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【4/15 書籍2巻、コミック発売】お狐様にお願い!~廃村に残ってた神様がファンタジー化した現代社会に放り込まれたら最強だった~  作者: 天野ハザマ
第八章

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お狐様、栃木第2ダンジョンに挑む

 翌朝、気持ちよく目覚めて朝風呂に行けば、朝食の時間だ。ご飯に明太子、海苔の佃煮などのご飯のお供に焼き魚、サラダとお味噌汁に季節のフルーツ。飲み物は野菜のスムージーに牛乳。そんな感じの比較的スタンダードな和朝食を食べれば、必要なもの以外は旅館においてダンジョンへ向かう時間である。

 鬼怒川の朝は比較的涼しいが、まだ朝9時ちょっと過ぎほどの今頃でもお土産屋さんなどはすでに開店している。この辺りは観光地ならでは……といったところなのだろうが、そんな中を歩いて行けば栃木第2ダンジョンへと到着する。

 他のダンジョン同様に周囲を柵や塀でしっかりと囲い隔離した空間に仕上げた栃木第2ダンジョンの敷地内に入って行けば、なんとものんびりした空気が漂っていた。


「ゆったりしておるのう」

「こういうのってダンジョンごとに違いますよね。此処は大分余裕があるみたいです」


 実際栃木第2ダンジョンは人気のダンジョンなので覚醒者も多く訪れるために、たとえ大規模討伐がなくてもモンスター災害が起こる可能性が低い上に鬼怒川自体が非常に潤っているからこそ様々な施設が立ち並び非常に暮らしやすい場所だ。

 もっと言えば治安も非常に良く、自然と空気が弛緩するのだ。それが絶対的に良いというわけではないが、イナリもエリもこういう空気は嫌いではない。

 受付を済ませ、ダンジョン内に転移していくと……そこに広がっていたのは、前日にエリが話した通りの光景であった。

 全体的な印象としては、非常に現代的な街並みだ。コンクリート舗装された道路にビル群、信号機らしきもの……ただし、そのどれもが大きく破壊されている。

 空は分厚い雲で覆われた曇天であり、そのせいかダンジョン全体が薄暗いが……それでも夜のような暗さではない。


「雰囲気ありますねえ」

「うむ。何処かで見たようなそうでもないような……といった感じじゃのう」


 近くに落ちている案内板には「西珠区」などと書かれてはいるが、日本にそんな地名はない。つまり限りなくそれっぽい別物……ダンジョンなので当然だが、つまりはそういうものであるということなのだろう。


「さて、それじゃあサクッとボスを倒しちゃいましょう!」

「うむ、期待しとるよ」


 今日のイナリは見守り要員だ。エリから少し……3か4歩ほど離れた後ろを歩いているが、そうしていると道の向こう……壊れたビルの陰から機械音のような音が近づいてくる。

 素早く剣と盾を構えるエリの視界に現れたのは……キャタピラで動く、丸い円柱のようなものだった。

 それはこのダンジョンでは高確率で現れるモンスター「ガードボット」である。

 上部に黒い線のようなものが……いや、あれは保護ガラスか何かであるようで、その中で動く赤い光がエリを捉える。それが目である、と確信したその瞬間、エリは盾を突き出し叫ぶ。


「フォースシールド!」


 光の壁が展開されると同時にガードボットの目の前の空気が帯電し、光線が凄まじい音を立てて放たれ光の壁と衝突し消えていく。


「カウンターフォース!」


 その直後。エリが叫ぶと同時に光の壁からズドン、と凄まじい音を立てて光線が放たれる。それは先程あの円柱が放ったものとは似て非なるもので、ガードボットに命中し見事に破壊する。円柱の消えた後にドロップしたのは、ガードボットの一部……にも見える鉄板だ。

 そんなつまらないドロップ品はともかく、イナリはエリの戦い方に「ほう」と声をあげてしまう。

 エリのジョブ「マジックフォートレス」は物理と魔法の両方に長けた、良く言えば万能、悪く言えばどっちつかずのタンクであるという。どんな状況に陥るか分からない以上それでいいとイナリは思うのだが、やはり「いざというとき」のリスクを考えた場合には万能型よりも特化型のタンクの方が安心できると考える者は多い。

 それはタンクという「仲間を守る」ジョブに求めるものが安心であるからだろう。どんな強い攻撃がきても耐えられると確信を持てる。それは誰もがタンクに求めるものであり、そうであるならば物理タンクに魔法防御を求めることはしないし、魔法タンクに物理防御を求めることはしない。適材適所や役割分担という言葉を、パーティでダンジョンに挑む覚醒者は誰より良く知っている。

 勿論、だからといってエリのような中間に位置する者も需要はちゃんとあるのだが……まあ、どちらにせよ敵を倒す攻撃力に関しては期待されていない。それはディーラーの仕事だからだ。

 しかしながらエリは今、充分な攻撃力を見せつけた。それはエリが言っていたソロでも攻略できるという話の、その根拠になっているのは疑いようもない。

 今イナリの視線の先でも、エリが複数やってきた先程のガードボットと戦っているが……どうやらイナリが介入する必要は無さそうだ。

 エリの周囲を囲むように走るガードボットたちが帯電しながらエリの包囲を狭めているが、近距離からであれば防ぎきれないと判断したのだろうか? しかし……それが悪手であるとイナリは知っている。

 ガードボットたちの包囲が一定距離になった瞬間、エリは叫ぶ。


「カウンターセイバー!」


 輝く光の剣がエリの周囲に複数現れ、高速回転しながらガードボットたちを一斉に切り裂いていく。

 ずたずたにされたガードボットたちの残骸が消え魔石がドロップするが、そんなエリに側面から電撃を放ったのは目線の高さほどの宙に浮かぶ頭ほどの大きさの球体……サーチボットだ。


「っと、危なっ!」


 盾で防いだ電撃はその盾の表面で流れるように弾けていき、エリは即座にサーチボットへ向かって剣を構え飛び掛かる。その電撃が再び放たれるよりも前にエリの剣が届き、ゴガッと鈍い打撃音を響かせながら地面へと叩き落とす。それでも浮かび上がろうとするサーチボットをエリが何度も踏みつけ破壊すると、別方向からサーチボットたちが戦闘音に気付いたようにやってきて、エリもサーチボットたちに向かって走る。正面に構えているのは剣ではなく……盾だ。


「シールドチャージ!」


 輝きを纏った盾がサーチボットたちを吹っ飛ばし1体を破壊、フラついた1体をエリの剣が地面へ叩き落とす。そうしてトドメを刺した辺りでひとまずの追加は無くなったようでエリが「ふう」と息を吐く。


「うむうむ。見事なもんじゃ」

「はい、やりました!」


 エリがグッと拳を握ってアピールするが、実際中々のものだったとイナリは思う。何よりも隙が少なく防御に長けている。使っているほとんどの技が防御系かカウンター系だが、それを上手く組み合わせていくことでディーラーにも劣らない攻撃力を叩きだしている。

 静岡第1ダンジョンのコロッサスのような巨大な相手などであれば相性が悪いかもしれないが、そうでもなければ大抵の相手は倒せるだろう。


「じゃあ、先に進みましょう!」

「そうじゃの」


 そうして先に進むイナリたちだが、この崩壊世界型というのはなんとも面白い場所で、時間をかけて大人数で探索する者たちがいるというのも分かる構造であった。


「あ、VRセンター。あるとは聞いてましたけど、こうして見ると憧れがありますねえ」

「ぶいあーる?」


 ふとエリが足を止めた建物には「VRセンター『マジェスト』」といったような色褪せた看板がかかっており、壊れたガラスの扉の奥には受付らしきものも見えていた。勿論、店員などはいないのだが。


「仮想現実ですね。えーと……機械をつけると現実ではないもう1つの世界を見ることが出来るやつです。ダンジョンオブジェクトだから持って帰るのは不可能だったらしいんですけど、見た目はカプセルに入る『フルダイブ型』ってやつだと思われるとかで実際にそういうのが可能なんじゃないかと噂で、でも研究はあんまり進んでないとかで……」

「お、おお。好きなんじゃのう」

「大好きです!」


 話が止まらなくなりそうなエリにイナリがそう言えば、エリは力強く頷く。


「そんなに好きなら少し見ていくかえ?」

「え、でも……うーん……」

「別に我慢する必要もなかろう」

「では、ちょっとだけ……」


 よっぽどぶいあーるとかいうものが好きなのだろうと微笑ましい気持ちになるイナリと共にエリはVRセンターの中に入っていく。そうすると、壁にはそのVR対応らしきゲームのポスターが並んでいる。

「みっどがるとおんらいん、破滅世界のふぁんたじあ、ぷりんせすぎあ、ふぁいなるぶーすと……何やらいっぱいあるんじゃのう」

「どのポスターも色あせてるけど力入ってますねえ……どれもダンジョンの作った偽物のはずなのに、妙なリアル感があるっていうか」


 確かにどれも現実にありそうな、そんなリアルさのあるポスターだ。そういう方面にサッパリなイナリには分からないのは当然だが、詳しそうなエリが分からないということは、やはりダンジョンが作ったそれらしい偽物なのだろうけども。


「あ、たぶんこの奥ですね」


 エリが奥の扉を開けると、そこは広い空間だった。まるで小さなホールのような場所に並ぶのは上部が透明で下部が金属で出来た、楕円形の機械の群れだった。それぞれに番号がついており、中を覗くとふかふかのクッションのようなものが設置されている。SFの類に詳しい者がいれば、あるいはコールドスリープカプセルのようだ、と表現したかもしれない。


「へえ、これがVRカプセル……」

「これでどうやってもう1つの世界とやらを見るんじゃ?」

「え? さあ……漫画とかではなんか自然にログインしてましたけど、どうするんでしょうね?」


 使ったことがないのでエリも分からないし、これも使える類のものではないので本当に分からない。ただそれっぽいものがあるからテンションが上がっているだけだ。実際に使えるような仕組みなのかすら誰にも分からないのだから。しかしまあ、聞かれれば当然考えたくはなる。考えて……エリは1つの答えをひねり出す。


「……催眠ガスとか……?」

「身体に悪そうじゃのう……」

「あとは脳に何か電波的なもの流すのかもしれませんけど……それはそれで身体に悪そうな気もしますよね……謎……謎が解けない……」

「うむ……儂が悪かった」


 エリの背中をポンと叩きながらも、イナリはVR機器の置かれた部屋を見回す。本当にダンジョンとは不可思議な場所だ。「きさらぎ町」といい「西珠区」といい、どれも本当にありそうで存在しない場所だ。こういった形のダンジョンが生み出されるのは何か理由があるのか、それとも何もないのか。それはあるいはシステム自身に問いかけなければ謎は解けないのかもしれないが……少なくとも今のイナリにとってはどうでもいいことではあった。


「まあ、見たかったものは見ましたし……今度こそボスを探しに行きましょうか」

「そういえば聞いとらんかったが、どんなぼすが出るんじゃ?」

「あ、はい。デストロイボットです。見た目は人型で、ちょっと大きめなのですぐ分かるらしいです」


 言いながらイナリたちはVRセンターを出て歩き始める。壊れた建物しかないこの場所には破壊された車の類もあるが、ほぼ完全に破壊されており、どのメーカーの車かさえも分からない。電気などがついている場所も一切存在しないのは、この場所が「滅びた場所」だという演出なのかもしれない。


「怖いですよねえ」

「ん?」

「このダンジョンってたぶん、人間の作った機械が反乱して、みたいな設定だと思うんですよ」

「うむ。そうじゃろうなあ」

「私たちの世界もダンジョンから持ち帰った技術で昔じゃ考えられないほどのものになってるっていいますけど。だったらいつか、このダンジョンみたいになったりすることもあるのかなって思っちゃうんですよね」


 なるほど、それは単純に妄想で片付けてはいけない話だろうとはイナリも思う。技術の進歩というものの凄さはイナリ自身もよく知っている。最近はその便利さにも大分慣れたが、ダンジョンから産出する新素材などを使った先の未来がどうなるか、イナリには想像もつかない。あるいはその先には……エリが懸念するような未来だってあり得るのかもしれない。しれない、けれども。


「ま、その時は儂が叩き潰してやるでの。そう心配は要らんよ」

「あはっ、イナリさんがそう言ってくれるなら安心ですね!」


 エリがそう微笑み……機械音のような何かを聞いて剣を構え直す。そう、それは確かに機械音。しかし同時にズシン、という地面を踏みしめる重たげな音も混ざっている。

 ガードボットでもサーチボットでもない何かが、この近くを歩いている。


「出ましたか……!」


 走り出すエリの後をイナリも追い、走った先。そこには身長2メートルほどはありそうな人型の姿があった。真っ白な身体はまるで鎧のようであり、しかし明らかに人間ではないと分かる光る眼が頭部に存在している。

 歩いていたそれこそがデストロイボットなのだろう。エリを光る眼で見据えると、その手の先を向けてくる。


「人類発見。排除開始」

「フォースシールド!」


 指先に銃口が開き放たれた光線はエリの展開した光の壁に弾かれ、しかしそう判断した瞬間にデストロイボットはエリに向かって光を纏いながら凄まじいスピードで突進し体当たりする。


「くうっ!?」


 ズガン、と。フォースシールドごとエリを吹っ飛ばしたデストロイボットの一撃でフォースシールドがガラスのように砕け、そこにデストロイボットが再び銃口を向ける。


「カウンター……セイバー!」


 だが、そこは同時にエリの射程でもあった。現れた複数の光の剣が回転しながらデストロイボットを切り裂き、しかし光線は止まらずエリの構えた盾へと突き刺さっていく。そう、エリの防御はすでに間に合っていたのだ。エリは立ち上がると剣と盾を構え、デストロイボットへと突進する。


「シールドチャージ!」


 輝きを纏った盾がデストロイボットに命中し、多少の揺らぎを見せつつもデストロイボットは一歩も後ろに下がりはしない。デストロイボットの無造作に振った腕がエリを吹っ飛ばし、それでもエリはしっかりと立ちデストロイボットを見据える。


(攻撃は効いてる……でもアイツ、頭がいい。なら……)


 エリが距離を詰めるべく盾を構えて走るとデストロイボットは迎撃するように拳を振り被る。シールドチャージを使っても吹き飛ばすつもりなのだろう。しかし、此処でエリが使うのはシールドチャージではない。


「カウンターセイバー!」


 エリの周囲に現れた複数の光の剣。しかしほぼ同時にデストロイボットは後ろへと跳んで光の剣を回避する。そのままエリに向けるのは指先に開いた銃口。放たれた光線は……けれど。それこそを、エリは待っていた。


「フォースシールド!」


 光の壁に光線が弾かれ、後ろへと跳んだデストロイボットは即座に突進の態勢には移れない。それは時間的にはほんの僅かなものに過ぎない。着地からの突進への移行はたいした時間を要しない。けれど、その一瞬はエリの連続技を可能にする。


「カウンターフォース!」


 光の壁から放たれた光線が、その僅かな隙をついてデストロイボットへと命中する。それはデストロイボットに大穴を開けて……けれど、それでもデストロイボットはエリへと銃口を向けようとして。しかし、そのときにはもうエリが懐へと潜り込んでいる。


「これで終わりです……カウンターセイバー!」


 光の剣の群れが回転しながらデストロイボットを切り裂いて。それが、トドメの一撃となった。

Tips:エリのスキル解説

・フォースシールド

相手の攻撃を防御する光の壁を展開する。カウンターフォースを使う場合はこれが前提となる。

・カウンターフォース

相手の攻撃を防御し、防いだ分のダメージをまとめて叩き返す。フォースシールドが限界値を超えて壊されてしまった場合などは発動できない。

・カウンターセイバー

自分の周囲を回転する光の剣を複数召喚する。回転後消滅するので、相手が分かってると結構避けられる。

・シールドチャージ

盾を構えて突進する。そんなに強くないけど攻防一体。

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ダンジョン素材が一定量地上に出回った時、地上はダンジョンへと反転する。モンスターはダンジョンである地上を闊歩し人類に牙をむく。人々が逃げ込んだのはかつてのダンジョン。細々と数千年にわたり世代を重ねる中…
パーティ戦での役割分担とかでの特化型に比べると足りない部分はあるんだろうけど、攻防どっちもかなりできて単独での安定感凄いなぁ
[一言] おぅ、破滅世界にプリンセスギアを作った世界w あれかな、滅んだ原因=人材が次々と異世界に招かれ(不明死)てたけど文明的に社会を回すのにアンドロイドによる替えが効くと。 そういう方針転換の最…
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