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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第八章

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お狐様、栃木第2ダンジョンに挑む2

―【ボス】デストロイボット討伐完了!―

―報酬ボックスを手に入れました!―


 システムメッセージが表示されて。しかし……それだけだ。ダンジョンリセットのメッセージも、外への転送のメッセージも出てこない。しばらく待っても出てこない事実にエリは疑問符を浮かべイナリへと振り向く。


「イナリさん、これって……」

「うむ。拡張だんじょん、ではないかの? 軽井沢のときと同じじゃ」


 拡張ダンジョン。軽井沢の長野第2ダンジョンでも体験した、ダンジョン拡張による現象。その内容はマップの拡張と……モンスターやボスの追加。具体的にはボスが2体になる。


「けど……此処のダンジョンは昨日も攻略者がいたんですよ? どうして……いえ、まさか」

「心当たりがあるんじゃな?」

「はい。ダンジョンは別に毎回クリアする必要はありません。ですから……」

「ああ、そういうことか。此処でもんすたあ狩りのみに終始し、ぼすを倒さぬのであれば当然結果は遅れる……か」


 そう、ボスを倒せばダンジョンはリセットされ、生存者は全て外に出される。それはダンジョンを鉱山として見た場合は「そこで稼ぎが終わる」ということだ。占有の場所ではない以上、可能であれば時間一杯稼ぎたい。

 となれば「ボスを倒さず時間一杯雑魚モンスターを倒して回る」は当然選択肢に入るし、ダンジョン内に存在する……形はダンジョンによって様々だが、いわゆる宝箱だって開けて回りたい。

 そうなるとボスを見つけても遠ざかったり隠れたりしてやり過ごし、普通にゲートから帰る。そういうやり方が「普通」になったりするものだ。それでもモンスター災害は防げると東京第1ダンジョンで証明されている以上は、それは立派なやり方であり何処にも責める理由などない。むしろ責めるほうがおかしいという話になる。

 拡張ダンジョンの発覚がそれで遅れたところで「だからどうした」という話にしかならない。ダンジョンの難易度は変化するかもしれないが、モンスター災害の確率が上昇したわけでもない。

 ボスを倒す方向でやっていたのがエリたちだったというだけであり、つまりこのダンジョンの現状を考えればエリたちが発見するのは必然だったということになる。


「さて、どうする? 帰ってもええとは思うが」


 イナリのその問いにエリは「うーん」と唸った後に「いえ、やります!」と拳をグッと握る。


「未確認の拡張ボス! 戦闘でやってくなら避けてはいけないものだと思います。たぶん!」

「まあ、そこらはエリの自由じゃがのう」

「はい、頑張ります!」


 とはいえ、全く情報のないモンスターだ。軽井沢のときには流れでどうにかなったが、どうも今回はそういうわけにはいかなさそうだとエリは思う。何故ならこの廃墟の広がるダンジョンは、どれも似たような場所に見える。マップ情報はあるにはあるが、拡張されたのであれば正しさに疑問が出てくる。


(軽井沢ではウッドゴーレムと銀月人狼だった。つまり、種類は違っても共存していてもおかしくはない、あるいはフィールドに相応しい2種が選ばれた……となれば、正体はやはり機械系のはず。それでいて拡張フィールドが存在するとすれば……)

「……地下?」

「ふむ?」


 そうだ。この広大な崩壊世界型ダンジョンは現代よりも少しばかり進んだ機械文明に思える。となると空中都市のようなものがあってもおかしくはないが、空はあの曇天だ。そんなものがあってもお手上げなので候補から外しておく。ならば地下はどうか。現実世界でもかつては電車とかいうものがあったという。その中には地下鉄というものも存在したそうだが……ダンジョン関係なく滅びたという設定のこの場所であれば、そういったものがあってもおかしくはない。


「地下鉄……地下……つまり下へと続く階段があれば……」


 見回した周囲にはそれらしきものは存在しない。しないが、エリは大通りがありそうな方向へ向かって走る。しかしそうして走れば当然集まってくるのがガードボットたちだ。


「カウンターセイバー!」


 一気に近づいて発動したカウンターセイバーは周囲にいたガードボットを切り裂き破壊し、そのまま走り抜ける。そうして辿り着いた大通りを見回せば……ある。歩道の隅にある地下への階段。しかし、そこには4体のガードボットの姿。エリとその背後のイナリを見つけるなり光線を放つガードボットだが……そのときにはもうエリはフォースシールドを展開している。


「無駄無駄無駄ァ!」


 4本の光線を受け止めると、次が発射される前にエリは連携スキルを放つ。


「カウンターフォース!」


 4本の光線がそのまま1本に纏められたかのような極太の光線が放たれ、回避し損ねたガードボットの3体が消滅して謎のチップのようなものをドロップさせる。残る1体は避けたとはいってもかすっており、壊れかけているが……そこに、エリが輝く盾を構え突進する。


「シールドチャージ!」


 ズドン、と。凄まじい音を立てて吹っ飛んだガードボットが完全に破壊され、その場に鉄板のようなものを落として消える。


「ふー……あれですね。メイドには同じ攻撃は2度は通用しないってやつです。最初から通じてなかった気もしますけど!」

「うむ。なんといったか……ああ、あれじゃ。『はいてんしょん』とかいうやつじゃったな!」

「うっ! いやまあ、なんといいますか。予想がバッチリっぽかったのでついテンションがですね……」

「うむうむ。エリのまあ……そんな意外でもないが、楽しい一面が見えたかのう」

「え、私普段そんな感じでしたかね」

「うむ。言葉遣いはもう少し綺麗じゃが……のう、なんでめいどには同じ攻撃が2度通用しないんじゃ?」

「あー! イノセントな瞳が私を貫く!? やめてください、悪ノリのときの言動の解説をさせられたら死んでしまいます!」

「おお、そうか。それはすまんかったのう」

「素直! 罪悪感!」


 その場に崩れ落ちそうなエリをどうしたものかとイナリがオロオロしていたが、顔を手で覆っていたエリはしばらくすると気を取り直したように顔を上げる。


「よし、気持ちを立て直しました。此処からはパーフェクトにメイドな私をお届けしたいと思います」

「ん? エリはいつもめいどじゃろ?」

「うっ! そ、その通りです」


 何やら胸を撃たれたような仕草をするエリだが、凄い嬉しそうだ。というか嬉しい。メイドを名乗るエリの自己肯定感が素直な疑問の言葉と認識で満たされている。そうなると、色んなものが些事に思えてきて自然とエリの剣と盾を持つ手にも力が入る。


「なんだかいつも以上に頑張れそうです……行きましょう、イナリさん!」

「おお、それは頼りになるのう」


 そうしてイナリたちが近づいた地下への階段は「西珠地下街」と書かれた看板がついていた。


「地下鉄じゃなかったですね……」

「そもそも儂、そのチカテツとやらをよく知らんのじゃが」

「私も知らないですけど、地下を走る電車だったらしいですよ」

「ほう、凄いのう!」

「まあ、これは違うみたいですけども」

「残念じゃのう」


 言いながら階段を降りていく。幸いにも階段の破損は少なく、いきなり崩れ落ちることもなさそうだ。しかし最大の問題は電気が通っていないことだ。あのVRセンターと違い外の明かりなど期待できそうにもない地下に潜るには明かりが必要なのは明らかであり、イナリは狐火を出そうとするが……そのとき、エリが何かを取り出したことに気付く。それは小さなペンのような何かであり、先端に魔石がついていた。


「えいっ」


 そのペンをエリが一振りすれば、魔石がぽうっと輝き周囲を明るく照らし始める。


「おお、これは凄い。魔石を利用した新技術というやつじゃな?」

「はい。魔石灯と呼ばれるものです。御覧の通り、ランタンみたいな明るい輝きをこのサイズで実現しています。これの凄いのは……」


 言いながらエリが魔石灯をポケットに仕舞うが、輝きは全く変わらない。


「このように科学では説明できない効果を発揮するところですね。魔科学的な話でいうと、発動した本人に疑似的なスキルのように従属しているのではないか……みたいな感じらしいですけども」

「結局よく分からんのじゃな」

「その通りです」


 まあ、分からずとも使えるのであればひとまずは良い……というよりも、それ以外にやるべきことが多すぎるのだろう。たとえば覚醒フォンは仕組みはしっかりと計算されているのだ。明かり程度であれば「どうでもいい」という話なのかもしれない。


「とはいっても、安全性はもう偏執的なくらい確認したらしいですけどね……っと、此処が地下街みたいですね」


 明かりの照らす範囲で見える地下街は、どうやら通路と無数の店舗で構成されている場所であるようだ。というよりも……ここにある明かりは1つではない。赤い非常灯のような輝きが点々と地下街を照らしており、完全な暗闇ではない。ないが……その赤さが、いっそ不気味ですらある。そしてどうやら、イナリたちがいるこの場所は広場のようになっていて、錆びた金属のベンチや案内板などが置かれている。


「イナリさん、此処……」

「……うむ」


 しかし、エリに僅かな脅えを与えたのは、そんな朽ちた光景ではない。店舗の全てが開いていて、カウンターの向こうに人間のようで人間ではない……汚れたろう人形じみたものが立っていたからだ。しかしそれは、人形ではない。何故なら、その全てがイナリたちを見ているからだ。


「生き人形、というやつかの?」

「あ、いえ。アンドロイドだと思います」


 生き人形だとホラーだが、アンドロイドなら科学だ。どうやらそれらは稼働している。そして幸いなことに、イナリの素のボケでエリの脅えは全部吹き飛んでいた。そう、お化け屋敷じみていてもアレはただのモンスターだ。エリが武器を構えれば、アンドロイドたちは駆動音を響かせながら店舗から出てくる。そして……一気に突撃してくるその手には何も握られてはいない。いないが……エリは冷静に盾を構える。


「フォースシールド!」

「イラッシャイマセ!」

「何ヲお求めでしょうか!」

「代金ハハハハハハハ、ウヒハハハハ!」


 フォースフィールドに突進してきた勢いでエリが僅かに後退るが、そのままフォースシールドを叩く個体と迂回しようとする個体に分かれ始める。その動きは素早く……どうやら狙いはイナリのようであった。


「イナリさん!」

「うむ」

「ビーム」


 イナリの狐火と出てきたアツアゲのビームが一撃で回り込んできたアンドロイドを破壊するのは「ですよねー……」という言葉しかエリからは出てこない。そしてエリのほうも、すでに準備は完了している。


「カウンターフォース!」


 恐らくは一撃一撃が機械ならではのパワーによる重たい一撃なのだろう。しかし、そうであるからこそカウンターフォースを放つに充分なダメージは溜まっていた。放たれた光線がアンドロイドたちを破壊するとチップに混ざって機械の指のようなものが落ちているが、先程のアンドロイドのもの……みたいな設定なのだろう。


「む? なんじゃそのろぼっとの指みたいなのは」

「そうですね。これ、たぶんさっきのアンドロイドの骨組みみたいな感じだと思います」

「うむ」


 骨組みとはいえ、立派なロボットの部品だ。何かの役には立つかもしれない。エリが拾い集めイナリに渡すと、即座に神隠しの穴に放り込む。そうして進んでいくと、なんとも不気味な場所だと理解できる。商品が並んでいないのに開いている食料品店、朽ちた雑貨の並んだ雑貨店。宝飾品店らしき場所に宝石が残ってはいるが、赤いライトに照らされ不気味さを際立たせている。


「嫌な場所ですね……」

「そうじゃのう。さて、このような場所にいるぼすとは、どのような……ん?」

「イナリさん? どうし……うっ」


 赤いライトの照らす通路の奥。そこから6本腕の巨人のようなアンドロイドがノシノシと歩いてくる。大きさは2メートルには届かないほど……デストロイボットに比べれば小さい。小さいが、その全ての指先がドリルになっている、冗談みたいな姿をしたアンドロイドであった。それだけではない。つま先には丸鋸のようなものがついており、腹部には如何にも「何か」出てきそうな開閉口がある。


「う、うわあ……如何にも近接戦最強な……」

「エリ」

「は、はい?」

「お主は下がっとれ。もう充分成果は示したじゃろ」


 言いながら、イナリはエリの前に出る。


「狐月、弓じゃ」


 そうしてイナリの手に現れた弓形態の狐月を見てエリはハッとして自分がやると言いそうになるが……イナリの凛とした表情を見て、その言葉を呑み込む。此処は、邪魔をすべき場面ではない。そう感じたのだ。


「人間発見。破壊します」

「ふむ。ですとろい何とかも同じようなことを言うとったが……」


 凄まじい駆動音を響かせながらドリルと丸鋸が回転し、開閉口から何かの射出装置……恐らくはレーザーか何かを発射するのだろうものが顔を出して。


「許容できん。じゃから、去ね」


 引き絞った弦に光の矢が宿り、極太の光線が放たれる。それは巨大アンドロイドを一瞬で消し去り、その場に大きめの歯車をドロップさせる。


「わあ、一撃……」

「ま、こんなものかの」

―【ボス】暴走工事用ドロイド討伐完了!―

―ダンジョンクリア完了!―

―報酬ボックスを手に入れました!―

―ダンジョンリセットの為、生存者を全員排出します―

「む、これでくりあのようじゃの」

「ですね。最後はイナリさんに頼っちゃいましたけど」

「なあに。アレはエリには少々難しそうではあったからのう」

 

 実際、暴走工事用ドロイドは明らかに物理攻撃特化であった。しかも恐らくは一撃でかなり多大な物理ダメージを与えてくるタイプ……となると、確かにエリとは相性が悪い。

 やはりリリカあたりと組むべきか……と思いながら転送されれば、職員たちが驚いた様子で駆け寄ってくる。


「え、クリアされたんですか!? 大変だったでしょう!」

「おつかれさまです! いやあ、今話題の狐神さんがいらっしゃったから当然なのかもしれませんが」

「儂はほとんど手は出しとらんよ。今回はほとんどエリの仕事じゃ」


 イナリがそう言えば職員たちが驚きの表情でエリを見るが……そうすると、すぐにイナリとエリの手にある銀色のボックス2つに気付く。


「報酬ボックスが2つ……拡張ダンジョン……? え、ええ!?」

「いつからかは分からないですけど、拡張されていてボスが2体いました。1つは既知のデストロイボットですが、もう1体は暴走工事用ドロイドというモンスターです」


 その言葉に職員の1人が慌ただしく電話を何処かにかけ始め、もう1人の職員がエリたちに頭を下げる。


「ご報告ありがとうございます! あの、お時間に問題が無ければ詳しいお話をお願いしたいのですが……」

「イナリさんはいかがですか?」

「儂はそれでええよ」


 そうしてイナリとエリは事情聴取と、協力ありがとうな意味の記念品……ボールペンである……を貰って宿に帰ることになる。ちなみにだが2つの報酬ボックスから出てきたものは高性能なポーション2つであり、これはエリにプレゼントされることになったのである。

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― 新着の感想 ―
ドリルに丸鋸と、物理で防ぐにも防具を消耗させられそうな攻撃だなぁ
[一言] 連日投稿じゃなくなってしまったけど その分一話がたっぷりかつ濃厚でこっちの方が有り難いかな
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