お狐様、駒込に行く7
その動きは実に素早く、覚醒者協会からの公式発表と同時に現場にかけつけてきたのだろう。封鎖されたままの公園の周囲でテレビ局による生放送なども行われており、非常に騒がしい雰囲気である。こんな状況で徒歩で出ても車で出ても餌食になるため、現在ヘリコプターを手配中だ。
「それで今後、此処はどうなるんかの?」
「そうじゃな……まあ、公園は閉鎖して東京第11ダンジョンの関連施設となるな。公園の移転先も並行して探すことになるが……ま、しばらくはうちのクランが管理することになるじゃろうな」
武本は言いながら何とも渋い顔をする。「電脳ウォーズ」のカードとカードホルダーに関しては、はっきりいって武本にとっては頭痛の種であった。
あのパートナーやペットとか呼ばれるモンスターを仲間に出来る可能性の際にも一部の見栄えの良いモンスターや強いモンスターの出るダンジョンの人気が高まり、それに関しては多少落ち着いたが未だ冷める気配はない。
そんなところに、この「電脳ウォーズ」だ。パートナーモンスターを得るよりも、余程簡単に……といっても扱いはパートナーよりもかなり難しそうだし人を選び過ぎるが、たとえば中衛や後衛のディーラー、あるいはヒーラーであれば戦い方を広げることが出来るかもしれないのだ。
もはや可能性の問題ではなく、間違いなく東京第11ダンジョンは人気になる。そして人気になるということは、東京第11ダンジョンの大規模攻略権を得るために大型ギルドが参戦を考えるかもしれないということだ。
9大クランだけでも、東京第11ダンジョンに絡みたいと考えるかもしれないクランを幾つか具体的に武本は思い浮かべることが出来る。
(まあ、うちがこの利権争いに絡む理由もないが……今のうちにクランメンバーが使えるようなカードを確保しておくのはアリかもしれんのう)
とにかく、このダンジョンが正式に稼働するのはダンジョン管理のための施設を整備し、駒込出張所を拡張し……それに伴い周囲の地価も変動するだろう。今回の場合、間違いなく地価が跳ね上がる。それに伴って街の風景も変わっていくかもしれない。
当然治安の一時的な悪化も想定されるが……そこは武本武士団も見回りをするが、非覚醒者関係に関しては警察に頑張ってほしいところではある。
「何やら疲れた顔をしとるのう、武本」
「これから起こることを考えれば自然とな……まあ、しばらくこの辺りは騒がしくなろう」
「ふむ……人の世のあれこれは儂にはよう分からんからのう。手伝えることがあれば良いんじゃが」
「いや、流石にそこまで世話にはなれん。これは大規模なクランを束ねる者に付随する義務とも言える」
イナリもこれまでいろいろな人間に会ってきたが、武本はその中でも随分と好感が持てる男だ。責任感があり、情に厚く、人当たりも良く、それでいて正しく生きている。人間、1つか2つは持っていてもこの4つ全てを持っている者はそうは居ない。だからこそイナリも協力しようと思えるのだが……そういう人間は、本当にいざというときしかイナリを頼らないものだ。だからこそ、イナリも断られつつも「うむうむ」と満足そうに頷いていた。そして当然、そんなイナリが何を考えているかを武本もなんとなく見抜いていた。
「狐神殿も……なんちゅーか、中々に難儀な性格をしとるのう」
「そうかの?」
「うむ。まるで神様を前にしとる気になるよ。ま、会ったことはないがの」
「さよか」
そんなことを言い合っていると、武本は何やら楽しげにエリと会話をしている恵瑠へと視線を向ける。
「……あの子のことも、感謝している。最近は、大分明るくなった」
「うむ。とはいえお主にはタケルのことも頼んどる。それに関しては本当に感謝しとるぞ」
「ああ、あの若者か。最近滅多に見ないほどにやる気に満ちている。元3位と聞いたが……すぐにそこまで戻るかもしれんな」
言いながら武本は覚醒フォンが鳴り始めたことに気付き通話を始める。相手はどうやら覚醒者協会であるようだった。
「狐神殿。ヘリがもうすぐ来るそうだ……今回の借りも忘れはせん。何かあればいつでも言ってくれ」
「うむ、覚えておこう。おーい、エリ! もうすぐへりこぷたが来るそうじゃぞ!」
「はーい!」
エリはカードホルダーを抱えながら走ってくるが、もう凄く嬉しそうな表情が隠せていない。
「あのですね、イナリさん! ノイズイナリちゃん、かけたコストごとに微妙に元気度が違うんですよ!」
「さっきから何かやっとると思えば……そんな実験をしとったんか」
「やってました! でもコストが4超えると大分厳しいので、普段使いするなら色々考えないといけないかもしれませんね」
エリのジョブは物理も魔法もいけるマジックフォートレスだが、そんなエリで厳しいのであればカードモンスターは完全に物理系の覚醒者にはかなり扱いが難しいものになるだろう。まあ、その辺りは別にイナリが心配することでもないのだが。
「あ、到着したみたいですね!」
そうしてやってきたヘリでイナリとエリは覚醒者協会本部まで送ってもらい解散するが……後日エリからかかってきた電話によれば、メイド隊の面々に相当に羨ましがられたそうである。
エリ「ヘリコプター」
イナリ「へりこぷた」





