷口の言う通り何処まで有効かは不明だろう。そもそも音で此方を認識しているかどうかも分からないのだから。しかしそれでも騒がしいよりは静かな方がいいのは間違いないだろう。

 そうして進んでいくと……レーダーを見ていた船員が「報告!」と声をあげる。


「レーダーが異常な魔力を感知しました! 前方5km圏内!」

「回頭! 距離を取るんだ!」

「報告! 所属不明の帆船を確認!」

「出おったか……」


 そう、それは倒したはずの幽霊船と……恐らくは同一なのだろう。イナリが「狐月」と呟けば、その手に刀形態の狐月が現れる。


「所属不明船、砲門開きました! 砲撃……きます!」

「魔動機関全開! 事前の情報通りだ! ここからにヤマトモリの評価がかかっているぞ!」


 ヤマトモリの速度が一気に上がり、追いかけてくる幽霊砲弾をジグザクの動きで回避していく。当たり損ない水面に着弾した幽霊砲弾がそのまま爆発を起こし、第一弾を全て避けきる。そうして、その間にイナリは刀身に指を這わせ滑らせる。

 イナリの指の動きに合わせ白い輝きを纏っていく狐月は、イナリの手からふわりと浮く。


「根源を示せ――秘剣・祢々切丸」


 待っていたようにドアをキアラが開けると、狐月は飛翔し……アマンダの前でピタリと停止する。


「……は?」

「お主が犯人というわけじゃな?」

「え、なっ」

「隊長!?」


 スパン、と。非常に軽い音を立ててアマンダが投げられる。狐月を掴むイナリの目の前でアマンダは床へと着地し、何が何だか分からないといったような表情を浮かべていた。そして他の護衛部隊の隊員たちも訳の分からない顔をしつつも突然の凶行……まあ、そう見えるだろう……に反応して武器に手をかけていた。


「い、一体何を? これはどういうことですか?」

「そうです! いきなり何を……!」

「お主が犯人じゃよ。あの幽霊船、どういうからくりかは知らぬが、お主のものなんじゃろう?」


 言われて、アマンダは……いや、ドアの向こうから此方を見ているキアラと目の前に立つイナリを除いた、護衛部隊全員がポカンとした表情になる。そしてアマンダも「そんな顔」をしていた。


「い、いえ。何を仰っているのか。あれはイタリアに出た幽霊船で」

「うむ、うむ。言い張るならそれでええ。ちょいと気絶させて余計なことを出来んようにさせてもらうが……儂はもう確信しとるよ」

「何を意味の分からないことを! まずはあの幽霊船をどうにかしなければ!」

「ああ、それなら問題ないんじゃよ」


 そのとき。まるで「何か」に下から突き上げられたように幽霊船が爆音と共に揺れて。

 ドアの向こう。新東京港へと向かわない……追加の幽霊砲弾を避けているヤマトモリの操縦席の広い窓の端に映る……海の中から浮上した「何か」がいた。


「友人に頼んであってのう。任せろと言うてくれたんじゃよ」


 それは……日本の海の守護者。水中行動においては他の追随を許さない、日本ランキング第3位『潜水艦』鈴野 紫苑。

 水面を滑るように移動する紫苑は、三又の槍をその手に幽霊船を見上げる。


「……どーん」

『フライングトーピドー!』


 そして。紫苑が槍を向けたその先へと虚空から現れた魚雷のようなものが1本発射された。

超電導電磁推進船、という単語で検索をかけてみるとちょっとだけ幸せになれるかもしれません

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― 新着の感想 ―
アツアゲと引き離すだけじゃなくて伏兵まで完璧に配備してたwww
[一言] 本人も強いけど友人枠も強すぎる
[良い点] そういえば海と言えば…な頼もしい仲間が居ましたね! さて此所まで追い詰められて、次はどんな手札を切ってくるか…?
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