お狐様、東京第7ダンジョンに挑む
東京第7ダンジョン。地下監獄型と呼ばれているこのダンジョンには、アンデッドが出没する。
ここで大事なのはアンデッドという種別のモンスターであって、実際に実在の誰かの死体が蠢いているわけではないということだが……ともかく、アンデッドが出るのが東京第7ダンジョンであるのだ。
薄暗い地下監獄の風景が続くせいで、いるだけで気が滅入ると悪評、なのだが。
そうだというのに、この場所はどうしたことなのか?
「ううむ、聞いていた場所と違うのう」
地下は地下なのだが、まるで広大な洞窟のような場所だった。広い……とても広い地下空間はどうやら幾つかの層に分かれているようで、あちこちからカンカンと何かを叩くような音が聞こえてくる。
それはどうやら、たくさんの横穴の中から聞こえているようでもある。まるで地下を掘り進んだ結果こうなったと言わんばかりのその場所は、地下監獄とは程遠い。真ん中に開いた大穴と、あちこちにある通路と無数の横穴。まるで掘り進めた結果こうなったと言わんばかりだ。勿論、そんなわけはないのだが。
「ふむ……?」
試しにイナリがそこら辺の横穴を覗いてみると、そこにはゴウゴウと燃える火と様々な機材。そして何らかの金属を叩く長身の男の姿があった。
鍛冶、だろうか? 色黒の人間のような姿ではあるが耳が長く、ちらりと見える顔は美形と呼んでいい領域だろう。その何者かは振り向き……イナリを見つけると「AAAAAAAAAAA!」と絶叫をあげる。
「おお!? み、見たのはすまんかった!」
鍛冶道具を振りかざし襲ってくる男をイナリが思わず投げて地面に叩きつけると、男は明らかに人間ではない動きで起き上がりイナリへと襲い掛かろうとして……そのまま狐火で吹っ飛ばされ魔石をドロップする。
「もんすたあじゃったか。まあ、考えてみればそうじゃな」
先程男が叩いていたものを見てみるが、イナリにはただの鉄板にしか見えない。というか、熱されてもいないので叩いたところで叩かれた鉄板が出来るだけに見えるのだが……モンスターがそれっぽい行動をしているだけなのかもしれない。
「ふうむ……? 鍛冶に見えて意味のない行動、か。此処で聞こえる全ての音がそうなのかもしれんが……」
だとすると、この全ての横穴にたいした意味はない。そんなものを延々と探索している理由もない。イナリが横穴から出ると……そこには、周囲の横穴から顔を出している美男美女の群れがいた。
「ひょ?」
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
「おおっと!」
一斉に襲い掛かってくる男女を前に、イナリは迷わず大穴へと飛び込む。彼等は勿論追ってくることはない。イナリは真っ逆さまに落下しているからだ……そんな自殺行為にわざわざ自分たちも飛び込んで追いかける必要など何処にもない。
……勿論、イナリが飛べると知れば自分たちには出来ないと分かった上で飛び込んできたかもしれないが。
「ふーむ……手遅れでなければ良いのじゃが」
蒼空が何らかの形で操られたか記憶を弄られたか……あるいは催眠や軽い洗脳のような形かもしれないが、とにかくそういう風にされて時間を稼がれたことで、このダンジョンの対処は遅れている。だからこそ、こういう大胆にショートカット出来るダンジョンはイナリとしては有難い。
そうしてイナリが地下の奥底でふわりと飛行して着地したその場所に……1人の男が立っていた。
イナリに背中を向けていたその男が振り向くと……かなりの美形……先程までの男女が普通に見えるほどの美形であることが分かる。
黒く長い髪と、何処となくたれ目にも見える青い目。イナリにはよく分からない特徴的なデザインの服を纏い、強い力を放つ靴を履いた男。そんな男がイナリを見ると人好きのしそうな笑みを浮かべる。
「此処に来たということは、私の仕掛けを突破したのか。凄いな、偽物とはいえ、それなりに必殺を仕込んだはずだったんだが」
「みすとるてーん、じゃったかの? 随分と悪辣なものであったようじゃが」
「なあに、本物には及ばないよ。此処にいる私が本物ではないようにね」
恐らくはボスを乗っ取ったのだろうとイナリは思う。此処では現身とやらを作るのに成功したということだろうか?
「一応聞く。お主、何をしでかすつもりじゃ?」
狐月を構えるイナリに、男は……【邪悪なるトリックスター】の現身は、何かを懐かしむように上を見上げる。
「さて、何かな。案外世界平和かもしれないよ?」
「信じられんのう」
「おやひどい。信じることから全てが始まるのでは?」
「出会いが悪いのう。お主の信用は底値じゃ」
「後は上がるばかりか! それはいい!」
なるほど、耳を貸すなと蒼空が言うだけはあるとイナリは思う。とにかく口達者で、その口から出る全てが薄っぺらであればまだ良いものの、まるで本当にそう思っているかのような重みがある。
「これ以上の会話は無用じゃ。その現身をやらを切り裂いて、しばし戻ってこれんようにせねばの」





