お狐様、東京第11ダンジョンに挑む
「狐神殿はモンスター災害時の状態については知らんだろうが……簡単に言うとモンスターが強く、そして多くなっている状態が前兆じゃ」
そう、「かつての時代」ではそうだった。まるでモンスターが増えすぎてダンジョンの中では収まりきらないというかのようにモンスターの数が増え、そしていつもよりもずっと強くなった。普段倒せる一撃でも倒せないほどに、だ。そしてそんな状態でモンスターが外に解き放たれるというのが、どれほど恐ろしいことか。今「外」にいるモンスターとはそんな連中であるわけだが……安定を取り戻した都市部でそんなモンスター災害が起きるというのは、少しばかり許容できないことではある。
しかし、もっと恐ろしいこともある。それは……通常であれば出てこない特殊なモンスターが出現するパターンだ。熱海の静岡第1ダンジョンでは、まさにこのパターンであったとされている。
「この内部も同様だ……恐ろしいことになっている。これまでの調査結果が全く役に立たんほどにな」
「うむ、よう分かった。では行ってくるとするかの」
「……軽いなあ。しかし、その軽さが安心できる。いつも通りが続くとな」
「まあ、そりゃ当然じゃ。儂はこの手の届く範囲ではそういうのを守りたいと思っとるよ」
イナリが手を広げ伸ばすと、武本はそれに微笑み頷く。そうして、イナリはダンジョンの中へと飛び込んで……そうして、気付く。前回は真っ黒な……けれど妙に明るく、あちこちにカラフルな光の線が走る不可思議な空間であった東京第11ダンジョンの全ての光の線が赤色になっている。明らかに何かが起こっているという感じだが……。
―コガミイナリさんがログインしました!―
「む、これはいつも通りじゃの」
電脳世界型。そう分類された東京第11ダンジョンの風景は明らかにおかしく、空中にノイズが走り0と1の数字の羅列が見えたりしている。もっとも、イナリにはそれがどんな状態かはサッパリ分からない。
分からないが……そうして漏れ出る0と1が集まり、イナリの眼前で旧型モニターのような頭を持つ男の姿に変わっていく。スーツ姿に顔文字のような緑の表示を浮かべた旧型モニターの頭をつけた男性型モンスターは、名付けるのであれば。
「なるほどのう……怪人てれび男というわけかえ?」
残念。確かに旧型テレビも似たような形をしていたが、あれは旧型のパソコン用モニターである。もっとも、その辺の時代を廃村ですっ飛ばしているイナリにそんなものが理解できるはずもない。だからイナリの名付け法則に従うならアレは怪人パソコン男である。さておいて。
パソコン男は手の平から電撃をイナリに向けて発射するが、イナリはそれを自分の前面に展開した結界であっさり弾くと、一気に距離を詰めて刀形態の狐月で袈裟斬りにする。
ヴンッと。文字通り昔のモニターの電源が落ちるような音を響かせながらパソコン男の姿が消えて、その場に魔石が落ちる。しかし、イナリはそれを拾わない。周囲に次から次へとパソコン男、そしてパソコン女たちが現れたからだ。その数は20か30か……なるほど、確かに以前とは全く違う。
「確かにこれは面倒じゃのう……!」
一斉に放たれた電撃はイナリの居た場所を一斉に貫いて。しかし、パソコン男やパソコン女たちのモニターの表示が「!?」に変わる。そう、そこには電撃を纏う刀を持つイナリがいたからだ。
「……秘剣・雷切。もうお主等のそれは効かんぞ」
そう。秘剣・雷切。イナリの使う「秘剣」の1つ。本物ではないが雷を切り裂いたという伝説を解釈し、雷を制する……つまり電撃攻撃を無効化し、雷を放つことが出来るそれは、パソコン男たちの電撃の一切を無効化した。
「まったく、こんな余裕のない発動をしたのは……初めてじゃ!」
ズドン、と。イナリが天に刀を向ければ、激しい音を響かせながらイナリの周囲にほぼ同時に稲妻が落ちる。その一撃でパソコン男もパソコン女も消えていき魔石が転がって。しかし即座にその場に0と1が集まっていき、蝙蝠の翼を生やし、大きな鎌を持つ異形の男……いわゆる悪魔のような何かをその場に生み出す。
「GAAAAA……GYAAAAAA!?」
「うーむ。前に入ったときはもう少し可愛げのある連中が出てきておったというのにのう」
悪魔のような何かを狐火の連撃で吹っ飛ばしながらイナリはそう呟く。なんというか、明らかにモンスターの方向性が違っているし先程から魔石しか出ていない。
「GAAAAA!」
「狐月、弓じゃ」
「GYAAAA!」
弓形態の狐月を構え光の矢を放てば、空中から鎌を振り下ろし降下してきた悪魔のような何かは魔石を落とし消えていく。
(しかしまあ……明らかなことはある、かの)
今出てきているモンスターたちは、明らかに何かが違う。本来あるべきものからズレているような……無理矢理違う挙動をさせているような、そんな気がするのだ。とはいえ、やるべきことは変わらない。
「何のつもりでこんなことをしたかは知らんが……その目的、遂げられるとは思わんことじゃの」





