お狐様、ごま塩の魅力を再確認する
しかしアツアゲが反応しなかったのも当然といえるだろう。何故ならばテレビでは今、特撮ヒーローが活躍中だったからである。
―くっ、ゴッドアマゴ帝国め! まさか蛇口からそばつゆが出るようにするなんて!―
―うっかり顔を洗ったら大惨事だ! 許せねえ!―
―奴等を倒して早く元に戻さないと!―
―ああ、行くぞ2人とも! 変身だ!―
―おう!―
リーダーらしき男の合図と共に3人が弓に似た形の道具を取り出し矢……ぽい形の何かを番える。
―モウリチェンジ!―
放たれた光が3人を包み、その身体が如何にもヒーローっぽい赤と青と黄のスーツに包まれる。
色違いだがデザインはほぼ同じだ……フルフェイスのマスクデザインが多少違う程度だろうか?
―天空を貫く矢! モウリレッド、隆元!―
―蒼海を渡る矢! モウリブルー、元春!―
―大地を割る矢! モウリイエロー、隆景!―
―3本揃えば天下無双! 三矢戦隊モウリレンジャー、此処に着弾!―
「……3本の矢って、そういう話じゃったかのう……?」
勿論違うが、アツアゲが楽しんでいるのでイナリはそれ以上何も言わない。覚醒者というリアルヒーローがいる現在でもこうした特撮ヒーローの人気は健在だが、リアルはリアルで特撮は特撮ということなのだろう。アツアゲがハマっている理由は不明ではあるのだが。
さておきご飯も炊けているのでイナリはいそいそと朝食の準備を始めていく。今日は誰もいないので特にこだわる必要もないが、お茶碗に米をたっぷりと盛って……ふりかけをどれにするか悩む。
かつおふりかけもいい。魚の風味はそれだけでなんだか贅沢だ。
しそふりかけもいい。ちょっと酸味のある風味はご飯が進む。
変わり種のふりかけもいいだろう……マンネリ防止の役に立つし、何より美味しい。
しかし、ここは普通のふりかけにすべきだろうか? そう、王道中の王道……海苔玉子味のふりかけだ。誰が食べても外れない、歴史に裏打ちされた味だ。いや、だからこそ今日は違うものにするべきかもしれない。
「となると……これじゃな」
言いながらイナリが取り出したのは「ごま塩」と書かれたふりかけだった。なんとこのふりかけ、シンプルに塩とゴマ、そして多少の味の調整程度なのだ。だが、その多少の調整がメーカーの努力の結晶だ。さらさらとご飯にかければ、思わずおにぎりにしてしまいたくなる。
そこにお漬物を添えて、お茶をつける。これで完成だ。相変わらず栄養バランスを完全に無視しているが、人間の身体とは違うイナリならではとも言えるだろう。
―完成! 三矢合体 モトナリオー!―
何やらタイミングよくテレビで3つのメカが合体して巨大ロボットになっていたが、ひとまず関係ないのでアツアゲの邪魔をしないように静かに机にお盆を置いて「いただきます」と手を合わせる。
そうして、ごま塩ふりかけの乗った白米を一口、口に入れる。そうすると……これが実に美味い、のだ。
当然だ。ご飯のほんのりした甘さに塩が合うのは、もはや議論するまでもない。そこにゴマの香ばしい味を加えることで、一気に風味が増す。人類が恐らく最初に発見したであろう原初のふりかけは、文明の進歩を経て更に美味しくなっている。これが美味しくないはずがない。
「……うむ」
続けてべったら漬けを齧ると、ポリポリと美味しい食感と共に優しい甘さが口の中に広がっていく。
「うむ……しかし少々塩気が強いものばかりじゃの。ごま塩の主張が強いんじゃから、生野菜のほうが合ったかもしれんのう」
言いながらイナリは台所に戻り、ミニトマトを3個ほど洗って小皿に乗せ戻ってくる。ピカピカのミニトマトだ……実に美味しそうだ。
「どれ……」
1個口に含んで噛めば甘酸っぱい味が口の中に広がっていくが……素晴らしく爽やかだ。口の中を洗うような、目が覚めるような……そんなみずみずしさを感じる。しかしまあ、これはこれで別の意味で濃厚ではあるだろうか?
「まあ、良い。こんなときのために茶がある」
そうしてお茶を飲み、もう1度ごま塩ご飯を食べる。そうしてミニトマトを食べると……この順番が正解ではないか、と思いながらべったら漬けを食べて。そうしてお茶を飲む。実に素晴らしい口の中での味の変化だ。口の中で感じる味を塗り替えて最後にリセットする、最高の食べ方と言えるだろう。
「……うむ。これじゃな。ヒカルが野菜を食えと言うのはこういうところにあるのかもしれん」
本人がいたら「ちげーよ」と言いそうなことを呟きながらテレビに視線を向けると、ロボが必殺技を出そうとしているところであるようだ。アツアゲも立ち上がって興奮しているように見える。
「ろぼっと、のう……そういえばああいうのはまだ見たことが無いのう」
この前の駒込のダンジョンのようなものがあるのならば、ああいう巨大ロボットが出てくるようなダンジョンもありそうなものだが……今のところそういうのが出るという話を聞いたことはない。まあ、聞いたことがないだけで実はあったりするのかもしれないが……とにかく、ごま塩ご飯は美味しい。そんなことを感じる朝であったのだ。





