お狐様、フレッシュについて考える
イナリが友人とスイーツパーティーを楽しんだ数日後。世間は1つのニュースに沸いていた。
全国のコンビニやスーパーで発売されているカード付ウエハースチョコ「覚醒チョコ」に新カードの封入が始まったからだ。
覚醒チョコはこういったお菓子では珍しく「何が封入されている」という情報が商品には記載されていないチョコレートである。それは少しずつ封入カードの種類が増えていき、あるいは更新され……すでに販売会社のウェブページでないと把握できないからである。そのウェブページにもすでに検索機能がついているのだから、本当にすごい。
ちなみにそのカード内容は全世代が楽しめるように写真ではなく描きおろしイラストが使われることになっており、勿論本人許可がなければ出せないのでトップランカーのうち月子や紫苑は収録されていなかったりするが、たとえば使用人被服工房のエリを含むメイド隊の面々やフォックスフォンの赤井は収録されていたりする。
では、何故それが今ちょっとした騒ぎになっているのか? それは封入される新カードの情報にあった。
―こちらアニゲート新宿店です。凄い人ですねー! この並んでる人たちのお目当ては何なんでしょうか? あ、すみません! 今日は何を買いにいらしたんですか?―
―覚醒チョコです! イナリちゃんのカードが新規出荷分から入荷になると聞いたので!―
―そちらの貴女もですか?―
―はい! イナリちゃんのカード、超欲しいです!―
―このように、今人気の覚醒者「狐神イナリ」ちゃんのカードが新しく封入されるということで凄い人が並んでいるんですね!―
「あー……そういえば今日じゃったかー……」
そういうものが始まるという話はイナリも聞いていたが、そんなに興味が無かったのですっかり忘れていた。しかしまさか、こんなことになるとは思いもしなかったのだが。番組を変えると、そこでは覚醒チョコの解説をしている。
―いやあ、凄い人気ですね。しかしお店の人も分かるんですかね? うっかり古いモノを売っちゃいそうですが―
―それがですね。こちら片方が旧バージョンでもう片方が今回の新バージョンなんですが、御覧の通りバージョン番号が記載されているんですね。今回のものがバージョン幾つってのはすでに発表されてるわけですから、余程のことがない限りは間違えないでしょうね―
「……そういえばさんぷるが送られてきておったな」
引き出しの中に仕舞っていたカードを取り出すと、キラキラとしたカードに可愛らしくデフォルメされたイナリと、小さなアツアゲが可愛らしいポーズをとっているのが見える。
覚醒者名:コガミ・イナリ
説明:かわいくフレッシュな狐巫女なのじゃ!
「……電脳おーずのカードと書いとることが似とるのう、改めて見ると……」
好きにやってくれと言ったら出来たこのカードだが、まあ買う人が喜べばそれでいいとイナリはそのまま許可を出している。なんかこのカードは、覚醒者への忌避感を消し好感を持ってもらうという目的があるので多少イメージを分かりやすく大袈裟に誇張していると説明されたこともあるのだが、まあさておいて。ちなみに赤井のカードには「覚醒フォンで皆の安全を守ります!」と書いてあるし武本のカードは「ぬうん! 一刀両断!」と書かれているらしい。ちなみに武本はそんなことを言ったことはないらしい。
「ところでふれっしゅって新鮮って意味らしいんじゃが……儂ってそういう扱いでええんかの?」
チャンネルを変えていたもののテレビでアニメがやっていなかったので消したアツアゲに聞くと、アツアゲはビシッとポーズをきめる。どういう意味かはイナリにもよく分からない。誤魔化しただけかもしれない。
まあ、イナリの年齢を何処から数えたものかは結構イナリ本人にも難しいところではあるのだけれども。覚醒者協会で登録した年齢はとりあえず20ということになっているので、フレッシュでよいのかもしれない。しかしそれはあくまで「20ということになっている」だけだ。
「ふむ……」
そこまで気にすることでないのは間違いないが、1度気にするとなんとなく気になってしまう。イナリは覚醒フォンを取り出すとパーティーのときにエリが作ったメッセージグループに1つのメッセージを投稿する。
【いなり:わしはふれつしゆでええんかの】
【ヒカル:え? 何? アツアゲが打ってんの?】
【エリ:めっちゃフレッシュですよ!】
【ヒカル:まあフレッシュだとは思うぜ。言動は田舎の祖母ちゃんみたいだけど】
【月子:なんなの? グラビアでも撮るの? あとフレッシュでいいんじゃないの】
【恵瑠:え、そんな破廉恥なのはまだ早いのではないかと!】
【恵瑠:あ、フレッシュです!】
【紫苑:フレッシュだけどグラビアはダメ】
【タケル:えっとごめん。覚醒チョコの話じゃないか? フレッシュの話はノーコメントで。どう言っても角が立つ】
「……儂はふれっしゅでええらしいぞ、アツアゲ。これ、聞いとるのかえ?」
アツアゲは知らんぷりして先程消したはずのテレビをつけていたが……この件に関してイナリに反応を示すことはなかったのである。





