お狐様、パーティーをする
何やら派手な模様のシャツに大きめの上着を纏い、デニムを合わせた……そんなカジュアルな服装を実に「らしく」着こなしているヒカルはイナリに小走りで近寄ってくるが、なんだか物凄くニコニコしている。
「後でまた言うけどさ、10位おめでとう」
「ありがとうのう」
「でもアタシも負けないぜ?」
「うむうむ。楽しみじゃ」
実際、ヒカルも方向性が変わってからランキング入りしているらしいので意外にランキングを駆けあがるのは早いかもしれない。
ちなみに、この覚醒者のランキングは実力や知名度だけでなく貢献度でも計算されているため、大きなクランのサポートを受けているとランキング入り出来る確率は高かったりする……さておいて。
「さて、待ち合わせは……おお、あそこじゃな」
かつての電気街像と呼ばれる、メイドがお盆にパソコンらしきものを載せている銅像の前にメイドと和装少女がいる……エリと恵瑠だ。2人のインパクトに飲まれているが紫苑もそこにいる。
「何やら待たせてしまったかの?」
「いや、集合時間の20分前だぞ……?」
「あはは。なんだか早めに来ちゃったんですけど……そしたら皆いました」
エリが照れたようにそう言うが、要は皆楽しみだったということだ。そう、今日はイナリが10位になったお祝いということで皆で集まってお祝いしようということになったのだ。
「む? そういえば月子とタケルも来ると聞いておったが……」
「月子さんは下手に出歩くと危険なんだそうでして、直接行くそうです。で、大和さんは月子さんに『暇だから来い』って呼ばれて……」
「まあ、2人とも店にいるということじゃのう」
「そういうことです」
まあ、そんなわけで全員揃ったということで貸し切った店に向けて出発するが……そうすると、5人のタイプの違う美少女が歩いていて何とも華やかだ。
ちっちゃい狐巫女と秋葉原では有名人なメイド、和装少女に、格好は普通だけど勝気な雰囲気の少女にどことなくダウナーな雰囲気のある少女。なんとも揃いも揃ったり……といったところだろう。
「何処に行くんじゃったかの」
「カフェKORYUだろ。なんかスイーツがやたら美味い店」
「あそこ、何度か行きましたけど凄いんですよね……マスターがパティシエらしいですよ」
ヒカルとエリの言葉に紫苑が「楽しみ」と目をキラキラさせていたが……そんな5人に行き交う人々が誰もが振り返っていく。当然だ。これだけ美少女が揃えば男女問わず振り返ってしまう。
「うわ、すご……」
「何あのグループ……レベル高っ」
「イナリちゃんがいるから、全員結構な実力者ってことだよな……」
覚醒者街を歩いているならば当然覚醒者だろうし、最近有名なイナリと一緒に居るならば相応の実力者なのだろうと誰もが思う。聞こえていた恵瑠がちょっと申し訳なさそうな顔をしていたが、それはそれだ。別に訂正する意味もない。
ないが……まあ、そんな感じで目立つうえに安全性も確保出来なくなるので店を貸し切ったわけだ。
そうして歩いていくと、カフェKORYUの建物が見えてくる。
3階建ての建物は2階から上がマスターの住居であるらしいが……要は自宅兼用にして休みの日もスイーツ研究に明け暮れているらしい。そんなマスターの作るスイーツは絶品だと有名だが、まあそんな店には今日は貸し切りの看板がかかっているうえに、明らかに護衛と思わしき覚醒者も立っている。しかもカードを見る限り覚醒者協会の職員だ……となると、月子の護衛で来たのだろう。
「申し訳ありませんが、念のため覚醒者カードの確認にご協力を」
「うむ、ご苦労様じゃ」
当然こちらの顔は把握しているらしく、カード以外はたいした確認もなく通されるが……まあ、それが一番確実な確認方法であるのかもしれない。
とにかく中に入れば、そこにはグッタリした様子のタケルと、何やら元気いっぱいの月子の姿があった。バイキング形式らしき会場には、すでに様々なスイーツが並んでいる。
「あ、来たわね!」
「うむ。ところで……何故タケルはそんなに疲れ切っておるのじゃ?」
「別に新しいジョブについて聞いただけよ?」
「は、はは……そうだな」
質問攻めにでもされたのだろうか、タケルが本気で疲れた顔をしているが、それでもなんとか立ち上がるのは根性だろうか?
「久しぶり、狐神さん」
「うむ。元気そうじゃのタケル」
「おかげさまで。日々楽しくやってるよ」
そうしてイナリとタケルが微笑みあえば、月子が「よし!」と手を叩く。
「それじゃあパーティー始めるわよ! イナリ、10位おめでとう! はい、拍手!」
「おめでとうございます!」
パチパチと拍手が送られると、月子はそのまま音頭をとっていく。
「まあ、ランキングなんか大したもんじゃないわ! 知られざる実力者なんて何処にでもいるもんだし、そもそも1位なんか今オーストラリアらしいわよあの馬鹿! だから今入ってない連中も気にする必要はないわ! でもイナリはおめでとう! はい、一言!」
「うむ、今日は斯様なお祝いをしてくれてありがとうのう」
「じゃあ乾杯!」
「かんぱーい!」
そうして響いた乾杯の音は、イナリを心から祝福するものであったが……「日本ランキング10位の狐神イナリ」というニュースは、本当に色々な方面に影響を与えるものだとは……この時点では、月子とタケルくらいしか気付いてはいなかった。





