お狐様、勇者と東京第8ダンジョンに挑む3
オーラブレイド。それは剣士を一段階上へと押し上げる技の1つだ。自分の魔力をオーラと呼ばれる強化の力へと変換し、武器に纏わせることで攻撃力や武器自体の耐久力を大幅に引き上げる技だ。熟練することで更なる応用も効く技だが……つまるところ、使えば格段に強くなるということだ。それこそ防御力に長けたタンクをその防御ごと切り裂くことだって出来るだろう。
そして目の前のキングメイルは……どうにも、使い慣れているように見えた。刀身を一回り大きく見せる安定したオーラは、ある程度の熟練の証であるのだろう。油断なく剣を構えたその姿からも、何かしらの剣術を修めていることが予測できる。対するイナリは剣術など修めてはいない。となれば、ぶつかりあえばイナリが押されるのは必至。
「狐月、弓じゃ」
だからこそ、イナリは狐月を弓形態へと変えて。
「ゴオオオオオオ!」
凄まじい速度で踏み込んでくるキングメイルを、光の矢の連射で吹っ飛ばす。それで貫くことは出来ずとも、ほぼ一瞬で乱射される光の矢はキングメイルの接近を許さず吹き飛ばして。キングメイルが跳ねるように立ち上がる間に、すでにイナリの弓引く手には強い光が宿っている。それは、ダンジョンを吹き飛ばしたときのものほどではないけれど、充分に強い光だ。
「すまんのう。剣士に斯様な手で挑むはちとずるいかもしれんが……まあ、儂別に剣士ではないしの」
ズドン、と。イナリに向かって踏み込んできたキングメイルを極太の光線が貫き、一瞬でバラバラに破壊する。刹那の瞬間だけ何か耐えようとした気もしたが……あるいは気のせいかもしれないし、無駄な抵抗であったのかもしれない。とにかく、キングメイルはその場にやけに豪華な杖をドロップさせて。ほぼ同時に蒼空もジェネラルメイルを切り裂いて魔石をドロップさせていた。
「お、そっちも倒したんだな」
「うむ。何やら妙なものは出たが……」
「ほんとだな。杖、か?」
剣士を倒してどうして杖が出るのかは分からないが……まあ、その辺りはイナリにはどうでもいい話だ。
―【ボス】キングメイル討伐完了!―
―【ボス】ジェネラルメイル討伐完了!―
―ダンジョンクリア完了!―
―報酬ボックスを手に入れました!―
―ダンジョンリセットの為、生存者を全員排出します―
いつも通りのシステムメッセージが出て外へと転移すると……待っていたらしい職員たちがワッと歓声をあげる。
「クリアおめでとうございます!」
「流石勇者! とんでもない速さですね!」
「あー……ありがとう?」
蒼空がチラッとイナリに視線を向けてくるが、イナリはどうでもよさそうに肩をすくめる。実際、どうでもいい話だ。
(……ふむ。今回は特に実績は何もなし、ということかの)
イナリと蒼空の手の中にはそれぞれ銀色の報酬ボックスがあるが、特に変化する様子はない。まあ、ダンジョンをクリアしただけなのだから拡張ダンジョンであろうと別に表彰すべきことなどない、ということなのかもしれない。
「あ、すみません! よろしければなんですが……勇者様の隣に並んでいただけませんか?」
「む?」
「東京第8ダンジョンの拡張と、それのクリア……この件を広報させていただきたく。そのために写真素材が欲しいんです」
「まあ、ええがの」
杖を預け、報酬ボックスをそれぞれ持った状態でダンジョンゲートを前に写真を撮ると、イナリはバリバリと、蒼空はやや丁寧に包み紙を開けていく。
そうして出てきたのは……イナリの箱からはキングメイルの鎧の指先……丁度人差し指部分くらいのものが出てくる。蒼空の箱から出てきたものは、此方はどうやら盾の欠片であった。
「なんじゃこりゃ……」
「あー、素材アイテムか……」
「え、えっと。鑑定させていただきますね」
鑑定役の職員が少し遠慮がちに言いながら「鑑定」した結果は……イナリの箱から出てきたものが「王の指先」で、蒼空の箱から出てきたものが「ジェネラルシールドの欠片」であるらしかった。
「まあ、何が出てきても要らんのじゃが……何に使うんじゃこれ?」
「色々だなあ。溶かして素材に使ったりするのが一般的じゃないか? 結構こういうのから新発見があったりするらしいけど」
「ふむ。ではおーくしょんかの?」
「ああ、それでいいぜ。儲けは半々ってことで」
イナリと蒼空がそんなことを言っていると……杖を鑑定していた職員が「おおっ」と声をあげる。
「こちらの杖は凄いですよ! かなり上質な杖ですし、新アイテムだと思われます!」
「ほう、要るかの?」
「俺は要らないなあ」
「おーくしょんに出しといてくれるかの」
イナリは使わないし、蒼空も剣士なので使わない。どんなに凄いアイテムだろうと、2人にとってはその程度の扱いだ。
「それより君、凄いな! なあ、俺と1度模擬戦してみないか?」
「嫌じゃ」
「なら仕方ないなあ……あ、番号とか交換しない?」
まあ、そんな感じで完全に忘れ去られたままオークションに出品された杖であったが……世間からしてみれば、それは当然のように騒動の種になったのである。





