お狐様、勇者と東京第8ダンジョンに挑む2
3つ目のドアは、ドアノブを捻ると鍵穴から毒が発射される類の罠があった。しかし蒼空は「見て」から避けたので無傷だ。
4つ目のドアは、ドアそのものが何をやっても開かないドアだった。どうやら壁をドアっぽく加工したものであるようだ。
5つ目のドアは、開けると落とし穴が足元に開いた。蒼空はヒョイと跳んで避けた。
「ロクでもないな……これ、まさか正解以外は全部罠だってんじゃ……」
「それは疲れるのう。罠の博覧会でもあるまいに」
言いながらイナリが次のドアを開けると、その先には広い食堂らしき場所がある。整然と食器の並んだその場所に……イナリは何かを思い出すようにハッとする。
浮き上がってイナリたちのほうを向くナイフやフォークたち。ドアを閉めると同時にそれらがぶつかる音が向こうから響いてくる。
「あー……そういやあったな、あんなの」
「ううむ。別にあれはなくなっていてもよかったんじゃが……」
「じゃ、次は俺だな」
これも正解ではないということなのだろう。7つ目のドアを蒼空が開けると、そこには廊下が広がっている。敵らしき姿は……ない。
「……正解、か?」
「見た目には正解じゃが?」
「いや、前にアメリカに行ったときにさ。無限に続くかのような屋敷型ダンジョンがあったんだけど、そこの廊下が仕掛けに気付かないと無限に歩かされるやつだったんだよな」
「では、他の扉に希望を託してみるかの?」
「いや、行こう。とりあえず飛び込んでみるのが一番話が早い」
「同感じゃ」
そう、今は進むのが一番話が早い。イナリと蒼空は廊下へと歩を進め……薄暗い蝋燭の明かりだけが灯っている廊下を進んでいく。
窓1つない廊下だが、ここは実際に城なのではなく「城型ダンジョン」なのだから別におかしくはないのだろう。
「お、ドアだ。開けるか?」
「まあ、開けざるを得んのう」
そうして開けると、どうやらそこは寝室であるようで、豪奢なベッドと机……壁には何処の誰とも分からない紳士の絵が飾られている。いるが……それもまたおかしな絵であった。
「なんだこれ。服の下に鎧着てるのか……?」
「まあ、だんじょんに常識を求めてはいかんのかもしれんが……」
イナリもそう言いながら、しかしと思う。しかし、常識はなくとも整合性はありルールがある。そして、何らかの世界観が存在する。だとすると、此処もそういう風になっているはずだ。このおかしな絵も、それに合ったものになっているはずだ。
「蒼空。此処のだんじょんのぼすは……なんじゃったかの?」
「ジェネラルメイルだろ? やたら硬い奴」
「もしかするとソレは変わっておるかもしれんのう」
言いながらイナリは絵をじっと見る。まるで昔の外国の貴族のような豪奢な衣装を纏い、その下に鎧を着込んでいるかのような……頭部もフルフェイスの兜で覆われた人物。
しかし、その鎧も兜も黄金色をしていて、如何にも普通の人物とも思えない。
「黄金の鎧に派手な服、か……確かにな。如何にも此処の城の主でございって感じではあるな」
「うむ。拡張されただんじょんの新たなぼすである可能性もある。覚えておくとしようかの」
そうして幾つかの部屋や廊下を経由し、罠を乗り越え階段を上りながら進んでいくと……ようやく大きなドアの前に辿り着く。
「ああ、そうそう。こういう扉があったんだよ」
「では此処にぼすがいるかもしれんわけじゃ」
「そうなるな」
「では行くとしよう」
蒼空とイナリの2人でドアを押し開けると、そこにはずらりと並んだリビングメイルたちと、玉座に座る絵画の通りのリビングメイル……そして如何にも防御力の高そうな鎧に身を包み突撃槍と大盾を構えたジェネラルメイルの姿があった。
「……どっちやる?」
「金色のほうは儂が相手をしよう」
「おっけー。じゃあ3、2、1……ゴー!」
リビングメイルたちが動き出すのとほぼ同時にイナリたちも飛び出して、まずはイナリの狐火がリビングメイルたちを吹っ飛ばす。
だが同時にジェネラルメイルも槍を構えて突撃してきて……蒼空はそれを正面から迎え撃つべく剣を構える。
「ブレイブオーラ!」
「オオオオオ……」
それに反応するかのようにジェネラルメイルの槍も黒いオーラを纏い、真正面から蒼空と打ち合う。
「ハハッ……お前そんなの使えなかっただろうがよ!」
「オオオオオ!」
ガヅンッと。蒼空を弾き飛ばすジェネラルメイルだが、蒼空は素早く戻り再度のつばぜり合いに戻る。その間に走っていくのはイナリだ。ゆっくりと立ち上がり剣を鞘から引き抜く……仮にキングメイルと呼称するならば、そのキングメイル相手に狐火を複数放つ。
表面で起こった爆発はしかし、キングメイルの表面に傷1つついてはいない。いや、纏っていた豪奢な衣装が消え、その下にあった黄金の鎧がその全貌を見せる。キラキラと輝く細身の鎧はしかし、かなりの防御力であるのは確かだ。
「ほう!」
そしてキングメイルは剣を構えオーラを纏う。試しに狐火をイナリが放ってみれば、凄まじい動きで狐火を叩き落とす。
「なるほどのう。その剣、見覚えがあるぞ。蒼空のものはまた少し違うようじゃが……お主のはアレにそっくりじゃ。そう、確か……」
あれは伊東でイナリが見たものと似ている。そう、キングコロッサスが使った技……確か、アレの名前は。
「おうらぶれいど、じゃったかな?」
Tips:オーラブレイド
剣にオーラと呼ばれるものを纏わせ切れ味を上げたり剣の耐久力を上げたりする。
熟練者はそこから更にオーラの刃を中距離程度の距離に放ったりできるとか。
ジョブ「オーラマスター」とかが使えるスキル。





