お狐様、視線を感じる2
犯人たちがパトカーで移送されるのを見送り、協会職員の1人がイナリにカードを示してくる。
「警備部強攻課、畑山です。まだ混乱しておられるとは思いますが、ご都合がつくようであれば、このまま本部までお出で願えませんか?」
「うむ、そうじゃのう」
先程からスマホのカメラで写真を撮っている者も多いようだし、何処から話を聞きつけたのか野次馬も集まってきている。確かにこの場に居ると更に面倒なことになるのは確かだろう。
「ではこちらへ」
覚醒者協会の車……以前イナリが安野とダンジョンに行ったときと同型の車に乗り込むと畑山も車に乗り……そうして車は走り出す。
「さぞ驚かれたことでしょう。もしご希望でしたら専門の職員によるメンタルケアも実施しております」
「ああ、儂のことはええよ。それより、あの犯人たちのことじゃ」
イナリに言われ、畑山は「そうですね」と頷きながらも心配そうな視線を向けてくる。まあ、イナリの見た目が少女そのものであるのが理由なのだろうが……正直、そういう垣間見える人の良さのようなものはイナリは嫌いではない。
嫌いではないが、本当に何1つ気にしていないので話を進めるように畑山に促す。
「まず先程の件ですが、非覚醒者による犯行です」
「うむ、そうじゃろうのう」
「背後関係はこれから洗いますが、恐らく組織的な犯行であり、その場合……相当面倒な相手であるでしょう」
「予想はついとるんじゃな?」
「はい、あくまで予想ですが」
畑山は言いながら、少しだけ悩むような様子を見せる。
「……勿論、狐神さんに間違った考えを抱いた者による突発的な犯行という可能性もないわけでは」
「そういうのはええから」
「はい。可能性として存在するのは『地球防衛隊』の連中です」
「地球防衛隊……? 何やら胡乱な名前じゃが」
興味を持ったのかアツアゲがヒョコッと顔を出すが、たぶんアツアゲが聞いて面白い類の話ではない。
「はい。非覚醒者で構成される反覚醒者団体です。勿論、世間一般的にそういった連中が評価されることはないのですが……主張すること自体は自由ですから」
「そうかもしれんが現実的には覚醒者がおらんと立ち行かんじゃろ?」
「そうですね。ただまあ、人が100人いれば100通りの考えがあるとはいいますので」
「まあ、その通りではあるかのう」
なんとなくイナリにも理解は出来た。出来た、のだが。
「しかしそれと儂を誘拐しようとしたことが繋がらんのじゃが」
「その辺りは私も分からないのですが……狐神さんは最近有名ですから、その辺りで何かあった可能性もありますね」
そう話している間にも車は覚醒者協会日本本部に到着し、待っていた安野がバタバタと走ってくる。
「狐神さん! よかった、心配してたんですよ!」
「おお、安野。心配をかけてしまったか。すまなんだのう」
「いいえ、いいえ! ああ、よかった……とにかく中へ!」
安野と畑山たちにガードされるようにしながら上層階の応接室に行くと、そこにはすでに青山が待っていた。
「ご無事で何よりです、狐神さん」
「うむ。つーか青山まで此処に居るんか?」
「はい。こういった場合の対応も私の役目のようなものですので」
確か青山は秘書室長のはずだが、秘書とはそういう仕事だっただろうか? そんなことをイナリは考えてしまうが、まあ深くは突っ込まないことにして「さよか」と頷く。
お茶と茶菓子が運ばれて……茶菓子は今日は羊羹だ……とにかく運ばれてきた辺りで、青山が「さて」と手を叩く。
「今回の件ですが……すでに畑山のほうから説明があったかもしれませんが、高い確率で『地球防衛隊』の仕業だと考えています」
「反覚醒者団体という話は聞いたが」
「そうです。もっと言うとダンジョン、覚醒者……これらを地球を蝕む侵略者によるものと仮定し、この影響を全て取り除くことを主張する団体です。要は覚醒者は何らかのウイルス、あるいは遺伝子改造……そういったものによる産物であり、いつ侵略者に乗っ取られるか分からない、研究し影響を排除してあげるべきだ……みたいなことを主張するわけですね」
勿論、人間はいつ「覚醒」するか分からない。突然隊員が覚醒することも当然あるわけで、その場合覚醒者という呼び方をせず「地球の呼び声により目覚めた」みたいな言い方をしているらしいが……要は多少の「未登録覚醒者」も所属しているというわけだ。
「それで今回狐神さんが狙われた理由についてですが、可能性としては狐神さんが10位になった……つまり新星と呼べる存在であることが1つ。あとは……その、あまり言いたくはないのですが。その耳と尻尾……でしょうか。彼等の言う『侵略者』的象徴としてピッタリだった可能性が1つ」
「ふむ」
言われてイナリは自分の狐耳に触れる。こればっかりはどうしようもないものなのだが、人の身体的特徴をとやかく言うとはとんでもない輩であるとしか言いようがない。
「それと、これはもっと言いにくいのですが……」
「なんじゃ?」
「この前の東京第8ダンジョンの件が広く報道されたのもあり……あー……『勇者』と親しいと思われ、そこから事件に発生した可能性もあります」
言われてイナリが何とも言えない表情になったのは……まあ、仕方のないことであるだろう。





