お狐様、パーティーをする3
さておきスイーツは美味しいものである。口の中で溶けていくマカロンに、外側はカリッとしているのに中はもっちりしたマカロン。厳選されたフルーツの甘味と酸味が美味しく焼かれた生地と調和するタルト。可愛らしいショコラも美味しく、口直しのためかカナッペや小さなサンドイッチ、口の中をリセットする紅茶も置かれている。
そして7人もいれば選ぶものも大分変わってくる。この辺りは千差万別というか好みの差というか、どれが美味しいとかではなく本当に好みの問題だ。
たとえばイナリは小さなミニおにぎりを……イナリの好みをエリが伝えたのだろう、置かれていたそれを幸せそうに食べつつも、一通りスイーツを食べている。
エリはマカロンが好みのようだし、紫苑はどれも満遍なく食べていてヒカルはミニタルトを全種類制覇している。月子はショコラを中心に食べているし、恵瑠はクリームを使ったお菓子が好きなようであり……タケルはどちらかというとスイーツよりもカナッペが気に入っているようだった。
「いやあ、此処の料理人は腕が良いんじゃのう」
「パティシエね」
「ぱてしえ」
「パティシエよ」
「ぱちしえ」
「うん、そうね」
月子が早々にイナリに「パティシエ」を正しく言わせるのを諦めているが、さておき有名であるらしいパティシエの実力は、こうして実際に食べてみれば明らかであった。
「しかし、良い店じゃのう。貸し切りにしとるのが申し訳ないくらいじゃ」
「そこはまあ……仕方ないでしょ。この面子で集まろうと思ったら貸し切りにしないと余計な騒ぎが起こるし」
「それはそうだな。俺も未だに騒がれちゃうしな」
月子に同調するようにタケルも頷くが、まあこの場に2位と元3位、新3位、10位と……エリもヒカルもまだ下の方だがランキング入りしている。恵瑠はランキング入りしていないが、9大クランのマスターの義理の娘だ。別々ならともかく、これだけ集まれば偶然を装った何者かが接触してきてもおかしくはない。それを警戒しないのは、少しばかり迂闊に過ぎるというものだ。
「らんきんぐ、のう……何故そんなものがあるのやら」
そんなものが無ければ余計な騒ぎの種も出てこないものを。イナリがそんな想いを込めて呟けば、紫苑が「管理と示威とモチベーションの問題」と呟く。
「ふむ?」
「ランキングは広く公開されてる」
「そうじゃな」
「つまり、この国はこれだけ強いぞっていう証明になる」
また、自分のところの覚醒者を正当に評価できているんだという全世界への発表でもあるし……評価しますよ、だからしっかり協会に登録しましょうねという管理しやすくするための仕組みでもある。
「そして大体の人は、自分が評価されると嬉しい」
「あー……それはその通りじゃのう……」
勉強も運動も芸術すらも成果を披露し順位がついたりする。この世で評価と無縁のものは存在せず、覚醒者もつまりはそうであるということなのだろう。実際、そうして評価されることで社会的地位となったり仕事が舞い込んできたりする。
イナリとて有名になったことでコラボふりかけの話が舞い込んできたのだから、それについては理解できるところだ。
「他にも強い目的があれば上位を目指す。つまりそういうこと」
「紫苑は何かあったのかの?」
「ん、まあね。ダメだったけど」
紫苑の場合は水中適応の新世代覚醒者としてランキングを駆けあがることで、水中で戦うことも無茶ではないのだと、新世代覚醒者であれば出来るのだと示したかった。
まあ、結果としては「あいつがいれば充分だ」となってしまったのだが。結果として紫苑は今3位だ。こればかりはもうどうしようもない問題なのかもしれない。
「ま、そんな感じ。あとは上がる気が無くても上がるのもいる」
「俺のことか。まあ、そんな感じだったけどな」
タケルも言いながら苦笑するが、タケルの場合は皆がタケルに頼るせいで貢献度がガンガン上がってランキングを駆けあがってしまった例だ。勿論その中で強さが知れ渡ったというのもあるのだが。
「ま、ランキングが必要なこともあるってことよね。私の場合も2位になるくらい貢献したからこそ護衛がついてるってのもあるわ」
実際、月子は世界中がその才能を欲しがるほどに技術の発展に貢献している。他の国であれば1位になってもおかしくないほどだ。それでも、1位になっていない理由は、ただ1つ。
「……でも、そういう貢献だなんだってのを吹っ飛ばすのが今の1位。実際日本のイメージを上げてるから貢献もしてるんだけど……」
「あー、俺も1度会ったことがあるな」
「ボクも」
月子もタケルも紫苑も、一様に渋い表情だが……そんな3人にイナリは首を傾げてしまう。どうにもランキングで負けたのが悔しいというわけでもなさそうだ。
「何か問題がある人物なのかえ?」
「問題っていうか……」
「まあ、問題か?」
「すごく問題」
月子たちは顔を見合わせると……やがてタケルが月子と紫苑の圧に負けて「あー……」と声をあげる。
「戦うの大好きなんだよ。だからホイホイ海外にも行くんだけど……だから、狐神さん10位になっただろ? たぶん来ないと思いたいけど……一応気をつけたほうがいいとは、思う」
「いきなり『俺とバトルしようぜ!』とか言ってくるから。断ったけど」
「うーむ……」
タケルと紫苑の話を聞くに、日本1位の「勇者」は相当変な人間らしい。そんな事実を再確認しながら、イナリはお茶を一口飲むのだった。





