お狐様、待ち合わせする
「あ、そういえば東京第11ダンジョンのことですけど」
「うむ?」
正式な施設と体制が整うまでは武本武士団が攻略をしているという話はイナリも聞いている。どんなモンスターが出て、どんなアイテムがどの程度産出するのか。そうした情報を調べ、まとめた後に正式にオークションが執り行われるわけだが……その中で新アイテムなどの情報は適宜覚醒者だけがアクセスできる情報として公開されている。
当然、電脳ウォーズのカードの情報もすでに出ており……かなり注目度が高いようだ。だから当然、イナリもそのことだと考えた。
「かあどのことかえ?」
「え? あ、いえ。それも確かに気になりますけど……『電脳チップ』というアイテムが気になってまして」
「ちっぷ……お菓子のことじゃったかの」
「ポテトチップではなくて。この場合はえーと……パソコンとかの部品に使われたりするやつですね」
四角い小さな板のようなそのアイテムはしかし既存のパソコンに使うには規格が異なり、しかも鑑定しても「謎のチップ」とかしか表示されないような代物であるらしい。
「ですが、これが覚醒フォンを大きく進歩させる切り札になるのではないかと考えているんです」
「ほー」
「実を言うとこれ、ライオン通信とも共同研究の予定でして」
フォックスフォンもライオン通信も、「都市伝説系のモンスター」の力によって通信が妨害、そして乗っ取られたことを覚醒者協会から伝えられ、もう悔しさでのたうち回る技術者が続出していたのだ。
どんな状況でも使える覚醒者専用スマートフォンが、いざというときに使えないものになった。それはハッキリ言って敗北であり「なら覚醒フォンじゃなくていいじゃん」と言われてしまっても仕方がないような、そんな事態であったのだ。
だからこそ素材の見直しに通信方法の再検討など色々とやっていたのだが……そこに現れたのがこの「電脳チップ」である。そのままは使えずとも解析することで何かが出来るのではないか?
しかし、こういうことを個別でやっても仕方がない。互換性のない通信方式などあっても潰し合いになるだけだからだ。
だからこそ、フォックスフォンとライオン通信による研究が始まることになったのだ。現在は共同研究のための施設を急ピッチで準備しており、機密保持契約書なども交わしている。
「ですから、今後は色々とあちらさんとやりとりすることもあるかもしれませんね」
「ほう、良いことじゃのう」
「そうですね。互いに企業理念も商品開発方針も全然違いますけど、覚醒者のより良いサポートという点では一致できますから」
「うむうむ」
「そのうち、ライオン通信のイメージキャラの人とコラボなんてあるかもしれませんね!」
「ヒカルも良い子じゃからのう。喜ぶじゃろうて」
「あ、たまに一緒に歩いてますもんね」
ヒカルは隠してるつもりだが、イナリがそのままな上にヒカルも見る人が見れば結構分かるものである。さておいて。
「ところでそろそろ、お時間が近いのでは?」
「ん? おお、そうじゃったな。では行くとするかのう」
イナリがイメージキャラになっているせいか、1階の店舗に降りると結構な数がイナリに気付く。だからこそ裏の社員通用口から出てもいいのだが……そこはイナリが「そのくらいはしてもよかろ」と気を利かせている。
「あ、イナリちゃんだ!」
「おおー、本物初めて見た……」
「思ったよりずっと小っちゃいな……中学生くらい?」
「大人じゃよー」
フォックスフォンの客はマナーがいいのでイナリを囲んでくるようなことはしないが、だからこそイナリも手を振ったりなどして応えていく。万が一何かあったときのためにフォックスフォン社員も目を光らせているので、更に安全ではあるが……そんなフォックスフォンを出て歩けば、誰もがイナリを見て足を止める。
「あれが10位の……」
「凄いな。見た目じゃ全く分からない」
見た目がちっちゃく可愛らしいイナリがそんなに強いとは中々に信じられない者も多いようだ。しかし日本10位ということで名前も姿も充分に知られてきたイナリは、フォックスフォンのイメージキャラということでほぼ正確に名前から姿を思い浮かべられる覚醒者の1人となっている。
だからこそ、誰もがイナリを見て好奇の目を向けてきて。そんな中、イナリは特に気にせずに歩いていく。
東京がどれだけ広くても鍛冶や裁縫を扱う生産系覚醒者が集まるのは、やはり秋葉原だ。町行く人々もイナリに注目はしても、元々秋葉原に来た目的というものがある。武器に防具、各種の道具……有名人がいるからっていつまでも見ていては目的は果たせないのだ。
「メロンアックスで刀フェアやってるっていうけど……そんな良いもの入ってきてるのか?」
「どうかな。今は刀が人気だし、鹿児島産のは狙い目だと思うけどな」
「めろんあくす、のう……」
まだ集合時間までは時間はあるが、見に行くほどの時間はない。しかし秋葉原に来るたびに名前を聞くので、凄い店なのかもしれない。
(また今度見に行ってみるかの)
「あれ? イナリじゃん。集合場所行くのか?」
イナリがそう考えていたときにやってきたのは、私服姿のヒカルであった。





